2007年12月29日
前回はモニターとDDCP、印刷結果を比較したサンプル画像(ちょっと無理矢理でしたかね)をお見せしましたが、今回はモニターの設置環境についてお話したいと思います。しつこく言っていますが、CMSにおいてまず環境を統一させるということが大変重要です。照明(環境光)、キャリブレーション設定、プリント観察照度を規格に合わせるということになりますが、印刷におけるモニター基準は、「印刷産業用カラーモニタスペック検討委員会」という組織が策定しているガイドライン「印刷産業用液晶カラーモニタ標準化作業報告書」に合わせるのがよいと思います(この委員会は、ISO/TC130委員会をはじめ、日本印刷学会、カラーモニター製造企業など、錚々たるメンバーで構成されています)。
近年、印刷用途でも液晶モニターの導入が急速に進んでいますが、現在決められている国際規格(ISO12646:2004)はCRTモニターのための規格で、そのまま液晶に応用するには「無理がある」のも事実です。このような状況を踏まえて、委員会では実用性を重視した実験などを重ねながら策定作業を進めていますが、今のところは現行の国際規格に沿った条件で環境統一を図るしかありません。では、その規格に照らし合わせて、私が使用している環境がどうなのかを検証してみました。
1. 照明環境
作業場の照明は、いわゆるAAAの色評価用蛍光灯で統一されています。すでに1年以上使用しているのでそろそろ交換時期だと思いますが、色温度は実測で4,500K(演色指数は95)程度でした。色温度が若干低いのは壁の色(クリーム)が影響していると思われます。本来であれば無彩色(グレー)の壁にしたほうが、より理想に近くなると思います。そして写真の右上に卓上スタンドの「バイタライト(VITA-LITE)」があります。これは最近導入したものですが、スタンド下の色温度はほぼ5,000Kでした。
2. キャリブレーション設定
委員会のガイドラインでは白色点D50、輝度80cd、ガンマ1.8が規定されていますが、ガンマについては1.8〜2.2と考えてよいと思います。ColorEdgeをはじめとした最新のキャリブレーションモニターは特性に無理がないので、ガンマ2.2でも問題ありません。なお、ColorEdgeのキャリブレーションソフト「ColorNavigator」のバージョンは5.0になり使い勝手が向上しています。使い方は、茂手木秀行さんによる特集「ColorNavigator 5.0 徹底研究」に超詳しく解説されていますので、参照してください。
3. 観察照度
ガイドラインでは、印刷物を観察する条件として500ルクス(±125ルクス)という数値が推奨されています。ちょっと見えにくいですが、右側の印刷物を置いている色見台は自作です。これはゲータボードを加工して作ったものですが、印刷物を置く面にL(輝度)50のグレー(エプソンのプリンタ MAXART K3シリーズでプリントしたもの)を貼っています。1.にあるように作業場全体の照明環境が色評価蛍光灯で統一されているので、この状態でも作業上の違和感はありません。また観察しやすいように15度ほど自分の方向に角度を付けています。この部分での照度は515ルクスでした。こちらの演色指数も95です。推奨値の範囲に入っていますね。
※モニタ前の照度
現状の国際規格であるISO12646が定める環境光では、モニターと観察者間の照度を32ルクスで規定しています。32ルクスというと実際にはほぼ暗闇です。画像のシャドウ部を調整するときに作業場の照明を消して暗闇にすることがありますが、暗闇でテレビを見るような感じですね。一方でISO3664のP2条件で定められている「モニターのみで観察する場合」の照度は64ルクスです。私が使用している環境では、2つのモニターとも画面付近で55〜67ルクスでした。
ちなみにモニターは左がCG241W、右がCG221です。ともにAdobe RGB相応の広色域タイプです。また手前にはMacBook Proを置いてみました。MacBook Proはソフトウェアキャリブレーションになりますが、ColorEdgeの色と大きな差を感じることなく表示できていますね。
実は上の写真のような「印刷物とモニターを同時比較する場合」の条件は定められていません。冒頭お話したとおり、現在その策定が進められているのですが、いまのところ印刷学会標準化委員会(第2分科会)では、同時比較する場合のモニター前照度を150〜600ルクスの範囲を提唱しています。ちょっと見えにくいですが、画面左のキーボード手前にあるペンタブレット付近(モニターと作業者のほぼ中間)の照度は150ルクス強でした。ちなみに作業場全体の照度は約260ルクスです。推奨の範囲に収まっています。
※背景を整える
色評価を行なう場合は、視野内に様々な色が入ってしまってはいけません。私の環境では、モニターの背面にはグレー色のオフィス書庫があり、モニターの背景から余計な色が入ることがありません。また作業台は、黒に近いオフィス家具を流用しています。また作業者の後ろには、簡易なパーテーションを設置しています。自作の色見台同様、グレーでプリントしたものを貼り付けています。特にモノクロなど、シビアにトーンを見たいときは使うようにしています。あとは作業着といいますか、服装も大事な要素です。できれば黒がいいでしょう。私の社用の作業着は、凸版印刷のコーポレートカラーであるブルーが基調になっているので、微妙な映り込みを避けたい場合は黒系の服に着替えたりもします。
その他
CMSとは関係ありませんが、事務書類や資料に目を通す場合などの一般的な事務仕事での照明は、電球色が好きなのでアルテミデ製のスタンドを別途使っています。昔から暖色系の色だと落ち着いて集中できるのです。
小島勉 Tsutomu Kojima
株式会社トッパングラフィックコミュニケーションズ所属。インクジェットによるアートプリント制作(プリマグラフィ)のチーフディレクター。1987年、旧・株式会社トッパンプロセスGA部入社。サイテックス社の画像処理システムを使った商業印刷物をメインとしたレタッチに従事。1998年よりインクジェットによるアート製作(プリマグラフィ)を担当し現在に至る。イラスト、写真、CGなど、様々なジャンルのアート表現に携わっている。