2017年01月31日
EOS MOVIEといえば今でも最初のEOS 5D Mark IIを連想する人が多いだろうが、最新のEOSは4K記録に対応し、動画のオートフォーカスも劇的に改善されている。一眼ムービーを牽引してきたEOS MOVIEの現在をEOS 5D Mark IV、EOS-1DX Mark IIの実写画像をもとに検証しよう。
4K EOS MOVIEは徹底的に画質を重視
EOS-1D X Mark IIで撮影した4K動画から切り出した画像。ピントが合った部分の解像感と、大きなセンサーサイズならではのボケ感が魅力。
EOS MOVIEが4Kに対応した。業界全体で見ると4K自体はさして珍しいものではなくなっているが、詳しく見るとやはりEOSの4Kは別格であることがわかる。
まず1画素あたりの面積が大きく画質面で有利なフルサイズセンサーを使用しており、しかも4K撮影時はドットバイドット=ピクセル等倍のまま切り出して記録する。画角的には不利になるものの、リサイズなど画素に対して極力演算を行なわない思想は、解像感と階調性を両立させた豊かな映像を生み出している。
EOS MOVIEのコンセプトは当初から「スチルで見たままを動画に」だった。4K記録を実現した現在も、スチルカメラとしての能力を一切邪魔することなく動画機能を練り込んでいるところに特徴がある。
キヤノンにはCINEMA EOSという映像撮影に特化したシネカメラが存在するが、それらは複数のクルーで運用する、いわばチーム制作のためのカメラである。これに対し、妥協のないスチルとムービー機能を併せ持ちながら、あくまでワンマンオペレーションを基本とするのが一眼レフのEOSだ。
実際にEOS 5D Mark IV、EOS-1D X Mark IIは、スチルフォトグラファーのノウハウ、経験を活かして、一人でも動画撮影を行なえるように設計されている。スチルとムービーはもはや別のものではないのだというメッセージさえ感じるほどだ。
EOS 5D Mark IV
約3040万画素のフルサイズCMOSセンサーを搭載。4K対応、デュアルピクセルCMOS AFなど、動画関連の機能が充実している。
EOS-1D X Mark II
約2020万画素のフルサイズCMOSセンサーを搭載。スチルの最上位機種であると共に、動画でも他のEOSを上回る高機能を誇る。
進化① 4Kシネマ、4K放送の両方に対応する4K動画機能
冒頭でも述べたが、4K EOS MOVIEは徹底的な画質重視の仕様になっている。その一つがドットバイドット記録。フルHDの時はセンサー全体から縮小リサイズするが、4Kの時はリサイズ等の加工を行なわず収録する。これはEOS-1D C以来、4Kに対応したEOSが頑なに守る画質優先の手法だが、そのトレードオフとしてフルサイズセンサーの画角では記録できず、またセンサー画素数が増えるほど画角が狭くなる現象が起きる。EOS 5D Mark IVとEOS-1D X Mark IIでは、同じレンズを用いても画角が異なることに留意が必要だ。
4K撮影時の画角
EOSの4K動画はピクセル等倍で記録されるため、フルHD動画よりも画角が狭くなる。また元々のセンサーの画素数が違うため、1D X Mark IIの方が5D Mark IVよりも4K撮影エリアの面積が広くなる。
コーデックの面からみると、フルHDは従来のEOS MOVIEが採用してきたH.264系のMOVだが(最近のEOSはMP4も選択可能)、4KではMotion JPEG記録一択となる。フレームをまたがる時間圧縮を併用するフルHDと異なり、4Kはフレーム内での空間圧縮のみ。前述のドットバイドット記録、4:2:2のカラーサンプリングと併せ、極力演算を行なわない画質最優先の考え方と言えよう。これにより非常に高品質な4K動画を得ることに成功している。
ただし、その分、ビットレート、ファイル容量は巨大化し、4K30Pで約500Mbps、16GBのメモリーカードで4分収録と桁違いのファイル容量になる。使う側にも本気が求められる、現時点で最もヘビーな4K一眼ムービーと言えよう。
そしてもう一つ、4K EOS MOVIEには大きな特徴がある。それは一般的な4K UHD (3840×2160、16:9)ではなく、4Kシネマの規格であるDCI 4K(4096×2160、約17:9)を採用していることだ。解像度の面で後者は前者を内包するため、4K EOS MOVIEは4Kシネマ、4K放送の両方の素材を撮影できる。つまり、他よりも汎用性の高い4Kなのである。
DCI 4Kと一般的な4Kの違い
5D Mark IV、1D X Mark IIの4Kの解像度は4096×2160で、DCI 4Kと呼ばれる4Kシネマの規格を採用している。一般的な4K UHD(3840× 2160)よりも横方向が256ピクセル多い。
DCI 4KからフルHDに変換する場合の注意点
アスペクト比が約17:9のDCI 4Kを、フルHDに変換する際には注意が必要だ。オススメは、DCI 4Kの解像度のまま編集作業を行なって、完成後に左右256ピクセルをカットしてHDに変換する方法。最初から編集ソフトのビデオ解像度をフルHDに設定しておくと、アスペクト比の違いから16:9の画面の上下に黒みが入る。
5D Mark IVと1D X Mark IIの比較
EOS 5D Mark IV | EOS-1D X Mark II | |
---|---|---|
4K動画 | 30P/24P (4096×2160) |
60P/30P/24P (4096×2160) |
フルHD動画 | 60P/30P/24P | 120P/60P/30P/24P |
4Kデータレート | 500Mbps | 500Mbps(30P) 800Mbps(60P) |
フルHDデータレート | 90Mbps(30P) 180Mbps(60P) |
90Mbps(30P) 180Mbps(60P) |
カラーサンプリング | 4:2:2(4K) 4:2:0(フルHD) |
4:2:2(4K) 4:2:0(フルHD) |
1D X Mark IIは4K60P、フルHD120Pにも対応しており、5D Mark IVよりもさらに本格的な動画撮影が可能となっている。その他のデータレートやカラーサンプリングは両者とも共通。
進化② 精度と操作性が格段に向上した動画撮影のAF
5D系や1D系のEOS MOVIEでは、フォーカス関連の速度や操作性に不満を感じることが多かったと思うが、EOS-1D X Mark II以降は劇的に改善されている。
その主役がデュアルピクセルCMOS AF。フルサイズEOSに搭載されたのはEOS-1D X Mark IIが初めてで、EOS 5D Mark IVが2機種目。2013年にEOS 70Dで初搭載された技術を熟成させ、4Kに耐える精度、プロ機に相応しいカスタマイズ性を実現しただけに完成度は高い。
デュアルピクセルCMOS AF
各画素が2つのフォトダイオードで構成されており(上図参照)、そこから得た情報を利用して、ライブビュー/動画撮影時に位相差AFを行なう。位相差AFは高速かつ合焦の戻りがないのが特徴。
タッチAF
入門機、中級機でお馴染みのタッチAFを5D Mark IVにも実装。動画撮影時に効果的だ。Wi-Fiリモート時にはスマホ画面からもタッチ操作可。1D X Mark IIもタッチ操作に対応するがLV/動画撮影時のみ有効
ファインダー撮影時のAFと同じ位相差原理に基づくので、ライブビュー/動画撮影時のAFが高速になっただけでなく、以前のEOS MOVIEで主流だったコントラストAFの「合焦点付近でフォーカスがふらつく」挙動がないため、一瞬の1コマ、ではなく連続した時間軸を持つ動画撮影との相性は圧倒的。背面液晶パネルのタッチAFや、動画サーボAFの高精度な被写体追従性と合わせ、マニュアル操作では困難な動画フォーカスを実現する。
大口径レンズを開放に近いF値で動画撮影をした場合、不規則に動く人物にフォーカスを合わせ続けるのはかなり難易度が高いが、EOS 5D Mark IV、EOS-1D X Mark IIでは4K解像度でも満足のいくほぼ完璧な追従性能を見せ、撮影の歩留まりを大きく引き上げる。
動画撮影は何分ものショットの間、わずか数コマでもフォーカスが外れると全体がNGになる場合もあるシビアなもの。高性能なAFが使える実用上のメリットは大きい。
顔+追尾優先AF
EOS 5D Mark IVの「顔+追尾優先AF」による撮影。前後に動くブランコに追従して顔にフォーカスを合わせ続けた。モデル: Satoppiko
5D Mark IVと1D X Mark IIの比較
EOS 5D Mark IV | EOS-1D X Mark II | |
---|---|---|
デュアルピクセルCMOS AF | ◯ | ◯ |
同AF 低輝度限界 | EV -4 | EV -3 |
タッチAF | ◯ | ◯ |
LV、動画撮影時以外のタッチパネル操作 | ◯ | - |
デュアルピクセルCMOS AFは両モデルとも対応。1D X Mark IIでは動画撮影「専用」だった感のあるタッチ操作が、5D Mark IVでは再生時、モード選択時と使用範囲を拡大、使い勝手がさらに良くなっている。
進化③ 動画に最適なゆっくりとしたフォーカス送りが可能に
静止画撮影においては高速なAFは絶対的なアドバンテージだが、動画撮影においてはそうとは限らない。スチルとムービーでは最適なAF挙動も異なるのだ。例えば動画では1カットの中で、奥の人物から手前の主人公にフォーカスが移動するなどのいわゆるピン送りが多用されるが、EOS自慢の高速AFでシュッとフォーカスが移動してしまうと情緒も何もなくなってしまう。ゆっくりとフォーカスが移動していく映像的カメラワークも動画の美しさだ。
動画専用のEFシネマレンズではそのための機構が用意されているが、スチルとムービーを高い次元で両立させる一眼レフとしてのEOSでは、既存のEFレンズを動画用に転用できることが強みとなる。
AF速度のカスタマイズ(EOS 5D Mark IV 動画サーボAF「ライブ1点AF」時)
EOS 5D Mark IV、EOS-1D X Mark IIは、動画サーボAFで「ライブ1点AF」を選んでいる場合、AF速度を10段階でカスタマイズできる。上の作例の場合、タッチAFで画面奥の人物をタッチすると、初期設定=AF速度「0」では0 . 67秒でフォーカスが送られる。これが最も遅いAF速度「-7」では2.0秒となる。モデル: 佐藤慶香
EOS-1D X Mark II、EOS 5D Mark IVは共に、被写体が動いても自動でピントを合わせ続けられる動画サーボAFに対応。さらにフォーカス駆動速度を10段階に調整できる機能が搭載され、ゆっくりとしたフォーカス送りが可能となった(2009年以降に発売されたEFレンズのみ対応)。
背面液晶のタッチAFと組み合わせることで、指先一つで目的の場所に素早くフォーカスを合わせたり、ゆっくり合わせることができるのは、まさに進化したEOS MOVIEならではの醍醐味だ。
さらに不規則な動きや被写体とカメラの間を横切る物体があった場合などの被写体追従性(粘り)も7段階に調整可能になるなど、動画撮影におけるAF駆動の特性についても完成度の高いものになった。
被写体追従性のカスタマイズ(EOS 5D Mark IV 動画サーボAF「ライブ1点AF」時)
動画サーボAFはもともと、被写体が動いても自動でピントを合わせ続けるための機能で、通常は「顔+追尾優先AF」モードを選んでおけば、見事にピントを合わせ続けてくれる。被写体追従性を変更したい場合は、「ライブ1点AF」モードにすると7段階でカスタマイズできる。
5D Mark IVと1D X Mark IIの比較
EOS 5D Mark IV | EOS-1D X Mark II | |
---|---|---|
動画サーボAF | ◯ | ◯ |
AF速度のカスタマイズ | 10段階 | 10段階 |
被写体追従特性のカスタマイズ | 7段階 | 7段階 |
動画サーボAFおよび、AF速度のカスタマイズ、被写体追従特性のカスタマイズに関しては両モデルとも同等。ちなみに5Ds/5Ds Rも動画サーボAF対応だが、カスタマイズには非対応となっている。
進化④ 着実に向上しているフルHDの画像クオリティ
4Kを実現したことに話題が集中しがちだが、フルHDのEOS MOVIEもまた着実に進化していることに注目したい。EOS 5D Mark IIでは30P/42Mbps/IPBだったが、EOS 5D Mark IIIで30P/90Mbps/ALL-Iへ高画質化し、EOS 5D Mark IV、EOS-1D X Mark IIでは60P/180Mbps/ALL-Iも新設された(IPBとALL-Iは動画の圧縮形式で、後者の方が圧縮率が低い)。
一方でこれら高画質化はビットレートの増大を招き、いわゆる「重い」ファイルとしてオーバースペックになるリスクがある。そこを意識したのかどうかは分からないが最近のEOSでは軽いMP4記録が選択式で追加され、画質重視の撮影からWebメディアへの迅速な展開まで使用用途に合わせた選択肢が広がった。EOS MOVIEが様々なレベルで使われている証左か。
また常用感度、拡張感度ともに向上し、現在はEOS 5D Mark IVで102400、EOS-1D X Mark IIで204800の拡張感度撮影を実現(常用感度はともに25600)している。このような超高感度は不要という意見もあろうが、ポイントはもっと低い6400や12800といった通常の高感度域の画質向上がなされていることだろう。
高感度撮影時の画質が向上
5D Mark IVおよび1D X Mark IIのフルHD動画時の常用感度は上限ISO25600で、5D Mark II(上限ISO 6400)、5D Mark III(上限ISO 12800)よりも暗い場所に強くなっている。上は5D Mark IVのフルHD動画で、感度はISO6400。
ただ画質向上したフルHDも良いが、4K撮影〜編集を行なったムービーをフルHDに変換出力すると解像感が1ランクあがったように見えるのも確か。編集用のPCスペックやストレージに余裕があるなら、納品がフルHDであっても4K制作を検討すべき時代がきたのかもしれない。
4Kから変換したフルHDの画質はどうか?
同じフルHD動画でも、4KからフルHDに変換した方が、最初からフルHDで撮影するよりも細かいディテールが再現されており(特に髪の毛の部分など)、輪郭強調も抑え気味になっている。
5D Mark IVと1D X Mark IIの比較
EOS 5D Mark IV | EOS-1D X Mark II | |
---|---|---|
フルHD動画常用感度 | ISO100〜25600 | ISO100〜25600 |
4K動画常用感度 | ISO100〜12800 | ISO100〜12800 |
動画の常用感度は両機種とも同等だ(静止画では5D Mark IVの上限は32000、1D X Mark IIは51200)。
進化⑤ ハイフレームレートをはじめとした先進の動画機能
読み出し速度の向上したセンサー、それを支える高速高機能の画像処理エンジンは、高解像度、高画質以外にもクオリティの高い新機能を実現している。
その白眉とも言えるのが120Pハイフレームレート=HFR撮影だ(EOS-1D X Mark IIはフルHD、EOS 5D Mark IVはHD)。人間の眼の時間分解能を超えるスローモーションは映像的魅惑に溢れている。単にHFRならもっと高レート撮影を実現するカメラはあるが、フルサイズセンサーの持つ力のある画をフルHDの解像度で秒120枚描き出すカメラは他には存在しない。さらにEOS-1D X Mark IIはHFR撮影中も動画サーボAFが効き、顔追尾でフォーカスを追い続けることが可能(EOS 5D Mark IVはフォーカス固定)。
120Pハイフレームレート・フルHD動画( EOS-1D X Mark II)
120Pハイフレームレートで記録した動画を通常の30Pで再生すると、1/4倍速のスローモーションでゆっくりと滑らかに動く。1D X Mark IIでは1920×1080のフルHD記録で動画 サーボAFが有効、5D Mark IVでは1280×720のHD記録でフォーカス固定という違いがある。モデル: 佐藤慶香
またEOS 5D Mark IVのみの搭載となるがコントラストの高い被写体の白トビを抑制してダイナミックレンジを広く確保するHDR動画や、電子シャッターによるタイムラプス撮影機能など、トレンドを意識した機能実装もされている。
HDR動画(EOS 5D Mark IV)
標準露出とアンダーのフレームを1コマごとに60Pでキャプチャーし、記録/再生時に30Pで両者を合成することで、白飛びの少ないハイダイナミックな動画を実現。
その反面、一眼レフで初めて4Kに対応したEOS-1D Cが搭載していたキヤノンLogは非搭載。CINEMA EOSとの切り分けもあるのだろうが、編集時の補正幅を拡張可能なLogは是非搭載してほしいところ。
カメラ内で4K動画から印刷にも耐える高品質な静止画を切り出せる。その1コマはまさにスチルカメラのもので、「写真が動画になるEOS MOVIE」の原点を改めて実感させる4K EOSだった。
4Kフレーム切り出し
カメラで再生時、4K動画の1フレームを約880万画素の静止画として切り出し、JPEGで保存できる(フルHD動画からは不可)。そのままスチル素材としても使えるし、4K動画のピント確認用としても使える。4Kフレーム切り出しは純正ソフトのEOS MOVIE Utilityでも対応している。
5D Mark IVと1D X Mark IIの比較
EOS 5D Mark IV | EOS-1D X Mark II | |
---|---|---|
ハイフレームレート | 120P(1280×720) | 120P(1920×1080) |
タイムラプス動画 | ◯(1920×1080) | - |
HDR動画 | ◯(1920×1080) | - |
情報表示なしHDMI出力 | 4:2:2 非圧縮(1920×1080) | 4:2:2 非圧縮(1920×1080) |
4Kフレーム切り出し | ◯ | ◯ |
GPS情報の動画埋め込み | ◯ | ◯ |
特殊効果的な動画機能で両者を比較すると、5D Mark IVはハイフレームレート動画では一歩譲るものの、タイムラプス動画、HDR動画では1D X Mark IIを上回る機能を持っている。
※この記事はコマーシャル・フォト2016年11月号から転載しています。
斎賀和彦 Kazuhiko Saika
CM企画/演出時代にノンリニア編集勃興期を迎える。現在は駿河台大学メディア情報学部、デジタルハリウッド大学院等で理論と実践の両面から映像を教えながら、写真、映像作品を制作。
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