2017年01月24日
約3040万画素に画素数がアップし、4K動画にも対応したEOS 5D Mark IVは風景・人物・物撮りなどの写真からシネマ・放送などの動画まで全方位の撮影領域をカバーしつつ、撮影機としての射程距離を拡大している。豊富な実写画像をもとに、EOS 5D Mark IVの実力をじっくりと検証しよう。
高感度特性を向上させながら約3040万画素を実現した
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EOS 5D Mark IVにEF11-24mm F4L USMを装着して、シカゴ市街の上空から撮影。キレのあるレンズの描写力を余すところなく捉えている。
EOS 5D Mark IVが登場した。今回はEOS 5Dsのような高画素に特化した特殊用途機ではなく、あの業界スタンダードと化したEOS 5D Mark IIIの正常進化版として満を持しての登場である。正常進化、という言葉がこれほど適切な機種も少ないだろう。5Dシリーズはハイアマチュアのみならず多くのプロが使用し、今や定番中の定番となったが、その系譜をどのように引き継いでいるのか注目してみよう。
進化のベースとなる画素数は約2210万画素から約3040万画素へ増加、長辺で見ると5760ピクセルから6720ピクセルへ約1000ピクセルほど増加。これは175線印刷の実寸で約41cmが約48cmになったということだ。印刷で7cm大きくなったというのは小さい進化ではない。また常用感度の上限はISO25600から32000へアップ、連続撮影速度は6fpsから7fpsへ、動画記録は待望の4K記録へ進化した。数字的には劇的な進化を遂げているようには見えないが、逆説的に言うと、ここにEOS 5D Mark IVの美点が隠されている。
どういうことかと言うと、このカメラは全てにおいて破綻がなく、安定した性能をたたき出す。つまりバランスが良いのだ。高画素に特化したEOS 5Ds/5Ds Rは凄まじい解像度と引き換えに高感度特性を犠牲にしていたし、高速連写や超高感度を謳うカメラは逆に画素数を抑えたモデルがほとんどだ。7cmのサイズアップが小さくないと述べた理由はここにあり、高感度特性を向上しながらも解像度、画質を向上させ、連続撮影速度もアップしている、どこにも破綻のないこの堅実なベースアップの効果は数字以上に大きい。いつでもちゃんと、7cm大きい画像が手に入る。
AFセンサーはEOS-1DX Mark IIゆずりのオールクロス61点AFセンサーを搭載、縦方向に測距エリアを拡大し、より低照度でのAFも可能にしている。モデル撮影や物撮りなどシビアな撮影で使用した実感としても、かなりの精度で欲しいところに合焦した。コマーシャルの分野でもよほどのことがない限り、AFで問題ないだろう。
EOS 5D Mark IV 主な仕様
[撮像素子]約3040万画素フルサイズCMOSセンサー [最大記録画素数]6720×4480画素 [ファインダー視野率]約100% [連続撮影速度]最高約7コマ/秒 [常用ISO感度]ISO100〜32000(動画時ISO25600/4K時ISO12800)[動画記録サイズ]4K:4096×2160/フルHD:1920×1080/HD:1280×720 [液晶モニター]ワイド3.2型162万ドット/タッチパネル操作可能 [その他]GPS内蔵/Wi-Fi内蔵/レンズ光学補正/デュアルピクセルRAWなど [大きさ・質量]約150.7×116.4×75.9mm/約800g(本体のみ)[オンラインショップ参考価格]ボディ: 約46.7万円(税込)/24-70 F4Lレンズキット: 約59.1万円(税込)/24-70 F2.8L IIレンズキット: 約66.7万円(税込)/24-105 F4L IIレンズキット: 約60.2万円(税込)
オートフォーカスの性能はEOS-1D X Mark IIゆずり
さて、ボディデザインも使用方法もほとんど前モデルと変わらないEOS 5D Mark IVだが、そんな中で一番大きく進化したと思わせる機能がデュアルピクセルCMOS AFと、それに伴って搭載されタッチAFだ。4K動画と共に搭載されたのはEOS-1DX Mark IIに続き2機種目だが、これにより動画撮影のワンマンオペレーションが非常に簡易になる。
背面液晶のフォーカスを合わせたい場所をタッチすればスッ、スッと合焦し、動体をそのまま追従することも、顔を認識して追いかけることも可能。合焦速度の調整もできる。フォーカス送りの精度や滑らかさはかなり完成度が高く、マニュアル操作ではほとんど不可能なレベルだ。今のところこれに匹敵するライブビューAF性能を持った一眼レフは見当たらない。5D Mark IIIでは全く使う気にならなかったライブビュー時のAFは、このデュアルピクセルCMOS AFの搭載で一気に武器化した。
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Model=徳原ありさ ST=中薗亜矢 HM=関大輔 衣装協力=HIROKO KOSHINO
コマーシャルユースの人物撮影では、ピクチャースタイルは「スタンダード」か「ニュートラル」を選択するのがよい。「ポートレート」は人肌の発色は良くなるものの全体に赤みが強くなるし、「ディテール重視」は人肌のディテールが立ちすぎる。上の写真では「スタンダード」を選択した。
画質は静止画、動画ともデジタル一眼レフの王道
画質については静止画、動画とも情報量が豊富で、ダイナミックレンジの広さを感じさせながらもシャープ。フルサイズセンサーとしては決して多くない約3040万画素というスペックが生み出す画像は、本当に無理がなく、解像度と豊富なグラデーションを両立し、まさにデジタル一眼レフの王道といった絵作り。画像処理に対しても体力があり、APS-Cやフォーサーズ機のような薄氷の上に成り立った綺麗さとは一線を画す。記事冒頭のシカゴ高層ビル群の空撮画像を見ていただければわかるとおり、超高性能レンズEF 11-24mm F4L USMも見事に使いこなしている。
高画素化に伴って様々な被写体の質感表現が向上
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写真4点の解説;中村雅也
物撮りでは、金属なら金属、木なら木と単一の素材を一つの画面にたくさん集め、同質でありながらも存在する微妙な素材感の違いを表現するという撮影を行なった。この物撮りでは、手でつかめるようなリアリティーをいかに出せるかということを意識しているが、どの撮影でも破綻することなく、あっけないぐらい簡単に各々の質感を再現した。どんな撮影であっても淡々と仕事が進められそうだ。
人物撮影においても質感表現の優秀さは同様だが、ピクチャースタイルの選択で人肌の表現が大きく変わるので、慎重な選択が必要だ。
そのほかWi-FiやGPSの搭載、カメラ内デジタルレンズオプティマイザの撮影時JPEG対応、フリッカーレス撮影などの諸機能により脇を固め、さらにEOS初となるDPRAW(デュアルピクセルRAW) というユニークな機能が搭載された。これは撮像素子からのデュアルピクセル情報が付加された特別なRAW画像データを活用し、Digital Photo Professional現像時に解像感補正/ボケシフト/ゴースト低減の3つの微調整が可能になるというものだ。
兎にも角にもこのカメラの価値は、あらゆる撮影に対して完成度の高い進化を遂げているところにある。今回キットレンズの一つになる24-105mmも、II型にリニューアルしたEF24-105mm F4L IS II USMになり、このベースアップに一役買っている。まさにオールマイティな一台だ。
EOS 5D Mark IVの進化したポイント
約3040万画素CMOSセンサー
高感度、高速読み出し性能を高めつつ約3040万画素の高解像度を実現。ローパスフィルターの効果を弱めて解像感を優先しているほか、デュアルピクセルCMOS AFにも対応するなど、最新技術が投入されている。
最高常用感度ISO32000
常用ISO感度の上限は前モデルのISO25600からISO32000にアップ。1D X Mark IIにも搭載されている映像エンジンDIGIC 6+の新ノイズ処理アルゴリズムにより、低輝度ノイズ、高感度時の色ノイズを除去している。
新61点レティクルAF
測距点数は前モデルと同じ61点だが、大幅な性能アップを実現した1D X Mark IIのAFシステムを移植している。測距エリアが縦方向に拡大しているので被写体の捕捉力がアップするほか、低輝度時の合焦精度も向上している。
レンズ光学補正
レンズの収差等を撮影時に補正する機能を搭載。5D Mark III、5Ds/5Ds Rでは周辺光量、色収差、歪曲収差の補正だけだったが、本機ではさらに回折補正、デジタルレンズプティマイザにも対応。すべての補正がJPEG撮影時にも適用できる。
デュアルピクセルRAW
Digital Photo ProfessionalでRAW現像を行なう際に、解像感補正/ボケシフト/ゴースト低減の3つの微調整ができるEOS初の新機能。ただしこの機能を使用するには、撮影時にデュアルピクセルRAWの形式で撮影しておく必要がある。
GPSとWi-Fi機能を内蔵
5Dシリーズで初めてGPSとWi-Fi機能を内蔵。特に後者では、FTP/FTPS転送、パソコンにインストールしたEOS Utilityからのリモート操作、スマホやタブレットでのリモート撮影と画像転送を実現しており、業務でも役に立つ。
DCI 4K & Motion JPEG採用で動画から静止画まで使える4K
EOS 5D Mark Ⅳは4K30P動画を撮影できるようになった。長辺が4096ピクセルあるDCI4Kの採用で、汎用性が高く業務用としても利用できる仕様だ。4K撮影時は約3040万画素センサーの中心部4096×2160ピクセルをクロップアップし、ドットバイドットで記録する。そのため静止画を等倍で表示したような、解像感が高く情報量の多い美しい動画が撮影できる。
4K撮影時に注意したいのがクロップアップによりレンズの画角が狭くなる点だ。スチールやフルHD動画を想定したレンズセレクトだと広角側が不足してしまうだろう。その場合は豊富なEFレンズ群から超広角ズームレンズであるEF11-24mm F4L USMやEF8-15mm F4L フィッシュアイ USMの2本をセレクトしたい。
シネマと放送の両方に対応するDCI 4Kを採用
一般的な4K動画のフォーマットは放送を想定した4K UHD(3840×2160、16:9)だが、5D Mark IVの4K動画はデジタルシネマの規格であるDCI 4K(4096×2160、17:9)を採用している。左右をトリミングすれば放送にも対応できるので、汎用性に優れた4Kと言えるだろう。
本機の4Kのフレームレートは24Pと30Pだが、フルHDでは60Pまで対応(1280×720のHDは120Pまで)。本機のフルHDは他にも、タイムラプス動画やHDR(ハイダイナミックレンジ)動画に対応するなど、4Kとは違った使い方ができる。外部レコーダー用にHDMI端子から出力される映像もフルHDとなっている。
4K動画の圧縮はフレーム毎にJPEG形式で圧縮するMotion JPEGを採用している。この方式は時間軸上の圧縮がないため任意のフレームを切り出ししやすいという特徴がある。しかも、4K切り出し画像は約880万画JPEGであり、用途によりスチール素材として十分な解像度を持っている。初めから切り出しを目的にする場合は、被写体ブレを考慮したシャッタースピードを選択することで、30fpsという圧倒的な超高速連写カメラに変貌させることもできる。
また、切り出しの画像を4K動画のピントチェックで活用する方法もある。そもそも本機のHDMI端子は4K出力に対応していないし、撮影現場によっては4Kモニターがない場合がある。撮影後ボディ内で切り出し画像を生成すれば、高精度なピントチェックをすることが可能だ。(森泉祥之)
動画撮影と抜群に相性がよいデュアルピクセルCMOS AF
デュアルピクセルCMOS AFとは、光学ファインダーの位相差AFシステムの原理を撮像面に応用した技術で、CMOSセンサーの1画素内に配置された2つのフォトダイオードが画像信号を検出して合焦する、キヤノン独自の撮像面位相差AFのことである。このシステムはEOS 70Dで初搭載、その後ブラッシュアップを重ね、4K動画と共にEOS 5D Mark Ⅳに実装されたというわけだ。
このAFはライブビュー撮影および動画撮影時における機能なのだが、かなりのAF速度を持ち、迷いもなくスムーズに合焦する。そして、背面液晶がタッチセンサーになっているため、合焦したい場所にタッチするだけでAFポイントを移動でき、瞬時にフォーカスしてくれる。
タッチAFによる正確で滑らかなフォーカス送り
背面液晶でピントを合わせたいところをタッチすると瞬時に合焦する。フォーカスエリアの移動も指先ひとつで行なえるほか、AFの速度も自由に変更できるので、ゆったりとした滑らかなフォーカス送りも可能になる。
この作例では、三線の竿の先端からバチを持つ右手へとピントが移動していく。
この作例では、手の動きに追随してピント位置が移動し、最後はゆっくりと顔にフォーカスを送る。
実際使用してみると、フォーカスの移動から合焦に至る一連の動きは驚くほど自然である。さらに、2009年以降に発売されたUSMレンズ、およびSTMレンズであれば、動画サーボAFの「ライブAF1点」AF時にAF速度を10段階から任意で選べる。そして「顔+追尾優先」AF時は、被写体の追従性が非常に良い。
シビアなピント合わせを求められる4K撮影でも同様の性能を発揮。4K撮影時にはフォーカス送りや動体の追従、手持ち撮影などの精度をさらに高める必要があるが、EOS 5D Mark Ⅳはその領域をワンマンオペレーションで実現できることを証明してくれるだろう。(中島孟世)
4K撮影をサポートする新機能
動画サーボAFのカスタマイズ
デュアルピクセルCMOS AFの搭載に伴い、動画サーボAFの性能が大幅に向上した。「ライブ1点AF」時は、AF速度を10段階、被写体追随特性を7段階で変更できるので、ゆっくりしたフォーカス送りも可能になる。
タッチパネル機能
背面液晶モニターにはタッチパネル機能が搭載されている。ピントを合わせたいところにタッチすると、AFフレームの四角い枠が表示され、そこに素早くピントが合う。その状態で指を動かすと、それに追随してAFフレームも移動する。
4Kフレーム切り出し
カメラで再生時、4K動画の1フレームを約880万画素の静止画としてJPEGで保存できる。そのまま写真素材として使えるほか、動画のピント確認にも利用できる。これに対応しているのは4Kだけで、フルHDからの切り出しはできない。
※この記事はコマーシャル・フォト2016年10月号から転載しています。
南雲暁彦 Akihiko Nagumo
凸版印刷 ビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。