CP+プロ向け動画セミナー 2019

動画のためのレンズ選び

講師:栁下隆之(ビデオグラファー/ステディカムオペレーター)

デジタル一眼ムービーに4K時代が到来し、使用するレンズにはボケ味や明るさだけでなく、解像感、減光、収差など、様々な機能が必要になっています。ビデオグラファー/ステディカムオペレーターとして多くの動画を手がけてきた栁下隆之氏が、4Kでの撮影を前提としたレンズの選び方を解説しました。

img_event_cpplus2019_yagis_15.jpgビデオグラファー/ステディカムオペレーターの栁下隆之氏

高解像度な映像表現の特徴

一眼動画の4K時代が到来して、従来のようなボケ味や明るさだけでなく、解像感、減光、収差、ブリージングなど、さまざまな観点からレンズを選ぶ必要が出てきています。単に動画と言うと広い話になり過ぎてしまいますので、ここでは4Kでの撮影を前提として「高解像度な映像表現」でレンズをどう選ぶかというテーマで話を進めていきたいと思います。

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本題に入る前に、まずは簡単な自己紹介をさせていただこうと思います。私は学生時代に写真の勉強をしまして、その後都内のプロ向けカメラ機材店に17年8ヵ月勤務しました。フィルムからデジタルへの過渡期を、そして一眼カメラでの動画撮影、大型センサー化と、時代の変遷を販売の現場で見てきました。その後、2014年にカメラマンとして独立をし、写真そして今は動画を中心に撮影を行なっています。写真撮影のノウハウや考え方を動画撮影に持ち込むといったスタンスで仕事をしています。

では、いくつかの映像を見てただきたいと思います。

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最初は2018年春に撮影した、アーティスト空気公団の「うつろいゆく街で」という作品のMVです。4Kで撮影と編集をしましたが、公開されたのはHDでしたので、4Kで公開するのはおそらく今日が初めてだと思います。

カメラは富士フイルムの「H1」を、レンズは富士フイルムのズームタイプのシネマレンズ「FUJINON MK18-55mm T2.9」と「FUJINON MK50-135mm T2.9」を中心に、スタビライザーを使った撮影では同じ富士フイルムの「XF56mmF1.2 R」「XF35mmF1.4 R」を使用しています。

1つの作品の中で、シネマレンズとカメラ用の単焦点レンズを混ぜるのは、レンズの“味わい”をマッチさせられるかという点で多少リスクがありますが、この作品ではなかなかうまくいったのではないかと感じています。

ご覧いただくとわかると思いますが、動画の撮影の場合では奥行きよりも横方向に空間を作り、その空間をアクセント的に活用しながら撮影をするケースが多くなります。そのため、レンズには周辺領域の解像感が重要になります。ただ、中心部分の解像感がいいレンズはいくらでもあるのですが、周辺画質が高いレンズは探さないと見つかりません。

次は古賀小由実×Chimaの「circus」という作品のMVです。

これはソニーのPXW-FS5という業務用のカメラに「FUJINON MK18-55mm T2.9」を付けて撮影をしました。FS5はスーパー35mm、カメラのAPS-Cに相当するセンサーを搭載した業務用のカメラです。フジノンのシネレンズ1本で撮影をしていますので、寄り引きの画に違いが出ませんから、編集しても違和感がないところがメリットです。また、撮影自体もレンズを入れ替える必要がないこともあり、非常に短時間で済みました。

ただ、柱の部分などを見ると若干の樽型の歪みがあることがわかります。実はシネマレンズの場合は、こうした歪曲が残っているレンズが許容されることが多いのですが、無理に歪曲修正をせず、階調や解像感を重視した設計をするケースが多いためです。

次に紹介するのは、江ノ電のキャンペーンPR動画「旅をしませんか」です。

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これは江ノ電と提携する台湾のローカル鉄道・平渓線の乗車券交流キャンペーン動画として撮影したものです。

こちらはニコンD810とD4Sの2台に、ニコンの各種単焦点レンズを装着して撮影をしています。鉄道の動画では進行方向に空間を空けて動きを見せる表現を使うことが多いので、やはり周辺がしっかり写るレンズが必要になりますね。

また、モデルさんの様子を見ていただいてわかるように、顔や髪の毛が周辺部分に来ることも多く、画質が悪いと目立ちます。こうしたシーンを見ると、改めて周辺画質は大事だなと思います。

映像ならではのレンズ選び

私が初めて4Kで動画撮影をしたのは、2015年のことでした。ソニー α7に外付けのレコーダーを付けて撮影をしたのですが、当時はまだレンズが揃っておらず、特にズームはテレ側かワイド側のいずれかが厳しいという状況でした。

そのため、レンズはラインナップが充実しているニコンやキヤノンを選ぶことが多かったです。ただ、最近はαシリーズにもいいレンズが揃ってきましたので、選択肢が増えたと感じます。では、動画ではどういった視点でレンズの良し悪しを考えるのでしょうか。

写真には組み写真という表現方法もありますが、一般的には1枚の写真に2人を写し込むことで会話しているシーンを表現することが多いと思います。1枚の写真で完結したシーンを作ろうというわけです。一方、動画の場合は、複数のカットでシーンを作ることを考えます。そこで演出という要素、例えば寄ったり引いたりが加わっていくことになります。

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寄り引きをするとなると、ズームを使うこともありますが、レンズを変えて撮影する機会も生じます。同じシーンの中に複数のレンズを使うわけです。そうした時に、異なる味わいのレンズが入ってしまうと違和感が生じます。

味というと抽象的に聞こえるかもしれませんが、例えばボケ方が違うレンズを混ぜたり、硬いレンズと軟らかいレンズを混ぜて使ったりすると、同じシーンなのに雰囲気が異なり、違うシーンに見えてしまうこともあります。最低でも同一シーン内は同じルックのレンズで撮影することが大事になってくるのです。

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となると、ルックの合ったレンズを組み合わせて用意することが、まず大事になります。その上で、撮影時にはどういったルックのレンズセットを用意するのか、監督さんの意向も汲みつつ考えねばなりません。

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レンズ選びの際には、メインのレンズ群の他にアクセントとなるレンズをどう選ぶかという点もポイントになります。例えば強い印象を残したいシーンで使うとか、回想シーンで使うことで現代のシーンと雰囲気を変えるといった使い方が可能となります。こうしたレンズの使用は、編集でも消えない個性になります。動画の世界では、カメラよりもレンズが重要と言われるのは、こんなところにも理由があるのです。

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ちなみに私はニコンのレンズを好んで使っています。NIKKORの単焦点レンズ F1.8のシリーズで20mm、28mm、35mm、50mm、85mmと揃えています。一方、Lumix G5で撮る際にはNOKTONを10.5mmから42.5mmまで揃えて撮影をしています。

「ブリージング」に注意を

ここで「ブリージング」について話をしておきたいと思います。ブリージングとは、フォーカスリングを動かした時に、撮影している映像の「画角」が変わってしまう現象のことを言います。写真の場合は特に問題にならないのですが、動画の場合は手前から奥にピントを送る場合があるため非常に厄介です。

例えば「窓の前にいる人物が、窓の奥側に視線を送る」というシーンを、ピントを送ることで表現するケースがあります。視線は奥に向かうわけですから、そちらにズームインしていくのが自然なのですが、広角側にブリージングするレンズを使うと、画面はズームアウトしているように見えてしまいます。演出意図と異なる動きなので目についてしまうのです。

最近はブリージングがないことを売りにしているレンズも登場していますから、できればそういったレンズを選ぶということが大事ですし、最低でも自分が使っているレンズの癖、ブリージングの傾向をしっかりとつかんでおくことが大事になると思います。

img_event_cpplus2019_yagis_07.jpgピントを手前から奥に送ると画角が広角側に変化している。これがブリージングだ

レンズの「味」について

同じシーンをさまざまなレンズで撮影した動画を見ていただこうと思います。同じホワイトバランスを取っているのですが、色味の違いがはっきりと出ています。こうした違いは、ある程度はカラーグレーディングで調整できるのですが、レンズごとに揃えるのは想像を絶する作業になります。最初からレンズを揃えることを第一の選択肢とすべきでしょう。

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ズームレンズのメリットとデメリット

便利なズームレンズですが、そのメリットとデメリットを整理しておきましょう。ズームのメリットとしてまずあげられるのは、何と言ってもレンズ交換の手間が抑えられ、その分、時間短縮ができることです。レンズ交換のタイミングが取れないこともあるドキュメンタリー撮影では必須だと思います。

一方、デメリットは、レンズによってはウィークポイントが目立つという点です。優れていると言われるズームレンズでも、全域で均一の品質を持っているわけではありません。ほぼすべてのメーカーで用意されている24-70mmのレンズですが、たいていは広角端の24mmの画質は厳しく、動画撮影には気になることが多いのです。

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なぜ評判のいいズームレンズでも画質の問題が生じるのかと言うと、そこには動画ならではの事情があります。動画で24mmを使うケースというのは、引きのスペースが足りない時なんです。広角でないと被写体が入らないから広角端を使う。しかし、ズームレンズの広角端は風景を撮影することを想定してか、たいてい無限遠で性能を発揮するよう設計されています。つまり、24mmの広角を近接で使用すると甘くなるのです。ちなみに望遠端の70mmはポートレートで使う想定なので、数メートルあたりの画質性能が一番良くなる設計になっていることが多いです。

ちなみに私が使っている「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR」も、他のズームレンズ同様に、広角端の70mm付近の画質がやや甘い。そこで私は70mmで撮る場合には単焦点レンズに付け替え、100〜200mmの間はこのレンズを使うというふうに使い分けをしています。

レンズ交換をすると、センサーにホコリが付くなどの問題が生じることもありますが、こればかりは仕方ありません。単焦点をうまく織り交ぜる、あるいは単焦点を中心に組み立てるなどといった工夫が必要でしょう。

ズームレンズの「引きボケ」にも注意を

ズームレンズを4Kで活用するとなると、もう1つ気になるポイントが「引きボケ」です。引きボケとはズームした時に、ピントリングに触れてもいないのにピントがずれることいいます。例えばドキュメンタリー撮影で寄って引いてを繰り返す際に、いちいちピントがズレるようでは作業効率は大幅に下がってしまいます。最近は引きボケがないことを特徴にしたレンズも登場していますので、そうしたレンズを利用することが大事になります。

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近年のレンズ事情について

最近はフルサイズカメラ用レンズが充実してきていますが、以前と比べて重くなったとか、高価になったとか感じる方もいらっしゃるでしょう。そこには理由があると私は考えています。最近は手ブレ補正のシフト分を念頭に置いたためか、周辺画質を高めるためか、フルサイズよりもやや大きなイメージサークルを想定して作られているレンズが多い。だから重く、高価になっているのです。

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ちなみに、センサーサイズとイメージサークルとの関係を考えると、APS-Cセンサーのカメラでフルサイズレンズを使うことにメリットがあると言えます。レンズの美味しいところを使えて、周辺までしっかり解像するからです。APS-Cセンサーのカメラでフルサイズレンズを使うと、侮れない画質で撮影ができるのはそのためです。

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収差の補正機能の落とし穴

最近はレンズの収差の補正を、カメラ側で行なうケースが増えています。カメラ側の補正機能を活用することで、レンズの軽量化等につなげているわけです。これはデジタルの強みだと言えるでしょう。ただし、こうしたデジタル補正については、動画では効果がないケースがあります。例えばRAW撮影をするために外部収録する場合や、マウントアダプターを使った場合です。

これでどんなことが起きるのかというと、フルHDで撮影した場合にはカメラの補正が効いて歪みのない画が撮れるのに、4Kで撮影すると外部収録になるために補正が効かず歪みが残ってしまうというケースです。4Kにしたら映像の品質が落ちたと感じる場合、実はこの補正の有無が理由となっている場合があります。まずは自分の持っているカメラとレンズを組み合わせた際に、何が起きるのかあらためて確認してみることをお勧めします。

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RAW撮影時代の到来を控えて

最近では少しずつ状況が変わり、RAWでの撮影がしやすくなってきています。もともとソニーのFS5のような業務用カメラではRAW信号を出力して外部収録することができますが、今年になって、ニコンがZ 7 / Z 6で出力したRAW信号をAtomos Ninja VにProRes RAWで記録するファームウェアの開発を発表しました。ニコンの一眼カメラでRAW収録ができるようになると、プロレベルの環境を安価に手に入れることができるようになります。

このような高品質映像を記録できる時代になると、何と言っても品質の高いレンズが必要となってきます。皆さんもこれからは高品質な動画撮影ができるのかという視点に立って、レンズ選びを進めていただければと思います。

というわけで時間となりました。どうもありがとうございました。

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関連情報

栁下隆之氏のさらに詳しい検証記事が読めるMOOKムービーのためのレンズ選びGUIDE BOOK発売中。レンズ選びの基礎知識、50mmレンズ11本検証など、ムービーユーザーに参考になる記事が満載。


価格は2,200円+税。

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また「ビデオSALON web」では、上記MOOKのテスト動画を掲載している。


50mmレンズ11本を4Kムービーで検証


3月1日開催・CP+プロ向け動画セミナー 2019 より
取材:小泉森弥

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