フォトグラファーのColorEdge実践術

第3回 作品制作はモニタープルーフで

解説:茂手木秀行

2007年8月、個展「Scenic Miles 道の行方」を開催しました。これは、3年間撮りためたアメリカの風景写真のシリーズです。撮影機材は中判デジタルのマミヤZD、リーフAptus 75sなどを使用し、高解像度、高画質を目指しました(写真1/写真2)。

写真1:写真展案内状 モニュメントバレーの風景写真2:写真展会場 アートスペースGINZA5。約200㎡のスペースにゆったりと展示した

そしてさらに目指したものは、僕が見たままに風景を再現すること。この「再現性」は、デジタルならではの良いところですね。ここで言う再現性とは、表現としての再現性と、一つの事象を何度でも繰り返すことができる再現性の、両方です。作品を制作する過程では、撮影のときに感じたことを思い出しながら、Photoshopでデータを作り上げていきます。納得のゆくまで何度でも。時には、最初のRAWデータに立ち返りながら、47点の作品を作り上げました。

しかし、作品はプリントや印刷物になり、人に見てもらってこそ。作品としての作り込みはデータとして完成すれば終了しますが、実際にプリントを制作する必要があります。この段階は作品作りというよりもCMSの範疇ですが、ここでも「再現性」がキーワードになります。ColorEdgeでは正しく信頼性の高い表色ができるわけですが、プリントでもその色が再現できなければなりませんね。

しかし、こだわりの作品出力ではモニターと色が合うだけでなく、微妙なトーンや風合いまでもが大事なポイントになります。通常、モニターとプリンタがカラーマッチングできているとしても、作品プリントはトライ&エラーの連続で、自分の思い描いたイメージに合うまで設定を変えて何枚もプリントを作り直します。

今回の個展では、「再現性」をさらに突き詰めるトライをしてみました。出力機として選んだのは、コニカミノルタ グラフィッックイメージングのDigital Konsensus Premium(写真3)。これは通常のプリンタではなく、ハイエンドDDCPと言われるデジタル色校正用の機械です。Digital Konsensus Premiumに限った話ではありませんが、DDCPの特徴は、印刷機の出力を完全に再現できることにあります。そしてもう一つ、繰り返し精度が驚異的なまでに高精度で、何度でも同じ出力を得られるのです。繰り返し精度は、i1クラスの分光光度計の検出限界を上回るほどです。

この特性はデータとのリニアリティにもつながります。つまりデータを変更すれば、出力結果もきちんと比例するということです。ここが最も大事なポイントで、そうしたリニアリティを保った出力機ばかりではないのですね、世の中に出回っているものは。その点、Digital Konsensus シリーズは折り紙付きで、現在の日本の印刷現場では本機の前モデルDigital Konsensus Proがデファクトスタンダードの地位を占めているといわれています。

このように高精度なDigital Konsensus Premiumの出力を、そのまま写真展の展示プリントに使ってしまおうというところが今回のポイントです。Digital Konsensus Premiumの最大有効画像サイズは菊全判(660×960mm)で、A1より一回り大きいので、プリントのサイズとしても申し分ありません。

写真3:Digital Konsensus Premium写真4:ショウルームのCG221

今回の展示プリント制作手法を簡単に説明します。まず自分のモニター(ColorEdge CG19)で色を見ながら、テスト用のデータを作成。これを、コニカミノルタ グラフィックイメージングの協力によりDDCPで出力します。DDCPはCMYKデバイスなので、Japan Web Coated(Ad)のiccプロファイルを使ってCMYKデータに変換しています。このプロファイルは雑誌広告基準カラー(JMPAカラー)を再現するためのものですが、今回の作品を後から雑誌に展開したり写真集にするときのために、印刷機での刷りやすさを優先してこのプロファイルを選んでいます。

何点かのデータをコニカミノルタ グラフィックイメージングのショウルームで出力してみて、そこにある作業用モニター(ColorEdge CG221)の表示に合わせ込みます(写真4)。ここではiccプロファイルをいじるよりも、出力デバイス側(DDCP)の調整で、色を合わせることを優先します。

調整済みの出力を自分の作業場所に持ち帰り、今度は自分のColorEdge CG19と比較します。両者の表示に違いがないことを確認したら、改めてデータの作り込みをします。同じColorEdgeでも、実は機種によって表示できる色域は違うのですが、今回のターゲットはCMYKです。RGBよりもずっと色域の小さな領域を観察するので、機種が違っていても全く問題がないのです。

そして、あとはDDCPで出力してもらうだけ。プリントがイメージと合わなかったものはほんの数点で、それに関しては個別にやり直しましたが、ほとんどの作品は1回しか出力していません。結果、47点の作品出力をするのに、最初のテスト分を含めて70枚未満の出力でした。この数字は通常の作品出力では全くあり得ない数字です。

データを忠実に再現するモニターのColorEdgeと、繰り返し精度の高い出力機であるDDCPの組み合わせですから、この結果はむしろ当然と言えるでしょう。色校正を出さないでモニターだけで色を確認して校了することを「モニタープルーフ」と言いますが、今回の制作過程ではまさに、このモニタープルーフを実践したわけです。今回の経験を通じて、今後モニタープルーフは重要で有効な校正手段となると実感しました。こんなことができるのも、ハードウェアキャリブレーション対応のColorEdgeならではですね。

写真:茂手木秀行

茂手木秀行 Hideyuki Motegi

1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。

個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」

デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/

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