キヤノン imagePROGRAF PROシリーズの実力

ディスプレイと違う色味になったりシャドウの階調がつぶれたりしないのでデザインの現場での使い勝手がすぐれている

菱川勢一(アートディレクター/映像作家/写真家)

キヤノンのプロフォト市場向けデスクトッププリンターとして初めてA2サイズを実現したimagePROGRAF PRO-1000。アートディレクションや写真、映像を手がける菱川勢一氏にPRO-1000を使用してもらい、そのインプレッションを聞いた。

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デザイナーの意図をそのままストレートに出すプリンター

───菱川さんは様々なメディアで仕事をされていますが、今回はどのように「imagePROGRAF PRO-1000」を使ってみましたか?

菱川 印刷物だとドラマのポスターのアートディレクションをすることが多くて、実際に今も一つやっているんですけれど、そういう用途で使ってみました。まず写真を出して、その次はレタッチした画像を出して、さらに文字など必要な情報を載せて出すといったことを繰り返します。

───どのくらいのサイズで出しますか?

菱川 最初のうちはA3で何枚か出して写真の見え方をチェックして、最終的に情報を載せてというときはB0対応プリンターで出します。パソコンのディスプレイで見ているときと実際のサイズで出力したときではデザインの見え方が違って、ディスプレイでは細部の可読性などに目がいきがちなんですが、大判で出すと、もっとデザイン性を優先しても大丈夫そうだということがわかってくる。事務所にB0の大きなプリンターと、「imagePROGRAF PRO-1000」のように手元に置いておけるプリンターの両方があるとすごく便利です。

───実際に使ってみて、いかがでしたか?

菱川 解像感というのかシャープというのかわかりませんが、シャキっと出てきたなと感じました。それから色もちゃんと出ている。デザイナーの観点でいうと、プリンターに求めるのはこの2点につきます。写真がねむくなったり、ディスプレイと違う色味になったり、シャドウの階調がつぶれたりせず、こちらの意図をストレートに出してくれる。

制作現場でよくある話なんですが、ディスプレイで色やトーンを追い込んでるのに、プリンターがきちんと出してくれないと、「すみません、プリントでは少し暗く見えてしまっていますが、実は違います」という言い訳めいた説明をすることがあります。

それを避けるには、「このプリンターはシャドウがつぶれ気味になるクセがあるので、少し黒を持ち上げてから出力する」とか、そういう妙なテクニックを駆使しなくてはいけない。でも本来ならそういう工夫は必要ないですよね? 「imagePROGRAF PRO-1000」はディスプレイで見たままに出力してくれるので助かります。

img_products_ipf04_02.jpg 藤巻亮太の新曲「go my way」の告知用ビジュアル。菱川氏が撮影とデザインを手がけ、全国ツアーの会場に掲出された。

───特にインクジェットで難しいのはどういう表現ですか?

菱川 ビビッドな色は意外とどんなプリンターでもいけますが、シビアなのは淡いトーン。たとえば白い壁のほのかなグラデーションが背景にあるような場合、それが真っ白で出てしまったりします。「imagePROGRAF PRO-1000」は、淡いトーンの写真でも微妙なトーンの違いをきちんと表現してくれます。

それから、シャドウ部の微妙なグラデーションも苦手ですね。いま僕がやっているのはファンタジー物のドラマのポスターなんですが、ファンタジーは一歩間違えると怖い表現になってしまいます。ちょっと暗くなるだけでホラーのようなイメージになりがちなので、「この案はちょっとないな」ということになる。そういうデリケートなところを攻めた案でプレゼンできるのは、クリエイターとしてすごく嬉しいですね。

───出力のスピードはいかがでしたか?

菱川 最近は写真のデータがどんどん重くなっていて、どれくらいの速さでプリントできるのかが気になったので、ずらっと写真を並べてコンタクトシートを出してみました。結構待たされるんじゃないかなと、ちょっと意地悪な気持ちで試してみたんですが、まったくストレスを感じないスピードで出てきたので、それもすごく嬉しかった。

写真展で展示できる品質のモノクロプリントが作れる

───菱川さんは写真家としても活動されていますよね?

菱川 僕の写真はモノクロばかりで、インクジェットでもよくモノクロで出力します。モノクロは如実にプリンターのクセが現れるので、色味やトーンの調整に苦労するんですが、この「imagePROGRAF PRO-1000」はお見事。何もしなくても、写真展で展示できるレベルのクオリティで出てきます。

モノクロの作品を作る写真家はたくさんいますが、インクジェットで満足のいくモノクロプリントを作るのは難しいので、多くの人がまだまだ印画紙に頼らざるを得ないという状況です。でも「imagePROGRAF PRO-1000」は、堂々と自分のプリントですと言えるレベルに仕上がっていて、ようやくここまで来たのかと感慨深いですね。

プリンター本体だけでなく、純正紙も頑張っているなと思いました。「キヤノン写真用紙 プレミアムマット」や「キャノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]」などを試してみましたが、「プレミアムマット」はどちらかというと最近の女子が撮るようなカワイイ系の写真、コントラストが浅めのものに向いているような気がします。黒が締まってコントラストが高いものは、「光沢 プロ[プラチナグレード]」で出すと相当きれいですね。

───最近のモノクロ作品にはどんなものがありますか?

菱川 最近は、藤巻亮太というアーティストの全国ツアーに付いて回って、そのドキュメンタリーをスチルとムービーで撮っています。彼自身も写真展を開くぐらい写真や映像にこだわりのある人なので、こちらもふんどしを締めてやっているんですが、今回のドキュメンタリーはモノクロでいきましょうということで、写真も映像も最終的にはモノクロにするという前提で撮っています。

img_products_ipf04_03.jpg 取材中にプリント出力をおこない、あらためてプリントの隅々にまで見入っている菱川氏。

そのツアーの途中で新曲が出たので、告知用のビジュアルを作りましょうという話になりました。オフィシャルのビジュアルとしては珍しく縦長で、歌っている様子にスポットライトが当たっているというものですが、あえて「こんなストイックな案があります」と彼に言ったら、「これがいいです」ということになって、「imagePROGRAF PRO-1000」で出力してツアー会場で貼りました。これはモノクロフィルムで撮った1枚なんですが、いま改めてプリントを見ると、マイクの網とか髪の質感にほれぼれしますね。インクジェットとは思えない質感です。

───つい先日、「imagePROGRAF PRO-1000」の上位機種でB0サイズ対応の大判プリンターが出ましたが、このビジュアルはポスターサイズにするともっと映えそうですね。

菱川 間に合えば、本当にそうしたかったですね(笑)。僕は自分で写真展もやりますし、デザインイベントや展覧会に出展する機会も多いんですが、そのときにこのクオリティで大判の作品を作ることができれば素晴らしいと思います。

───大判のPROシリーズは展示用の作品だけでなく、デザインの仕事でも重宝しそうですね。

菱川 いま事務所にB0サイズのプリンターがあって、よくプレゼン用のボードや試作のポスターなんかを出力して得意先に持って行っています。そんな風にプレゼンしているデザイナーは少ないらしく、「おお!」ってびっくりされますね。大判のPROシリーズなら「imagePROGRAF PRO-1000」と同じクオリティでプレゼンができるので、ぜひ使ってみたいと思います。

PROFILE

菱川勢一(ひしかわ・せいいち)
渡米を経て1997年DRAWING AND MANUALの設立に参加。短編映画、写真、TVCM、TVドラマや番組のアートディレクションを手がけている。主な仕事に「功名が辻」「八重の桜」などの大河ドラマのタイトルバックの監督、「モーショングラフィックス展(六本木AXIS)」「動きのカガク展(21_21 design sight)」「ヴェネツィアビエンナーレ建築展」などの展覧会の監修などがある。

※この記事はコマーシャル・フォト2016年8月号から転載しています。

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