印刷の品質を支えるプリプレスの現場から

最終回 撮影から色校正までのワークフロー〈色校正篇〉

解説:小島勉

さあ、いよいよこの連載も最終回です。前回予告したように、茂手木秀行さんとのコラボレーションで印刷物制作のワークフローを再現します。撮影・画像加工篇に関しては、茂手木さんの連載第10回をお読みください。

私はいま、茂手木さんからインターネットのストレージサーバ経由で、入稿用の画像と、モニタープロファイル(CG241W)を受け取ったところです。茂手木さんが契約しているActiveAssetsという専用サーバからダウンロードしています。ここから、どのようにDDCPで印刷シミュレーションをするか説明します。


受け取ったモニタープロファイル(左)と画像

データの受け渡しに使用したActiveAssets

まず、送られて来たのはRGBデータです。デジタル入稿が始まったころ、印刷会社の間では「フォトグラファー側でCMYK変換したものを入稿すべき」といった考え方が支配的でしたが、現在ではほぼRGB入稿で統一されていると思います。

RGBワークフローで大事なのは、皆さんご存じのとおり、ドキュメントプロファイルを埋め込むことですね。埋め込みがされていないと、印刷側では何のプロファイルで撮影・調整されたかわかりません。別のプロファイルで画像を開くと色が変わってしまうので、以降すべての色がくるってしまいます。注意しましょう。もしも「埋め込み忘れた!」という場合は、「何のプロファイルを使ったか」を教えてもらえれば、Photoshopで開く際にそのプロファイルを当てることができるので大丈夫です。茂手木さんから送られたデータは、Adobe RGBのプロファイルが埋め込まれていました。

さて、今回の入稿はインターネットを介した入稿でした。当然ながら物理的な色見本は付いていません。通常は色見本を付けてもらうのがよいとは思いますが、茂手木さんと私はお互いColorEdgeを使用していますので、両方とも同じ条件にしたがってキャリブレーションできていれば、色見本は不要になってしまいます。これができるのもColorEdgeがきちんと正確に表示してくれるからに他なりません。

まず茂手木さんのモニターを、こちらのモニターでエミュレーションしてみましょう。今回茂手木さんが使用したCG241Wは、Adobe RGBカバー率96%のモニターですね。私の環境ではCG241WとCG221のデュアル接続になっていますので、より色域の広いCG221のほうでエミュレーションしてみました。

エミュレーションの手順


① ColorNavigator 5 の「調整目標の新規作成」ダイアログで、色再現域のプルダウンメニューから「モニタープロファイルを読み込む」を選択

② モニタープロファイルを選ぶ


③ モニタープロファイルを読み込むと、そのプロファイルの白色点、赤、青、緑のx,y座標などが表示される


④ エミュレーションした状態で画像を開く

⑤ 右側が茂手木氏のモニターをエミュレーションしているCG221の画面。左側はCG241W

この時点で茂手木さんが求める色について目安がつきますが、試しにPhotoshopからインクジェットプリンター(EPSON PX-5800)で色見本を出力してみます。用紙はエプソン純正のクリスピアを使いました。色見本を出力する場合は、「Photoshopによるカラー管理」を行ない、適切なプリンタプロファイル(用紙プロファイル)を選んで、出力しなければなりません。色見本は本来、「印刷してほしい色を伝える」ものとなります。作品制作であれば、プリンタドライバソフトのほうがプリンタの性能をフルに引き出せますが、今回はあくまで色見本なので、プリンタドライバでの色管理は行ないません。このようにインクジェットでも作品制作、色見本など、最終ターゲットによる使い分けが必要になりますので、出力時のカラーマネジメントの仕組みを理解しておくのがポイントです。


今回の色見本出力では、プロファイルは「ドキュメント」を選び(この場合はAdobe RGB)、カラー処理は「Photoshopによるカラー管理」、プリンタプロファイルは「PX5800 Photo Crispia」を選んでいる

前述したように、今回のケースではColorEdgeのエミュレーション機能を使っていますので、プリントされた色見本がなくても色について誤解は生じません。今後はこのような形がスタンダードになっていくと思いますが、現状では色見本を添付するのが良いでしょう。実際の仕事においては印刷会社側と十分に打ち合わせましょう。

次に、これをCMYKに変換します。変換の仕方はいろいろありますが、今回は一番分かりやすい方法としてPhotoshopで変換します。CMYKのプロファイルは「Japan Color 2001 Coated」です。

CMYKに変換されたそのままのデータをDDCPで出力しました。DDCPはコニカミノルタのカラーデシジョンⅡ(本紙タイプ)と専用紙タイプのデジタルコンセンサスプレミアム(専用紙タイプ)を使用しました。ひとまずはプロファイルに従ってそのまま変換したデータを出力していますが、RGBデータから試し出力した色見本プリント(PX-5800、クリスピア)に対して、左の黄色、右側のオレンジ系は変換により色域が狭まっているのがわかるでしょうか?


Photoshopのイメージ>モード>CMYKカラーを選択してCMYK変換を行なう

上段:RGBのまま出力したインクジェットの色見本、下段:CMYKに変換してから出力したDDCP(左:デジタルコンセンサスプレミアム、右:カラーデシジョンII)

RGBの状態でモニターに表示されたものがフォトグラファー(クライアント)が欲しい色と解釈できますので、この後、何らかの形で色を追い込むという作業が必要になります。色味を追求することもそうですが、今回のような時計の場合、文字盤のスミ版に注意しなければならないと思います。CMYK変換後の調整は各印刷会社のノウハウに大きく関わる部分です。CMYK変換により狭まった色域をどのように調整して、フォトグラファーの望む色に仕上げていくかがプリプレス側の腕の見せ所です。


CMYK変換後のスミ版だけを表示しているところ。
印刷ではスミ版の作り方が最終品質を左右する

最終的に比較してみましょう。モニター(茂手木氏のエミュレーション)、インクジェット、カラーデシジョンⅡとデジタルコンセンサスプレミアムです。ここで重要なのは色の誤解が生じていない、近似したレベルにあるということです。本来、カラーマネジメントは色を完全に一致させることではなく、比較となる最低2つの成果物を「出来るだけ近似させる」ということにあります。各出力デバイスの再現方法が異なるもの同士では、色彩学的に考えても完全一致はあり得ません。しかし、これをできる限り近似させるための仕組みと規約(ICCプロファイル)を作ることによって可能になるのです。この仕組みと規約に則れば、世界中、誰とでも「近似した色」を手に入れることができるということになりますね。カラーマネジメントの一番重要なところであることを理解しておいてください。 


上段:フォトグラファーのモニターをエミュレーションしたCG221、中段:色見本プリント、
下段左:デジタルコンセンサスプレミアム、下段右;カラーデシジョン II

さて、これまで10回にわたりプリプレスの現場に関する連載をしてきましたが、いかがでしたでしょうか? これまで述べてきた通り、決してカラーマッチングは難しくありません。きちんとしたツールと環境を整えることで仕事が驚くほどスムースになるのです。では、長きにわたりこの連載を読んでいただきまして、本当にありがとうございました。

写真:小島勉

小島勉 Tsutomu Kojima

株式会社トッパングラフィックコミュニケーションズ所属。インクジェットによるアートプリント制作(プリマグラフィ)のチーフディレクター。1987年、旧・株式会社トッパンプロセスGA部入社。サイテックス社の画像処理システムを使った商業印刷物をメインとしたレタッチに従事。1998年よりインクジェットによるアート製作(プリマグラフィ)を担当し現在に至る。イラスト、写真、CGなど、様々なジャンルのアート表現に携わっている。

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