フォトグラファーのColorEdge実践術

第6回 モノクロ写真においてもモニターは重要

解説:茂手木秀行

今回はモノクロ写真の話題をひとつ。デジタル時代だからこそ写真表現の原初であるモノクロフォトを見直しつつ、デジタル時代ならではのモノクロ表現を手に入れようという運動を続けています。

今日のデジタルフォトにおける技術論ではカラーマネージメントが最重要課題であり、表現としてはデジタルでのエフェクトやレタッチ合成を含め様々な表現を楽しめるようになりました。しかし、その一方で明らかになってきたことは、色には「記憶色」「期待色」というものがあり、写真で表現される形態のなかに必ず「このものはこのような色であるべきだ」という心理量が含まれているということです。

ここで言う心理量とは文化的な背景を含んだ心理的な感覚量のことで、客観的に測定できる物理量としての色とは必ずしも一致しません。本来、物理量と心理量は比例対応関係にあるものですが、「色」に関しては人種や気候から生まれる文化的背景も「心理量」に関わると思えるからです。例えば、虹の色を我々日本人は7色と捉えていますが、同じ虹の写真を見ても、虹を5色と捉える文化や2色と捉える文化が存在します。

しかし、「記憶色」が存在することにより、色によって、特定の文化に属するグループに的確にメッセージを届けることができるのです。「記憶色」は、表現手段としては確実性のある伝達を期待できるので、そういう意味では素晴らしいものではありますが、その一方で「表現の自由度」を制限することになりかねないとも言えます。

その点、色にとらわれないモノクロならば、その表現は、より自由です。写真1を見てください。これがオリジナルの作品。これのトーンを変えてみたのが写真2、3ですが、作品として成立しつつ、別の表現になっていることが分かります。季節感さえ変わって見えませんか? 撮影場所は九州の阿蘇山ですが、カラーでの撮影とは全く違う場所に見えてきます。同じ撮影場所に立ったとしても、この絵を見つけることはできないことでしょう。トーンだけで構成するモノクロの面白さなのです。


写真1:オリジナル 三つの岩と低く進行してくる白い雲とのバランスよい配置が分かりやすいトーン。

写真2:暗く 全体をより暗いトーンに落とし、奥の山も影にすることで、この場所の非現実感を強調した。

写真3:明るく 中間トーンで構成される部分を多くすることで豊かなトーンとした。非現実感から離れ、光や風といった「場所」の心地よさが伝わるようになった。

ところで、ヒトの目は輝度差に敏感なのはご存知でしょうか? 通常「色」のある世界を見ている我々は、色差と輝度差によって構成される「色」を見ているわけですが、個別に見ると色差よりも輝度差、つまりトーンの変化に、より敏感なのです。モノクロ作品制作にあたってカラーマネージメントはあまり重要ではないように思うかもしれませんが、ヒトの目が輝度差に敏感であるだけにモニター性能の差が如実に出てくる分野であると言えます。モニター上で作り込んだ画像がプリント結果と合致してくれないことには作品として成立しないからです。

それには、モニターのRGB各色のガンマ値がきちんと理想カーブに一致しなければいけません。そして、内部演算処理の精度と、最後に出力を割り当てるルックアップテーブルの精度の高さが決め手になるのです(参考資料:EIZO WEBサイト「よくわかるカラーマネージメント」)。色のないモノクロ写真でも、カラーマネージメントモニターColorEdgeの出番ですね。モニターとプリント結果が一致すれば、無駄なプリントをしないですみます。無駄なプリントは時間とコストにはね返るんですよね。時間とコストは作品そのものにかけましょうね!

最後に写真展の話題を。2月22日〜27日、横浜創造界隈[ZAIM]にて「Hello!Monochrome II」という写真展を開催します(詳細はhttps://shuffle.genkosha.com/event/seminar/other/2646.html/)。デジタル時代のモノクロフォトを考える共同展&セミナーです。デジタルだけでなく銀塩のライブプリントもあり、モノクロ好き必見の写真展です。

出展予定作家
根本タケシ、佐藤希以寿、織作峰子、高井哲朗、小島由起夫、馬場道浩中村成一、有人、田中慶、小城崇史、出水恵利子、菊池くらげ、阪本円、井村友一、片桐 圭、小野広幸、深澤明関川真佐夫hana、中部電塾のみなさん、茂手木秀行 ほか。音楽協力:ピアノ/プサルタ奏者 ミキ_サカタ

写真:茂手木秀行

茂手木秀行 Hideyuki Motegi

1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。

個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」

デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/

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