デジタルフォト&デザインセミナー2007
Adobe Session : 早速活用!Adobe Photoshop CS3のティップス&テクニック
講師:栃谷宗央 東京会場スペシャルゲスト:遠藤悦郎
2007年08月07日
栃谷 2007年、Photoshopファミリーは続々と新製品の発売、バージョンアップが行なわれました。史上最大のバージョンアップとなるAdobe Photoshop CS3、新しいラインアップのPhotoshop CS3 Extended、そしてフォトグラファー向けの新製品Adobe Photoshop Lightroom。今日はそれぞれ新機能を中心にお話ししたいと思います。
まずPhotoshop CS3について、なぜ私が「史上最大のバージョンアップ」と申し上げたのかですが、その答えはPhotoshop CS3の起動時間の速さにあります。実際に起動してみましょう(わずか数秒で起動)。昔の人は良いこと言ってますよね、「時は金なり」と。それに加えて、全体のパフォーマンスもCS2に比べて良くなっていまして、特にIntel Mac系では速くなっています。
Photoshop CS3についていろんな方から質問をいただいておりますが、一番多いのが「LightroomとAdobe Bridge CS3はかなり機能が似ているが、どちらを使えばいいのか」という質問です。たしかにBridgeは、CS3で速度が速くなって写真をブラウジング(閲覧)するのに便利になりました。よく似た機能もたくさんあります。当然、どちらを使えばいいのか迷いますよね。
ですけれど、この二つのソフトには大きな違いがあって、それはデータベース駆動型かどうかということです。Bridgeのほうは選んだフォルダの中にあるデータを表示するだけですが、Lightroomはいったんすべての画像を取り込んでデータベースとしているので、大量の画像データを効率良く管理することができます。ですからブラウジングだけではなく、現像する、スライドショーにする、プリントする、Webにするという作業においては、Lightroomのほうが便利です。
先ほどの「どちらを使えばいいのか」という質問ですが、私のお答えとしては「両方のよいところを連携させて、両方とも使ってください」となります。具体的に言いますと、Bridgeでブラウジングして、その後の作業をLightroomに任せるというワークフローです。Bridgeで必要な画像を選択して、ドラッグ&ドロップでLightroomに取り込むことができるようになっていますので、うまく連携させることができると思います。
ここで最新情報です。6月末にCamera Rawが4.1にアップデートされました。新たに6社13機種のカメラに対応し、たとえば富士フイルムのFinePix S5 Proはこの4.1から対応機種となっています。今回のアップデートではさらに、「明瞭度」「シャープの向上」という調整項目が追加されました。それからLightroomのほうも、バージョン1.1のアップデータが公開されました。対応するカメラはCamera Raw4.1と同じで、Windows Vistaにも正式対応、プラスアルファの新機能もあります。そしてさらに、アドビのWebサイトでPhotoshop CS3体験版の日本語版が公開されました。それぞれダウンロードして、ぜひ試してみて下さい。
栃谷 実は今日と明日、東京会場限定ですがスペシャルゲストを用意しております。皆様ご存じの方もいらっしゃると思いますが、グラフィックデザイナーの遠藤悦郎さんです。拍手をもってお迎え下さい。(遠藤悦郎氏登場)。
遠藤 今日は栃谷さんから漫才の相方をやってくれと頼まれまして、これからPhotoshopのデモを一緒にやっていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
栃谷 さっそく新機能の話をしていきたいのですが、まず「クイック選択ツール」と「境界線を調整」。クイック選択ツールが便利なのは、ブラシ感覚で画像をドラッグしながら選択範囲をトレースできることです。それから「境界線を調整」では、選択範囲のプレビューをいろいろと切り替えることができるようになっています。たとえばクイックマスクのような画面、黒バックの切り抜き、白バックの切り抜きと言った具合です。
「境界線を調整」では選択範囲のプレビューを切り替えることができる。
遠藤 クイック選択ツールは、今まで自動選択ツールあるいはクイックマスクを使いながら、ちょこちょこ選択していた作業を同時にやってくれるんですね。軽く人物を切り抜いてラフを作りたいような時は、ものすごく速くできるようになりましたね。「境界線を調整」のほうは、今までマスクだけを見ている時は白と黒だけで見えていたり、クイックマスクだと赤いオーバーレイでしか見えなかったりと、実際に画像にこのマスクが適用されたらどうなるのかが想像しくにかったんですね。ところがそれを切り替えて見られようになったので、すごく楽になりました、細かい調整はもちろん必要ですが、最終目的地に近いところまで簡単に早く行けると思います。
栃谷 では次に「スマートフィルタ」について見ていきましょう。この機能の便利なところは、納得いかないところは何度も再調整できるところです。今まで調整レイヤーを使って、オリジナルの画像を崩さないままトーンカーブや色調をコントロールできていたのですが、今回の「スマートフィルタ」では、フィルタでも同じようなことができるようになりました。アンシャープマスクでも使えるので、多くのユーザーに歓迎される機能だと思うのですが、どうでしょうか?
スマートフィルタは、元の画像を劣化させずに何度でも編集し直せる。
遠藤 個人的には「スマートフィルタ」が今回のバージョンアップの最大のメリットと感じています。かつてレイヤーが導入された時と同じくらいのインパクト、いやそれ以上のインパクトさえあると思っています。たとえば帽子をかぶった人物のスナップ写真がここにあります。よく見ると帽子のところにピントが合っていて、目のあたりにピントが合っていません。この写真を素材にして、ピントが合っている部分がシフトするように調整してみましょう。スマートフィルタを使うにあたってまずやることは、「スマートフィルタ用に変換」という不思議なコマンドがあるのですが、これを実行しておく必要があります。
それからもう一つ覚えておいてほしいのは、スマートフィルタ用のレイヤーを作った状態で「レイヤーを複製」すると、新しいレイヤーもスマートフィルタ用のレイヤーになるということ。それぞれのレイヤーで違う形のマスクを作って、違うフィルタをかけていきます。帽子の部分はぼかしフィルタ、目の部分はアンシャープマスクといった具合です。さらに画像全体をソフトフォーカスにしたいので、全体にぼかしをつけて、レイヤーの透明度を50%ぐらいにします。目の部分、帽子、全体と、これらがそれぞれ別のレイヤーになっていますから、全体のバランスを見ながら、後から部分的に修正することができます。
ちょっと面白いお話をしましょう。今まではレイヤーを3枚、4枚と重ねていくと、データ容量も3倍、4倍になっていました。しかしスマートフィルタではそんなことはありません。実際には多少重くなってはいるのですが、これはプレビューの関係ではないかと思います。なぜデータ容量が重くならないのかというと、2つ目以降のレイヤーは、最初に作ったスマートフィルタ用のレイヤーを複製しているので、元の画像はどのレイヤーでも共有されているからなんです。
たとえばTシャツを着ている人の画像があります。これをスマートフィルタ用のレイヤーに変換、複製して人数を増やし、スマートフィルタで手前の人はシャープに、奥に行くに従ってぼかしをかけて遠近感を演出していきます。このとき元画像でTシャツの色を変更したり、ロゴを差し替えたりすると、それがすべての人物のTシャツに反映されるんです。これは元の画像が共有されているからこそのティップスかなと思います。
栃谷 なるほど、今日のセミナーのテーマは「早速実践」ですから、まさにこれ、実践で使える内容だと思います。
栃谷 次の新機能は「レイヤーを自動整列」。ここに数人の人が並んだ集合写真が2枚ありますが、違いはおわかりですね? 何人かの顔の向きが違いますね。カメラの角度なども微妙にずれています。記念写真なんかで、こうなることがよくありますね。この2枚をレイヤーで重ねて、2枚とも選択して「レイヤーを自動整列」というコマンドを使います。すると、ほら。自動的に位置を合わせてくれます。横を向いている人の顔をブラシで消すと、あら不思議。横を向いていた人が正面を向いて、簡単にきれいな集合写真ができあがり、というわけです。これは自動整列と、マスクを使ったテクニックということになります。
2枚の写真の位置合わせを行ない、横を向いている人の顔をブラシで消すと、下から正面を向いた顔が現れる。
遠藤 私はちょっとひねくれ者なんで、わざわざこんな合成するかなぁとか、あまり実感がわかないんですよね。もっと違うことができるんじゃないかって思うんです。
私はGoogle Mapをよく利用しますが、たとえば品川あたりの詳しい地図と、恵比寿あたりを合わせた広域地図が欲しくなったりします。こういうときに、まず品川あたりの地図をキャプチャします。もう1回、恵比寿あたりの地図をキャプチャして、この2つの地図を自動整列させてみます。ほら、完全につながりました。せっかくCS3にバージョンアップするんだったら、新機能を無駄にしないで、こういうことにも使っていただきたいですね。これ便利ですよ、正直言って。
栃谷 メーカーの立場として私はこういうデモはできませんが、皆さん是非使って下さい(笑)。では続いて、Photoshop CS3 Extendedの新機能についてご案内させていただきます。今回のExtendedは3Dデータを読み込めるようになりました。それからムービーファイルも直接読み込めるようになっています。ちょっと3Dとムービーのデモをやってみましょう(しばらくデモが続く)。 このモーショングラフィックス機能は、動画の編集ソフトの経験がない方でも使えるのではないかと思います。レイヤーパレットを開いて調整レイヤーのトーンカーブを使うと、写真と同じように映像のトーンが変化しますから、Photoshopの操作感のままムービーを調整できます。それから、ムービーに対して「スマートフィルタ」が使えるところもポイントです。
遠藤 では私からもネタを一つ。Extendedには新しい計測・解析機能が搭載されました、普通の使い方というのはたとえば、建築の設計図などで一定の範囲を選択して、解析メニューで「計測値を記録」を選ぶ。縮尺率を設定しておくと、計測ログパレットで、長さが何メートルで、面積が何平方メートルで と表示されるというものです。たしかに建築関係とかエンジニアだったら便利なんだろうけど、普通の人にとってはあまり使い道がない。
画像の一部を選択し、解析メニューで「計測値を記録」すると、計測ログパレットに結果が表示される。
遠藤 そこで何か面白いことができないかなと、こんなことを考えてみました。たとえば不動産の部屋の間取り図ってありますよね。この見取り図で計測ツールを使ってみたところ、畳の部分を基準にして、部屋全体の面積を算出できました。それからまたもやGoogle Mapですが、たとえば羽田空港の地図で滑走路の長さを測ってみます。Google Mapには縮尺が記載されていますから、計測の結果は約3,000メートルとなりました。ほかにも、琵琶湖の地図で湖の面積を計測したら、見事に算出できました。面白いでしょう。私はいつもこんなことばっかり考えているんです(笑)。
栃谷 今日は「早速活用!Adobe Photoshop CS3のティップス&テクニック」というタイトルで、お話をさせていただきましたが、この短い時間で全てをご紹介することはできません。そこで覚えて帰っていただきたいのですが、CS2にもあったんですけれども、「ワークスペース」の中に「CS3の新機能」というコマンドがあります。これをチェックしていただくと、新機能のメニューの部分が青くハイライトされますので、CS3の新機能をチェックするときに活用してください。それから、コマーシャル・フォト7月号には「ADOBE PHOTPSHOP CS3 HANDBOOK」という別冊付録もついていますので、そちらでも新機能のチェックをしていただけます。では、これで私たちのセッションを終わります。改めまして遠藤さん、ありがとうございます。
アドビ システムズ 栃谷宗央 Tochiya Muneo
アドビ システムズ マーケティング本部。 http://www.adobe.com/jp/
グラフィックデザイナー 遠藤悦郎 Etsuro Endo
1990年 3月ラッセル・ブラウンによって行われた日本国内初の Photoshp デモを見て衝撃を受け、すぐ Mac と ver.1.0 英語版を入手して以来の Photoshop ユーザー。 90年代を通じて Adobe Photoshop AtoZ シリーズを著・共著するなど、フリーの Photoshop エバンジェリストとして活動。現在はプリント、ウェブ、パッケージなどのグラフィックデザイン業のかたわら、たまにやってくる Dr.ブラウンの日本支部エージェントとしても潜伏中。