一眼ムービーで学ぶスチルライティング

第5回 3灯で直方体をライティングする

解説:茂手木秀行

直方体のライティングは、それぞれの面ごとにライトの位置と光量を設定する。このライティングを覚えれば、多くの被写体に応用することができる。

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面ごとにライティングする

今回は直方体をライティングする。直方体は球体と違い明らかな面を持つので、面ごとにライトの位置と光量を設定する。製品の撮影を含め、多くの現実の被写体が面を持つものであることを考えれば、直方体のライティングは重要な学びである。直方体は立体物として6つの面を持つが、カメラから見た場合の面は最大3つなので、ライト3灯を基本とする。現実の撮影では1灯+レフ板、もしくは2灯+レフ板という場合もある。いずれにしても、メイン光源で表現される面と、その他の面として捉えるとわかりやすい。

カメラや時計など、より複雑な面を持つ被写体でもその基本は変わらない。もっとも見せたい、つまり表現したい面をメイン光源で照明すべき面として捉える。その後、カメラから見えている面ごとにライトを足してゆくという流れだ。しかし、被写体の明度による心理的要因も考慮する必要がある。均質な被写体において、明度の明るい部分は手前、もしくは上にあるものとして認識される。そうしたことも意識しておくとよい。

今回のセッティング

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2灯は直方体前方、カメラ両脇。カメラから見て左側がメイン光源であり、右側が補助光源である。さらに直方体上部の面を照明するため、直方体上方よりトップ光を設置している。全体の形を表現する意図で言えば、カメラから見て直方体を反時計回りに少し回転させて、左側面が見えている時、左の面の明度を調整するのがメイン光源、やや右に向いた正面の明度を調整するのが補助光、上面の明度を調整するのがトップ光の役割である。このように役割は明確であるが、これはあくまでも全体の形を表現する意図においてのものであり、面のディテールは考慮されていない。

セッティングを図示

img_tech_stilllight05_03.jpg カメラ目線から

img_tech_stilllight05_04.jpg 上方から

直方体をカメラから見て反時計方向に回転し、左側面が見えるように設置した。直方体を2次元で表現する場合、カメラから見えている面ごとに明度を変えればよいので、トップ光→①上面、メイン光→②左側面、補助光→③正面と対応していればよい。この時、明るい面は手前、もしくは天として認識されるので、明度の明るい順に①→②→③となればよい。

しかし、現実の被写体では面にディテールがある。素材による面の粗密ということになるが、面の粗密をディテール感として表現するのがライティングの役割でもある。このセッティングでカメラ画面内にもっとも大きな面積を占めるのは、③正面。そして、設置したライトの位置関係から、③の面に対して光軸がもっとも浅い角度で照射するのはメイン光源である。したがって、メイン光源の位置から③のディテールを表現することがもっとも適当である。

そこで現実のライティングでは、メイン光源が②左側面の明度を調整するだけではなく、③正面の物体表面のディテールを表現する役割も担うことになる。よってもっとも需要なのはメイン光の位置であり、②左側面の明度を適切に調整しつつ、③正面のディテールを最大に表現できる位置に置くことが重要である。

ムービーでチェック

直方体は平面受光板で

直方体は平面で構成されるため、ライトの光軸との反射角は、面と直交する軸に対して対称である。そのため、ライトによって投じられた光の全量がカメラに都合よく入るとは限らない。そこで工夫が必要となるが、経験的に直方体それぞれの面と平面受光板を平行に配置して計るとよい。

一方、照明比はあくまでも設置された照明の光量の比率であるので、平面受光板を光軸に直行させて計るべきである。しかし、実際の露光に近いのは物体に当たった光の状態であるので、直方体の場合、それぞれの面と平面受光板を配置して露光量を測定し、その比率を露光比として認識すべきである。

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SEKONIC L-478Dでは、受光球の周りのリングを時計回りに回転させると受光球が引き込まれ、平面受光板としての役割を果たす。今回はすべてこの状態で測定する。

設定された照明の明るさ、およびその比率を計る際は、平面受光板をライトの光軸と直交させる。照明の明るさ、照明比の測定は被写体の形態によらず同じである。

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露光量、露光比は物体が照明された結果であるので、受光球、あるいは平面受光板を用い、物体表面への光の当たり方をシミュレーションするものと考える。すなわち直方体ではそれぞれの面と平面受光板を平行させて露光量を計測する。それぞれの面ごとの露光量の比率が露光比となる。

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半逆光、トップ光など補助光位置による印象の変化

補助光1は正面側であり、メイン光源と1:4の光量比である。それに対して、直方体の背後に補助光源2をおき、位置を変化させた。ムービーを見直しながら直方体の印象を考えてみよう。

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今回の照明の配置ではトップ光が直方体上面よりも後ろに配置されているので、その反射光は物体表面で拡散されつつも、レンズへの直接入射も増えるため、入射光式の場合、計測した数値は小さめに出る傾向になる。結果その部分の露光はオーバーになりやすい。

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そこで、こうした場合は反射光式を用いて、実際にレンズへ入る光の量を測定するとよい。そのためにL-478Dには、ビューファインダーがオプションで用意されている。

L-478D用ビューファインダー5°

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カメラから見える面は三面であるので、3箇所の面で、平面受光板をそれぞれの面に合わせて測定する。動画中の最後の測定結果はISO100、1/60sの時、トップ面f4.5、左側面f2.8、正面f0.8となった。端数を切り上げて、f5.6、f2.8、f1と考えると、トップ面と左側面はおよそ2段の露光差、左側面と正面はおよそ3段の露光差になる。

つまり、露光比でまとめると、およそ32:8:1となる。一番暗い正面の露光から見れば、トップ面は約5段分明るいということだ。

トップ面が一番明るいため、自然な天地を感じることができ、次いで左側面が明るいので左側面が手前にある、つまり直方体を反時計回りに回転させた位置から見ていることが伝わるライティングになったと同時に、正面の質感もよく表現された。

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写真:茂手木秀行

茂手木秀行 Hideyuki Motegi

1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。

個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」

デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/

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