2016年06月13日
キヤノンのプロフォト市場向けデスクトッププリンターとして初めてA2サイズを実現したimagePROGRAF PRO-1000。PRO-1000のデジタルプリントによる個展の開催を控えていた木村朗子氏と、実際にプリントを担当した松平光弘氏に話を聞いた。
プリンティングディレクター松平光弘氏と、写真家の木村朗子氏
黒が締まるおかげで写真に深みが出る。
───PRO-1000の第一印象はいかがですか?
松平 一番大きいのは黒がすごく深くなったことです。黒の締まりが良いのは、キヤノン独自開発の新インクシステムに加えて、透明インク「クロマオプティマイザー」のおかげだと思いますが、それによって立体感が生まれたり、写真に深みが出るような気がします。今までのプリンターと比べると、黒が深いだけでなく、階調がきちんと残っている。影の部分のディテールは、パッと見ただけではわからないはずですが、体が知覚するというか雰囲気を感じるというか、そんなかんじですね。
木村 私も、ひとめ見ただけで黒が深いという印象を受けましたね。黒の階調がより豊かで、闇がしっかりと表現されています。闇は作品の中で大事な部分なので、すごくいいプリントができたと思います。かといって今までのプリンターに不満があったわけではないんですが、でも実際に比べてみると、PRO-1000の方が闇の豊かさを感じられます。
───木村さんは今度、PRO-1000のプリントで写真展を開かれるそうですね。
木村 はい、松平さんにプリントをお願いして、約20点を展示する予定です。私は今もそうですが、もともとカラーネガで撮影をしていて、印画紙の時代は自分でプリントしていました。でも、タイプCのカラープリントには劣化が避けられないという問題があって、お客さまにプリントを販売するにあたって、少し心配になることがありました。そんなとき松平さんと出会って、試しにインクジェットのプリントをお願いしたら、とても満足のいく内容だったので、数年前からずっと松平さんにお願いしています。
松平 耐光性は紙や環境によっても違いますが、タイプCは長くても40年、インクジェットのカラープリントだと100年と言われているので、プリントを販売する時には大事なポイントです。PRO-1000はディスプレイとのカラーマッチングが良好で、色をコントロールしやすいので、これまでの木村さんの作品のような優しい仕上がりのプリントを作りやすいですね。
───今回のプリントはいかがですか?
木村 作品の被写体に、空や海の藍色を含むものが多いのですが、そういうブルー系の色がきれいに出ていると思いました。
松平 PRO-1000は特にブルーの色域が伸びているので、木村さんの作品にはちょうどいいですね。クロマオプティマイザーによって光沢感が増していますし、表面の平滑性が均一でインクの段差も目立たない。ブロンズ現象という、光の当たり方によって本来とは違った色が付いて見えるような現象もほとんどありません。展示用としても販売用としても、クオリティの高いものができたと思います。
木村 デジタルプリントへ移行した時に、耐久性や品質の面で問題ないという判断はできていましたが、今回はさらにクオリティが上がったのが嬉しいですね。
───用紙は何を使っていますか?
松平 ハーネミューレのフォトラグバライタという紙ですね。バライタ印画紙のような光沢と質感が特長です。
木村 いちばん最初に松平さんからいくつか提案してもらったんですが、この紙が一番私の作品に合っていると思い、それ以来ずっとこの紙を使っています。
松平 PRO-1000はいろんな紙が使えるように他社製用紙にも対応していますが、今回はハーネミューレのWebサイトからPRO-1000用のフォトラグバライタのプロファイルをダウンロードしました。ディスプレイとのマッチングがすごく良くて、自分でプロファイルを作らなくても十分なクオリティはありますね。
黒インクを切り替えなくてよいので効率が上がる。
松平 そのほか、このプリンターで素晴らしいと思ったのが解像感です。検証のために1ポイントの極小サイズで文字を出力しましたが、ルーペで拡大すると明らかにPRO-1000は解像感が高いんです。解像感が高いと細部がよりシャープに再現されるため、プリントの仕上がりにすごく影響してきます。
いま話題のハイレゾ・オーディオは音の情報量がCDの何倍もあるそうですが、それと同じような話で、人間の目で見えるかにどうかの領域まで頑張って出そうとしているのがすごいなと思います。プリンタードライバーの精度が上がったからなのか、黒が引き締まってダイナミックレンジが広がったからなのか、そのあたりは開発者の方に聞いてみたいところですね。
───そのほかにPRO-1000を使って気持ち良かったところはありますか?
松平 僕はいろんな写真家の方のプリント制作に携わっていますが、人によってマット系の紙でプリントしたり、光沢系の紙でプリントしたり、それぞれなんです。今までのプリンターだと用紙に合わせてブラックインクを切り替えていたんですが、キヤノンのプリンターはインクを切り替える必要がありません。作業効率が上がるし、インクを無駄にしないのでコスト的にも大きなメリットです。
ノズル抜けが少ないのもすごくいい。ノズルリカバリーシステムという技術のおかげで、プリントヘッドのノズルが詰まって白い筋が入ったりしないので、安心してプリント作業ができます。PRO-1000は画質の面でも生産性の面でも、画期的なプリンターだと思います。
───ブラックインクやノズル抜けなどは、業務用プリンターのimagePROGRAFゆずりですね。
松平 つい最近、imagePROGRAF iPF9400という60インチ幅のプリンターを導入しました。PRO-1000と同じようにブラックインクを切り替える必要がなくて、ノズル抜けもありません。木村さんの写真展ではPRO-1000のほかにも、大きなサイズのプリントはiPF9400で出力しようと思っています。
imagePROGRAF PRO-1000と他のプリンターの出力を見比べる松平光弘氏(左)と木村朗子氏(右)。松平氏の背後にあるのはimagePROGRAF iPF9400。木村氏の後ろにはimagePROGRAF PRO-1000が見える。
木村 品川や銀座などにあるキヤノンギャラリーでいろいろな方の作品展を拝見し、かなりサイズの大きいプリントの仕上りも美しく、デジタルプリントのポテンシャルの高さを感じていました。キヤノンギャラリーで作品展をみたことをきっかけに、デジタルプリントに興味をもたれる方も多いのではないでしょうか?
松平 そういうお客様は確かに多いですね。キヤノンの大判プリンターで出力してほしいというご要望も、これまで数多く頂戴していました。
木村 私は今回初めてキヤノンのプリンターで出力してもらいましたが、今まで以上にクオリティの高いプリントができそうなので、会場に展示するのが今から楽しみです。
松平 僕の方はこれからプリント作業が佳境を迎えますが、頑張っていいプリントを作りたいと思います。
PRO-1000のプリントによる写真展
4月末開催の木村朗子展では、imagePROGRAF PRO-1000およびiPF9400によるプリント約20点が展示された。
会期:4月29日~5月11日
会場:GALLERY SPEAK FOR
(渋谷区猿楽町28-2)
PROFILE
松平光弘(まつだいら・みつひろ)
アフロアトリエ プリンティングディレクター。プラチナプリントや銀塩プリント等の伝統技法を習得し、デジタルプリント制作でもそのノウハウを生かして活躍。
atelier.aflo.com
木村朗子(きむら・あきこ)
写真家。立教大学社会学科卒業後、写真作品の制作を始め、国内外での展覧会を中心に活動、2014年に作品集「 i 」を発行。2016年4月29日より個展を開催。
※この記事はコマーシャル・フォト2016年5月号から転載しています。