2010年11月12日
映像業界ではいま、フィルムからデジタルへ、SDからHDへ、そしてテープからファイルべースへの大転換が起こっている真っ最中だ。Autodesk Smoke For Mac OS Xは新時代に対応するべく登場した、高品質かつ最先端の編集フィニッシングツールである。この連載ではAutodesk Smoke For Mac OS Xに関する様々な情報を発信していく。
Autodesk Smoke 2011 For Mac OS Xのスタート画面
大変革期を迎えている映像業界のワークフロー
映像制作の現場では最近、EOS 5D Mark IIやRED ONEなどテープを使わないファイルベースのカメラの活躍が目立つようになっているが、これに伴って、撮影だけでなく編集も含めたワークフロー全体が大きく変わろうとしている。
たとえば、テレビCMについて見てみよう。従来はまずフィルムで撮影を行ない、現像の後、テレシネでビデオ信号に変換していた。編集作業はオフライン編集(仮編集)と、オンライン編集(本編集)の2段階あって、オフラインはAvid Media Composerなどのノンリニアオフライン編集システムで、オンラインはAutodesk Flameなどのノンリニアオンラインシステムで行うというのがスタンダードな流れだった。
それが最近では、オフライン編集にFinal Cut Studioが使われるケースが増えている。場合によってはディレクターが自分のコンピュータで作業することも珍しくないし、Final Cut Studioだけで最終仕上げまで行なうこともあるという。その背景としては予算や納期の問題もあるだろうが、Final Cut Studioが様々なファイルベースのカメラに対応していることや、最終的な出力メディアがテレビだけでなくWebなどに広がっていることも見逃せない。
今後の撮影機材はファイルベースのカメラが中心となるのは間違いないし、解像度やデータ量も確実に増えていく。また出力メディアのほうもインターネット映像配信、デジタルサイネージ、タブレット端末など様々なものが普及し、求められる映像のクォリティはさらに多様化していくことだろう。このように映像制作の入口と出口が多様化する中で、従来型のワークフローやFinal Cut Studioだけでは対応しきれない部分が出てきているのも事実である。
そこで注目したいのが、この連載のテーマであるAutodesk Smoke For Mac OS Xである。品質面では従来型のワークフローと同等でありながら、効率面ではFinal Cut Studioを上回る存在として、大いに期待されている存在だ。連載の第1回目となる今回は、まず、Smokeとは何かを説明するところから始めることにしよう。
アップルCinema Displayの画面に表示されるAutodesk Smoke 2011 For Mac OS X。 Ⓒ IRUSOIN- ETB
横編集と縦編集の両方に対応したAutodesk Smoke
映像業界では編集や合成の作業のことを、よく「横編集」「縦編集」という言い方をすることがある。横編集というのは時間軸の横方向に映像をつないでいく編集のことを指し、縦編集というのは映像を積み重ねていく合成のことを指す。これにならってSmokeとは何かと言うならば、横編集を基本としながら、縦編集にも対応したオールインワンの製品、といったところだろうか。
それならFinal Cut Studioでも、Final Cut Proで横編集、Motionで縦編集ができるではないかという指摘があるかもしれない。だが、この両者はアプリケーションとしては独立しているので、Final Cut Proの素材をMotionに送り込んで加工し、再びFinal Cut Proに戻るという段取りを踏む必要がある。これに対してSmokeは、最初から横編集と縦編集を一体のものとして設計されているところが大きく違う。
Smokeの機能を挙げていくと、編集、コンフォーム(他のシステムの編集データの読み込み)、色調補正、キーイング(合成)、トラッキング、ペイント、ロトスコーピング、コンポジティング、そして3Dビジュアルエフェクトまで幅広い領域をサポートしており、編集からフィニッシングまでをすべて完結させることができる。最新バージョンのSmoke 2011ではさらに、いま話題のステレオスコピック(立体視)コンテンツの編集機能も追加されている。
ステレオスコピックコンテンツの編集画面。
このように、映像を作品として完成させるために必要な機能を備えた製品のことを、オートデスクではクリエイティブフィニッシング製品と呼んでいる。クリエイティブフィニッシング(CF)という呼び名には、ただの映像編集ソフトとは次元が違うという意気込みが込められているのだ。
さて、このSmokeは長らくLinux OSのターンキーシステム(コンピュータ、ソフト、周辺機器のセット)として大手ポスプロを中心に使われてきたが、2009年12月からはMac OS X版の単体ソフトウェアとしても販売されるようになった。これがSmoke For Mac OS Xである。Mac OS Xで動作するので、Final Cut Studioと並行して使ったり、Smokeに移行することも容易。ソフト単体で約250万円、推奨構成システム全体で約600万円という価格は、個人ユーザーにとっては高めだが、小規模ポスプロや映像プロダクションにとっては充分手の届く価格帯だ。
Linux版とMac OS X版は、機能的にはほぼ同等である。厳密に言えばLinux版にはSmoke Advancedと通常のSmokeの2モデルがあり、若干の機能差(Batchノードの有無)があるが、Mac OS X版の機能は後者と同じである。逆にMac OS X版だけの特長としては、ユーフォニクス社のMC Color、MC Transportなど、外付けコントローラーが使える点が挙げられる。
キーボードの奥にあるのが外付けコントローラー。トラックボールが3つ並んでいるMC Color(左側)は色調整用、ジョグシャトルのついているMC Transport(右側)はビデオとオーディオのコントロール用。
EOS MOVIEやRED ONEのファイルをネイティブでサポート
最新バージョンSmoke 2011の大きなトピックスとしては、各種のファイルベースメディアをネイティブでサポートしている点が挙げられる。放送業界で標準的なMXFフォーマット、Apple ProRessやAvid DNxHDなどの中間フォーマット、EOS MOVIEのH.264 QuickTimeファイル、RED ONEのRAWファイル、ARRI ALEXAのRAWファイルなどに対応しており、メディアを変換する手間と時間を省くことができる。Final Cut Proでは必ずProResに変換する作業が伴うことを考えると、これは大きなアドバンテージと言える。
REDのRAWファイルをSmokeに読み込んで編集しているところ。現像処理を行なっていなくても、そのまま表示される。Smoke上で現像パラメータを調整することができる。
ネイティブ形式で各種メディアをサポートしているとは言っても、実は内部的には非圧縮で動作している。圧縮記録されたファイルをバックエンドで10bit 非圧縮 4:4:4のデータに変換しているのだ。非圧縮で動作させるメリットは、エフェクトをかけても素早く結果が表示され、様々な操作に対してもレスポンスがよいこと。2K(横2000ピクセル)以上の解像度でもリアルタイムプレビューが可能で、解像度は6Kまで対応している。
このリアルタイムプレビューは実はオートデスクCF製品の「肝」の部分で、リアルタイムで動作するところに大きな意味がある。というのはもともと同社の製品はすべて、実際に操作する人の後ろにディレクターがいて、その指示に対してリアルタイムに結果を表示することを前提として開発されており、レスポンスの良さは製品の命とも言えるからだ。
その代わり非常に重たいデータを扱うことになるので、ハードウェアに対してはかなり高度なスペックを要求する。Smoke 2011 For Mac OS Xの必要システム構成は以下のとおりだ。
・PC:Mac Pro(2008)以降、8コア以上、Intel Xeon 5000以上
・RAM:8GB(推奨12GB以上)
・HDD空き容量:500MB
・グラフィックカード:NVIDIA Quadro FX 4800 / NVIDIA Quadro FX 5600 /
NVIDIA GeForce GT 120 / NVIDIA GeForce GTX 285 / ATI Radeon HD 4870
・ビデオカード:AJA KONA 3
・モニター:1920×1200または2560×1600
・光学ドライブ:DVD-ROM
・周辺機器:ワコム Intuos タブレット
・キーボード:USキーボード
・ストレージ:プロジェクトの解像度とフレームレートに依存(たとえばHD-1080p
59.94i 10bitで、転送速度は237.30MB/s・834.27GB/h) 。
なお、Smoke 2011 For Mac OS X 自体は64bitアプリケーションで、32bitモードでも64bitモードでも動作するように設計されている。
Autodesk Flameゆずりのビジュアルエフェクト/コンポジット機能
ここで、オートデスクの他のクリエイティブフィニッシング (CF)製品についても触れておこう。同社のCF製品のラインナップは、Autodesk Flame、Autodesk Lustre、Autodesk Smokeの3本柱で構成されている。Flameはご存知の通りビジュアルエフェクト/コンポジットの定番で、Lustreはリアルタイムで動くカラーグレーディング(色調整)のソリューションである。そのほかにAutodesk Flareという製品もあって、これはFlameがインストールされたマシンと組み合わせて使う完全互換のコンパニオンソフトで、Flameを新たに導入するよりも低コストですむ。
Smokeは先にも述べたように横編集にも縦編集にも対応しているが、縦編集はFlameに近いビジュアルエフェクト/コンポジット機能を有している。もちろん両者に違いはあって、最も大きな違いは3Dトラッキングとパーティクルへの対応である。3Dトラッキングとは、映像の各フレームを解析してカメラの位置や動きを抽出し、合成するときに3次元的に動きを合わせる機能のこと。パーティクルとは、炎や水、煙、落ち葉、雪などの動きをシミュレーションする機能のことである。しかし逆に言うと、これ以外はFlameとほぼ同じ機能が使えるわけで、よほど高度な合成を行なわない限り、Smokeだけで作業を完結することができる。
Smoke 2011 For Mac S Xの新しいビジュアルエフェクト「Glow」を使用した画面。Ⓒ IRUSOIN- ETB
Flameとのからみでもう一つ説明しておくと、オートデスクは今年の9月にAutodesk Flame Premium 2011という製品を発表している。これはFlame、Smoke(Smoke Advance)、Lustreの各ツールを一つのパッケージにまとめた製品で、ポストプロダクション向けの製品だ。この製品のSmokeは、Flameと全く同じ機能を持っており、3DトラッキングやパーティクルもSmokeの中で扱えるようになっている。
ところで、オートデスクCF製品に共通のインターフェイスは、Final Cut ProやAdobe Premiere Proに慣れているユーザーの目からすると、かなり独特でとっつきにくい印象がある。もちろんこれには理由があって、もともとSmokeやFlameはノンリニア編集のシステムとしてスタートしたわけではなく、テープメディアのリニア編集をベースにして開発されたという経緯があるからだ。1モニターでも2モニターでも作業できるように設計されているというあたりにも、その開発思想は息づいている。
ただし将来的には、ノンリニア編集に慣れたユーザーでも使いやすいように、インターフェイスを切り替えて使用できるようにする計画もあるという。現在でもSmokeのキーボードに、Final Cut Proのショートカットキーを設定することもできるので、今後に期待したい。
最後に改めて、Autodesk Smoke 2011 For Mac OS Xの特長をまとめてみよう。
・縦編集はAutodesk Flameに近い機能を持つ
・Mac OS Xで動作するのでFinal Cut Studioとの連携や移行がスムーズ
・EOS MOVIE、RED ONEなど様々なメディアをネイティブサポート
・操作に対するレスポンスがよく、2Kのリアルタイム編集が可能
冒頭で述べたように、従来型ワークフローと同等の品質と、Final Cut Studioを上回る効率性を併せ持った、新時代のクリエイティブフィニッシングツールであることがお分かりだろうか。
次回からはAutodesk Smoke For Mac OS Xの導入事例を見ていきたいと思う。乞うご期待。
関連情報
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