2007年07月22日
写真というのは、立体的な被写体をいかに平面の上に置き換えるかという表現ですから、被写体の影をどうするかが重要になります。私が撮る写真はコントラストがあってメリハリのあるものが多いのですが、その逆に柔らかい写真が好きな人もいるでしょう。どのようなイメージに仕上げるかに関わらず、きれいな写真を作るためのポイントというのは決まっていて、それを押さえる必要があります。まず「階調」、そして「色彩」です。
デジタルでの階調再現は、8bit 256階調が基本です。人間の目で見て、階調が不連続にならない、滑らかなグラデーションを再現するのに充分な数値と言われています。階調が破綻した症状としてトーンジャンプ、白トビ、黒ツブレなどがありますが、こういったことに気をつけて、きれいな階調を保つ必要があります。
色彩について言うと、実は、豊富な階調と鮮やかな色調は相反するものです。撮影後にPhotoshop等で鮮やかな色彩を追求すると、階調は確実に崩れます。後で加工すればするほど階調は悪くなっていきますから、撮影時にしっかりとハイライトからシャドーまでの階調のバランスをとって撮影することが大事になってくるわけです。
空の部分にトーンジャンプを起こしている画像
たとえば空が写っている画像で、空の部分に細い筋のようなものが見えることがあります。これがトーンジャンプです。私の経験上これには二つの対処方法があって、一つはRAWで撮影すること、もう一つは現像や画像処理の時に16bitモードを選ぶことです。
カメラのCCDやCMOSから出力される電気信号はアナログなので、これをカメラの内部でデジタルに変換するわけですが、変換後のデータをそのまま保存したものがRAWデータと呼ばれています。RAWデータのbit数はカメラによって違いますが、最近の一眼レフでは12bitもしくは14bit、中判デジタルでは16bitのものまであり、いずれの場合でもJPEGより階調は豊かです。
階調が破綻しやすい場合はRAWデータで撮影し、それを現像ソフトで16bitのTIFFファイルとして保存し、Photoshopの16bitモードで編集するという流れになります。
撮影の時は、適正露出で撮ることが大事です。できるだけヒストグラムを見るように心がけてください。ここでのポイントは、ハイライトとシャドーがレンジ内に収まっているかどうかです。
被写体のダイナミックレンジに対してカメラのダイナミックレンジは狭いので、明るすぎたり暗すぎたりして階調が消えてしまう部分があります。屋外で撮った写真では必ずどこかにそういう部分が出てきますが、「この部分だったら、この程度だったら飛んでも構わない。つぶれても構わない」という割り切りをすることが大事です。室内の場合は、軟調なライティングをすることで、レンジ内に収めることができます。
露出アンダーではシャドーがつぶれているが、ローキーではつぶれてない
露出アンダーやオーバーの場合、レンジからはみ出たシャドーやハイライトの階調は消えてなくなります。ここに露出アンダーとローキーの写真を並べてみました。どちらも同じように見えるかもしれませんが、ローキーのヒストグラムでは、山は左に寄っているけれども張り付いていません。それに対して露出アンダーのヒストグラムは、山が左端に張り付いています。つまりシャドーがつぶれて、そこから先は階調がないということです。ですから、露出アンダーやオーバーの画像は、後でPhotoshopでなんとかしようと思っても、どうにもならないんですね。
これに対してローキー、ハイキーは表現の一手法です。撮影時には作り出せないので、後で作るしかないのですが、そのためにはニュートラルに撮っておくことが大事です。ネガフィルムで撮っていた頃はオーバーでもアンダーでもない、プリントのしやすいネガを上げることが基本でしたが、ポジフィルムになってからは、なぜかイメージ通りオーバー目にしたり、アンダー目にするようになりました。デジタルになった今あらめて思うのですが、撮影時はできるだけ素直に撮り、イメージ作りは後で行なうのが、美しい写真を仕上げるコツです。
富士フイルムのFinePix S5 Proというカメラを使い、テストしてみました。ダイナミックレンジが広いので、ハイライトが飛びにくく、シャドーがつぶれにくいという特徴があります。このカメラだけの機能として「ダイナミックレンジ設定」があります。100%のほかに、130%、170%、230%、300%、400%、AUTOがあって、400%だと絞り値で約2絞り、レンジが広がります。RAWで撮れば、この400%の中で処理できるわけです。
実際に画像を見てみましょう。左がRAWデータ400%で撮ったもの、右が100%です。ハイライトの部分を見ていただくと一目瞭然だと思いますが、これだけの差が出ます。パッと見にはフラットでメリハリがありませんが、撮影はできるだけ素直にという観点からすると、S5のようなデータの方が好ましいと思います。
左はFinePix S5 Proのダイナミックレンジ400%で撮影した画像。右は100%の画像
ヒストグラムの確認は、もちろんカメラの背面液晶モニターでもできます。しかしパソコンで確認する方が確実なので、僕の場合はカメラをパソコンに直結して撮影しています。基本的な露出の調整はカメラ側で行ないますが、細かい調整はCamera Rawを使います。まず最初は「色温度」や「色かぶり補正」でホワイトバランスを、さらに「白飛び軽減」「補助光」「黒レベル」などを使いながら、素直な感じに調整していきます。
次がポイントですが、最終的な仕上がりのイメージとして、軟調にするのか、コントラストをつけるのか、現像の方向づけを行ないます。私はここでCamera Rawのトーンカーブを使うことにしています。そしてこの状態を、新規Camera Rawの初期設定として保存。こうしておくと、シャッターを切ると同時に、Bridge上では仕上がりのイメージで画像が次々に表示されます。RAWデータそのものはフラットなデータでも、見た目は仕上がりイメージそのものなので、ヘアメイクなどのスタッフとコミュニケーションを取りやすくなります。
撮影が終わったら、あらためてPhotoshopでイメージ作りをしていきますが、Photoshop CS3のトーンカーブは非常に使いやすくなっています。特にヒストグラムを重ねて表示できる機能と、ハイライトとシャドーのクリップ表示ができる機能は、大きな改善点です。クリップ表示に関しては今までも、optionキー(WindowsはAltキー)を押しながらレベル補正のスライダーをクリックすると白トビや黒ツブレがチェックできましたが、CS3ではトーンカーブのウインドウだけで完結します。この新しいトーンカーブの使い方をマスターすれば、本当にトーンカーブだけで調整がすんでしまうと言っても過言ではないでしょう。
BOCO塚本 BOCO Tsukamoto
1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。