2012年05月16日
静止画の素材を使い、After Effectsで動きを作り出す
「モーションレタッチ」を開発
背景の静止画と車の静止画の組み合わせたモーションレタッチの例。背景の木々や山をレイヤーにそれぞれいくつかに分割して深度をつくり、奥行き感を出している。手前の芝生を一番手前のレイヤーに持ってきて、直下に車のレイヤーを置く。車体の映り込みを変えながら車を横移動させ、まるで走っているような映像効果を作り出す。
トーン・アップ大阪 ビジュアルディレクター菅 学氏(左)と篠田隆浩氏(右)。もともと大阪に拠点持つふたりだが、現在は東京オフィスにも作業スペースが用意されている。
創業92年の歴史を持つ広告製版のエキスパートであるトーン・アップ。現在は東京と大阪に拠点を持ち、グループ会社数社を抱え、印刷、デジタルコンテンツ制作、Web制作、イベントプロモーション、セールスプロモーションなど多岐に渡る事業を展開している。
今回は、デジタル画像処理を担当するトーン・アップの大阪オフィスが発信する新たなサービスが開発された経緯を聞いた。
「現在、トーン・アップ大阪のオフィスにはレタッチャーが5人在籍していますが、印刷媒体、グラフィックデザインのレタッチが少なくなってきたことを感じていました。一方ここ数年で映像制作の現場に立ち会うことも増えて、一眼レフムービーやHD映像から画像を切り出して、その画像にレタッチを行なうこともあり、映像媒体の需要が増えていると実感していました」(トーン・アップ ビジュアルディレクター 菅 学氏)。
そんな時期に3DCG制作を得意としていた篠田隆浩氏と知り合い、新たな戦力としてスタッフに加わるように誘っていた。
実際、篠田氏がどれくらいのクオリティのレタッチができるのかをチェックするつもりで、いくつかの写真素材を渡し、菅氏は宿題を出した。
「レタッチワークのクオリティが試されていることはわかっていました。ただ普通の静止画のレタッチをして終わらせるのではなく、静止画の素材を活用して簡単な3DCGを作ってみたり、After Effectsを使い時間軸を加え、視点を移動させたり、背景を変えてみたり、音楽もつけて驚かせてやろうと思いました」(同ビジュアルディレクター 篠田隆浩氏)。
篠田氏が作った静止画と3DCGをAfter Effectsで融合させた「動くレタッチ作品」を見せられた菅氏は衝撃を受けた。
「これだ!と思いましたね。Photoshopのみでのコンテンツ制作に限界を感じていたので、篠田の作品を見た時、これからレタッチで何か新しいことができる可能性を見つけた気がしました。
After Effectsに対しても、『これはPhotoshopにタイムラインを加えたソフトなんだ』というイメージに変わりました」(前出 菅氏)。
After Effectsには、すべての効果が時間軸に沿ったエフェクト処理で、オリジナルに対して非破壊のため、修正の対応が柔軟にできることなど、レタッチワークのレイヤー構造に似ていることもあり、理解しやすかったと言う。
「Photoshop CS5から導入されたパペットワープ機能なども、かなり以前からAftter Effectsでは可能でした。静止画のレタッチでもPhotoshopを使うと複雑で手間のかかる表現がAfter Effectsなら簡単にできたり、作業効率も良くなる部分があることもわかってました」(前出 篠田氏)
その後、篠田氏に刺激されたトーン・アップ大阪のスタッフは、全員が静止画のレタッチにもAfter Effectsを使いこなすようになったという。
After Effectsで作り出したレインボートーンの効果。Photoshopでは難しい静止画のレタッチに対して、質感アップをAfter Effectsによって作り出している。プレビューでRGBを見ながら調整する。
高解像度の静止画データを使って、シズルやカメラワークを作り出す
「モーションレタッチ」の応用例
こうして3DCGやPhotoshopのレイヤーを使って、After Effectsで時間軸という要素をプラスすることで「静止画の素材のみでも映像が作り出せる」という表現方法を手に入れた。
「まず、分かりやすい名称を考えなければならないと思い『モーションレタッチ』と名付け、商標登録も行ないました」(菅氏)。
さて実際に「モーションレタッチ」ではどのような映像表現が可能になるのか?
「1枚の絵柄を拡大縮小することで、ズーム効果、横移動でパンなどのカメラワークを作り出すのは単純な映像表現になります。さらにこれまでの静止画のレタッチのレイヤーデータを活用し、湯気、水の揺らぎ、光のプリズム反射やスポットライトのようにハイライト部分を動かすことでも目を引く映像に仕上げることができます(下の作例参照)。
モーションレタッチの最大のメリットは、CMや映像制作にかける予算がないクライアントにも、静止画レタッチデータを活用すれば、低コストでの映像制作を提案できることです」(菅氏)。
湯気、油、熱の揺らぎを加え、シズル感を作る
料理写真のオリジナル静止画。これにPhotoshop、After Effectsによるモーションレタッチで、シズルアニメーション(モーションシズル)を作り出す。
湯気のアニメーションをAfter Effectsで加える。
鉄板の肉汁と油のアニメーションを作る。
ベースの画像(元画像)をPhotoshopでレタッチし、そこにAfter Effectsで湯気、油などを合成していく。
プレビューを何度も繰り返しながらベースになじませていく。
最後に全体で色調整を行ない、場合によってはSE(効果音)を付けて完成。詳細は上のサンプルムービーを参照。
画像拡大によるズームアップ効果
夜空と月をレイヤーを分けた静止画の素材。
月の画像の拡大アニメーションに加えて、左手前から雲のレイヤーを入れる。ズームアップしながら、月に雲がかかる映像が出来上がる。
ライティングのエフェクトによる効果
ゴルフクラブのヘッド部分の金属感の部分に光のエフェクトを加える。
光のハイライトや輝きの部分を移動したり、強調することで動きを作り出す。
デジタルサイネージやiPadなどのタブレット端末の普及で
静止画から作られる映像コンテンツの需要は増えるはず
菅氏(写真手前)、篠田氏(写真奥)は、「モーションレタッチ」のプロモーションのために、大阪と東京を行き来する機会も多くなった。
すでにWebサイト、デジタルサイネージ、iPadをはじめとするデジタル端末まで映像コンテンツのニーズは増えているし、新規の素材要らずで、撮影を行なわなくとも映像を作り出せる手法は圧倒的なアドバンテージとなると考えた。
「車のカタログ制作に使った静止画像を使い、プロモーション用のショートストーリー映像を作って配信したり、逆にグラフィックデザインのプレゼンに、こうした映像表現を付加することでクライアントへの良い説得材料になった例もありました」(菅氏)
静止画のレタッチ表現を長くやってきたからこそ、1枚の写真の中に見えてくる映像ストーリーを感じ取り、効果を加えることができる。
After Effectsのエフェクト処理やタイムラインの操作も、Photoshopのレイヤー構造を操ることに慣れているため、難なく扱えるのがトーン・アップのスタッフの強みだという。
また、高解像度の静止画素材を使って映像を作るため、ハイビジョンなど高精細な映像への展開も容易である。
After Effectsを介することで、静止画のレタッチデータから映像コンテンツへの展開サービス、「モーションレタッチ」への取り組みはまだ始まったばかりだが、これまでのレタッチしてきた資産がそのまま使えるため、汎用性が高く、応用範囲も広い。これからアイデア次第で次々と新たな映像が編み出されることだろう。
1枚の写真を使って山道で車を走らせるという映像を作ったモーションレタッチの例。
手前の車はブラーを使い、車のパース感を調整しながら、走行シーンを演出。
走り去ったあとは、砂煙のレイヤーをアニメーション化することで完成。
こうしたモーションレタッチによる映像は、iPadなどのデジタル端末やデジタルサイネージのプロモーションコンテンツに活用されることが期待されている。
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