Autodesk Smoke For Mac OS X

第2回 Smoke For Mac OS X が実現する、ポストプロダクションの新しいワークフロー 〜デジタル・ガーデンの場合〜

ポストプロダクションのデジタル・ガーデンは2010年8月、Autodeskのクリエイティブフィニッシング製品の2011バージョンを導入し、最新環境の編集室を増設した。同社の常務取締役、足立晋一氏にその背景と狙いを聞いた。

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デジタル・ガーデンに増設されたFlame 2011のオンライン編集室。

Smoke 2011 For Mac OS X と Flame 2011を新規に導入

― ここ2〜3年の間に、EOS MOVIEやRED ONEなどファイルベースのカメラがCMの現場で使われるようなって、映像制作のワークフローが大きく変化したと思いますが、その状況の中で今回、編集室を増設した経緯を教えてください。

足立 おかげさまでお客様からご好評いただくようになりましたが、その反面、せっかくのお問合せをお断りしてしまうことも多くなりました。ちょうどそのタイミングでデジタル・ガーデンが入っているビルの2階のフロアが空いたので、増床に踏み切りました。弊社は2006年に現在の広尾に移転したのですが、オンライン編集の部屋が5つ、オフライン編集の部屋が2つ、音声編集のMAが1つという構成で始まりました。その後、編集室の数に対してMAが1つだけでは仕事が回らなくなるという状況になってきたので、2階が空いたら、まずMAの部屋をもう1つ作ろうと思っていました。

編集室の方は、Flameの2011バージョンを入れました。2010年のNABで、Flameが立体視に対応するという発表がありましたから、将来的に立体視の対応まで考えてのことです。

テレビCMの合成の作業は、たいてい4日〜5日ぐらいかかりますし、長ければ1ヵ月かかって仕上げるようなものもあります。今回Flame 2011とHP Z800の組合せにより格段に速くなっています。スタッフの体感では3〜4倍のスピードアップと聞いています。これによってずいぶんと効率化できるわけでが、その一方で、これからますます合成の需要が増えるでしょうから、これを機会にFlameの部屋を増やしています。

でも、テレビCMは合成だけではなく、つなぎが重視されるものや、色が重視されるものもたくさんあります。今後はそのへんの仕事を積極的に取り込んでいこうと考えて、Flameだけでなく、新たにSmokeを入れることにしました。

最初のMAが足りないという話に戻りますと、今回はそこを改善しているので、全体としてはバランスがよくなったと思っています。これまでは、MAの部屋が取れないからという理由で、編集の仕事まで失うというケースが結構ありました。編集、MAで同じポスプロを希望されるお客様が多いということだと思います。

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デジタル・ガーデンで2つ目となるMAルーム。

― 増床によって増えた部屋の構成を教えてください

足立 Flame 2011が2部屋、Smoke 2011 For Mac OS Xが2部屋、MAが1部屋です。Smoke 2011の部屋にはそれぞれFinal Cut Studioも入っているので、Final Cut Studioは2階、3階で合計4部屋です。

― Final Cut Studioも併用しているんですか。

足立 ポスプロでは珍しいと思いますが、オフラインの仕事はFinal Cut Proでやっていました。広尾に移転した当時、他のポスプロではオフラインのメインはAvidのシステムを使っていたんですが、それをデジタル・ガーデンがFinal Cut Proに変えたのは、これからファイルベースの仕事が多くなるのではないかという予感からです。実際、最近ファイルベースの仕事がどんどん増えていますし、オンラインよりオフラインのほうが早く部屋が埋まりますね。

― 今回はFinal Cut Studioに加えて、Smokeも導入されたわけですが。

足立 Smoke 2011を入れた理由は、EOS 5D Mark II、EOS 7DなどのH.264のデータにネイティブで対応しているからです。H.264のデータをFinal Cut Proで読み込むと、ProResへの変換やレンダリングに時間がかかるなどの問題があったので、それをSmoke 2011で解決してしまおうと思ったんです。なおかつRED ONEのファイルにも対応しているので一石二鳥です。

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Smoke 2011 For Mac OS Xの編集室。Final Cut Studioも使えるようになっている。また、米国サンタモニカのポスプロCompany 3との業務提携により、業界初のリモートテレシネのサービスを提供している。この編集室とCompany 3をネットワークでつないで、日本にいながらCompany 3のカラリストとコラボレーションできるサービスだ。

Smokeでオフラインとオンラインの垣根のないワークフローを目指す

― 実際にEOSやRED ONEで撮られたHDの素材は多くなってるんですか。

足立 多いですね。われわれが増床しようと計画してから、いくつかの制作会社さんからプレゼンをしてほしいと言われました。今後のHD化や、デジタル技術の進化にどのように対応していくべきか参考にしたいということでした。

某プロダクションさんからは、EOSやRED ONEなどファイルベースのワークフローのプレゼンテーションをしてほしいという要望がありました。他のポスプロではProRes変換やデジタル現像で時間がかかってしまうということだったので、オフライン・オンラインの垣根がないSmokeでの編集ワークフローを第一に提案させていただきました。

― 垣根のないワークフローというのは、具体的にはどういうものでしょうか?

足立 Final Cut ProでH.264のデータを扱う時、ProRes変換する時間がどうしても必要ですが、Smokeではダイレクトに扱えます。また、Smokeはつなぎの編集だけでなく、Flameゆずりの合成や特殊効果の機能があるので、SmokeだけでHDの放送レベルまで対応できます。もちろんFinal Cut Proならではのいいところもあると思いますが、特にEOSに関しては、今はSmokeで対応できる作品も多くなっています。

とはいえ、ダイレクトに扱えると言っても、実際に作業を見ていると100%シームレスではないんですよね。当社のスタッフがノウハウを蓄積しているところですが、ここをシームレスにできるように、またレンダリング時間をもっと短縮できるような方法を考えながらやっていこうと思っています。

― RED ONEの編集もSmokeでやっていくということですか。

足立 ほかのポスプロさんではFinal Cut ProでRED ONEの編集をしているところもあって、その場合はプロキシ(オフライン編集用の軽いデータ)で編集するそうですけど、当社ではそういう作業をしていませんでした。これからその方法論を取り入れて、ノウハウをためていこうと思います。逆にSmokeはRED ONEにちょっと弱いので、どちらかというとEOSの仕事を多く振っています。

Flameと同等の機能を持つFlare 2011を導入して効率化をはかる

― Flameは2部屋増えたというお話でしたね。

足立 Flameは今まで5部屋あったので、それを含めると7部屋になりました。先ほどお話ししたように、Flameの実際の作業は4日も5日もかかるものが多いのですが、クライアントやエージェンシーの担当者が立ち会うのは最後の2日ぐらいです。最初の1日、2日はプロダクションの制作担当者とのやりとり、または仕込みと言われるマスク作業やキー合成を社内で行なうんですね。その部分を今回、Flareというソフトを導入して補っていくことにしました。オートデスクの担当者の方に聞きましたが、Flareが実際に稼働しているのは国内のポスプロでは初めてだそうです。

― Flareというのは、Flameのマシンとネットワークでつなげることで、Flameと同じ機能が使えるコンパニオンソフトですよね。

足立 そうです。Flameの部屋はクライアントやエージェンシーの立会い用、Flareは仕込み用として切り分けることで、時間的にもコスト的にも効率化をはかっています。Flameとは別に小さい部屋を1つ用意して、そこをFlare専用の部屋にしています。1人だけでマスクを切ったりしているとどうしても行き詰まってしまうので、2人のスタッフが話し合いながら作業できるように、一つの部屋にFlareのマシンを2台入れてあります。

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Flare 2011の編集室、同じ部屋にFlareが2セット用意されている。

ファイルベースとHDのワークフローにおけるSmokeのメリット

― 話は戻りますが、ファイルベースとHDはCM業界でいま最も大きな課題ですね。

足立 そうですね。従来のSDのようなポスプロのワークフローでは、HDは時間がかかりすぎるという話をよく耳にします。HDになったからといって制作費が上がるわけではないので、作業が早くなって今までの単価と同じくらいでできるのが一番望ましいと。われわれは、そのためにはファイルベースのワークフローに全面的に切り替えたり、オフライン・オンラインの垣根をなくしていくのがよいと考えています。

某プロダクションさんでは、フィルムの撮影が少なくなっていて、EOS 5D Mark II、EOS 7Dが本当に多くなっているそうです。しかし、どこのポスプロに行っても、一旦テープに落とすことを大前提で作業をされているので、これを変えなきゃいけないと思っている、というお話でした。われわれはこれまでも仕事のアーカイブをハードディスクで構築してきましたから、ファイルベースで仕事することにアレルギーはありません。

― デジタル・ガーデンさんでは、ファイルベースで早くからやってきたということですか。

足立 最初のファイルベースへの取り組みはアーカイブです。通常はオンラインのアーカイブを、放送用のビデオテープかデータ用のテープに保存しますが、ビデオテープに出力すると圧縮された映像になります。一方データ用のテープは画像の劣化はないのですが、読み書きに時間がかかってしまう。それならハードディスクに取り込んでしまえと。将来的にネットワークが速くなれば、そのぶん読み書きも速くなるはずだということで、もう6〜7年ぐらい前からやっています。最近の撮影素材のファイル化を受けて、データ環境、インフィニバンドや、SANと高速ネットワークも構築して、インプットからアウトプットまですべてテープレスで作業を行える環境を整えています。

― そうすると、現在ではほとんどファイルベースが中心で、テープの編集はあまりされていないですか。

足立 そうですね。テープの仕事はまったくないわけじゃないですが、ファイルベースの仕事は増えています。ポスプロ業界の中には、いまだにテープ神話というかVTR神話というのが確固としてありますが、われわれは、どうしてそこまでこだわるんだろうと思っています。逆に彼らはデジタル・ガーデンのことを「あいつらなんでファイル、ファイルって言ってるんだろう」って思っているのかもしれません(笑)。

― これからのファイルベースのワークフローで、Smoke For Mac OS Xのメリットはどんなところにあると思いますか。

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デジタル・ガーデン 常務取締役
足立晋一氏

足立 先ほどSmokeを入れた理由として、オフラインとオンラインの垣根がない編集スタイルを模索しているとお話ししましたが、今当社でSmokeを担当しているのは、オンラインをやっているスタッフなんですよ。つまりFlame、Infernoを使ったことのある人間にSmokeをさわらせているんです。SmokeのインターフェイスはFlame、Infernoに似ていて、たとえば合成のモジュールや、カラーコレクションのモジュールに入るとほとんど一緒です。なので、逆にFinal Cut Proしかしらない人間にとっては扱いにくいですね。

オンラインのスタッフから入れるようにした理由のもう1つは、マスクやキーイングをオンラインに慣れている人間がやらないと、オフライン・オンラインの垣根を取る意味がないということです。そして、これは当社の特筆すべき点なんですが、Final CutができてFlameもできる人間が社内に2人いるんですよ。彼らにしてみると、Smokeでは自分の得意とする編集もできるし、オンラインで培ってきたノウハウを生かして合成もできる。最初のうちはその2人がメインでSmokeを使って、次の段階でFinal Cut Proを使っていた人間にSmokeのノウハウをどんどん教え込んで、どちらも使える人間が増えていくよいと思います。

Smoke For Mac OS XによるテレビCMの事例

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サトウ食品
サトウの切り餅 モッチモチ篇
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ソニー・コンピュータエンタテインメント
グランツーリスモ5 ミニカー篇
このCMの詳細・動画はこちら

※ポストプロダクションは2本ともデジタル・ガーデンが担当

― Linux版のSmokeではなくMac OS X版を入れたのはどういう理由からですか?

足立 いちばん大きな理由としては価格的な魅力ですが(笑)、Final Cut Proと共存できるということも大きいですね。マシンはもちろんですが、映像をためておくストレージも同じにしています。さきほどSmokeだけでフィニッシュまで持っていけるという話をしましたが、たとえばFinal Cut Proでオフラインをして、同じ部屋でSmokeでオンラインという場合でも、簡単にデータのやり取りができる状況になっていますね。

― Smokeだけで完結する仕事もありますか?

足立 あります。プロダクションの皆さんは、ポスプロの価格をもっと下げられないかという話をされるんですが、どこのポスプロもFlameのバージョンが違うくらいで、実は同じシステムなんですよね。同じものを使っていたら、値下げの幅ってそれほど変わらないじゃないですか。それだったら、同じようなことができる別のソフトをもっと安いコストで導入して、そちらの単価をリーズナブルに設定するほうが健全です。

― プロダクションからの問い合わせはどうですか?

足立 みなさん興味と好意からお問い合わせをいただいています。たいていは「安くできるんですって?」という問い合わせなんですが(笑)、予算をお聞きして、「それならFlameではなく、Smokeの方がいいですよ」とか、「合成はFlameで、編集はSmokeでどうですか?」という提案をしています。

― プロダクションの人たちにもSmokeは知られるようになっていますか?

足立 いや、まだまだSmokeを知らない人が多いですよ。昔、何でもかんでもInfernoでと言っていたように、今はなんでもFlameでという傾向がありますね。

SmokeとFlameの一番の違いは、多重合成するモジュールなんですね。だから、これぐらいのレイヤー数だったらSmokeでもいけますよという形でお話をしています。今回はあまり合成しない企画だからSmokeにしようとか、今回は合成が多いからFlameにしようとか、企画によって使い分けてもらえるようになるのが、いちばん理想的だと思っています。


今回の訪問先

株式会社デジタル・ガーデン

主にテレビCMの、CG・編集・MAの業務を行うポストプロダクション。1998年に品川区大崎に設立。2006年6月より現在の広尾に移転。
http://www.dgi.co.jp/


関連情報
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