デジタルフォト&デザインセミナー2009

新世代マイクロ一眼「OLYMPUS PEN E-P1」がもたらす新しい映像表現

講師:藤城一朗

そのサイズ、フォルム、デザインで、一眼の常識を覆す OLYMPUS PEN E-P1。本セッションではE-P1の映像表現の可能性を紹介する。

E-P1のダイナミックレンジは想像以上に広く、豊かな階調を持つ

今日は、つい先日発売された「OLYMPUS PEN E-P1がもたらす新しい映像表現」というテーマでお話しをさせていただこうかと思っているのですが、まずは今日のテーマとも関係のある「ダイナミックレンジ」についての話から始めたいと思います。

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フイルムの時代は「ラチチュード」などと呼んだダイナミックレンジですが、参加者の皆さんの中には、デジタルカメラのダイナミックレンジが、フイルムのラチチュードに比べて「狭い」と思っている方が多いのではないでしょうか。

デジタルカメラのダイナミックレンジはほんとうに狭いのでしょうか。カラーリバーサルフイルムのラチチュードは「5絞り分」程度と言われています。カラーネガフイルムはそれよりも少し広くて「7絞り分」ほど。モノクロのネガフイルムは一番広くて「10絞り分」のラチチュードがあると言われています。

ではデジタルカメラは、どうなのでしょう。機器を使って測定してみるとまったく予想外の結果が出ました。セコニックの「デジタルマスター」という露出計を使うと、ダイナミックレンジを正確に測定することができます。それを使ってE-P1のダイナミックレンジを測定してみると、白飛びをしないところから、黒つぶれをしないところまでで「8.2EV」、実に「8絞り分」のダイナミックレンジがあることがわかりました。

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デジタルマスターでE-P1のダイナミックレンジを測定した結果。2つの赤い三角印の範囲が「許容範囲」で、8絞り分ある。

つまり、カラーリバーサルはもちろん、カラーネガフイルムよりも、デジタルカメラのダイナミックレンジは広いんです。撮影時にヒストグラムを確認したり、状況によってはオリンパスのEシリーズが搭載している「階調オート」のような、シャドー部分を補整し、白飛びを押さえる機能を活用すると、実はダイナミックレンジの広い、豊かな階調表現ができるんです。

ところで、E-P1のダイナミックレンジを測定した時の設定ですが、ISOは200、階調オートはオフにしています。なぜISO200なのかというと、ISO200のほうが、ISO100よりもダイナミックレンジが広いんです。暗所ノイズが気になるという場合はISO100を使っていただきたいと思いますが、そうでない場合はぜひISO200を活用してください。

出力時のダイナミックレンジを意識してPhotoshopで補整

ダイナミックレンジを考える際にもうひとつ、見逃してはいけない要素があります。それは「印刷」です。印刷で再現できるダイナミックレンジは、デジタルカメラよりも狭いんです。広いダイナミックレンジで撮影しても、印刷で再現できなければ意味がありません。つまり、カメラのダイナミックレンジも大事なのですが、写真の出力時のダイナミックレンジがどれくらいあるのかを知ることも重要なのです。

印刷のダイナミックレンジは、印刷会社によっても異なるでしょうし、インクジェットプリンターでの出力を念頭に置いているなら、それはそれで再現領域が異なってきます。利用する印刷会社やプリンターがどれだけのダイナミックレンジを持っているのかにも、ぜひ関心を寄せてほしいところです。そのうえで、印刷可能なレンジを考慮した露出設定、そして撮影を行なう。これがデジタルカメラのダイナミックレンジの考え方となります。

さて、撮影後に必要となってくるのが「Adobe Photoshop CS4」を使った補整作業です。これもダイナミックレンジを理解し、印刷なら印刷、プリンターならプリンターと目的をはっきりとさせることで、何をすべきかがはっきりしてくるものだと思います。ちなみに、私は撮影後のこうした作業を「補正」ではなく「補整」と書き記すようにしています。ひとつしかない正解を求めるのではなく、撮影意図に合わせて、画像を「整える」と書く方が意味にあっていると思うからです。

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Photoshopでの補整は、印刷やインクジェットプリントなどの用途に合わせて、それぞれ最適な調整を行なう必要がある。藤城氏はレベル補正よりトーンカーブを使って、細かい補整をしているという。

さて、ダイナミックレンジとの関連で、画像補整に関してひとつだけ注意してほしいいことがあります。それは「レベル補整」です。レベル補整には落とし穴があるんです。たとえば中間調しかない写真…人物の顔写真などですが、それを補整する際に、一番暗いところを「0」に、一番明るいところを「255」に合わせるという方法をとる方がいらっしゃるんじゃないかと思います。よく解説書などに載っている方法ですよね。

実際にやってみると、一見、コントラストのはっきりとした、美しい画像ができあがったように見えるんです。ところが先ほども述べた「印刷特性」の観点から言うと、正解とはまったくかけ離れた、白飛びや黒つぶれが発生し、しかも印刷特性にマッチしない画像になってしまうことがある。補整には決まったルーチンはありません。あくまでも印刷時のダイナミックレンジを意識した、最適な作業を考えるべきだということなのです。

上級機の画質と同等だからこそ、E-P1の表現の可能性が広がる

さて、だいぶ話がそれてしまいましたが、E-P1に話を進めていきたいと思います。そもそもオリンパスのEシステムは、私も仕事で使っていますが、カメラのクラスによって画質の差がないという特質を持っています。最上級のE-3からE-30、E-620、そしてE-P1と撮影できる画像のクオリティは同じです。このあたりはオリンパスという会社の真面目さをよく表しているなあと思うのですが(笑)、すべてのレンズが「デジタル専用設計」になっており、どのレンズを買ってもきっちりと撮れるという点は他社のカメラにはないメリットだと思っています。また、強力な撮像素子のゴミ取り機能によって、どこでも安心してレンズ交換できる手軽さを持っている点もまたEシステムならではだと感じています。

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E-3のような防塵防滴機能と素早いレスポンスを持ったカメラから、EーP1のようなまったく新しい発想のカメラまでを、気軽に使い分けて撮影できるというのは実は凄いことなんじゃないかと、最近強く感じています。たとえば仕事の合間に、E-3からE-P1に持ち替えてちょっとスナップしたりすると、肩の力の抜けたいい写真が撮れたりする。

それからE-P1には動画機能があります。今まで興味のなかった方でも始めてみることをおすすめしますが、動画は動画の、写真とはまた違う表現の楽しさがあるんだな、と感じられると思います。

E-P1はカメラとしての基本性能にも妥協はありません。たとえば手ぶれ補正についても試してみましたが、カタログに表記されているとおり、4段分の効果があると確認しました。また、電子水準器やアートフィルターのような面白い機能もある。そして、繰り返しになりますが、得られる画像のクオリティはハイスペックモデルのE-3と同じです。広いダイナミックレンジを活かした、豊かな表現が可能なのです。

E-P1は、まったく新しいカメラだと言いました。それは、使う人が、表現の可能性を模索し、これからつくりあげていくようなカメラだということです。皆さんもぜひ、E-P1に一度触れてみて、その感覚を体験してみてほしいと思います。さてここからは、バトンタッチして、オリンパスイメージングの折原さんからE-P1に関してさらにコアな話をしていただきたいと思います。

自分の作風とは違う作風を気軽に体験できる「アートフィルター」

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今、藤城さんからご紹介いただきました、オリンパスイメージングの折原直人です。「OLYMPUS PEN」というカメラは、ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、今から50年ほど前、弊社の米谷美久という開発者が開発し、その後多くの方々に使われてきた小型カメラシリーズのことです。そのPENが、50年という時を経て、今回デジタルカメラになったというわけです。

まったくの偶然なんですが、昨日(2009年7月30日)、米谷が亡くなりました。我々にとって大切な先駆者を失ったのですが、その遺志は、我々オリンパスの中でしっかりと息づいていると、ひと言述べさせていただきたいと思います。

「OLYMPUS PEN E-P1」は、マイクロフォーサーズという規格にのっとったカメラです。通常、一眼レフカメラには、ミラーがあり、ペンタプリズムがあり、その下にAFユニットがあるのですが、そこからミラーとペンタプリズムを取り除き、さらにはAF機能をイメージャーに持たせることで小型化を実現したのが今回のE-P1です。これによって大幅な小型化が実現できたというわけです。ただし、単に小型化しただけではPENにはなりません。そこにどんなコンセプトを込めたのかというと、それは「上質さ」です。持つこと、そして撮ることによって満足できる上質さを大事にしたいと考えたのです。

EーP1には特徴的な機能がいくつも搭載されています。たとえばフォーカスリングを触っただけで、フォーカスを合わせた点を自動的に拡大して表示する「マニュアルフォーカスアシスト」、どんなレンズ装着した場合でも効果的な「ボディ内手ぶれ補正」、さらには「マルチアスペクト」「多重露光」にような撮影機能。そして「アートフィルター」についてはぜひ皆さんにも試していただきたい機能です。

最初にこの機能を発表した時に、「Photoshopでできることをカメラでやる必要があるのか」という質問を数多くいただきました。ところが、実際に試した方々からは、特にプロの方から「アートフィルターって面白いね」という声をたくさんいただくようになりました。自分の作風とは違う作風を気軽に体験できる。これがアートフィルターの面白いところなのかなと思います。そしてアートフィルターのさらに面白いところは、動画撮影時にもフィルターが使えることです。

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E-P1のアートフィルターは動画でも使用できる。

オリンパスとしましては、このE-P1が一眼レフと競合するカメラだとは思っておりません。一眼レフが仕事などで真剣に撮るカメラだとすれば、E-P1はもっと自由に、写真そのものをリラックスして楽しむものだと考えています。皆様にもぜひE-P1に触れていただき、新しい写真の楽しみ方を見つけていただければ、と思います。

取材:小泉森弥 写真:竹澤宏

藤城 一朗 Ichiro Fujishiro

カメラマン/ズイコーデジタルアカデミー講師。東京都出身。出版社映像局を経てフリーランス。エディトリアルからコマーシャルまで、幅広く撮影。デジタルカメラの性能がフィルムカメラに近づき、依頼撮影は100%デジタルカメラに変わった。そのため、ライフワークとして撮影を続けている植物も、最近はデジタルフォトが多い。撮影以外は、カメラ雑誌等に寄稿。個展「夢花」「亜細亜紀行」など。グループ展、団体展は多数参加。(社)日本写真家協会(JPS)会員。 http://www.linkclub.or.jp/~ichipon/

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