2012年01月27日
メディアや広告のデジタル化に伴って、写真の領域が拡大しボーダレスになっている。それに伴いフォトグラファーやレタッチャーの仕事でも、Photoshopだけでなくムービーや3DCGのスキルまで要求されるようになってきた。今回は、3DCGソフトを使い分けて広告ビジュアルを制作しているクリーチャー・栗山和弥氏を紹介する。
NTTドコモ キッズケータイ HW-02C 広告ビジュアル
NTTドコモ A&P=電通+アドブレーン AD=松下仁美 D=深谷高信・藤村美帆・神谷香也子 デジタルワーク=栗山和弥
「コドモダケ」のキャラクターをレタッチャー自身が
3DCGで制作し、広告ビジュアルとして仕上げる
3DCGソフトを操作する栗山和弥氏
栗山和弥氏は1998年クリーチャーを設立。現在では、ビューティー、スティルなど幅広い分野のレタッチ業務を展開しているが、Photoshopだけではなく、積極的に3DCGソフトを活用している。
3DCGソフトは以前から導入しているが、当初はレタッチの仕事とセットで引き受けたロゴタイプを立体化する程度だった。しかし最近では、ビジュアルそのものを3DCGで制作することが多くなっている。
たとえば上に挙げたNTTドコモのようなビジュアルの場合、今までだったら別の3DCGクリエイターが作った画像を提供してもらっていたが、このコドモダケのキャラクターは栗山氏自身がモデリングから行なって、ビジュアルを制作している。
「導入当時に比べて、仕事でも耐えられるクオリティのものが速く、安く作れるようになりました。ソフト、ハードともに費用対効果が高くなったんだと思います」。
現在使用している3DCGソフトは、modo(Luxology社)と3ds Max(Autodesk社)。1つの制作物を作る時でも2つのソフトで並行して同じものを作り、仕上がりの良い方を採用している。
「結局はできることはどちらもだいたい一緒なんですが、状況によってどちらが作業に適しているかは違うんですよ。現状では、制作に取りかかる前では、それがわからない状態なので併用しています」。
それでは2つのソフトの魅力は何か?
「3ds Maxはもともとアニメーションに強いソフトですが、僕はその点よりも独特なモデリングの方法に魅力を感じました。Photoshopの調整レイヤーのように制作過程を積み重ねていけるので、理解しやすかったですね。初めて触れるソフトでも構造を理解できれば扱いも楽になります」。
Photoshopの調整レイヤーが後から何度でも色調を変えることができるように、3ds Maxのモデリング機能も、作業途中の変更が可能なのだ。
これに対してmodoは、一旦作り込んだものを途中修正することができないという違いがある。そのため、作業の途中経過をその都度保存しておく必要がある。
「modoはリアルタイムレンダリングができる所が魅力。作業を早く進めることができます。レンダリングの部分ではmodoは、ある程度設定がフィックスされています。細かいシチューエーションの設定はできませんが、僕にとってはそれが逆に割り切れて作業する上では効率がいい。価格も12~3万程度で3DCGソフトとしては、比較的に安価な所も魅力の1つですかね」。
3ds Maxのレンダリングに関しては、単体で使用するとCGアニメーションライクな質感の絵になりがちだが、レンダリングソフト「V-Ray」を一緒に使用することで写実的に仕上げることができる。フォトリアルなプレビューレンダリングを段階的に作ってくれる上に、フィードバックが早いため待ち時間も少ない。
「3ds Maxはこの機能があってこそ、費用対効果が出てきます。細かい設定が多いので、フォトリアルを突き詰められますが、その分時間がどんどん掛かっていくデメリットもあります。要は使う人が何を求めるかだと思います」と栗山氏。
(1)modoで、アートディレクターが描いた2Dのイラストレーションをベースに3D化する。キノコの頭は、真四角のブロックから形を変形させていく。質感を設定すると、質感を確認しながら形が整えられる。
(2)modoのスタジオセット。正面にキャラクターを置き、疑似ライティングで質感を持たせる。あらかじめmodoに設定されているライティングだけだと、寂しい印象になるため手前から強い光を1灯当てた。CG内のスタジオセット光が影響し合い陰影が生まれ、よりリアル感が増す。キャプチャ画像左側にあるのが、ライティングソース。
(3)modoのレンダリング結果の画面。
Photoshopで仕上げる
クライアントからの質感の指定は、「カサの部分は柔らかそうに」と「全体的にぬいぐるみのような感じに」というもの。それに合わせ、細かな調整を行なう。最終的には、Photoshopで写真画像と組み合わせて、1つのグラフィックを作る。
WWD×流行通信のビジュアルストーリーを
3DCGとPhotoshopを使って組み立てる
WWD for Japan 2011年秋号 特集:流行通信 Music by Leslie Kee
発行元=INFASパブリケーション P=Leslie Kee(super sonic)デジタルワーク=栗山和弥 ※下も共通
WWD for Japan 2011年春号 特集:流行通信 Dreams by Leslie Kee
栗山氏は4年ほど前からWindowsをメインで使用。栗山氏が使用しているWindowsの方がMacよりも、Photoshopの動作が速いという。入力用のキーボードは、Mac用をWindowsに接続しショートカットを統一している。ちなみに左の赤いトラックボールのあるコントローラーは最近、動画の色調整用に導入したものだという。
そのほかに、栗山氏が3ds Maxを購入した大きな理由として挙げるのが「四角面化メッシュ」機能だ。
「普通の3Dソフトだと、2Dの図形をそのまま押し出して立体化するので、形によっては上手く作れない場合があります。しかし、四角面化メッシュだと、パラメータの操作でより細かい四辺形ポリゴンを作ってくれる。これを使うと、思い通りの形が作りやすくなります」。
たとえば、上のWWD×流行通信の事例では、MUSICの文字や音符を立体化する際に、この機能を使用している。よく見ると曲面の多いオブジェクトであることがわかるだろう。ただし、3ds Maxを使用したのはここまで。これ以降の作業はmodoで行なっている。
modoでは、HDRI(ハイダイナミックレンジイメージ)画像を使った、簡易的なライティングを行なっている。これは、撮影スタジオで照明を組んだ状態の360°パノラマ画像を用意しておき、オブジェクトの周りに配置すると、3D空間の中でライティングが再現されるという手法だ。
通常の3DCGのライティングに比べると、細かい設定が必要ないので簡単だし、画像を差し替えるだけで様々なライティングが可能になるので非常に便利だ。
「もちろん3ds Maxにも似たような機能はありますが、3ds Maxで5段階くらいの工程を踏むところを、modoだともっと簡単にできます。クライアントやアートディレクターからライティングの指定がある場合は難しいですが、作業中に色々試して良さそうな所を見つけるというのであれば、こちらの方が便利ですね」。
このように同じ3DCGソフトでも得意な部分が違うので、複数のソフトを併用しながら1枚の絵を作っていくのが、効率と品質を両立させる秘訣なのだろう。今後、栗山氏に限らず、このようなレタッチワークのスタイルが広まっていくに違いない。
WWD for Japan 2011年冬号 特集:流行通信 HOPE
発行元=INFASパブリケーション P=Leslie Kee(super sonic)デジタルワーク=栗山和弥
(1)まず最初に人物が乗っている文字の素材を作る。3ds Max「四角面化メッシュ」機能で立体的に作り、スムース処理を行なう。非常に細かいポリゴンで形成されているため、滑らかな形を作りやすい。その後、modoで文字を組み合わせる((1)の画面はmodo)。
(2)WWD×流行通信のシリーズは、Leslie Kee氏と栗山氏とのコラボレーションだが、レタッチやCGだけでなく、全体の画面構成も栗山氏が担当。1人ずつ正面から撮影された写真をmodoの中に読み込み、バランスを見ながら文字の上に配置し、その後レンダリングを行なう。レンダリングは全体と人物だけのものを2回に分ける。
(3)人物のみをレンダリングしてPhotoshop用のレイヤーマスクとして書き出すことで、Photoshopでの最終仕上げの作業が効率化できる。
Photoshopで仕上げる
modoで人物写真を配置してライティングしても、写真は平面的なオブジェクトでしかないので、足下の影などが不自然になる。このため、最終的にはPhotoshopで影や細部の色調整を行ない、見た目上の整合性をとる。
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