iPad Proをクリエイティブワークで使いこなす

iPad Pro(2018)は写真家の必需品である。

解説:荒木則行

iPad Pro(2018)のラインナップには1TBの大容量モデルが追加され、Proの名にふさわしいデバイスへと進化した。今回はフォトグラファーの立場から見たiPad Pro 12.9インチというテーマで、写真家の荒木則行氏による実践的なレビューをお届けする。

我がiPad遍歴 〜第1世代から新型iPad Proまで〜

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iPad Pro(2018)

思い返すと2010年春に最初のiPad が発表されたわけだが、自分はその直後からiPad シリーズを使用してきた。第1世代iPad(2010)、第3世代iPad(2012)、初代iPad Pro(2015)、そしてついに最新のiPad Pro(2018)というのが自分のiPad遍歴。

筆者は広島市に自宅とオフィスを構え、中四国地方など西日本を中心に風景写真の撮影を行っており、ロケに出かけることが多い生活を送っている。最近iPad Proを買い換えてロケに持参しているのだが、撮影から納品までのワークスタイルが大きく変わったと実感している。具体的にどこがどういう風に変わったのかという本題に入る前に、自分がこれまでiPadとどのように付き合ってきたのかを紹介したい。

最初の頃のiPadの使い方はと言うと、PDFにエクスポートした撮影地情報や、蔵書を自炊したPDFの電子書籍を見るというのが大半で、そのほかは気分転換用にiTunes Storeで購入・レンタルした動画などを入れていたぐらい。

撮影そのものにiPadを活用することはあまりなく、RAWデータと同時に撮影していたJPEGデータをEye-Fi経由で少し参照する程度で、iPadが第1世代から第3世代になっても、自分の撮影スタイルにそれほど大きな変化はなかった。撮影の合間の時間がある時に、ブラウズ用デバイスとして活用することに終始していたからだ。

その流れが変わったのは、初代iPad Proが販売されてからだ。旧来のiPadよりも大きなスクリーンでブラウズできるだけでなく、写真関連の作業をすることも可能なほどのパワーを持っていたからだ。ちょうどiPad Proが販売される直前にキヤノンEOS 5Ds Rを導入していたので、その画像データをiPad Proに読み込ませようと考えた。

ところが、この5Ds RのRAWデータは1枚あたり60メガバイトほどもある巨大なもので、iPad Proの「写真」アプリに、Lightningケーブルのカードリーダーで読み込ませるのにもかなりの時間がかかった。また、自分の購入した初代iPad Proは最大128GBのストレージ容量しかなかったので、5Ds RのRAWデータをバックアップしたり現像したりというのは、ストレージ容量の面からもほぼ不可能であった。半年も経たない翌年には256GBモデルが素知らぬ顔で登場したが、すでに時遅しである。

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筆者所有のiPad Pro(2018)とキヤノンEOS 5Ds R


プレゼンに有効な初代iPad Pro、しかしストレージ容量に難あり

このような経緯でiPad ProへのRAWデータ読み込みは断念せざるを得なかったのだが、ちょうどその頃、Adobe LightroomがiPad Proに対応するようになったのは僥倖であった。

なぜなら筆者は、デスクトップマシンではAdobe LightroomをRAW現像アプリとして使用しており、Lightroomのモバイルアプリ(※)をiPad Proにインストールすることによって、フルスペックではないけれどRAW現像をしたり、デスクトップのLightroomライブラリーと同期することが可能になったからだ。(※ 2015年当時のアプリはLightroom Mobile、現在はLightroom CC)

Lightroomデスクトップ版で作成したアルバムをAdobe Creative Cloud経由で同期し、スマートプレビューにてiPad Proでブラウズというワークフローは、まさに画期的であった。

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iPad版Lightroom CCの画面

それまではプレゼンや打ち合わせ用に写真を選んで、時間とインクをたっぷりかけてA4サイズの写真用紙へプリントアウト。広島から東京に遠征する際には、荷物の中に重さタップリの写真資料を数パターン持参していた。

そんなことを日常的に行っていた立場からすると、デスクトップとiPad ProのLightroomを同期するだけで、A4サイズと同じほぼ12.9インチのディスプレイで写真をプレゼンできるというのは、かなり革新的なことであった。さらに、iPad Pro本体からコネクターを介してHDMIケーブルで出力し、ハイビジョンクラスの大画面モニターに写真を表示できるというのは、今までにない写真の魅せ方であった。

このようにプレゼンには有効な初代iPad Proだったが、それだけに、前述したストレージ容量の乏しさは残念でならない。もう少しだけこの問題について触れておきたい。

iPadにカードリーダー経由で写真データを読み込ませるには、いったんiPad内の「写真」アプリに読み込ませる必要がある。しかし、Lightroom CCは「写真」アプリ内のデータを参照ファイルとはできないので、「写真」アプリから再びデータを読み込せなければならない。つまり、二重のストレージ容量を必要としてしまうので、ますますストレージ容量が問題となってくるのだ(ちなみに、このあたりの不便さは新型iPad Proでも変わっていない)。

筆者はこの問題を解決するため、EOS 5Ds RのSDカードにEye-Fiを使用して、無線LAN経由でiPad ProにJPEGサムネイルデータを飛ばしてお茶を濁すという方法で数年間を過ごしてきた。せっかくここまで美しいディスプレイと高速なプロセッサを備えていながらも、写真家の仕事を深くフォローするという点では、ストレージ容量の乏しさはボトルネック以外の何物でもなかった。

初代iPad Proを3年ほど使っていて痛感したのは「次にiPad Proを買うのであれば、最低でも512GB、もしくは1TBのストレージ容量が必要なり!」という確信にも似た答えであった。


新型iPad Proだけで写真家の仕事の約8割ができるようになった

新型iPad Proの噂は、昨年夏頃から聞こえてくるようになっていた。「次に買うならデッカいストレージ容量!! 絶対にデッカいストレージ容量!!」と心の中で念じていたが、実際に1TBモデルが販売されたのには驚いた。これだけのストレージ容量があれば現場でのバックアップにも十分であるし、またiOS版Lightroom CCにRAWデータを重複して読み込ませてもまだまだゆとりがある。

実際に購入してみると以前よりも格段にパワフル。そして初代iPad Proよりもボディ全体を小さくしながらも12.9インチのスクリーンは死守し、輝度600ニトもあるLiquid Retinaディスプレイは見ていても本当に美しい。今回からLightningコネクタではなくUSB Type-Cを搭載したことで、USB Type-C搭載のカメラであれば、ケーブルのみで撮影データを転送できるようにもなったし、また以前から使用していたUSB 3.0対応のカードリーダーなど各種アクセサリー類も変換アダプタを利用すればほぼつながるようになった。

撮影と現像、そして納品までという写真家のワークフロー全体を100%という数値で表すとすれば、自分の実感として、第1世代のiPadで作業できたのは25%ほど、初代iPad Proでは55%、そして今回のiPad Proでは75~80%ぐらいはiPadだけで作業できるようになったと感じている。

自然や風景の写真を撮影していると、「撮影直後にRAWデータを素早く現像し、そのデータをどのように早く納品できるか?!」という問題が時々発生する。

今から10年ほど前、EOS-1Ds Mark IIを使用して撮影していた頃であれば、MacBook Pro 17インチを現場に持ち込んで素早くRAW現像し(その頃のRAW現像アプリは今はなきAppleのApertureであった)、付近のネットに接続できる場所からサーバーにアップロードするという方法か、納品点数が多い場合だとその場でCDに焼き込んで付近の宅配業者から発送するという荒技のような方法。

これらの方法は撮影から納品まで段差の多いワークスタイルであったし、撮影機材以外に3kg近いMacBook Proをロケ地まで、時には新緑の山毛欅林(ぶなばやし)の中で、朝方には付近でツキノワグマが目撃されていたような場所にまで運ぶというのは、かなり大変な作業であった。

しかしiPad Pro(2018)を手にした今では、こうした過去のワークスタイルは隔世の感があると感じてしまう。12.9インチの新型iPad Proの重量はわずか630g程度だし、ストレージの容量が増えたことでRAW現像もその場で可能だし、携帯電話の電波が届く範囲ならどこからでも納品ができる。

もちろんMacBook Proの方がより多くの作業ができるのだが、写真を撮影するという行為とその後にパソコンで行う作業とではかなり思考方法が違うので、頭の切り替えがうまくいかず、パソコンはどうしてもとっつきにくい感じがつきまとう。しかし、直観的UI(ユーザーインターフェース)のiPadなら、カメラから持ち替えても違和感を感じることはない。


iPad Pro プラス Lightroom CCというワークスタイル

以前にはAppleのApertureを使用していた自分が、Lightroomに乗り換えるのは正直抵抗があった。今では現像結果も素晴らしくなっているが、初期のLightroomは力不足で、現在も時々使用しているCapture Oneなどと比べるとその感は否めなかった。

けれど2017年末に、人工知能および機械学習を統合した「Adobe Sensei」のテクノロジーがLightroomに導入されたあたりで、自分のワークスタイルが変化してきた。クラウドに同期してある数万枚のスマートプレビューに対して、キーワード検索や位置情報検索ができるようになったのだ。

筆者はキヤノン純正のGPSユニット「GP-E2」を2012年の販売開始以来ずっと使用しており、位置情報のメタデータを撮影と同時に画像へ埋め込んでいる。デスクトップ版Lightroomだと、このメタデータから国・県・市町村名などを自動的に求める「逆ジオコーディング」が可能となっているが、そのメタデータをiPadやiPhoneなどのiOS版Lightroom CCからでも検索可能になったのだ。しかも位置情報だけでなく、様々なキーワードで画像を検索できるようになったのには驚いた。

どうやらAdobe Senseiが、クラウド上にアップしてあるスマートプレビューの画像を自動解析しているらしく、手動でキーワードやタグをふっているわけでもないのに、Lightroom CCの検索バーで「海」「山」「草原」「冬」「雪」「犬」「猫」などの一般名詞を入力すると、かなり正確な検索結果を返してくる。「阿蘇山」などの固有名詞で検索しても同様だ。

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Lightroom CCで「広島県」で検索した結果。地名やキーワードで検索ができる

先日も「草原」というテーマで雑誌編集部に写真を提案しなければならないこととなったが、購入まもない新型iPad Proで新規アルバムを作成して、アップロードしてあるスマートプレビューから「草原」で検索。その検索結果から新規アルバムに入れる写真を選ぶ。さらに、草原の取材に行った「山口県」や「福岡県」「熊本県」などの地名を入力して再度検索。それらの中から「草原」に適した写真をアルバムに加えていく。

こうして出来上がったアルバムをWebで公開して、そのリンクを担当編集者に伝えれば、オフィスにいなくても写真をプレゼンテーションできる。実際、このアルバムを作成する時、自分は雪の撮影のために数日間山籠りしていたのだが、4Gクラスの携帯電話回線とiPad Proがあれば、このような作業も行えてしまうのかと不思議な気持ちになった。

それから30分と経たないうちに星空の撮影に出かけたのだが、氷点下の中で結氷した湖面と星空を撮影し、そのオリジナルのRAWデータをiPad ProのLightroom CCに読み込ませると、イメージ通りに撮影できたかを即座に確認することができた。そしてFacebookやTwitterにも、数分と置かずしてそれらの写真を投稿。

iPad Pro(2018)は写真家の必需品である、と強く感じた出来事であった。


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湖面にて

以前、知人とカヌーに乗りながら撮影をしていて「ここで撮影した写真をすぐにクライアントに渡すとしたら、カヌーにMacBook Proを積み込まないといけないね。もしその時に転覆したら、カメラ機材と合わせて数百万円が湖底に沈んじゃうわけだね…」と話をしていたが、今ならばiPad Proとカメラ機材のみをカヌーに積み込めばよいわけである。被害は少なくてすむカナ(!? !?)。


写真:荒木則行

荒木則行 Noriyuki Araki

写真家、東京工芸大学卒。在学中より雑誌等でカメラマンを務める。卒業後、アシスタントを経てフリーランス。キヤノンフォトコレクション作品収蔵。2006年度日本写真協会新人賞・ノミネート。現在は名所旧跡や自然風景撮影からドローン撮影まで精力的に活動中。
http://photoaraki.com

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