2012年01月17日
カープは編集だけでなく、CG、撮影の立ち会い、そして企画に至るまで、映像制作業務全般に対してトータルなワークフローを提供するポストプロダクションだ。その中でSmoke For Mac OS Xをどのように活用しているのか、代表の福田浩介氏とエディターの佐伯真哉氏に聞いた。
カープスタジオは2009年に設立され、2010年にSmoke For Mac OS Xを導入した。
Smoke For Mac OS Xはまさに自分たちのための製品だと思った
― カープの設立の経緯を教えて下さい。
代表兼プロデューサー/エディター 福田浩介氏
エディター 佐伯真哉氏
福田 私がとあるポスプロから独立して、3年ほどフリーのエディターとして活動したところで、会社を立ち上げました。それが2008年です。最初は自宅でFinal Cut ProとAfter Effectsを使いながら、編集室に入らないような形で仕事をやっていたんですね。
佐伯 私も同じポスプロにいたのですが、彼より先にフリーになっていて、やはり同じような形で仕事をやっていました。フリーで7〜8年やっていました。
福田 2人とも試写などでお客さんを呼べなくて不便していたので、共同で事務所兼試写室を作ろうという話になって、2009年、代官山にカープスタジオを設立しました。その年の暮れに、ちょうどタイミングよくSmoke For Mac OS Xが発表されて、それまで使っていたMacのシステムにインストールするだけでよかったので、2010年に導入しました。
― お二人ともSmokeの経験はあったんですか。
福田 そうですね。前の会社から使っていました。
佐伯 私がエディターとして一人立ちした頃、その会社がSmokeを導入したので、1年ぐらいSmokeを使って仕事をしていました。ちょうどSmokeのバージョン5.0くらいの時期で、まだ100レイヤーになるぎりぎりちょっと前でしたかね。私がフリーになってからは、福田がその後を継いでやっていました。
― Smokeが入ったポスプロって、その頃は他になかったんじゃないですか。
佐伯 そうですね、同じDiscreet Logic社のFireはあちこちに入っていましたけど、Smokeはあまり入っていませんでした。その会社ではInfernoが1台だときついので、編集もできてコンポジットもある程度できるソフトを探していて、ちょうど100レイヤーのSmokeが出るぞということで導入したんですね。Smokeの導入事例としてはかなり早いほうだったと思います。
― フリーになる時は、お二人ともSmokeを使えるようになっていたんですね。
福田 そうですね。佐伯や私がフリーになる頃には、Smokeを入れているポスプロもだいぶ増えていたんですけど、使い方がわからないというか使えていないところが多かったので、私たちのようなSmokeが使えるフリーのエディターというのは需要があったんです。
佐伯 正直に言うと、それを見越してフリーになったようなところもあります(笑)。
福田 フリーとして外の編集室に入るときは、二人ともLinux版のSmokeが基本で、ときどきFlameも使うという感じでやっていて、自宅で作業をするときはFinal Cut ProやAfter Effectsという使い分けをしていましたね。
― そうするとSmoke For Mac OS Xの登場は、大歓迎だったんじゃないんですか。
福田 まさに自分たちのための製品だと思いました(笑)。でも、ちょっと迷いました。いつも使っているLinux版のSmokeに比べると、Batch機能がないという違いもありましたし。
佐伯 だけど実際入れてみると、やっぱりAfter Effectsでカラコレするより全然いいですし、マスク切りも全然いい。今となっては入れて正解だったなと思っています。もともと私も福田もそうなんですけど、基本的には、その時に使えるツールで編集するというスタイルなんです。SmokeがあればSmokeを使いますが、なければないでなんとかするし、After Effectsでやったほうがいい時は、仮にSmokeがあったとしてもAfter Effectsでやる。だからBatchがなくても、特に問題はないですね。
福田 二人ともSmokeにBatch機能がつく前から使っているので、Batchがない場合の使い方もある程度、把握していましたしね。
― 仕事のやり方がツールありきではないんですね。
福田 そうですね。
― Smoke For Mac OS Xを導入してから、便利になったことはありますか。
佐伯 実写を扱うときは断然違います。私たちがもともとオートデスク製品で育ってきているというのもあるんですけど、After Effectsはどうしても実写合成やグリーンバックの合成がやりづらい。それに比べてSmokeは、例えばPVを編集してカラコレだけやりたいという場合でも使い勝手がいいし、速いですね。
あるいはCMなどでよくある話ですが、実景の素材の「この看板だけを消したい」というのも全然Smokeのほうがやりやすいですから。ただし先ほども言ったようにBatchがないのでタイトルモーションなどを作るのはちょっと苦手かなと思っているので、それはAfter Effectsでやって、マスクをつけてSmokeに行ったりというような使い方をしていますね。
福田 私のほうは、Final Cut ProとAfter EffectsでCMを完パケるというと、発注主が不安なのか、「やっぱり1回ポスプロに入りたい」と言われることが多かったんです。そういう時は、Final Cut ProとAfter Effectsで作ったものをノートパソコンに移し替えて、ポスプロで1、2時間入って作業をしていたんですが、Smokeを導入したおかげでそういうことがなくなりました。だから、お客さんの安心感も含めて効果はあったかなと思います。
― ここだけで完結する仕事が増えたんですか。
福田 増えていますね。
オフラインとオンラインは一切区別しない
― カープ全体としてはどういう仕事が多いんですか。
福田 私と佐伯では少し客層が違うというか仕事内容が違っている部分があって、私はCMとVPがメインですが、どちらかというとVPのほうが多めです。
佐伯 私はCMとイベント映像ですかね。ちょっとめんどくさい系の(笑)。そのほかに立体視の仕事もやっていますが、それはここのSmokeではなくて、外部のポスプロのLinux版のSmokeでやっています。
― こちらの編集室の規模は?
福田 全部で3部屋ですが、そろそろもう1つ増やして、4部屋体制でやっていこうと思っています。
― その中でSmokeが入っているのは?
福田 ライセンス的には1つなんですけど、ネットワークラインセンスで動かしているので環境的には2部屋使えます。それ以外にFinal Cut Proのみの部屋が1つ。スタッフはデスクも含めると社内で5人いて、フリーランスなども含めると7人ぐらいで仕事を回しています。
カープスタジオの編集室EDIT3。Smoke For Mac OS X、Filal Cut Pro、After Effectsが使える。
― オフラインエディターとオンラインエディターがそれぞれ別にいらっしゃるんですか。
福田 ウチの場合は、基本的にそこを一切分けていないんです。オフラインだけやるとかオンラインしかやらないというのは、基本的には少ないですね。
佐伯 もともと私も福田もオフライン、オンラインの両方をやりますから。
― それはフリーになる前からそうなんですか。
佐伯 そうですね。前の会社でInfernoのアシスタントをやっている時から、自分でAvidでオフラインをやって、データを書き出してInfernoに持っていくということをやっていました。Smokeで一本立ちした時も、基本的にはオフラインを自分でやって、オンラインに持っていくというやり方です。フリーになってもそのスタイルは変わりませんでした。お客さんとしても、オフライン、オンラインを一括した方が早いので、そのほうがいいということが多かったですね。
福田 ウチに出入りしているフリーランスのスタッフも、勉強中の社内スタッフも基本的には同じスタイルで仕事をしています。
― いずれは両方できるようになっていくというのが、カープのスタイルなんですね。
福田 そうですね。いまは業界全体でそういう人材が必要とされていると思うし、時代の必然ではないかと思います。ツールはSmokeにこだわっているわけではなくて、Final Cut ProとAfter Effectsで事が足りるんだったらそれでいい。ここから先、違うソフトになっていくのかもしれないし。ただ、オフラインだけとかオンラインだけという考え方の人は入れていません。トータルにできる人を育てていこうと思っています。
― でも、ポスプロ業界全体としてはまだまだオフラインとオンラインの間に明確な区分けがありますよね。そういう意味では珍しいというか、先進的なスタイルではないでしょうか。
佐伯 どうなんですかね? 私たちはもう7、8年も同じスタイルでやっているので、それが当たり前になっちゃっています。ここ2,3年の業界全体の流れを見ていると、オフラインとオンラインを分けている意義はあまり感じませんね。CMの編集は決められたフォーマットにはめてやることが多いので、話は別だと思いますが。
福田 VPの場合なんかだと、今はその区分けはあまりないですね。最初のチェックの時にある程度クオリティの高いものを出してほしいというオーダーがあったりすると、そもそもオフラインしながらオンライン的なことにもなってくるし。あんまり分ける必要もないし、分けられないんですよ。
― そのあたりをカープスタジオの個性というか、セールスポイントとして打ち出しているんですか。
福田 積極的に打ち出しているというよりは、ウチはすき間産業ですから(笑)。お客さんが困っている時とか、オフラインもオンラインもなく、まとめて頼っていただいていますね。今回はオンラインだけお願いしますというよりは、「こういう案件があって、こういう風にしたいんだけど、できるかな?」という感じで仕事をいただくことが多いし、そのほうがありがたい。単に編集をどうしようという相談ではなくて、撮影する前からオールスタッフミーティングに呼んでもらったり、企画段階からスタッフに加えてもらえる案件をやっていきたいと思います。
― そういう仕事はやりやすいですか。
福田 やりやすいというよりも、そういう仕事でなければ面白みも感じられないからこのスタイル、というところはあります。時間単位でしか使えない編集室に予算を割くよりも、こっちに任せてもらえば自宅のマシンで作って編集室で見せるから、時間もかけられるし予算も浮くじゃない? だからはやく相談してよ、ということをフリーの頃から言っています。
― 企画の段階から関わるというと、映画の世界や海外のポスプロで言うところのスーパーバイザーみたいな存在ですか。
福田 いえ、そこまで大げさではなくて、物を作る時に時間に縛られるのが嫌だというか、今のスタイルの方が物を作っているという感じはしますね。
― 佐伯さんも同じですか。
佐伯 企画段階からというのはあまりないですけど、もともと編集ディレクション的な仕事は結構あります。ディレクターを立てないで、代理店のほうで企画・構成を決めた台本と素材が送られてきて「あとは自由にお願いします」ということもありますし。その流れで「こういうことをやりたいんだけど」という相談がプロデューサーから来たり、あるいは「任せるからディレクションもやって、企画も出して」ということもあります。イベント映像やVPではディレクターなしの仕事が多いですね。半分くらいはそうなってきています。
トータルワークフローを構築するのに役立つAutodesk製品
― 話をSmokeに戻しますが、Smokeはどんなふうに使っていますか。
福田 仕事によってはFinal Cut Proがいい時もあるし、After Effectsがいい時もある。ただ、ずっとLinux版のSmokeを使っていた立場からすると、Final Cut ProとAfter EffectsとSmokeの3つのソフトが1つのマシンに入っていて、Command + tabキーの操作で切り替えられるというのはすごく便利なんですね。Final Cut ProとAfter Effectsだけの時に比べて、できることの幅がすごく広がったので。
福田氏と佐伯氏の編集に対する考え方は共通している。オフライン、オンラインは一切区別しないという。
福田 フィニッシュは別にSmokeじゃなくてもいい場合もあるんですよ。Final Cut ProとAfter Effectsで編集して、消し込みだけSmokeで行なって、そこの部分をクイックタイムで書き出して戻すという使い方もありなんです。先ほども言いましたが、あまりこうしなきゃいけないという考え方は持っていないので、そのソフトの長所を生かした形のワークフローが持てるのは、すごくいいなと思います。
― SmokeとFinal Cut Proは行ったり来たりで作業してるんですか。
福田 それほど行ったり来たりはありませんが、ものによってありますね。例を挙げると、Final Cut ProでオフラインをしてSmokeに持っていって本編集をする場合、尺を直したいといった時に、Final Cut Proに戻ってやり直してXMLに書き出せば、Smokeのほうに反映できる。そういった意味での行ったり来たりはありますね。
― Smokeを使う仕事の割り合いはどのくらいですか。
佐伯 6割から7割ぐらいあるんじゃないですかね。Smokeだけでオンラインという仕事はほとんどありませんが、Smokeが関わるっていう意味では、大体何かしらには使っている感じです。
福田 私も半分以上はあると思います。
― Smokeを使った仕事のうち代表的なものを教えて下さい。
福田 上海モーターショーのために作った、トヨタのパーソナルモビリティの映像ですかね。
佐伯 これは背景のCGをウチで作って、コンポジットをSmokeでやりました。実写素材はディレクターさんがこの部屋のFinal Cut Proを使って編集していたので、別の部屋で私がCGを作って背景にして、3Dトラッキングをして。3Dトラッキングだけは外注で出したんですけど。
福田 私が撮影の立ち会いから行なって、どこをクロマキーで撮るか白バックで撮るかの判断をして、CGのほうはロボットが登場するので、その部分のCGは外注しています。CGについてはどこまでウチでやって、どこまで外でやるかという切り分けをしながら作業しました。
― 編集だけでなく、CGまで制作されているんですか。
佐伯 社内では私がCGもやっていますが、ちょっと一人で追いつかない部分を、外注で一緒にやってくれる所があります。
福田 ウチにはSmoke、Final Cut Pro、After Effectsが揃っていますが、もうちょっと映像的に凝っていこうと考えると、どうしても3DCGのソフトが使える、使えないっていうのが分かれ道になってくるだろうと思います。私はMayaを使っていて、佐伯は別のソフトを使っているんですけれど、現状の使い方ではロゴのアニメーションだったり、パーティクルの効果だったり、編集のプラスアルファという意味での3DCGです。そういう編集的な使い方だけでなく、本来的な意味での3DCGをやっていくために、9月末にFlame Premiumを導入して、いまテストをしているところです。
佐伯 これはまだ構想段階ですが、今のスタジオ事業部に加えて、CG事業部を新たに立ち上げようと考えています。Flame PremiumをCG事業部のフラッグシップとして使っていこうと思っているんです。
― Flame自体は3DCGを作るソフトではないんですよね。
佐伯 私たちの仕事の場合はCGだけで映像を作ることはあまりないじゃないですか。やっぱり実写と合成したり、CGの最終調整をしたりするのがメイン。それができるのがFlame Premiumです。編集というよりはCGコンポジットですよね。今まであまりないようなスタイルでやりたいと思っているんですけど、なかなか大変です。
福田 その背景に、先ほどの上海モーターショーの映像やアニメのオープニングなど、CGが絡んでくる仕事の発注がいくつかあって、その対応について真剣に考えざるをえなくなったんです。モデリングは外注すればいいので、そこまでは自分たちでできなくてもいいんですが、仕事として受ける以上はもうちょっとCGをコントロールできる部分を増やしていきたいなと思います。
佐伯 全部うちでやるっていうよりは、他のCGプロダクションさんと連携してやっていくことになると思います。現状では連番の静止画ファイルでデータのやり取りをしていますが、Flame Premiumの導入でワークフローを変えて、その分クオリティアップにつながるようなことに時間を割けるようにできればいいかなと思っています。
― 先ほど「すき間産業」という表現をされていましたが、編集だけでなく、いろんな領域をカバーしようとされているんですね。ワークフローのすき間を埋めていくという感じですか?
福田 トータル的なワークフローを組んでいるということだと思います。撮影の立ち会いからCGの発注、編集などを一括して行なっていく。そういうことを実現していく上で、Smoke For Mac OS XやFlame Premiumなどのオートデスク製品は、なくてはならないものだと思います。
写真:坂上俊彦
今回の訪問先
カープ
オフラインからオンラインまで一貫した編集作業を行えるシステムを提案しているポストプロダクション。カープスタジオ事業部は現在、代官山に3つの編集室を開設している。
http://carps.co.jp/
関連情報
Autodesk Smoke 2012 For Mac OS X 製品体験版 ダウンロード ページ
体験版は、インストールののち起動してから 30 日間ご利用できますが、サポート対象外です。 その他注意事項などは当該ページをご覧下さい。