2016年04月12日
DSLRのムービー機能は目覚ましい進化を遂げ、今やスチールより動画撮影の比率が高いユーザーも多いだろう。そこで短期集中連載として、Nikon D810を中心とした撮影技法や周辺機器の導入、撮影後のファイルの取り扱い等を解説する。
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRを装着したD810。今回は同レンズの手ブレ補正機構を中心に検証を行なった。
DSLRのムービーでは手ブレ対策が重要になる
D810に限らず、DSLRで手持ち撮影する場合、手ブレ対策は重要だ。ショルダータイプのムービーカメラと違い、一眼レフではどうしてもカメラを支える体勢が腕力頼みになってしまい、手ブレが発生しやすいからだ。MOVIに代表される3軸ジンバルスタビライザーを使う手もあるが、セッティングや運用の難しさを考えると、機材はシンプルに越したことはないだろう。
Nikonが2015年10月22日に発売したAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは、手ブレ補正のためのVR機構を搭載し、NIKKOR初のED非球面レンズが採用された。同社はこのレンズを「極限の画質を追求した高性能大口径標準ズームレンズ」と位置づけている。D810でムービーを撮影する場合、24-70mmという比較的使用頻度の高いであろう焦点距離をカバーし、動画撮影時にも有効なVR機構を搭載したこのレンズは、まず真っ先に使ってみたいのではないだろうか? 今回はこのレンズの有効性を検証してみたい。
まずは最大の特徴とも言えるVR機構について。筆者はムービー畑の人間で、普段使用する機材はほぼ大型のカメラなので手ブレ補正機構にはあまり縁がなく、正直、静止画撮影時には有効なんだろうなぁ、程度の認識だった。しかし、いつの間にか世の小型放送業務用ビデオカメラにおいてはほぼ手ブレ補正機構が搭載され、ちょっとした手持ちショットで手ブレを軽減できる良い時代になっていた。
その手ブレ補正機構も大きく分けて、ボディ内に装置を搭載するタイプとレンズ内に搭載するタイプの2つがある。Nikonが採用している後者は、前者に比べファインダー像のブレも効果的に軽減するのでスチール撮影時にはより快適な撮影をサポートするという。また、同社のVR機構にはノーマルとアクティブの2つのモード切替えがあり、撮影中、身体自体が動いてしまうような、たとえば乗り物などから撮影するような場合には、アクティブモードが有効となっている。
手ブレ補正機構は優秀で画質も「モンスター級」に凄い
今回、テスト撮影の場所は首都高速辰巳PAを選んだ。天気の良い日曜日には関東全域からマニアックなオートバイと自動車が集まり、まるでモーターショーのような華やかさがあるため、車とバイク好きにはたまらない場所だ。レンズはNIKKOR 24-70mm一本のみ。主に手ブレ補正機構の検証を目的としたため、三脚は使わなかった。
特に50mmから70mmくらいの中望遠では手ブレ補正機構の恩恵が如実に映像に出る。D810のようなデジタル一眼レフでの動画撮影の場合、背後のモニターを見ながら撮影するスタイルになるため、自然とカメラを胸の前に両手で突き出すような姿勢になり、それなりに腕力が要求される。生理的にはどんなに慣れているカメラマンでも30秒も同じ体勢を維持すると自然と腕が震えてしまうはずだ。
筆者がVimeoにアップロードしたテスト映像(vimeo.com/151294935)を見ていただければ、明らかに不自然でプルプルとした画面の揺れが手ブレ補正機構によってずいぶんと軽減されているのがおわかりになると思う。搭載された手ブレ補正機構は非常に効果が高いことがわかった。
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR VR TEST MOVIE
肝心の画質に関してなのだが、このレンズ、何と表現したら良いのだろう。あえて書くなら「モンスター級」に凄い。H.264 4:2:0の高圧縮フォーマットとは思えない、とてものびのびした印象の描写力だ。デジタル一眼ムービーもついにここまで来たか、と心から感銘せずにはいられない。百聞は一見にしかず、ムービーを見ていただくのが一番なので、ぜひアクセスして欲しい。
本来ならこの手の動画は、がっつりとハイコントラストのグレーディング処理を行ない、かっこいい雰囲気にするのが定番だろうが、あえて今回はカメラ側の設定をフラットモードにした以外、何一つさわっていない。もちろんグレーディングもしていない。正真正銘「撮りっぱなし」の素材をつないだだけだ。ストリーミングのためにサーバー側で行なわれるエンコード時の画質劣化を差し引いても、まるで単玉で撮影したようなキレの良い鮮鋭感と色彩の再現性が確認できると思う。高性能ズームレンズ、そして3635万画素CMOSセンサーと画像処理エンジンEXPEED 4が生み出す立体感のある映像はただただ驚愕するばかりだ。
D810で動画にチャレンジするなら、まずはこの一本からで間違いない。おそらく一番使用頻度の高いレンズになるはずだ。
D810では2つの撮像範囲を使い分けられる
今回テストしたレンズは、24-70mmというムービーカメラとして一番「おいしい」部分をカバーし、描写力も素晴らしいものがあり、総合的に非常に使い勝手が良い高画質レンズという印象だ。それに加えてD810では、動画撮影時にFXベースとDXベースの2つの撮像範囲を切り換えることができるので、もうちょっと「寄り」が欲しい場合には、D810本体の「 i 」ボタンでDXベースの撮像範囲へと瞬時に切り替え、約105mm相当まで寄ることができる。
※この記事はコマーシャル・フォト2016年3月号から転載しています。
千葉孝 Takashi Chiba
1965年東京生まれ。ソニーPCLハイビジョン推進部にてハイビジョンカメラの研究開発に携わる。その後、撮影技術プロダクションを経て1998年〜2007年渡米。ニューヨークに本拠を構え、テレビ、映画、PVなど数々の作品に携わる。その後、チェコに移住。プラハでCMや映画の製作に参加。日本に帰国後はCMを中心にDP、DITとして活躍する。カメラマンとしてだけでなく、4K撮影とデジタルワークフローの構築を得意分野とし、多数の映画、ドラマなどのテクニカルアドバイザーを手がける傍ら、自らDaVinci Resolveを使用したカラリストとしても活躍する。ヘルメット株式会社所属。