2015年04月06日
正確な露出を決めるのに露出計は欠かせないが、カメラや露出計などの機材は、機種やソフトウェアによって再現性が変わってくる。そんな時、露出プロファイルを用意しておくと効率よく撮影を行なうことができる。今回は、複写の撮影セットを組んで露出プロファイルを作る方法について解説する。
撮影協力:スタジオ クラシコ http://kyueisha.co.jp/studio/index.html
よりシビアな露出のために。
ワンショットごとの結果を見ることができるデジタルフォトでは、撮影しながら露出を決めていくことができるため、それはメリットである。しかし、デイライトなど1灯のライティングであれば何も問題はないが、スタジオライティングなど多灯でのライティングの場合、感覚的な作業となってしまい定量化しにくい。それゆえ、入射光式露出計を使い、多灯で合成された光量を測定するほうが効率がよい。
しかし、その際カメラのセンサーと露出計のセンサーの特性が合っていないと正しい露出値にならず、本末転倒である。現実的には全く露出が合わないといったシビアな状況にはならないが、1度の測定で露出が決まるほうが効率のよい撮影となる。
SEKONIC Data Transfer Softwareを使う
オプションの露出プロファイルターゲットⅡを使う。
Data Transfer Softwareで露出プロファイルを作成し、L-478Dに転送する。
転送した露出プロファイルをメニューから選択する。
デジタルカメラのセンサーの特性と露出計の特性を合わせるためには、SEKONIC Data Transfer Softwareを使って、露出プロファイルを作成し、L-478Dなど露出プロファイルに対応する露出計に転送すればよい。
デジタルカメラのダイナミックレンジはセンサーの能力によって決定されるがピクチャーコントロールなど、その絵作りにおいてダイナミックレンジのすべてを使っているわけではない。また、RAWデータの場合は現像するソフトウェアによっても違ってくる。それゆえ、ソフトウェアも含めて日常的に用いているワークフローで露出プロファイルを作成するとよいのだ。
例として、RAWで撮影しPhotoshop Camera RAW プラグインで現像する場合の手順を記す。
1)露出プロファイルターゲットⅡを均一に照明する。
2)露出計で測定する。
3)測定値をカメラに設定する。
4)RAWデータで撮影する。撮影は測定値、測定値−3段、測定値+3段の計3枚。
5)撮影したRAWデータをCamera RAW プラグインで現像する。この時、補正はしない。
6)カラースペースは日常的に使っているもの。JPGに現像。
7)Data Trasfer Softwareに現像したJPGデータを読み込む。
8)露出プロファイルを作成したら、露出計に転送する。
9)グレーカード(露出プロファイルターゲットⅡの裏)を均一に照明する。
10)露出計に露出プロファイルを設定して露出を測る。
11)カメラに測定値を設定し、RAWデータで撮影。
12)RAWデータをCamera RAW プラグインで表示し、正しい露光結果であることを確認する。
複写の基本
露出プロファイルを作成するためには、まず露出プロファイルターゲットⅡを均一に照明して撮影しなければならない。それはすなわち、複写である。複写は一見、単純でルーチンな撮影と思われがちだが、撮影及びライティングの基本だ。この際、基本に立ち返って撮影セットを作ってみよう。
露出プロファイルターゲットⅡは床置きでも、壁面貼りでもよい。歪まないようにセンサー面と平行にする。床置きの場合、露出プロファイルターゲットⅡが水平に置かれているならば、カメラの背面に水準器を当てて水平を出す。
壁面貼りの場合は、鏡を使うとよい。鏡を露出プロファイルターゲットⅡと同一平面に貼り、鏡の中のレンズ中心とファインダー視野中心を合わせる。すると、レンズ光軸と、鏡に反射したレンズ光軸が直線で結ばれることになるので、レンズ光軸と直交するセンサー面と鏡の中のレンズ光軸に直交する露出プロファイルターゲットⅡの平面は平行になる。実際の作業はムービーで確認してほしい。この方法は複雑そうに見えるが、実は水準器で調整をするよりも早く効率的だ。オートコリメーションの応用である。
次にライティングであるが、露出プロファイルターゲットⅡ中心から見て、45°方向左右にライトを設置することが基本である。片側1灯でも、露出差が少なくなるよう十分距離を離して設置する。露出の測定は最低でも中心と四隅の5箇所を測定する。それぞれが、1/10絞り以内になるようにライト位置を調整する。通常は2灯で十分であるが、より均一な照明を望む場合は片側2灯ずつ、計4灯でライティングすると、楽に均一な照明を得やすい。
ライトの配光特性を考慮する
基本で掲げたライト位置は、ターゲット平面から45°方向であるが、これは配光特性が正円であり十分に距離が取れる場合である。直管型の蛍光灯であれば、そうした特性は得やすいが、多くの場合は光源後方にリフレクターを持ったライトである。ゆえにほとんどの場合、配光特性は楕円であると考えるべきである。同じ明るさになる点を結んだ楕円を左図のように意識するとよい。
タングステンライトにしても、スタジオ用のストロボヘッドにしても、同じようなイメージだ。さらにこれらにソフトボックスをつけた場合や、蛍光灯を並べた形式のボックス型ライトでも、面光源としての柔らかさは出るものの、配光特性としては、やはり楕円である。
配光特性が楕円である場合、基本通り忠実に45°でライトを設置したのが左図だ。楕円とターゲット平面の重なり方を見れば明らかであるが、平面の手前側と奥側では露出差が大きくなることが見てとれる。これで左右から照明した場合、左右それぞれのライトから遠い面は反対側のライトの光量が支配的になり、テクスチャーを持つ被写体では左右からの影を意識させやすくしてしまう。
次に、右図のように、ライト光軸をターゲットの遠い側の端に向けると、楕円とターゲット平面の重なりが穏やかになることがわかる。これを左右で設置すると、露出を平均化させやすいだけではなく、左右からの影を意識させにくい。ソフトボックスなど面光源では、より遠いところに光軸を向けるとよい。基本を意識しつつ、現実の機材の特性を反映させるように考えるべきである。
周辺光量落ちを回避する
レンズには必ず周辺光量落ちがあるが、露出プロファイルを作る上では回避するべきものである。周辺光量落ちした中に、ターゲットのコマが入ってしまっては正確な露出プロファイルにならないからだ。
また、この場合の周辺光量落ちは光学的に回避するべきであって、ソフトウェアでの補正をしてはならない。具体的には、絞りをf8〜f11にし、露出プロファイルターゲットⅡは画面中心に小さく配置すればよい。さらに、カメラのメニューにある「周辺光量補正」はオフにしておく。RAWデータであれば反映されないが、JPG撮影で露出プロファイルを作成する場合は必須である。
絞り値をf8〜f11とすれば、ほとんどのレンズで周辺光量落ちを無視できる。さらに画面中心部のみを使うことで、万全をきたす。左画像で、周辺が暗くなっているのは、ライティングによるものである。適正露光とは
露出プロファイルターゲットⅡ裏面は、グレーカードになっている。これは標準反射板と呼ばれ18%の反射率を持っている。自然界にある様々な物体の反射率から導き出された、平均的な被写体の反射率とされている。これを均質な光源で照明した時、使用した感光材料(フイルム)の最小濃度と最大濃度の中間の濃度になる露出値が適正露光である。
このことをデジタルのカラースペースに置き換えると、sRGBの時、RGB値はそれぞれ118となる。つまり、プロファイルを作成したらグレーカードを撮影し、グレーバランスを補正した時にRGB値が118に近似であれば、適正な露出プロファイルを作成できたことになる。
作成した露出プロファイルをL478-Dに設定し、測定した露出値で撮影したRAWデータをCamera RAW プラグインで表示。カラーサンプラーでRGBを表示し、RGB値が118になるよう補正した。結果は+0.08段であり、誤差範囲としても小さな差であり、適正なプロファイルが作成されたことが証明できた。
露出プロファイル ターゲット撮影
Data Transfer Software
茂手木秀行 Hideyuki Motegi
1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。
個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」
デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/