印刷の品質を支えるプリプレスの現場から

第8回 モノクロの印刷と校正はカラーより難しい

解説:小島勉

今回はトッパングループの「画像工房」を取り上げる予定でしたが、予定を変更して少々モノクロ作品の印刷と校正に触れておきたいと思います。というのも、2月下旬に横浜で行なわれた「Hello! Monochrome II」というモノクロ作品展に参加する機会があり、私自身はインクジェットによるモノクロプリントを担当したのですが、その折にカラーとモノクロの違いについていろいろと思うところがあったからです。

これまで繰り返し述べてきたように、現在、カラー作品の校正手段としては平台校正や本機校正、DDCP、レーザープリンタ、インクジェットプリンタなど、目的に応じて使い分けるようになっています。平台校正機が減少しつつある状況のなかで、カラー作品に関しては今後もますますデジタル型の校正機の普及に拍車がかかるでしょう。

しかしことモノクロ作品となると、実は現在でも、平台校正機や本機校正が主力として活躍しているのです。印刷におけるモノクロは、1色(スミ版)、2色、3色、4色モノクロなど、通常のカラーインキや、グレーなどの特色インキを組み合わせながら、目指す表現を設計します。それゆえ校正に関しては、カラーの場合と同じようにはいかないのです。

ご存知の通りインクジェットプリンタは、RGBの数値がすべて同じ値(すなわち無彩色)であれば、きれいなモノクロが表現できるようになりました。これは新たにグレーインクを搭載したり、ドライバソフト内のルックアップテーブルを高精度に作り上げるなど、各プリンタメーカーの努力の賜物です。なかでもエプソンのプリンタはいち早く、ブラック系3色(ブラック、グレー、ライトグレー)を持つ「PX-P/K3」インクを搭載することにより、ハイライトからシャドウまで色転びのない、きれいなモノトーンを表現することが可能になりました。これがインクジェットプリントにおけるモノクロ作品の可能性の広がりに貢献したことは言うまでもありません。


図1:RGBでのモノクロ

では印刷ではどうでしょうか? 印刷はご承知のとおり基本的にCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック=スミ)という4色に分解された版で構成しなければなりません。RGBデータのように、すべての版(色)が同じ数値(%)の時にきれいなモノトーンが表現できればよいのですが、印刷では少し事情が違います。

まず1色~3色でモノクロを作る場合は、カラーインキを用いることなく、グレー系の特色インキなどを用いることになります。1色ではスミのみ、2色(ダブルトーン)は通常スミとグレー、3色(トリプルトーン)はスミ・グレー・シメ(特色)といった具合です。これをDDCPで作ることはできません。ゆえにこのようなモノクロの校正を考えた場合、平台・本機など従来の校正方法でなければできないのです。


図2:CMYKでのモノクロ<1色〜3色>

そして4色モノクロの場合、インキとしては通常のカラーインキを使いますが、版の作り方が独特です。いわゆるスミ主体のモノクロと言われるものですが、スミ1色ではボリューム感が足りない、かといって特色は使えないといった場合に、通常のカラーインキを用いながらモノクロを表現することになります。図をご覧ください。例えばディープシャドウ(印刷では最シャドウと言うこともあります)では、スミ版が96%ですが、他の3色(CMY)は、それぞれハーフトーン以下くらいになっています。さらにCが一番強く、次いでM、Yの順に数%ずつ差がついています。これが印刷における4色で表現するモノクロです。4つの色を同じにするのではなく、各色それぞれ差をつけながら実に微妙な組み合わせで版を作らなければなりません。


図3:CMYKでのモノクロ<4色>

ですからモノクロ制作における印刷というのは、実は「刷ってみなければわからない」という現状があります。独特な版の作り方になりますので、DDCPやインクジェットなどで、その仕上がりを正確にシミュレーションすることが難しいのです。そもそも印刷とDDCPやインクジェットでは、インク(インキ)の色が違いますので、校正の段階でこれらを用いるのは逆効果になってしまうと言ってよいと思います。校正とは印刷の仕上がりを想定するものですから、表色系が合っていることが前提になりますが、モノクロはこれが当てはまりません。ここに印刷におけるモノクロの難しさがあります。

今回はモニターや、カラーマネジメントの話からちょっと脱線してしまいましたが、このように最新の機器や技術をもってしても解決できない問題がまだまだあるのが印刷の世界です。だからこそ印刷は面白いし、奥が深いのだと思います。今後さらにデジタル技術が進化して、モノクロもカラーも同じくフルデジタルのワークフローとなっていくのか、それとも10年後もアナログの技術が生き残っていくのか、興味は尽きないところです。

写真:小島勉

小島勉 Tsutomu Kojima

株式会社トッパングラフィックコミュニケーションズ所属。インクジェットによるアートプリント制作(プリマグラフィ)のチーフディレクター。1987年、旧・株式会社トッパンプロセスGA部入社。サイテックス社の画像処理システムを使った商業印刷物をメインとしたレタッチに従事。1998年よりインクジェットによるアート製作(プリマグラフィ)を担当し現在に至る。イラスト、写真、CGなど、様々なジャンルのアート表現に携わっている。

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