2015年03月09日
「Blackmagic Production Camera 4K」は、RAWおよびProRes収録に対応したデジタルムービーカメラ。RAWデータの豊富な色深度に馴染んできたフォトグラファーの1人として、このカメラに注目してきた茂手木秀行氏が、その使用感や運用のための工夫など、2回にわたりリポートする。
写真画質がやって来た。秒30コマの連写が可能な4Kカメラ
Blackmagic Design Blackmagic Production Camera 4K 税抜き価格363,800円
一眼動画が日常のものになってきた現在、フォトグラファーといえど動画を全く無視して過ごすわけにはいかなくなった。ことに動画のトレンドが4Kになり、その高精細な映像を見るにつけ興味は深まるばかりである。
しかし一部の業務用機はともかく、一般的なムービーのファイル形式は不可逆圧縮である。RAWデータの豊富な色深度に馴染み積極的な色作りをしてきたフォトグラファーには、ムービーファイルの色情報の少なさは不満を残すばかりであった。
ムービーの1フレームを抜き出してプリントを作りたいと思っても、MOVなどのファイル形式では色情報が少ないため、プリントや印刷に望む滑らかな階調表現を保ちながら、より心象を表現する色合いをつくることができないと考えてきたのだ。
このようなニーズを満たすには、RAWデータを記録できるリーズナブルな機器が欲しくなる。そこで筆者が最も注目したのが、今回取り上げるBlackmagic Production Camera 4K(以下Production 4K)だ。リリースがあってから実際に販売されるまで1年近くの時を要したが、その間にさらに期待は高まった。
スーパー35センサーを搭載するProduction 4K は、スチルカメラで考えれば約860万画素相当のカメラである。2000万画素以上が当たり前になったDSLRからすると画素数は少ない。しかし、RAWデータの取扱いに馴れたフォトグラファーなら、画素数=画質ではないことを知っている。またローパスレス仕様ならではの解像感は画素数以上の先鋭感をもたらしてくれるだろう。だからこそこのカメラでどのような世界が広がるのか、それを知りたくていち早くこのカメラを手に入れたのだ。
筆者はProduction 4KをRAWデータで秒30コマの連写ができるデジタルスチルカメラと考えているのである。
運用のための工夫〜筆者の場合
常にシンプルな運用をこころがける
チームで動くムービー制作者と違い、フォトグラファーのワークスタイルは概ね少人数で動く。自分1人、あるいはアシスタントと2人で行動するのがほとんどだろう。
少人数で運搬し運用できる機材の数はたかが知れている。それゆえ筆者は、ムービー撮影の場合でも、まずは1人で運用することを常に考えている。たとえば現場ではPCも使わない。機器が増えるということは電池と充電器が増えることを意味し、あっという間に機材がふくれあがってしまうからだ。
Production 4Kを少人数で運用するための工夫を上に掲げておいた。参考にしてもらえれば幸いである。
まずはメニュー設定、フォトグラファーには見慣れぬメニューも
Production Camera 4Kの操作系はいたって簡単
Production 4Kの操作系は至ってシンプルだ。初めて手にしてもすぐに使いこなせるだろう。シャッターボタンはフロント側の赤いボタンと裏側左下のRECボタン。巻き戻しボタンは絞りを開ける、早送りボタンは絞る。IRISボタンは自動露出だが、RAW撮影の時は最大限白トビしない設定になるので、アンダーめの画像となることが多い。IRISボタンを一度押して一旦露出を決めてから、Zebraを確認しつつ手動で調整するとよい。上写真ではモデルの奥の明るいところがZebra表示されている。
Focusボタンは一度押すとオートフォーカス。中央に白枠が表示され、ピントが合うと固定される。録画中にも動作可能だが、DSLRよりも遅いフォーカスだ。Focusボタンを2回押すとピーキングが表示される。写真はモデルにピントが合っている状態だが、肌など滑らかな部分では検出できないので、目の部分などをよく確認する。画面をダブルタップすると表示が拡大される。以上で使い方を説明しきってしまった。それぐらいシンプルなのである。
画素数だけが画質ではない
真夏の日差しを浴びた積乱雲の雲頂と木陰のシャドウのディテールは、通常の8bitデータでは同時に表現することは難しい。RAWデータの豊富な階調を活かしてこそ表現できる被写体だ。
Photoshop Camera Rawのプレビュー画面
画素数はプリントサイズを決める重要な指標である。しかし、スチルフォトとしての画質に寄与する要素のすべてではない。大切なのはノイズが少ないことと、階調が豊かであることだ。RAWデータを扱う多くのフォトグラファーがこのことを知っているだろう。
ノイズが少なければ、シャドウの深いディテールを表現できるし、豊かな階調数は魅力的な色作りを積極的に行なうことを可能にする。
色作り、つまりカラーコレクションを行なうことは即ち、データを破壊してしまうことであり、滑らかな階調の変化を阻害する。トーンジャンプを生んでしまうだけでなく、ディテール感にも影響する。物体のディテールは、隣り合うレベル値の変化によって生まれるので、階調が少ない場合やノイズリダクションを強めた場合にもディテールは失われる。特に空間周波数の高い部分で目立つため、先鋭感を失ってしまうのだ。
Production 4Kでは、RAW記録により、豊富な階調数を確保しているので、自由な色補正を行なえることが最大の強みである。一方、シャドウ部に残るノイズは補正するとディテール感を失ってしまう。ダイナミックレンジはf/stop12となっているが、スチル用途ではもう少し狭く見積もった方がよいだろう。
撮影協力:ワイドトレード/セコニック
※この記事はコマーシャル・フォト2014年9月号から転載しています。
茂手木秀行 Hideyuki Motegi
1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。
個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」
デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/
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