2016年07月14日
フォトセッションには、広告業界で活躍するフォトグラファー、富取正明氏と松木康平氏が登壇。ハイエンドな広告ビジュアルにおいて、キヤノンのデジタル一眼レフ「EOS」が使われるようになった今、それぞれ「EOS 5Ds」と「EOS-1D X Mark II」で実際に撮影し、その使用感や進化について語った。
解像度が高まったEOS 5Dsは広告写真の現場をこう変える
川本 皆さんこんにちは。『コマーシャル・フォト』編集部の川本です。今日はこのフォトセッションの司会を務めさせていてだきます。どうぞよろしくお願いします。
ここからはフォトグラファーの富取正明さんと松木康平さんに登壇していただき、これからのプロフェッショナルの現場について考えてみたいと思います。前半を「Canon EOS 5Ds」を使っている富取さんに、後半を「Canon EOS-1D X Mark II」をテストした松木康平さんにお話しいただきたいと思います。まずは富取さん、よろしくお願いします。
富取正明(とみとり・まさあき) 1976年3月東京生まれ横浜育ち。日本大学法学部卒業、電通スタジオを経て2003年独立。2012年PHOTOGRAPHERカンパニー OUTNUMBER inc. 設立。広告、雑誌、CDジャケット等、ポートレート撮影を中心に活動。2016年香港を皮切りにアジア各国で写真展「女優顔」を開催。2017年の東京開催を目指す。http://tomitorimasaaki.com
富取 皆さん、こんにちは。富取です。僕は普段、広告や雑誌でのポートレイト撮影を中心とした仕事をしています。今日は実際の仕事でEOS 5Dsを使って撮った写真を見ていただきながら、カメラの特性についてお話ができればと思っています。
川本 まず最初に私の方から広告写真の現状をお話しますと、これまで新聞・雑誌の広告やポスターなどの現場では、中判カメラとデジタルバックが使われるケースが多かったと言えるかと思います。しかしフルサイズデジタル一眼レフカメラの一部の機種が3000万画素クラス、5000万画素クラスになって、その傾向に変化が出てきました。
Canon EOS 5Dsは、5D Mark IIIの派生モデルで高画素に特化したカメラという位置づけだ
川本 EOS 5Dsは約5060万画素のセンサーを搭載し、高画素に特化したカメラですが、最近は広告の仕事でEOS 5Dsを使うフォトグラファーが増えています。富取さんもそうですか?
富取 はい。以前はほとんどの撮影を中判サイズのデジタルバック、Phase Oneで行なっていたんですが、EOS 5Dsを使うようになってからは、特に今年になってからこちらを使う機会がかなり増えました。やはり、解像度が高くなったのがその大きな理由です。
川本 主に中判を使ってきた富取さんが、EOS 5Dsを使って感じたのはどんなことですか?
富取 まず感じたのは、豊富なラインナップから使いたいレンズを選べるというEOSシリーズの強みですね。中判カメラでレンズを揃えようものなら、価格も機材のサイズもとんでもないことになってしまいます。
川本 肝心の写りについてはどうでしょうか。
富取 僕は世代的にもフィルムからデジタルへと移行してきた写真家なのですが、正直なところデジタル、特に35mm判のデジタルカメラはちょっと味気ないなと感じている部分がありました。例えば粒状感や人肌のトーンでそれが目立つな、と。ところが、EOS 5Dsはその点が大きく進歩しています。
EOS 5Dsで撮影した1枚。髪の毛の1本1本を細かく描き分け、肌の質感をナチュラルに表現している
富取 解像度が高いだけでなく階調がきれいに出るので、光の条件が厳しい環境でも髪の毛やまつ毛の一本一本を描き分け、肌のトーンをしっかりと出してくれる。フォーカスの浅い写真で、ピントが来ている部分からだんだんとやわらかく溶けていくところにも、トーンがしっかり残っている。この感じは、これまで中判デジタルカメラでしか出せなかったものだと言えると思います。
川本 写真を100%まで拡大しても、肌のトーンは綺麗ですね。
富取 ただ、解像度が上がるのはいいことばかりではありません。というのもアラが見えてくることがあるんですよね。その代表的な例がフォーカスです。これまでならピントが甘くてもごまかせていたことが、解像度が高いと見えてしまうんですね。キヤノンのオートフォーカスは優秀で本当にすばらしいと思いますが、たとえば目にピントを合わせると言っても、目のどこにピントを合わせるのか。そこまで突き詰めていく場合には、どうしても手での微調整が必要となりますね。
EOS 5Dsでは、8×10カメラのようにフォーカスがものすごく浅くて階調がきれいな写真が撮れる。白い洋服がボケている部分でもきちんと白の存在感が残っている
富取 深度の浅い写真でも解像度が高いゆえに、気を使わないといけない部分が出てきます。例えば、白バックに白い衣装の撮影ですと、EOS 5D Mark IIIでは両者が溶け込んで区別がつかないのですが、EOS 5Dsではその存在を意識する必要が出てきます。それに、わずかな手ブレもはっきりと見えてきますから細心の注意が必要でしょう。
ブレとボケはきれいに見せることが難しいのですが、もしそれをコントロールすることができれば大きな武器になるわけです。EOS 5Dsでは解像度が高まったことで、ブレやボケの部分の表現力も増しているように感じます。
EOS 5Dsの良いところが全て入った1枚。ハイライトの階調が豊かなので空が飛ばないし、背景のビルはボケが美しい。写真を拡大すると肌の質感がしっかりとしており、髪の毛が風で動いている部分のブレもきれいだ
川本 中判デジタルとの使い分けはどのように考えていますか。
富取 個人的な感覚ですが、EOS 5Dsにはやわらかさ、しっとりさが合うと感じています。一方でコントラストがはっきりとした表現は中判カメラの方が適しているのかな、と。そのために女性を撮る際にはEOS 5Dsを、男性の撮影には中判デジタルを、といった感じに使い分けることが多いです。それから色の厚みは中判デジタルの方が一日の長があるので、リッチな色、カラフルな写真を撮る時は中判を使いますね。
川本 男性と女性でカメラを使い分けるというのは、中判と一眼レフの両方を知っている富取さんならではの感覚ですね。ところで富取さんは、若手の人気女優10人の写真展「女優顔」を今年の2月に香港で開催されましたね。
富取 「女優顔」の作品は個展のために撮影を続けてきたものです。写真は被写体の今を記録しますが、撮る者の今も記録します。僕は今年40歳の節目の年で、これから写真への向き合い方も変わっていく頃だと思うので、今の自分にしか撮れない写真を真正面から撮ってみようと、いろいろな女優さんとコラボレーションをしました。
川本 この展覧会の写真もやはりEOS 5Dsで撮影されたのでしょうか。
富取 一部はEOS 5D Mark IIIですが、ほとんどがEOS 5Dsです。さきほど、このカメラは女性を撮るのに向いているという話をしましたが、実はそれ以外にも、この作品は一眼レフで撮るほうがいいと思う理由がありました。
女優というのはいつも誰か別の人間を演じている人たちですが、この「女優顔」ではすべての役柄を脱ぎ去り、自分という人間に対峙しているときの彼女たちを撮ってみたかった。そのためには、こちらも真正面から彼女に向き合わなくてはいけない。
僕は、中判カメラは昔ながらの巻き上げ式のハッセルブラッドを使っているんですが、この作品はウエストレベルに構えて撮るのではなく、自分の目線の高さで撮れる一眼レフタイプで撮りました。そのおかげもあって、彼女たちがそれぞれに今の自分の顔を、見せてくれたんじゃないかと思っています。
川本 この写真展、日本でも来年には開催する予定があるとのことです。非常に楽しみです。そろそろお時間となりましたので、富取さんとのお話はここまでにしたいと思います。どうもありがとうございました。
富取 どうもありがとうございました。
EOS-1D X Mark IIがもたらす新しい表現力
川本 さてここからは松木康平さんにご登壇をお願いしたいと思います。松木さんには雑誌『コマーシャル・フォト』の企画でEOS-1D X Mark IIを使っていただきました。
松木 はじめまして、松木です。私は広告や雑誌でポートレイトなどの撮影をしています。普段は中判カメラを使うことが多いので、今回の企画はとても新鮮で、楽しい経験をすることができました。
松木康平(まつき・こうへい) 兵庫県生まれ、成蹊大学文学部卒業。北井博也氏の専属アシスタントを経てフリーランスのフォトグラファーとなる。現在、広告撮影を主として活動中。ライフワークとして風景を撮影していて時間ができると国内、国外問わず作品の撮影にいく日々を送る。http://matsukikohei.com
川本 松木さんには「普段中判カメラを使っている広告フォトグラファーが、スポーツや報道の現場で使われるカメラであるEOS-1D X Mark IIを使ったらどんな写真を撮るのか」という企画に挑戦していただいたのですが、作品を見ていただく前に、まずはEOS-1D X Mark IIの特徴を紹介したおきたいと思います。今年の春に発売された新しいカメラで、主にスポーツや報道の現場で使われているカメラです。その最大の特徴は秒間14コマの撮影機能でしょう。
Canon EOS-1D X Mark II。画素数は約2020万画素だが、高感度画質の向上や高速なAF、そして秒間14コマの高速連続撮影など、最新鋭のスペックを誇る
川本 では、松木さんがどんな写真を撮ったのか、ご覧いただこうと思います。松木さんには「スポーツとファッション」というテーマをお伝えしていました。
松木 EOS-1D X Mark IIというカメラの特性を意識しながらも、今回の撮影のテーマである「スポーツとファッション」に、僕が普段手がけている広告的な要素を加えてみようと考えて撮影をしました。「卓球」をテーマにしたのは、道具や卓球台、ユニフォームがとてもグラフィカルだなと感じていたからです。それもあって、作品の仕上げの段階で色味を調整するなどして、グラフィカルなイメージに仕上げています。
川本 ファッションと卓球という、ある種のミスマッチ感が広告っぽいですね。撮影してみてEOS-1D X Mark IIというカメラをどう感じましたか?
松木 普段、中判カメラを使っていることもあって、使う前にはちょっとした不安がありました。特に背景のグラデーションがちゃんと表現されるのかが気になっていたんですが、結果としてまったく問題はありませんでした。驚いたのは秒間14コマの連続撮影機能ですね。今回、Mac Proとつないで撮影を行なったんですが、バッファ用のメモリが大きいからか、一度も止まることなく動き続けてくれました。あまりに気持ちよくて、ずっとシャッターを押し続けていたいと感じるほどでした(笑)。しかもAFもすばらしく、連写中もしっかりとピントを合わせ続けてくれました。
秒間14コマで撮影した画像を、Adobe Bridgeで閲覧。1列に7枚の写真が並んでいるので、この画面には7枚×3列=21枚、つまり約1.5秒分の写真が並んでいる
松木 こういった撮影を中判カメラで行なう場合、1回のアクションで1カットの撮影しかできないのが普通で、モデルさんとタイミングを合わせて撮りたいショットを狙って撮ることになるのですが、EOS-1D X Mark IIなら連写ができてしまうので、短時間で狙い通りの撮影ができました。モデルさんの集中力も落ちませんでしたし、質の高い撮影ができたと思います。今後は広告の写真でも、スポーツなどの動きのあるショットはEOS-1D X Mark IIを使ってみたいと思っています。
川本 なるほど。ちなみに照明はどういったものを使ったんですか?
松木 今回の撮影は、横浜スーパー・ファクトリーという、ムービー撮影も可能なスタジオで行なったのですが、映画やCMなどの撮影に使われるHMIの定常光を使いました。定常光を使ったのは、ストロボでは秒間14コマを制御するのは難しいと考えたからです。
- 横浜スーパー・ファクトリー
http://www.y-s-f.co.jp/
川本 実は松木さんには、別のカットも撮っていただいています。
松木 こういったセミナーでお話をするにあたって、もう少しカメラを使い込んでおきたかったし、楽しんでみたいとも思ったので、日を改めて撮影をさせていただきました。ここでは俳優でボクシングのライセンスを持っているKENROKUさんと、RK蒲田ボクシングジムにご協力をいただきました。
ボクシングをテーマとした作品撮影。定常光を用意し、手持ちで撮影を行なっている
川本 撮影場所はスタジオではなく、本当のボクシングジムなんですね。どんな準備をしたんですか?
松木 先ほどのものに比べると光量は小さいのですが、HMIを2灯設置し、さらにカメラの上に小さな定常光を付けました。感度はISO3200〜6400程度まで上げましたが、立体感も質感も出ていますし、ノイズも問題ありませんでした。写真でノイズのように見えるものは、仕上げの際にあえて演出として粒状感を加えたものです。それとこの撮影では、カメラをMac Proにはつながず、データをカメラ本体側のカードに保存しました。EOS-1D X Mark IIで採用された、「CFast」という新しい規格の高速なカードを使ってみたのですが、Raw+Jpegで連写をしてもまったく止まることなく保存ができました。
川本 なるほど。小回りのきいた撮影も可能ということですね。
撮影の様子。HMI2灯に加え、カメラの上に小さな定常光を付けて撮影を行なった
川本 さて、そろそろ時間になってしまいました。今日は普段中判カメラを使っている富取さんと松木さんのお二人に、それぞれEOS 5Ds、EOS-1D X Mark IIを使っていただき、これらのカメラの持つ解像感やスピードを活かす撮影をしていただきました。これら新しいEOSが、これからの広告写真の可能性を大きく広げていきそうだと感じていただけたのではないかと思います。今日は皆さん、どうもありがとうございました。
取材:小泉森弥
会場写真:竹澤宏
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