2014年04月08日
フォトグラファーがフォトブックを作る面白さはどこにあるのだろうか。キヤノン DreamLabo 5000で出力したフォトブック『BRASIL』が第55回全国カタログ・ポスター展で経済産業大臣賞(最優秀賞に当たる賞)に選ばれたフォトグラファーの南雲暁彦氏に、その醍醐味を聞いてみよう(注:『BRASIL』はPhotoJewelを利用したものではなく、DreamLabo 5000の出力見本としてキヤノンマーケティングが発行したもの)。
DreamLaboだからこそできたフォトブック
───今回受賞された『BRASIL』はDreamLabo 5000で出力されています。印刷業界の歴史ある賞でインクジェット出力が最優秀賞を獲得するのは画期的なことだと思いますが、南雲さんはDream Laboの表現力をどう評価されてますか?
凸版印刷 トッパンアイデアセンター チーフフォトグラファー
撮影:坂上俊彦
南雲 以前からDreamLaboの実力は知っていましたが、今回はたまたまタイミングが合って、1冊の写真集という形で作ることができました。
DreamLaboの何が一番の武器かと言ったらやっぱり「きれい」、その一言につきるわけですよ。例えば夜景のブルーのところとか、湖のブルーグリーンのところとか、通常の印刷では絶対出ない色ですよね。インクジェットのDreamLaboだからこそ出る色です。
また、デジタルカメラの性能がどんどんよくなってきていて、良いカメラを持っている人はいっぱいいるんですけど、撮った写真を見せるとなると、なかなか活かしきれていない。DreamLaboの解像度で、ここまでの大きさ(判型29×40.3cm)で出力すると、高精細化したデジタルカメラのデータをちゃんと表現できますよね。
色の深み、黒の締り、解像度。これらが総じて出す空気感が、理想ともいえる形で出てきます。リアルな写真として自分の記憶色がそのまま出せる、ということが一番の魅力ですね。
───今回、ブラジルというテーマで1冊フォトブックにまとめられたわけですが、その面白さはどこにありましたか?
南雲 せっかく撮った写真も、モニターで見ているだけとか、1枚プリントするだけではもったいないと思うんです。プリント1枚と写真集1冊っていうのは、情報量がまるで違います。例えば、今回の『BRASIL』は60ページで42枚の写真を載せていますが、42倍の写真の情報があるだけでなく、さらに本としてのページネイションの面白みだったり、物としての価値も出てきますよね。ここまでやりきると、一生懸命写真を撮った時の自分の思いが成就するんですよ。
───しかし、写真集を作るとなると、単に「よい写真を撮る」だけとは違う感覚が必要になりそうです。
南雲 そうですね。写真集を作るというのは、一昔前なら作家だとか限られた一部のプロの領域だったことです。でも、今はフォトブックサービスを使えば簡単にできるようになっているわけです。もちろん、よいコンテンツ(写真)があっての写真集ですが、やっぱり「本を作る」というプロセスも手を抜かない方がいいと思います。
見せる順番も大事だし、どの大きさで見せるのかも大事。どういう物語で何を見せたいかということを考える必要があります。簡単なデザインの本でもいいし、好きな写真集を真似てもいいし、少し勉強したほうがいいですね。
フォトグラファーにとっての「フォトブック」とは
───見る側も、フォトブックという形だとプリントとは違った印象を持ちます。
南雲 フォトグラファーの「ライブ」って撮っている時だけなんです。ミュージシャンなら客といっしょにライブができますけど、フォトグラファーは自分しかライブを味わえない。でも写真集を見せている時は、唯一それに近い「ライブ」な感覚を共有できるんですよ。
発行:キヤノンマーケティングジャパン
───ではフォトグラファーにとっては、自分のフォトブックを1冊作るということは、どんな意味があるのでしょうか。
南雲 写真集を1冊作ると、とても大きな達成感が出てきます。でもそこで満足するのではなく、「階段を一段積んだ」と思うようにしたほうがいいと思います。
実は僕は子供の頃にブラジルに住んでいたんですが、今回はそのブラジルをこの歳で訪れて撮るという、いわば半生を振り返った内容にもなっちゃっているんですよね(笑)。そういう意味でも、僕の人生の節目のマイルストーンができた。ここから先の何十年かの踏み台ができたような、大きな階段を積んだと思っています。これを足がかりにして次に行きたくなる。それが写真集を作るということだと思います。
取材:丸山陽子
※この記事はコマーシャル・フォト2014年3月号 特集「フォトグラファーのための高品質フォトブック」を転載しています。