2014年07月02日
プロのフォトグラファーにとって永遠のテーマであるライティング。写真表現が広がりを見せるにつれ、その技法は複雑化する一方だ。そんな現状を打ち破るべく、フォトグラファーの茂手木秀行氏が、すぐに実践できるムービーを交えながらわかりやすく解説する。
目視で見た光とカメラを通して見た光は違うもの
昨今、ライティングについて尋ねられる機会が多くなってきた。プロを目指す方、既にプロである方にとってもライティングは永遠のテーマだ。写真の表現がレタッチやCGも含めたビジュアル表現として広がりを持ってきた現在、結果としてライティングが複雑化し、わかりにくくなってしまっている。
かつては街に溢れる広告写真1枚1枚を見て、その中に含まれるライティングを考え、それをトレースすることで学ぶこともできた。しかし、現代におけるビジュアル表現からはライティングだけを抜き出して感じ取ることは難しいだろう。一方、かつてフイルム時代では、秀作を見てライティングを模倣することができても撮影したのちフイルム現像を待たなければならなかった。それは効率の悪いことであったし、それを待つ間に忘れてしまうことがあるのだ。人間は意識によってものを見ているからだ。それゆえ、時間が経つとものを見ていた意識が変わってしまう。また、感材という視点から言っても人の目の特性とカメラの特性は違う。
リアルタイムで結果を見たい
かつて学生時代にまずライティングの基礎として学んだことは球体を1灯のライトで表現することだ。白い球体を4×5カメラで撮影し現像プリントし結果を見る。時間もかかる作業でその時間経過のなかで失われる意識があることに気づいた。そこで、当時出始めた8ミリビデオで同時に記録してみたのが私のライティング習得の始まりだ。ビデオで撮ることで、繰り返し学ぶことができるし、目視している映像とカメラの映像をリアルタイムに近く比較することができる。
これはまさに現代のデジタルカメラが得意とするものだ。デジタルカメラのムービー機能を使えば、リアルタイムでカメラの映像を確認できるし、繰り返して確認が可能だ。そこで私も基本に立ち返りつつ、一眼ムービーを使ってライティングを考えてみたいと思う。
カメラ以外に必要なもの
本稿は読者に情報を提供して終わるものではない。読者である皆さん自身が私とともに体験し、私が改めて学んだことや考えたことを共有して貰いたいと考えている。自分でも体験して欲しいのだ。カメラと三脚以外に必要なものは以下に示した。
まずは被写体となる白い球体。発泡スチロール製がおすすめだ。表面の発砲痕を表現すべきディテールとして扱えることと、価格が安いことがその理由だ。これに棒をさすなどして固定する。そして照明光源としてはLED懐中電灯を使う。LED懐中電灯は同じものでなくても構わないので3灯ほど準備してもらいたい。固定するためのクランプとライトスタンドもあるとよいだろう。そして忘れてはいけないのが露出計である。デジタルカメラでその場で露出を確認できるようになった昨今、使用頻度は減ってきたが能動的にライティングをするためには必須のものであることは、デジタルフォトでも変らないことなのだ。
セッティングの実際
セッティングといってもたいしたことはない。球体には1本、棒をさしておくとよい。それをさらにライトスタンドに固定し立てる。あとは被写体である球体にデジタルカメラを正対して三脚で固定し、動画を撮影する。LED懐中電灯は、今回は1灯のみの手持ちでも構わない。2灯、3灯と増やす場合はクランプとスタンドで設置しよう。
問題は撮影場所である。スタジオを使えるならそれにこしたことはない。私は夜に自宅の庭で行なった。ポイントはLED懐中電灯の照明以外の光の影響を受けないようにすることだ。室内で行なう場合は周りを黒ケント紙などで囲うとよい。夜の公園なども候補の一つだ。
セッティングができたら、録画を開始しライトの位置を次々と変えていく。その際の、フォルムとディテールの変化を見るのである。最新のデジタル一眼では、背面モニターの品質もよいのでPCで確認しなくてもその場で十分に光の違いを知ることができる。
球体に正対してカメラを三脚で設置する。夜の庭や公園など他の光の影響を受けにくく広い場所がよい。 まずはLED懐中電灯を手持ちで動かしてみよう。次にスタンドに設置し、モニターを見ながら確認していく。露出計の役割
環境光が強い場合、この例では、球体下側にも光が当たっている。最も普遍的に存在する環境である。この場合は受光球の中心をカメラに向けて測定する。
強いスポット光であれば、球体下側に光は回らないので、露光量に寄与しない。この場合は球体への光の当たり方と同じように受光球が光を受けるようにややライト側に向ける。
デジタル時代、写真を撮るうえで露出計は必須かというと全てにおいてではない。太陽光でそのままに写真を撮るなら不要である。
しかし、自らライティングを考え始めるとひとつのことに気づくはずだ。ライティングとはただ明るく照明することではない。ライティングにより、被写体の中に明度差や反射を作り、実体以上に自分の思うイメージに近づけていく作業である。そうした自分のイメージを能動的、かつ効率的に行なうには「測定」という行為がとても大事である。測定してデータをためることが常に安定したライティングとイメージの実現のヒントになるからだ。
入射光式露出計ではその場の露光量中心を測定する。よく言われるのは、18%グレーが18%グレーとして再現できることだ。中央値である18%グレーよりも反射率の高い被写体は白く写り、反射率が低い被写体は黒く写る。また機構として大事なのは受光球である。受光球は、立体物である被写体に当たる光の態様をシミュレーションするものだ。環境光が強い条件(レフをあてるなど)や2灯以上のライティングでは常にカメラに受光球中心を向けるが、1灯のスポット光でのライティングでは、被写体への光の当たり方と受光球への光の当たり方が同じような状態になるようにする。詳しくはムービーを参照して欲しい。
また、多くの露出計には平面受光板が付属するが、これは平面物の複写をする場合の露光量を決定する場合、2灯以上のライトの光量比を測定する場合、照度計として使用する場合に用いる。
SEKONIC L-478Dを使って露出を計る
動画を撮って比較する
今回はLED懐中電灯1灯でのライティングである。スポット光でのライティングであり、シャドウには環境光は回りにくい。動画撮影中にもライブビューで確認できるので、ライトの位置を様々に変えて撮影しておく。また後ほどムービーから静止画として切り出して比較すると、より理解が深まるだろう。
ここで注目するべきは、形とディテールの変化である。下に例を並べたが、最も球体として見えるのは①正面からの光である。しかしディテール感は弱い。ディテールの描写が明瞭であるのは②、③、⑤、⑧など球体から見て90度方向から当たる光である。これらの中で、バランス良く球体を表すとされるのは、⑦球体から見て45度側方、30度上方からの光である。形状も球に近く、ディテールも明瞭になるからだ。さらに球体として見えるためにはシャドウへの環境光の回り込みが必要である。
以上述べたことをまとめて。撮影・解説したのが上のムービーである。このムービーは見るだけでなく、ぜひ実践してご自分でも撮影してもらいたい。その際には静止画も撮っておくとよいだろう。またカメラのピクチャーコントロールなど階調補正機能も変えて比較して欲しい。様々な情報を得ることができるだろう。
補足:太陽光での撮影を実感する
ライティングとは、能動的に光の方向性や強さを作りだし、被写体の形やディテールを自分のイメージに沿って作り上げることである。これを前提とする場合、自然光つまり太陽光下での撮影では恣意的にいつでも光をコントロールできるわけではない。それゆえ、自然光の撮影では天候、季節、時間が大事なのである。それらはライティングという観点から言えば、ライトの方向と高さであり、拡散光かスポット光の違いになる。このことは常に意識してきたことだが改めてタイムラプス撮影をすることで太陽光の時間変化を追ってみた。撮影間隔は20分である。如何に変っていくか、そして撮影時間を選ぶことが即ちライティングであることを再確認してもらえれば幸いだ。
3月の晴れの日、朝7時30分から夕方4時10分まで、20分間隔で球体を照らす太陽光の変化を追った。
茂手木秀行 Hideyuki Motegi
1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。
個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」
デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/