プリント制作のためのハードウェア

プリント制作のためのプリンタ選び エプソン篇

解説:小島勉

プロフェッショナル用大判プリンタは各社とも8色、10色、12色など多色インクを採用し、広色域を実現している。まずはエプソンのMAXARTシリーズについて詳しく見ていこう。

多色インクの搭載で色再現域が拡大し特色にも対応できるプリンタの選び方

現在のインクジェットプリンタは、作品プリントだけでなく、印刷のプルーフ(校正刷り)など、その応用範囲はここ10年ほどで飛躍的に広がった。インクも水性(染料・顔料)インクだけでなく、溶剤インク、UV(紫外線硬化型)など用途に合わせた開発がされている。

これまでインクジェットでは難しいとされていた、軟包装フィルム素材を使ったパッケージのプルーフも、昨年、ホワイトインク搭載のエプソンPX-W8000が登場したことによってクリアされるなど、あらゆる場面でインクジェット技術が浸透している。

インクジェットはこれまで、多色化による広色域化と高解像度が開発テーマの中心だった。近年は特に多色化に重点が移り、現在キヤノンの12色を最高に10色、8色のモデルがある。

エプソン、キヤノンともに、DICやPANTONEなどの特色対応を謳う機種が揃っているし、4色広色域印刷の代表格であるKaleidoインキの色域も再現できるようになった。印刷業界で校正機として利用される機会は、今後ますます多くなるはずだ。

さて、プリント作品を制作する上で重要なのは、やはり色域と顔料インクと言えるだろう。インクジェットの色域はもともと広かったが、2003年頃にグレーインクが登場したことにより、グレーバランスと階調がとても滑らかになり、モノクロ作品の美しい出力が可能になった。加えて環境光源による色度変位も少なくなっている。また顔料インクは作品プリントの保存性を大きく高め、色の安定度にも寄与してきた。

筆者としては、近年の多色インクによる表現領域の拡大もさることながら、一番感心しているのは、ドライバソフトのクオリティの高さだ。作品制作において様々な用紙を選択するにあたり、用紙適正に合わせたプリントプロファイルの選択が重要だが、筆者自身は独自に作るのではなく、選択する用紙の風合いに近い純正プロファイルを使用している。

独自にプロファイルを作成するメリットもあるが、メーカーほどの精度を求めるには相当のスキルと設備が必要になる。作品レベルであれば、純正プロファイルを使うことでカラー作品、モノクロ作品問わず、納得のいく1枚を作り込むことができるはずだ。

特色や広色域が求められるプルーフに対応

DICカラーガイド

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エプソンのPX-P/K3インク10色インクは、色見本帳として国内約90%のシェアを有するDICカラーガイドの色域を約95%カバーしており、特色を必要とする用途に対応している。

PANTONE 色見本帳

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エプソンの10色インクは、国際的な標準指定色であるPANTONEにおいて98%のカバー率を達成している。キヤノンiPFシリーズもgmg製RIPとの組み合わせでPANTONEの認証を受けている。

Kaleido インキ

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エプソン10色インクモデル、キヤノンLUCIA EX 12色モデルはいずれも、東洋インキの広演色プロセスインキKaleidoの色再現認証を取得しており、Kaleidoのプルーフとして使用できる。

エプソン MAXARTシリーズ8色モデル

ビビッドマゼンタインクの搭載でブルーとバイオレット領域を拡大

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PX-H9000(B0プラス)
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PX-H7000(A1プラス)
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PX-6550(A2プラス)
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フォトブラックとマットブラックは用紙種類に合わせて切り替えて使用する。

マゼンタインクの広色域化、ビビッドマゼンタインクの採用は、2007年に始まった。日本ではあまりお目にかかれない64インチモデルPX-20000への搭載を皮切りに、A1判のPX-7550からA2ロール機のPX-6550へと続いた。現在のPX-P/K3(VM)8色インク搭載モデルは上のようなラインナップが主力となっている。

ビビッドマゼンタインクの高い表現力は、体験した方ならよくわかると思うが、ブルー、バイオレット側の伸びが出たことによって、透明感のある表現ができるようになったことである。

それまでエプソンのプリンタは、マゼンタ系のインクがいまひとつと感じるユーザも多かったのは事実。実際、筆者もその一人で、見た目の彩度や明るさを出すためには、イエローのバランスと用紙の選定で考えるしかなかった。ビビッドマゼンタインクによって、データに無理をさせることなく色作りできるようになった点は大いに評価できるだろう。

注目の機種・A3サイズプリンタPX-5V

ハイアマからプロまで実際に使い勝手の良いのはA3サイズだと思う。前モデルのPX-5600で搭載されたビビッドマゼンタがこのモデルでも搭載されたが、筆者は、フォトグラファーに絶大な人気でロングセラーとなったPX-5500の真の後継機と言えるモデルだと思う。筐体が大きくなった印象はあるが、PX-5600やPX-5500に比べて剛性感が増したと思う。

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PX-5V(A3プラス) 88,500円(ヨドバシカメラ価格)

それにしてもこのPX-5Vは、以前のモデルからかなりスペック的にアップしている。操作パネルのカラー液晶化で視認性が向上したし、無線LAN印刷にも対応している。

フロント給紙ができるようになったことは作品制作には欠かせない仕様だ。筆者にとっても嬉しい改善点である。

作品制作では厚めの用紙を使うことが多いが、純正のウルトラスムースやベルベットファインアートなど、カット紙はなるべく平で使うほうが紙にストレスを与えずにすむ。最小インクサイズ2pl(ピコリットル)のインク滴を確実に打ち込むには、筐体の剛性と用紙の送り精度がの高さが求められる。その意味でもフロント給紙の機能追加は、プリントの品質向上に役立っていると思う。

LCCS(論理的色変換システム)によるLUTの改良と、インクサイズの細かさが相まって、ひと味違う顔料プリンタの印象を受ける。人の肌などはとても滑らかな仕上がりだ。テクスチャのある用紙もいいが、ウルトラスムースやクリスピアなどの高光沢系で真価を発揮する。実にバランスの良いプリンタだ。

エプソン初の溶剤インクを採用した8色モデルGS6000

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GS6000(64インチ)

溶剤インクのプリンタはサイン・ディスプレイ業界での用途が多い。駅のポスター、バスや電車のラッピング、電飾用など、日本ではこのような事例が多いのだが、海外ではこれを作品制作(ファインアート)に使っている。塩ビやターポリン、バックライトフィルムなどが用紙の中心だが、キャンバス地などもラインナップされている。溶剤インクはグラビア印刷のようなコッテリした仕上がりが特徴で、このGS6000ではエプソンお得意の写真画質を実現している。オレンジ、グリーンを搭載した8色インクだが、モノクロ作品も余計な色ねじれが生じない。作品プリント用途としても意外と期待の持てる機種である。

エプソン MAXARTシリーズ10色モデル

オレンジ、グリーンインクの搭載で色域をさらに拡大

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PX-H10000(B0プラス)
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PX-H8000(A1プラス)
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PX-H6000(A2プラス)
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フォトブラックとマットブラックは用紙種類に合わせて切り替えて使用する。

前述したようにビビッドマゼンタインクは、ブルー、バイオレット系の色域を広げたが、筆者はグリーン系からイエロー系の彩度にいまひとつ不足を感じていた。

しかしながら、2008年11月に発売されたPX-H10000、PX-H8000には、ビビッドマゼンタに加えてオレンジ、グリーンの特色が搭載され、さらに表現領域が広がった。顔料でありながら、染料のような透明感が得られた効果は大きいと感じている。

色域が広がったことで、プルーフ用途としても広色域印刷や特色対応が実現できるようになっている。KaleidoインキやPANTONEでの認証取得、DICカラーガイドの再現カバー率も向上している。

2011年4月にはA2サイズのPX-H6000が、10色顔料インクの最新モデルとして追加された。A2サイズなら、個人レベルでもぎりぎり導入が可能な大きさであり、フォトグラファーの作品づくりにも活用できるようになったと言えるだろう。

注目の機種・A2サイズプリンタPX-H6000

印刷業界で働いている筆者は、A2サイズのプリンタPX-6500を実際の業務に使うことがある。特に巻物などの文化財を複製する仕事では、とても使い勝手の良いサイズと感じている。

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PX-H6000(A2プラス)312,000円(標準価格)。測色器はオプション。

同じA2サイズで、10色インクを搭載したPX-H6000は、そのPX-6500の使い勝手はそのままに、確実に守備範囲を広げてくれるプリンタだ。

カセット給紙・ロール紙・手差し給紙(フロント・リア)と4通りの給紙が可能となり、厚物用紙も容易に対応できる点はありがたい。PX-6500でストレスに感じていたフォトブラックインク、マットブラックインクの交換も、両方を同時に搭載できるようになり、切り替えが自動で行なえるようになった点は評価できる。

動作音はこれまでとほぼ同じ音の強さ(デシベル)とのことだが、従来機にあった高周波の音が緩和されたため、印象としてはいたって静か。小規模のワークグループなどでのデスクトップ共有プリンタとしても適しているかもしれない。また、A2モデルとして初めて、オプションの内蔵測色機を装着することができる。

次回詳述するが、ソフトプルーフの確認用として、あるいはリモートプルーフの実機として、現実的に使えるプリンタが登場したと筆者は考えている。これまでの校正の考え方を変えていくエポックメーキングなプリンタかもしれない。

ホワイトインクを搭載したPX-W8000

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PX-W8000(A1プラス)

パッケージのプルーフ用途として2010年に登場したPX-W8000だが、MAXARTシリーズの画質の良さはそのままに、ホワイトインクを用いることで、パッケージサンプルやダミー作成などに対応できるようになった。企画会社や食品系メーカー、印刷会社での導入が増えている。筆者個人としては、ホワイトインクを使用できることから、作品制作用プリンタとしても幅広い表現ができるのではないかと注目している。ホワイトインクは今のところ耐水性や乾燥時間の長さ、印刷面が傷つきやすいといった弱点もあるが、ラミネートなど一工夫すれば実用性は問題ない。

写真:小島勉

小島勉 Tsutomu Kojima

株式会社トッパングラフィックコミュニケーションズ所属。インクジェットによるアートプリント制作(プリマグラフィ)のチーフディレクター。1987年、旧・株式会社トッパンプロセスGA部入社。サイテックス社の画像処理システムを使った商業印刷物をメインとしたレタッチに従事。1998年よりインクジェットによるアート製作(プリマグラフィ)を担当し現在に至る。イラスト、写真、CGなど、様々なジャンルのアート表現に携わっている。

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