2011年07月14日
コンパクトカメラ「ライカ X1」、レンズ交換式レンジファインダーカメラ「ライカ M9」、ミドルフォーマット一眼レフカメラ「ライカ S2」と、それぞれのカテゴリーで特長のあるカメラをリリースするライカ。そのライカを積極的に使用しているフォトグラファー小林幹幸氏に、プロの目から見たライカの特徴を語ってもらった。
小林幹幸氏 撮影:黒川英治
デジタルのライカはどんなカメラか
「ライカは趣味のカメラだ」、そう思っている方が多いのではないかと思います。フォトグラファー同士で話をしても「持ってはいるけれど、仕事では使わない」といった方が多いんですね。
僕はもう20年近くにわたって、仕事でライカを使い続けてきました。たとえば、『フォトテクニックデジタル』誌(玄光社)で連載をしている「スクールガール」シリーズはライカを使って撮影していますし、他の仕事でもライカを使うケースは多くあります。
そこで今回は、フォトグラファーの立場から、どういう撮影にライカを使うのか、なぜ他のカメラではなくライカなのか、といったテーマで、お話しをさせていただこうかと思います。
小林幹幸さんが手持ちのライカを持参してセッションがスタートした。小林さんが手にしているのは、ライカM9にビゾフレックス+エルマー65mm/F3.5を付けたもの。「スクールガール」などの作品撮影に、実際に使用している組み合わせだという。
今日は、僕が仕事で使っているライカをいくつか持ってきました。まずは、それぞれの機種をどんな風に使っているか、簡単に紹介していきたいと思います。
まずは「X1」。APS-Cサイズの撮像素子を積んだコンパクトカメラです。このX1は、仕事の合間や移動時間などにスナップを撮る場合に使っています。まるでアナログのライカのような感触があって、落ち着いた気分で撮影をさせてくれるカメラです。モデルさんのリラックスした表情や、その場のやわらかな雰囲気を残しておきたいという時に、手にするカメラです。
次に紹介するのが、皆さんもよくご存じの「M」シリーズの現行機種である「M9」です。今日は「ビゾフレックス」という、Mシリーズを一眼レフのように撮影するためのアダプタと、「エルマー65mm/F3.5」のレンズを付けて持ってきました。先ほど紹介した「スクールガール」の連載では、この組み合わせに加え、「エルマリート 90mm/F2.8」や「ヘクトール73mm/F1.9」といったレンズを使って撮影をしています。古いレンズですが、自然光下では、他にはない雰囲気のある描写をしてくれます。こういった素晴らしいレンズを使えることがM9の最大のメリットだと思っています。
そしてもう一つが「S2」です。フルサイズよりも大きな、ミドルフォーマットの撮像素子を搭載した、一眼レフデジタルカメラですが、このカメラにはとにかく驚かされました。他社製の35mmフルサイズのデジタルカメラでも、素晴らしい写真が撮れますが、このカメラはやはり一段階違うように思います。
その理由は、やはりレンズにあるのかな、と。なかでもこの「ズマリットS 70mm/f2.5 ASPH.」は、デジタル専用設計の、解像感や収差といった部分の性能が極めて高い一本です。それに加え、これまでのライカレンズに備わっていた特色、いわゆる「味」も変わらずに持っているんですね。
セッションの中では、小林さんがライカシリーズで撮影したショットを、「Adobe Photoshop Lightroom 3」を使ったスライドショーで上映した。日常の一コマから、実際に仕事で撮影したショットまで、小林さんのいうところの「空気感」を感じさせるショットだ。
一つ、皆さんが誤解しているといけませんので、あえてお話ししておきたいのは、S2は本当の意味での仕事カメラだということです。写りが素晴らしいのはもちろんですが、タフさも兼ね備えた、安心感のあるカメラなんです。確かに、他社のカメラにある「ピクチャースタイル」のような便利な機能はありませんが、そのぶんシンプルで、集中して撮影に取り組めるカメラだと言えると思います。
ちなみにライカのデジタルカメラというと「ローパスフィルタ」がないということで、モアレや偽色を気にされている方もいらっしゃるかと思います。僕はこれまで、ファッションの撮影でもライカを使ってきましたが、特に問題だと感じたことはありません。個人的な感想ですが、特別に心配する必要はないのではないのではないでしょうか。
Adobe Photoshop Lightroom 3のアドバンテージ
ライカシリーズと一緒に使っているのが「Adobe Photoshop Lightroom 3(以下、Lightroom 3)」です。撮影の現場では、プロのオペレータさんにイメージを伝え、オペレーションをしてもらうことが多いのですが、M9で撮影するようになった頃から、自分でもLightroomを使うようになりました。
Lightroom 3の機能の中でもよく使うのは、「レンズプロファイル」を使った補正機能です。Lightroom 3では、ゆがみを取り除いたり、水平・垂直のパースの補正が簡単にできるようになりましたが、これがとても実用的なんです。もう一つ、注目しているのがアナログ感を出す「粒子」機能です。とても楽しい機能なので、面白がりながら、いろいろと研究をしているところです。
Lightroom 3を使ったオペレーションを、実践して見せてくれた。特に、プロファイルを使ったレンズの補正機能はよく使うという。
もう一つLightroom 3をインストールしたPCと、S2を接続すると「テザー撮影」を行なうことができます。テザー撮影というのは、PCとカメラをケーブルでつないで撮影を行なう機能のことで、撮影した写真をダイレクトにPCの画面に表示できるというものです。スタジオで、クライアントさんの立ち会いのもと撮影を行なうといった場合に使う機能です。これまでニコンやキヤノンのカメラでできたのと同様のことが、S2でもできるようになったというわけです。
なぜライカを使うのか
プロのフォトグラファーの仕事は大きく二つの種類に分けられるように思います。一つは、クライアントさんの希望や、企画の狙いに添ったイメージをしっかりと写し取り、作り上げる仕事。もう一つはフォトグラファーの「パーソナル」な表現が期待される仕事です。
舞台袖に用意されたセットを使って、ライカと使ったモデル撮影が行われた。モデルは岡愛恵さん。小林さんとの撮影機会も多いとのこと。
ではなぜ、ライカなのでしょうか。その理由を言葉にするのは難しいのですが、一つにはレンズの特性があるのではないかと思っています。
今のものも昔のものも、ライカのレンズで撮影した写真からは「実在感」を感じます。レンズがとらえた人がまさにそこにいるように写り、その場の空気がそのままに写る。だからこそモデルさんはもちろん、現場を作り上げる僕のパーソナルな部分も写真に写り込むのだろうと思っています。
僕は「いい写真」というのは、「いい現場から生まれる」ものだと思っているんですが、ライカは、その現場の空気もきちんと残してくれるのです。
もう一つの、ライカを選ぶ理由は「歴史」にあります。たとえば、ブレッソンやキャパの手による、歴史に残る写真の多くは、ライカで撮られたものです。時代を超えて使われてきたライカには、次の時代に残るような写真を撮るためのエッセンスが込められていると言えるではないでしょうか。
今日はどうもありがとうございました。
撮影した写真はその場で現像され、公開された。独特な雰囲気の中での撮影だったが、彼女のリラックスした表情が印象的。
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