2013年01月30日
35mmのデジタル一眼レフとして世界最高の3630万ピクセルを誇るニコンD800/D800E。中判デジタルカメラに迫る超高画素機を、プロのフォトグラファーは仕事の現場でどのように使いこなしているのか。最新の事例とともに紹介しよう。
有効画素数3630万ピクセルのD800。その高い基本性能と機動性を一切損なうことなく、より高い解像感を実現したモデルがD800Eだ。今回紹介する事例の撮影では、このD800Eが使用されている。
三菱電機 レーザー光源搭載液晶テレビ 新聞広告30段
企画制作=電通 SCD=鈴木芳久 CD+AD=沖宗光明 CP=後藤明男 C=石見朋之・北尾俊輔 P=江口友一 D=藤野克之 Photo Pr=星和紀 HM=大工廻タチアネ直美 Crd=寺井隆太・飯間千裕
「赤」の魅力を
1枚の写真で官能的に表現
三菱電機のレーザー光源搭載液晶テレビは、色の純度が高い「赤色レーザー光源」を搭載し、真紅、緋色、薔薇色など自然界に存在する様々な「赤」の違いを極限までを再現できるという。この30段新聞広告は、その技術力を伝えるために9月5日発行の日刊工業新聞に掲載されたものである。バラの花に囲まれた女性の顔を新聞の見開きいっぱいにレイアウトすることで「赤」の魅力を官能的に表現し、様々な色の名前をあちこちにちりばめることで「赤色レーザー光源」の色再現力をアピールしている。
新聞広告は間近で見るという媒体の特性があるので、写真はできるだけ高精細なものがのぞましい。そこで選択されたのが有効画素数3630万ピクセルのニコンD800Eと、ニッコールレンズという組み合わせだった。この美しい広告がどのようにして作られたのか、制作の舞台裏を詳しく見ていこう。
手元で見る新聞広告だからこそ
D800Eの超高精細な画像が最大限の効果を発揮する
沖宗光明
電通 第1CRプランニング局
アートディレクター
江口友一
フォトグラファー
三菱電機の新聞広告を制作したアートディレクター沖宗光明氏、フォトグラファー江口友一氏に、制作の舞台裏について聞いた。
新聞30段よりも一回り大きいサイズで撮影できるD800E
左はアートディレクター沖宗光明氏、右はフォトグラファー江口友一氏。 撮影:坂上俊彦
──写真が様々な赤で埋め尽くされていて、しかも女性モデルの顔がアップになっているので、新聞の中にこの広告があったらものすごく目立ちますね。
沖宗 30段で人の顔をこれだけアップにしたのはたぶん前代未聞だと思うんです。新聞というのは手元で見るものですから、視野のほとんどを覆ってしまう。一部のビルボードをのぞいて、視野を占める面積では最大の媒体じゃないかなと思います。そういう単純にデカいという原始的な力を満たしたかった。
その一方で、新聞の印刷では限界とも言える細い線を使って、小さい文字で色の名前を配置して、大胆な部分と繊細な部分のダイナミズムを作り出しています。
──D800Eをカメラとして選択した理由を教えてください。
広告が掲載された日刊工業新聞の30段広告スペースは802×540mm。カラー画像を200dpiで配置した場合に必要な画素数よりも、D800Eの画素数の方が一回り大きい。
江口 新聞の見開きで1枚の写真を使うという企画だったので、30段のサイズに対してどれくらいのピクセル数が必要なのかを調べて、大体6300×4200ピクセルぐらいというのがわかりました。
D800Eは7360×4912ピクセルなので、これなら余裕を持って撮影できるなと思いました。
それから、D800Eは光学ローパスフィルターの働きをなくして、通常よりも解像感のある画像が撮れる仕様になっています。同じセンサーを使っているD800と比べても、細かい部分の鮮鋭感が全然違う。まつ毛やメイクのディテールを出すのに最適なんです。手元で見る新聞広告だからこそ、超高精細な画像が最大限の効果を発揮したと思います。
──画素数とかローパスフィルターの話だけなら、中判デジタルカメラという選択もあったと思うのですが。
今回の撮影に使用したD800Eと、Ai AF Micro-Nikkor 200mm f/4D IF-EDを手にする江口氏。
江口 それはレンズがけっこう大きな要素を占めていますね。今回はできるだけアップにするため200mmのマイクロニッコールレンズを使っています。f11ぐらいの絞りで使ったんですが、寄っているので、f11でもバラがきれいにボケました。
沖宗 30段でこれだけのアップですから、ちょっとしたボケ味とかシャープの違いがすべて出てしまいます。このレンズはピントが合っているところも、ボケているところもきれいでしたね。
江口 そういう観点だと中判デジタルの方は180mmのレンズになるんですが、35mm判で200mmレンズの方がもっと大きく寄れるので、それならD800Eで撮りましょうとなったんです。
D800Eの階調と鮮鋭感が印刷でもそのまま再現された
──撮影中の使用感はどうでしたか。
江口 パソコンのモニターで見たら非常にクリアでしたし、赤の色もそれぞれ描き分けていたので、安心して撮影できました。今回はパソコン側が未対応だったのでUSB3.0での連結撮影はしていませんが、SDカードとCFカードのダブルスロットでJPEGとRAWを別々に記録しました。画像をチェックする時はJPEGの入ったカードだけを見ればいいので、撮影そのものはスムーズでした。
サンプルで買ってきたバラと、オーディション写真で作った撮影用ラフ。バラの配置やメイクの色合いなどを検討した。
沖宗 私の方は、バラの配置なんかが決めた通りにできるだろうかとか、そっちばかりを気にしていました。
江口 顔のすぐそばまでバラを持ってくるんですが、なかなか思った通りにできなかったですね。
沖宗 写真がこの大きさなので、花の位置が少し変わっただけで、全体の印象がガラッと変わっちゃうんですよ。あらかじめ撮影用のラフを作っておいたんですが、その通りに作るのが難しかった。
──撮影後の作業はどのように?
沖宗 撮影したその日のうちにレタッチの作業を自分で始めました。実物のバラを見ながら色を調整したり、肌の修正も自分でやりました。私みたいに長くアートディレクターをやっていると、撮影から印刷のことまでいろんなことを知っているし、絵も描けるから、技術さえ覚えてしまえば案外できてしまうものなんですよ。
色の名前については、400種類以上の赤色系のカラーチャートを作っておいて、Illustrator上で写真に直接重ね、色が一致する場所に配置していきました。
──実際の仕上がりはどうでしたか。
沖宗 満足しています。最近の新聞の印刷技術はかなり上がっているので、色もきれいだし、昔だったら考えられない0.1mmの細いケイ線や、まつ毛の細かいディテールまできれいに出ていました。
江口 肌のグラデーションや、目の辺りだけピントが合っている感じもうまく出ていて、D800Eの豊かな階調と鮮鋭感がそのまま再現できていますね。
協力:株式会社ニコンイメージングジャパン
D800 / D800E ホームページ http://www.nikon-image.com/products/camera/slr/digital/d800/