2016年08月22日
DSLRのムービー機能は目覚ましい進化を遂げ、今やスチールより動画撮影の比率が高いユーザーも多いだろう。そこで短期集中連載として、ニコンD810を中心とした撮影技法や周辺機器の導入、撮影後のファイルの取り扱い等を解説する。
D810の微速度撮影機能は、一定の間隔で撮影した多数の静止画をつないでカメラ内部で動画として生成する。
美しいタイムラプス動画を実現する「露出平滑化」モード
3年前ほどからだろうか、タイムラプスで撮影された高品質動画をネット上で頻繁に見かけるようになった。その殆どは大自然を被写体とし、人間の持つ感覚上の時間軸では捉えることのできない、自然の驚くべき動きと美しさを表現している。
タイムラプス撮影自体の歴史は古く、かの巨匠フランシス・コッポラの手で製作された、1982年度制作のドキュメンタリー映画『 コヤニスカッツィ/平衡を失った世界 』では、フィルム全盛の時代にタイムラプスとスローモーション撮影で世界を捉え、今なお特殊撮影を駆使したドキュメンタリー映画の金字塔である。当時映画館でこの映画を観た筆者は、その美しい映像の洪水に強い衝撃を受けた。このようにタイムラプスの魅力とは、人の目を釘づけにし、観る者の心を奪う原始的な魔力があるのだ。
最近では標準でタイムラプス撮影モードが搭載される機種も増えたが、Nikon D810では画期的とも言える機能を搭載している。それが「露出平滑化」モードだ。
タイムラプス撮影経験者ならお解りになると思うが、まず悩むのが絞りの設定だろう。刻々と移り変わる朝日や夕暮れに照らされた自然は、被写体として非常に魅力的な反面、長時間に及ぶ撮影になるため、適正露出を設定するのが非常に難しい。文字通り刻一刻と変化する自然光下において、ターゲットとなる絞りをどこにあわせればいいのか?
たとえば夕暮れ時から陽が沈む瞬間、そして夜景まで1カットで表現するためには絞り値を大きく変化させなければならず、撮影時にスムースに絞りを手動で変化させるのは至難の業だ。そしてキモは、この種の撮影は二度とやり直しが出来ない点にある。
このようにシンプルだが奥が深いタイムラプス撮影において、救世主とも言える画期的な機能がD810の搭載する「露出平滑化」モードだ。このモードを使用することにより、前後のコマとの露出の差を平均化し、チラつきの無いスムースなタイムラプスムービーを撮影することができる。まさにデジタル時代の恩恵といえる機能だ。ただしマニュアル露出モードの場合、撮影メニューの「ISO感度設定」の「感度自動制御」をONにしておく必要があるので注意が必要だ。
D810で初めて搭載された「露出平滑化」
微速度撮影時に「露出平滑化」機能を用いて撮影すると、夜明けや夕暮れのような明るさが大きく変化するシーンでも、絞り優先オートなどで自動的に露出を合わせながら前のコマとの露出差を抑制。1コマずつでは気にならないコマ毎のわずかな露出差をさらに小さくすることで、動画として再生したときの映像のチラツキを抑える。この機能はD810で初めて搭載され、その後D5やD500にも採用されている。
タイムラプスの撮影時にはこんなことに気をつけよう
撮影間隔(インターバル)と撮影時間の設定もD810は非常にわかりやすい。撮影メニューの「微速度撮影」を選択し、「撮影間隔」を設定する。一般的に早い動きの被写体に対しては撮影間隔を短く設定した方が滑らかな動きになる。自動車や人の動きなどが良い例だろう。逆に動きの遅いもの、たとえば太陽の動きや植物の成長など、人間の目では動きを認知出来ないようなスローな被写体の場合は、間隔を長めに設定する方がいい。
さらに「撮影時間」の設定では、実時間としての撮影時間を設定する。この設定はムービーとして何秒のテイクにしたいのか、被写体の動きがどの位の時間で展開されるのかによって設定が大きく異なる。
仮に実時間で1時間の間、夕日が沈む様子を撮影する場合、「撮影間隔」を「00 : 00’ 05”」(5秒)に設定し、「撮影時間」の設定を「01 : 00’ 00”」(1時間)に設定したとする。そうすると60分÷5秒=720コマ=24秒のムービーとなる。1時間の間に起こった変化を24秒のムービーで観るということだ。
実際には長めの実時間設定で撮影しておき、「ベストショット」部分を編集で選択すると言うのが賢いやり方だろう。
Nikon D810 タイムラプス テスト映像
実際のタイムラプス撮影時には他にも幾つか注意点がある。基本的な事だがカメラの安定に気を付ける事。なるべく頑強な三脚を用意し、足元にウエイトなどを設置して安定した姿勢を作るべきだ。最近ではタイムラプス専用のスライダーなどを使った移動撮影も盛んだが、設置場所の安定化は同じく重要だろう。
長時間に及ぶタイムラプス撮影の場合、途中でバッテリーを交換するのはなるべく避けたい。可能であればAC電源を使用したいところだ。記録メディアの残量にも気を配ろう。
また、AFモードがAF-Sの場合、撮影ごとにフォーカスを探ってしまうため画角がずれてしまう可能性がある。フォーカスはマニュアルにしておこう。アイピースからの入光を避けるために撮影中はアイピースシャッターを閉じておいた方がいいだろう。
このように注意点が多い撮影方式だが、意図したムービーを撮影できた時の喜びは大きい。是非ともD810で素晴らしいタイムラプスムービーを撮影しよう。
※この記事はコマーシャル・フォト2016年4月号から転載しています。