Autodesk Smoke For Mac OS X

第3回 Smoke For Mac OS X で起業したポストプロダクション「QuadRoot」

QuadRoot(クアッドルート)は2010年に発足したばかりのポストプロダクションで、Smoke For Mac OS Xを導入している。総勢4人と所帯は小さいが、フットワークの軽さと最新ワークフローへの柔軟な対応が身上だ。代表の近藤寿一氏と小森謙司氏に話を聞いた。

img_soft_smoke_quadroot_01.jpgQuadRootの編集室。Smoke 2011 For Mac OS X を導入している。

Smoke For Mac OS Xを核に新しいポスプロを構築

― まず発足のいきさつを教えて下さい。

近藤 以前は4人ともイマジカに勤務していたのですが、その時から4人でなにか新しいことをしたいねという話をしていたんです。地デジ移行やファイルベースのワークフローなど、ポスプロを取り巻く環境が大きく変化している中で、Smoke For Mac OS Xを導入すれば、小さな会社でも意外と大きな規模の仕事ができるのではないかと考えて、4人で出資して会社を立ち上げました。

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QuadRoot代表の近藤寿一氏。

― 業務を開始したのはいつですか。


近藤 会社として形になったのが2010年の7月。そこから2ヵ月くらいは内装工事をしたり機材を揃えたりして、Smoke For Mac OS Xの編集室が稼働を始めたのが9月末ですかね。それまでの間は、イマジカに出張して仕事をしていました。

― 4人で会社を始めようと思った時、どのような会社をイメージしたのでしょうか。

近藤 規模の大きい会社だと、現場の意見がなかなか会社全体に浸透しにくいですよね。そこへいくと私達は4人しかいない会社ですので、誰かが「こうしたほうがいい」と言うと、全員が耳を傾けてすぐ判断を下すことができます。大きな会社だと新しい機材の導入を検討するのに時間がかかると思いますが、最近は価格が安くて機能のいいソフトウェアがいっぱい出てきていますから、私たちはそういうものをどんどん取り入れて、お客さんに提案していくことができます。コンパクトな会社だからこそ、フットワークは軽くなるし、新しいことに挑戦できると思います。

― 具体的にどんなサービスメニューがあるのですか。

小森 小さい会社なので、なんでもやるんですよ。いわゆるポストプロダクション業務のオンライン編集、オフライン編集はもちろん、それ以外のこともやっていて、ファイルからテープにしたり、テープからファイルにしたりというデータ変換や、EOS 5D Mark IIやEOS 7D、RED ONEのファイルを変換するデジタル現像などもやっています。あとは、RED ONEで撮影する現場に出張してデータを管理する仕事もやっています。

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小森謙司氏。システム構築にも造詣が深い。

― 新しいワークフローをプロダクションに提案することもあるんですか。


小森 弊社に問い合わせが来た段階で決まっている場合は別ですが、はっきり決まっていない場合は提案させていただくこともあります。

近藤 撮影前の段階からトータルコストを考えて仕上げまでのワークフローをどうしようかって、何かきっかけがないとあまり考えないと思うんですよね。そういう意味でいうと、今はHDCAM-SRのテープの供給が不足している状況なので、ファイルベースについて考えるいい機会ではないかと思います。

― お客さんの反応はどんな感じですか。イマジカ時代と何か違いを感じますか。

小森 ファイルベースなど新しいワークフローを謳っているので、新しい物に興味のある方からはいろいろと質問をいただきますね。

近藤 業務的には、部屋が狭いので人が入りきれないことがあるくらいで、特に違いはないですね。FlameやInfernoでやっていた時と同じクオリティで仕事ができていると思います。お客様のほうから、Smokeだからこれができないという声は出ていません。


オフラインの効率化、大手ポスプロとの連携を視野にSmokeを導入

img_soft_smoke_quadroot_04.jpg真ん中のモニターがSmoke For Mac OS Xの画面。右は波形モニターBlackmagic UltraScopeの画面。

― Smoke For Mac OS Xの導入は会社を立ち上げる時の前提だったのですか。

近藤 そうですね。ファイルベース・ワークフローのコストダウンと作業の効率化が、この会社を立ち上げた時のテーマです。Smoke For Mac OS XとFinal Cut Proの連携を重視しています。

― SmokeとFinal Cut Proの連携はどういう流れになるんですか。

近藤 今までのテープ環境の場合、まずAvidでオフラインの作業をしてイン点・アウト点のデータをEDLとして書き出します。そのEDLを元にテープからオンラインのマシンに映像を取り込むのですが、複数のレイヤーがあると、この作業をレイヤーごとに繰り返すわけです。それに対してFinal Cut Proでは、XML形式で編集データを出力できます。XMLには編集点だけでなくレイヤーなどいろいろな情報が入っていて、Smokeで読み込むことができるんですね。すべてを再現できるわけではないんですが、Final Cut Pro上で組み立てた編集の情報やレイヤーの情報がほぼ再現されるので、オフラインとオンラインの連携がすごく良くなるわけです。

小森 弊社の場合は同じマシンにFinal Cut ProとSmoke For Mac OS Xが入っています。Final Cut Proで最初からフルHDのオンラインクオリティで作業をしておくと、同じマシンのストレージの中にそのデータが入っていますので、Smoke For Mac OS Xでもう一度を取り込む必要がないんですね。

― Smokeでもタイムラインの編集はできると思いますが、最初から最後までSmokeだけで作業することはありますか。

近藤 CMの場合は、Final Cut Proのオフラインという段階を踏んで、クライアントさんの承諾を受けてから、その後の仕上げをSmokeにしたり、FlameやInfernoにするという流れになります。

小森 Smokeでオフラインもやろうと思えばできるんです。でも一番のネックは、Smokeでの取り込みは非圧縮になってしまうことです。素材を非圧縮で取り込んで、オフラインでそれを全て立ち上げるというのは、ストレージの容量の面で厳しいところがあって、やはりFinal Cut Proでオフラインをするのが妥当です。

― では、こちらのSmokeで最後まで仕上げる仕事はどれくらいありますか。

近藤 本数で言うと、現状は月1本くらいですかね。

小森 弊社の環境でフィニッシングまで行なうことは充分可能なんです。マスターモニターもありますし、HDCAM-SRのデッキもあるので、機材的には何の問題もありません。ただ、それほど部屋が広くないのでクライアント試写までは難しい。そういう場合は他のポスプロに行って、フィニッシングはそちらでやることになります。部屋のキャパシティの問題ですね。

img_soft_smoke_quadroot_05.jpg左のモニターはソニー製のマスターモニター。右はSmoke For Mac OS Xの画面。

近藤 CMの仕事で最近多いのは、この部屋にディレクター、プロデューサー、エージェンシーの方が来て、クライアント試写に向けての仕込みをやって、最終日だけイマジカさんに移って仕上げるという形です。

小森 そもそもQuadRootを立ち上げる時にそういう流れを想定していて、こちらで用意する部屋はそれほど大きくなくてもいいだろうと思っていました。最終的に他のポスプロに持って行くことを考えると、こちらの機材はオートデスク製品を選択するのがいいですし、SmokeならアーカイブでそのままFlameやInfernoに持って行けます。Smoke For Mac OS Xを導入したのはそういう理由もあるんです。

― FlameやInfernoと、Smokeとでは機能に違いがあると思うんですが、そこはいかがですか。

近藤 Smokeでもバージョンによって細かい違いがあるんですが、Smoke For Mac OS Xの場合は、FlameやInfernoにあるバッチ機能がありません。バッチというのは、処理をツリー構造にしてたくさん重ねられる機能で、たとえば1回合成したものに対してエッジの補正をするとか、全体でカラコレするとか、そういうことが一度にできるんです。Smokeにはその機能がないのでプロセスが多くなってしまいます。その辺は手間ではありますけど、ただその手間を惜しまなければ、同じことができるということです。それを見越してSmokeで構成を仕込んでおいて、最終的に他のポスプロでバッチ処理をして仕上げるというやり方をしています。

― バッチ以外で何か違いはありますか。

小森 あとは3Dトラッキングだったり、パーティクルだったり、そういう飛び道具ですよね。ただ、そこまで要求される仕事は、現状ではあまりないですね。

近藤 Smokeにない機能でも、他の安く売られているソフトウェアで代替できます。たとえばパーティクルならAfter EffectsやMotionで補えばいい。実際にはまだ、弊社でそこまでの準備はできていませんが、今後はそういうこともお客さんに提案したいと思っています。


長尺物の編集ではレンダリング不要の効率的な作業環境が実現

― ポスプロ業界でSmokeはどのくらい使われていますか。

小森
 海外ではSmokeのほうが多いと思いますが、日本ではまだそんなに使われていません。アクションやカラコレなど個々の機能はFlameやInfernoと一緒なのですが、最初の画面が全然違うんです。FlameやInfernoはデスクトップリールという考え方なのに対して、Smokeはソースエリア、レコードエリア、タイムラインという考え方で、オンラインエディターにとってはそこが一番とっつきにくいと思います。

近藤 最初は私もわからなかったですね。

― イマジカ時代からSmokeを使っていたわけではないんですか。

近藤 Smokeをさわったことがあるのは小森だけで、僕と、もう1人オンラインをやっている井鍋はFlameとInfernoだけ。2人ともこの会社を立ち上げてからSmokeを覚えました。もう1人吉田という女性がいますが、彼女はオフラインなのでAvidでした。その吉田がいまFinal Cut Proをやっています。

小森 オンラインでFlame、Infernoの経験のある人がSmokeをさわるのはそんなに大変ではないんですけど、オフラインの経験しかないと結構大変なんです。逆にオンラインに慣れている人がFinal Cut Proをさわろうとすると大変で、Avidをやっていた人がFinal Cutをさわるほうがスムーズだったりするんです。

― Smokeならではのメリットはどんな時に感じますか。

近藤 私はイマジカ時代からずっとほとんどCMばかり作業していたんですが、この会社を立ち上げてSmokeを使うようになってからは、何本か企業VPやDVDなどの長尺物をやりました。それで初めてわかったのですが、Smokeのタイムライン上でカラコレや、リサイズをかけられるのは非常に効率的だということ。長尺物のように編集に重きを置いた作業においては、Flame、InfernoよりもSmokeのほうがやりやすいと思いました。

小森 2時間半のライブDVDの仕事があったんですね。エフェクトをかけてカラコレをするだけなのですが、FlameやInfernoではいちいちレンダリングしなければならない。Smokeの場合はソフトエフェクトというタイムラインにかけられるエフェクトがあるので、レンダリングをせずに結果が見られます。2時間半の長さで全部レンダリングしていると、ストレージの容量が全然足りないんですよ。でもSmokeだと、最終的に出力する時に必要なところだけレンダリングすればいいので、すごく楽でした。

― ストレージの面でもメリットはあるわけですね。

小森 アーカイブという点でもSmokeは便利です。仕事のアーカイブを取るときに全部レンダリングしていたら、アーカイブのサイズが10テラぐらいになってしまうのですが、Smokeにはアーカイブを取る時にレンダリングを全部外せる機能があるので、1テラとか2テラで済ませられます。

Smoke For Mac OS Xによる仕事の例

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平野綾「AYA HIRANO SPECIAL LIVE 2010 〜Kiss me〜」[Blu-lay/DVD] (好評発売中)
Final Cut ProからXML形式で編集データを書き出して、QuadRootの編集室のSmoke For Mac OS Xでフィニッシングの作業を行なっている。

― 今後は、こちらのようにSmokeを使うポスプロが増えそうですか。

小森 SmokeがMacで動くようになって、しかもかなり安くなりましたが、既存の大手ポスプロが手を出すかって言うとそうでもないと思います。ウチのように小さいところとか、CGを専門にやっている会社はすごく興味があるんじゃないかなと思いますね。

― ポスプロ業界の中でも、会社の規模や仕事の内容によって機材やソフトが違ってくるわけですか。

小森 そうですね。ウチのような小さなポスプロはこれからたくさん出てくると思いますし、それによって業界の中で棲み分けが進むと思います。ポスプロの業界でも大きいところと小さいところが、お互いに役割分担しつつ、垣根を越えて協力し合っていくべきだと思います。

近藤 QuadRootという会社名にもそういう考え方を込めています。数字の4を表すQuadはクライアント、エージェンシー、プロダクション、ポスプロの4つを指しています。QuadRootはその4つの縁の下の力持ちとして、映像制作において「根っ子」の部分を担います、という意味を込めているんです。

小森 Quadには、この会社を4人で作ったという意味もあります。その4人が、足し算でもなくかけ算でもなく、相乗効果で無限の可能性を発揮しますよという意味で、乗根、Rootを使っているわけです。


4人のエディターの相乗効果で新しいポスプロを目指す

img_soft_smoke_quadroot_08.jpg左から吉田悦子さん、近藤寿一さん、小森謙司さん、井鍋渉さん。

― では最後に、4人のメンバーを簡単に紹介して下さい。それぞれの得意分野は何でしょう。

近藤 僕はクォンテル社のハリーの頃から、ずっとノンリニアでCMのオンライン編集をやっています。突出してすごい技を持っているわけではないんですが、コンスタントにそれなりの結果を出す、みたいな感じですかね。あとはお客さんとの人間関係を大事にしています。

小森 僕は新し物好きで、SmokeにしてもFinal Cut Proにしても率先して使ってきたし、映像信号とは何なのかという根本的なところから技術的なことに興味があります。

近藤 ウチのシステム構築は業者さんに依頼していなくて、小森が考えて構築したんですよ。信号のケーブルも出来合いのものではなくて、小森と井鍋が何十メートルか買ってきて、自分たちでバチッと切って組み立てましたから。

― では、その井鍋さん、お願いします。

井鍋 得意分野はそうですね、ケーブルを作ることぐらいですか(笑)。でも、ほかの人が「これは無理だろう」と言いそうなことを、淡々とやり続けるのは嫌いではないです。

小森 彼は本当に仕事が細かいですね。僕はイマジカではずっと井鍋と一緒に仕事をしていて、いつも感心していました。バレ消しの作業をよくやってもらうんですが、イマジカにいた時にはFlameやInfernoでやっていた作業を、今はMacでやってもらっています。

― 最後に紅一点の吉田さん、お願いします。

吉田 イマジカの時は最初、リニアの番組のアシスタントから始まって、次にノンリニアのCMのオンラインのアシスタント、その後Avidでオフラインをやっていました。その頃からCMのオフライン以外にも企業VPなどの仕事もして、QuadRootになってからもFinal Cut Proで完パケの仕事を何本かやっています。CMのオフライン専門というより、何でもやります。

小森 さっきも言ったように僕は新し物好きで、Avid社のAvid DSという製品も使ったことがあるんですが、Avid Symphonyだけはさわっていないんですよ。でも、吉田はその経験がある。オフラインに関しては、吉田が本当に頼りですね。

近藤 そうですね。QuadRootの4人は、誰1人として欠かせないチームだと思っています。


写真:竹澤宏


今回の訪問先

株式会社QuadRoot

イマジカ出身のエディター4人が2010年に起業したポストプロダクション。技術の進化と共に映像の可能性を探求し、ポストプロダクションの新しい形を提案している。
http://www.quadroot.com/


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