プリント制作のためのハードウェア

プリント制作のためのセンサー選び

解説:小島勉

モニタのキャリブレーションや、プリンタプロファイルの作成に欠かせないi1(アイワン)シリーズが、ソフトウェアを一新し、さらに大幅値下げを行なった。

プロレベルのカラーマネジメントに必須のi1シリーズが大幅リニューアル

カラーマネジメントを実現する上で、欠かすことができないのがキャリブレーションセンサーの存在だ。「プリント制作のためのモニタ選び」で紹介したように、センサーを使わないで簡易的なカラーマネジメントを行なう方法もあるが、精度の高いきちんとしたカラーマネジメントや、個別のプリントプロファイルなどを作成したい場合には、やはりセンサーが必要になってくる。プロフェッショナルなら揃えておきたいツールだ。

市販されているセンサーの中で最も信頼性が高いのはX-rite社のi1シリーズである。i1シリーズのi1 Pro測定器は精度の高い分光式なので、価格もそれなりにするのだが、2011年6月に大幅リニューアルされ、価格もかなり引き下げられた。筆者は数年前にi1 Basicを購入しているが、同じグレードにあたるi1Basic Proでも、5~6万円安くなっている印象だ。

i1はもともとGretagMacbeth社の製品だったが、2006年にX-rite社と経営統合されたという経緯がある。今回のリニューアルでは、ソフトウェアが全面的に更新されており、両社の良いところを取り入れてブラッシュアップさせた商品構成へと進化している。

i1シリーズの大きな特長として、製品購入後でも、ワークフローや予算に応じて最上位版までアップグレードできる点が挙げられる。今回のシリーズでも同様で、過去のi1ユーザーも新しいソフトウェアを利用できる。せっかく購入したセンサーがアップグレードで使えなくなるといったことにはならない。

また、i1より下のモニタ専用低価格センサーi1 Displayもリニューアルされ、i1 とは別のラインナップとなるColorMunkiシリーズにも下位モデルが追加された。入門機からプロが使えるハイレベルな製品までが全て一新されたことにより、用途に合わせて導入しやすくなった。こちらの新製品も合わせて紹介する。

ラインナップが一新されたi1シリーズ

i1Basic Pro
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104,790円(参考価格)
主な機能:モニタプロファイル作成、モニタクオリティチェック、プリンタクオリティチェック、PANTONEカラーマネージャー、プロジェクタプロファイル作成、環境光測定、測色。
i1Photo Pro
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146,790円(参考価格)
主な機能:i1Basic Proの各機能に加えて、RGBプリンタプロファイル作成、カラーチェッカーパスポートソフトウェア、カラーチェッカークラシック、カラーチェッカープルーフ。
i1Publish Pro
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199,290円(参考価格)
主な機能:i1Photo Proの各機能に加えて、CMYKプリンタプロファイル作成。i1Basic Pro、i1Photo Pro、旧i1シリーズからのアップブレードが用意されている。

新世代のカラープロファイル作成ソフト「i1Profiler」

モニタプロファイル作成の他に画面のムラも測定できる

i1シリーズのプロファイル作成ソフトは、これまで「i1 Match」を使用していたが、新しいシリーズでは「i1Profiler」へと変更された。このソフトは、GretagMacbethのi1 Match、ProfileMaker、X-RiteのMonacoPROFILERの3つの機能を組み合わせたものになっている。

i1 Matchでわかりやすかったステップごとの解説に加え、トレーニングビデオでの解説も加わり、簡易モードから詳細モードまでよりわかりやすく仕上がっている。

モニタ関係の機能を挙げると、モニタプロファイルの作成(ソフトウェアキャリブレーションのみ)、環境光測定の結果をプロファイルに反映、デュアルモニタ環境のサポート、モニタプロファイルの検証、さらに画面のムラを測定するユニフォーミティー機能もある。

ユニフォーミティー機能では画面を9分割し、まずセンターを測定、その後センサーを手動で動かす。計測した箇所がセンターの輝度や白色点とどのくらい差があるのか、一目でわかる。時間はかかるが、客観的にモニタのコンディションを把握するには良いツールだ。

img_products_dp_hard05_04.jpgi1Profilerのモニタプロファイル作成画面。

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i1Profilerはi1 Pro測定器で使える。
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i1Profilerとi1 Pro測定器でモニタのプロファイルを作成しているところ。

プリンタプロファイルの作成はi1Photo Pro以上から

i1Profilerは、i1 Proとi1Display Proの2種類のセンサーで使用できるが、プリンタプロファイルの作成にはi1 Proが必要となる。またライセンスのグレードにより使える機能が異なるので注意が必要だ。

img_products_dp_hard05_07.jpgRGBプリンタプロファイルの作成画面。

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出力したパッチを測色しているところ。

一番安価なi1Basic Proはモニタとプロジェクタのプロファイルを作成できるが、プリンタプロファイルには対応していない。RGBプリンタ、つまりインクジェットプリンタのプロファイルが作成できるのはi1Photo Proからで、CMYKプリンタ(RIPを使用するプリンタ)のプロファイルを作成できるのはi1Publish Proだけである。

インクジェットでの作品制作においては、プリンタメーカーの純正紙だけでなく、様々な種類の用紙を使えるのが魅力だ。i1Photo Pro以上であれば、様々な用紙のプロファイルを作ることができる。また、これまでは難しかった、写真を見る環境光の影響を考慮したプリンタプロファイルの最適化も実現している。

新しいi1シリーズのためのソフトウェア

デジタル版の色見本「PANTONE Color Manager」

PANTONEは、紙ベースの特色の色見本帳としてはDICカラーガイドとともにスタンダードと言える存在。i1に新しく添付される「PANTONE Color Manager」はその名の通り、PANTONEのデジタル版色見本。嬉しい点はPANTONE PLUS SERIESが含まれているところだ。ライブラリも多く実用的ではないかと思っている。

PANTONE社が販売している「myPANTONE」というiPhoneアプリとの連動もできる。アプリの販売価格は7月末時点で850円とそれなりにするが、myPANTONE.comのアカウント取得することにより、「PANTONE Color Manager」とパレットを共有したり、カラーマッチングを行なうこともできる。

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PANTONE Color Managerの画面。
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iPhoneアプリ「myPANTONE」。

カメラプロファイル作成ソフト「Color Checker Passport」

単体製品として販売されている「ColorChecker Passport」のソフトウェアが、i1Photo Pro以上に同梱されるようになった。小さいサイズのマクベスチャート、カラーチェッカークラシック(ミニ)も添付される。

このソフトはカメラプロファイルを作成できるというもので、Adobe Camera Raw、Adobe Photoshop Lightroomと組み合わせて使うことで、RAW現像時にそれを画像に適用できる。カメラプロファイルのメリットは、カメラ固有の色作りの違いを吸収して、いろんなカメラの色を揃えられるようになることだ。

なお、単体製品に含まれるクリエイティブ補正ターゲット、ホワイトバランスターゲットは同梱されていない。

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Color Checker Passport(写真奥側)は、Lightroom(手前側)、Photoshopなどと組み合わせてカメラプロファイルを作成する。
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新しいi1シリーズにはカラーチェッカークラシック(ミニ)が付属する。

アップグレード用のソフトウェアパッケージ「i1Publish」

「i1Publish」は、i1 Pro測定器が同梱されていない、ソフトウェアだけで構成される製品だ。ソフトの機能としては最上位版の「i1Publish Pro」と同等である。

なぜソフトウェアだけのパッケージが用意されているかというと、従来のi1ユーザーが最新ソフトウェアにアップデートしたい場合や、i1Basic Proやi1Photo Proを購入した人が後からi1Publish Proにアップグレードする場合に備えるためだ。

USBドングルを付属した通常版と、既存の測定器のライセンスを書き換えるアップグレード版がある。通常版は複数のi1 Pro測定器で運用することができ、アップグレード版は特定のi1 Pro測定器でしか運用できない。

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ソフトウェアだけで構成されるi1Publish。
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i1Publishに付属するドングル。

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低価格のモニタ専用センサーもリニューアル

ガラスのフィルターに変わり耐久性が向上

X-rite社のモニタ専用の低価格センサーi1 Display2が、i1Display Proへとリニューアルされた。同時にColorMunkiの下位モデルとして、ColorMunki Displayが追加された。外観上の形状は両方ともほぼ同じ。対応するソフトは前者はi1 Profiler、後者はColorMunkiソフトウェアとなる。i1Profilerの方が高機能な分だけ価格も少し高めの設定がされている。

これまで低価格モデルではゼラチンのカラーフィルターが用いられていたが、日本の多湿な環境の下ではフィルターの劣化による測定能力の低下が起きやすい。今回の新製品ではガラスタイプに変更され、以前よりも耐久性が向上しているという。

キャリブレーションの測定スピードも重要だ。ColorMunki Displayは従来とそれほど変わりなかったが、i1 Display Proはかなり高速になった。メーカーの公表値では従来比5倍のスピードとあるが、筆者も同様の印象を持っている。

そのほか、両者とも新たにプロジェクタのプロファイル作成をサポートした点が評価できる。測定時には、本体底面にあるネジ穴で三脚に固定できるように工夫がされている。

i1Display Pro
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i1Display Proのレンズはi1 Display2よりも大口径となったことで精度が向上するという。
ColorMunki Display
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i1 Display Pro(左)のソフトはi1Profilerだが、ColorMunki Display(右)はColorMunkiソフトウェアを使用する。

i1 Pro測定器をさらに活用するための「i1Share」

img_products_dp_hard05_20.jpgi1 ShareはMac OS X10.5以前、Windows XP以前のOSに対応する。


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i1 Shareは最新のOSに対応していないので、筆者の場合はMacBook Airの中にWindows XPの環境を構築し、Windows版のi1 Shareを使用している。上はi1 Shareとi1 Pro測定器で環境光を測定しているところ。

「i1 Share」は以前からあるソフトで、i1 Pro測定器で現物を測色したり、環境光を測定(色温度、演色性)したり、リファレンスとターゲットの色差を判定できるなど、かなり利便性のあるアプリケーションだ。


しかし、残念なことにこのソフトのバージョンアップは今後行なわれず、最新OSにも対応していない。


新しいi1シリーズのソフトでは、i1 Shareが備えていた単体機能がなくなってしまったので(環境光はi1Profilerでのプロファイル作成中にしか測定できない。現物測定はPANTONE Color Managerで対応しているが、色差の判定はできない)、筆者はやむなく少し古めのMac OSや、仮想環境のWindows XPでi1 Shareを使用している。ぜひとも最新OSへの対応を検討してもらいたいものだ。

写真:小島勉

小島勉 Tsutomu Kojima

株式会社トッパングラフィックコミュニケーションズ所属。インクジェットによるアートプリント制作(プリマグラフィ)のチーフディレクター。1987年、旧・株式会社トッパンプロセスGA部入社。サイテックス社の画像処理システムを使った商業印刷物をメインとしたレタッチに従事。1998年よりインクジェットによるアート製作(プリマグラフィ)を担当し現在に至る。イラスト、写真、CGなど、様々なジャンルのアート表現に携わっている。

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