2022年10月25日
最先端の映像制作手法を活用した企画提案、撮影、制作を行なうニコンクリエイツが4月に発足。ボリュメトリックビデオ技術を用いて制作したショーリール第二弾を10月13日に公開した。同じ撮影素材を用いて、3名のクリエイターが各々の作風で表現するという画期的なもの。クリエイター3名に話を聞き、ニコンクリエイツのボリュメトリックビデオシステムの感想を聞いた。
ボリュメトリックビデオ(以下VV)技術とは、被写体の周囲360度、多数のカメラで撮影することで位置や動きなど空間全体を動画データ化。それをもとに3D映像として生成できる技術で、昨今、MVなどのエンタメをはじめ、スポーツや教育などあらゆる映像の現場で導入されている。今年4月に営業をスタートしたニコンクリエイツは、10月13日に平和島でVV撮影システムを稼働。VV撮影のみの受注も積極的に行なっていく予定だ。
今回発表された3作品は、そのVVシステムで撮影されたもので、人気バンド・SPiCYSOLを被写体としたMV。監督を務めたのは牧野惇、髙田弘隆、加藤ヒデジン。そう、ひとつの撮影素材で3名の監督がそれぞれに作品を制作したのだ。一度撮影してしまえば、あとからシチュエーション、アングル、カメラの寄り引きをいかようにも編集できるVVならではの試みだ。3パターンのMVの制作は撮影から完パケまでわずか2ヵ月足らずと、非常にタイトなスケジュールだが、VVシステムがそれを可能にした。
ニコンクリエイツのVVシステムの強みは「高画質」。これまでのVVは解像度の面がどうしても弱く、CGで補う必要があった。結果、“いかにもCG”的な仕上がりになっていたが、今回公開された3作品はいままでのVVの画質を圧倒的に超えるレベルの自然で高品質な映像だ。VVシステムにより、映像制作の現場から新たなクリエイトが始まりそうな予感に、期待が高まる。
ボリュメトリックビデオの撮影風景。円形スタジオ中心付近で、メンバー1人ずつ撮影。位置・角度チェックのための簡易的な3Dデータがほぼ同時に生成されるプレビュー専用システムも用意されている。
髙田弘隆
「楽曲を聴いて感じた透明感や都会的な空気感をもとに、特に光にこだわって制作しました。実写では到底不可能な脳内イメージをそのまま再現できることがVVの一番の強みですね。今回は背景もフルCGですが、先に背景を決めて実写で撮影し、VV撮影時、背景に合わせたライティングを施せばよりハイクオリティになります。映画やドラマの現場でも活躍していくでしょうね」(髙田)。
behind the scenes
プレビズ(完成した状態を想像できるシミュレーション映像)を作成。背景はフルCGで、光や空気感にこだわって作られた。CGチームとの打ち合わせややりとりはほぼすべてオンライン上で行なった(写真下)。
たかだ・ひろたか
グラフィック撮影助手、エディターを経て、ディレクターとしての活動を開始。MV、ステーションID、VJで注目を集め、TVCM、ショートフィルム等へ活躍の場を広げる。独自の映像美を活かし、クオリティの高いビジュアルが求められる作品を多く手がけながら、ファッションスチールの世界から撮影技術、人物に対しての照明手法を学び、演出だけではなく、D.O.P.も兼任。常にインスピレーションとフィジカルな感覚を大切にした作品づくりを心がけ、広告写真を始め、音楽アーティストのジャケット等のスチール撮影も行なう。
takadahirotaka.com
牧野 惇
「テーマはよくありそうな“低予算のMV”。それが実は最新の映像技術を使っている、という面白さを目指しました。渡されたデータが、動きも質感も想像よりはるかにリアルだったので驚きました。バーチャルカメラで撮影して手ブレを入れたり、空中にゴミを足したりとできるかぎり現実感を演出して、最後はネタバラシで視聴者を驚かせる作りにしました」(牧野)。
behind the scenes
VVで作り上げたステージと同等サイズの会議室を用意し、バーチャルカメラを使用して実際のライブ映像と同じように撮影。手ブレや揺れなどを人の手を加えることでよりリアルな映像になった。
まきの・あつし
映像ディレクター、アートディレクター。実写・アートワーク・アニメーションの領域を自在に跨ぎ、映像ディレクション、アートディレクションから、アニメーションディレクション、キャラクターデザイン、イラストレーションまで総合的に手掛ける。
ucho.jp
加藤ヒデジン
「菌が増殖するように、ひとつのものが大量に増えるというVVならではの表現を考えました。実写背景との馴染みもなかなか良好でした。単なる合成だと撮った素材に合わせるしかありませんが、VVは時間帯や場所、アングル、カメラのレンズを選ばないので、あとからいくらでも調整がききます。昔の映画に他の人を出演させるなど、無限の可能性を感じました」(加藤)。
behind the scenes
加藤監督が以前から気になっていたという木更津の美術館で、背景の撮影。監督自らもカメラを回し、ドローンで上空からも撮影(写真下)。実写とVVを馴染ませるために色調整や粒子加工を施すなどした。
かとう・ひでじん
大阪芸術大学映像学科卒。在学中に手がけた長編映画がハンブルク日本映画祭に正式出品。卒業後は映像制作会社でディレクターとして活動したのち、独立。現在P.I.C.S. mangement所属。MV、TVCM、Webムービー、ネットドラマなど多数。映像作家100人2020~2022選出。
dot-hidejin.com
※この記事はコマーシャル・フォト2022年11月号から転載しています。