2014年09月02日
レタッチ、マットペイント、3DCGに精通しハイクオリティな画像作りに定評のある職人集団 こびとのくつ。いわゆる“レタッチカンパニー”の枠を越えてクライアントの要望や悩みに対し、豊富な知識と経験を駆使して最善策を導き出す「ビジュアル・コンシェルジュ」という新たなスタンスで広告制作に関わっている。彼らの最近の仕事を紹介し、時代の流れを敏感に読みながら進化する彼らの新たな取り組みに迫る。
画像作りに関する相談に豊富な経験・技術に基づいて応える
こびとのくつでは、これまでも画像処理業務以外にも、プロジェクト企画段階での打ち合わせや撮影に参加し、提案や撮影素材を依頼するなど積極的に制作に関わってきた。しかし、それとは別にビジュアル全般に関する相談を受けることも増えてきたという。たとえば写真より3DCGで制作した方が効率的ではないか、広告媒体サイズを想定してのカメラの選定から最適データサイズの設計など、撮影前段階でのより具体的な意見を求められるようになった。それはこれまでの実績から同社が顧客からの信頼を得ているが故だろう。それならば更に一歩踏み込んでクライアントが抱える課題、予算や機材面も考慮しながら相談に1つ1つ丁寧に応える“画像制作に関するよろず相談屋”(=コンシェルジュ※)として顧客のサポートをしたいという考えに至った。
ホテルの職域の1つで、宿泊客の様々な相談や要望に応える「よろず承り係」。チケット手配、道案内のほか、人探しや物探しなど顧客に応じた要望を承る「究極のパーソナルサービス」。きめ細かいサービスが注目を集め、今では観光案内所や百貨店など、多くの業界・企業に、コンシェルジュ制度が広がっている。
もちろん、これまで培ってきた画像制作のスペシャリストという姿勢は変わらない。単なる画像修正的なレタッチとは一線を画す絵画的な表現やレタッチ技術。「制作のバックボーンを支えるのは、確かなデッサン力」だという。ここでの“デッサン力”とは表現テクニックや絵の上手さだけにとどまらず、的確にモチーフの本質を捉える力という意味も持っている。クライアントからの課題やアートディレクター・フォトグラファーのイメージなど様々な物事の本質を捉え、画像に落とし込む技術。そういったバックボーンを持ち合わせたスタッフがいるからこそ、「ビジュアル・コンシェルジュ」という質の高い画像ソリューションを可能にしているのだ。
横浜DeNAベイスターズ ポスター
沖縄のロケ地にて選手を個別撮影したものを現地でプレオペレーションし、全体のトーン感・構図などの方向性を制作チーム内で共有しながら進行した。RAW調整を含む独自のHDR現像と、ストックフォト・実写・手描きによる背景制作などの舞台演出を行ない、解像度の高い緻密な画像の生成を行なった。多媒体への対応を考え、また単独使用できるよう、現像サイズと個別画像の解像度設計を事前に行なっている。フォトグラファー・デザイナーの表現追及を、テクニカルな部分でフォローするというレタッチャーの役割が垣間見える作品。日本グッドイヤー ICENAVI6 TVCM&ポスター
ダースベイダーはスタジオ撮影、背景と接地の影等はストックフォトと手描きによる2次元描写で制作されている。映画でいうマットペイントのような手法で、限られた製作費と時間の中で、壮大な背景を制作する必要がある際に、美術やCGに頼らずともクオリティの高い空間を演出できる。ちなみにこの背景は、グラフィックとCFそれぞれで使用し、カメラアングルとトリミングの違いに合わせ、メインビジュアルから4バリエーションを生成している。「ARTISAN×CONCIERGE」を掲げる「こびとのくつ」のこれから
新たな取り組み「ビジュアル・コンシェルジュ」のキーワードは「ARTISAN×CONCIERGE」。職人(ARTISAN)の専門的知識を活かし、顧客の要望に応えるコンシェルジュ(CONCIERGE)のような存在でありたいという意思が込められている。代表 工藤美樹氏に「こびとのくつ」のこれからを聞く。
職人の専門性と精神性
「歴史や伝統、古典美術の持つ永続性・普遍性に敬意を払いながら、伝統と先端テクノロジーの融合を図る。その一方で時代の空気を捉えながら、時代を超えた真のクリエイティブの価値を提供する企業であり続けたいと考えています」。
幼い頃から油絵や水彩、書道を学び、日本画学校や美術学校で高度な職人の技術を習得してきた工藤氏。そこで学んだことは技術だけでなく、質の高いビジュアル作りを突き詰めこだわり抜く姿勢や企業経営思想にも影響をもたらしている。伝統工芸や古典美術の歴史・伝統・永続性・普遍性を尊重し、制作や企業経営上でもそれを活かす方法を模索する姿は、いかにも絵作り職人である工藤氏らしい。
クライアントにとっての最善策を真摯に話し合う
専門知識と技術・経験を駆使し、ホスピタリティマインドでクライアントの要望に対し最善策を導き出すコンシェルジュ的役割の融合。しかし、それは創業当初から実現できたわけではない。「最高品質のものを丁寧に作れば喜んでもらえる」職人の発想から、質・コスト・時間をかけてしまい顧客本来の希望から乖離した時期があったという。さらに皮肉にもリーマンショックと震災もまた、受注減という形で同社を苦しめた。
「精神的にも経営的にも苦しい時期でしたが、そのおかげで会社の方針を徹底的に考え直す貴重な機会に恵まれました。そして本当の意味で顧客の役に立ちたいと謙虚に思い、行動するように自分自身も会社も変わっていきました」。
さらに工藤氏はこう語る。
「俯瞰した視点で仕事全体を理解する感覚を持ち、顧客だけでなく制作スタッフ全員に何を与えられるのか、どう役に立てるのかを常に考えていきたいです。
また“コンシェルジュ”という職種には、同業他社ともネットワークを持ち、助け合いながら顧客の要望に応えるという意味も含まれます。そういった点でもいろんな人とコミュニケーションを取りながら業界の“ビジュアル・コンシェルジュ”のような立場でありたいと思っています」。
“豊富な専門知識”と“ホスピタリティ溢れる対応”。こびとのくつはこの両輪を同じ速度で回転させ、レタッチ業界だけでなく広告業界にも新たな風を吹き込んでいくだろう。
こびとのくつの現代表取締役。7歳より油画・水彩・陶芸・書道を学ぶ。アマナを経て、2005年こびとのくつ株式会社を設立。
JVC ポスター
カンプの段階から3DCGを活用してアングル検証や質感表現を行ない、本制作さながらのクオリティでの画像制作を行なった事例。このカットの他に、縦ポスター用・カタログ用など媒体に合わせた画像も制作している。最初に製作した3DCGベースデータを最大限活用して媒体毎にアングルやライティングに変化を持たせバリエーションを作成することで、広告としての統一性と媒体への柔軟な対応力、コストパフォーマンスのすべてを実現できる。塚田直寛氏パーソナルワーク
「デジタルカメラと撮影後のレタッチが普通になったことで、フォトグラファーの撮影データにおける完成度についての考えや、緊張感に変化が起こっている事実を、年間数百点のデータに接するレタッチャーは感じていると思う。その中にフォトグラファーのパワーを感じられる写真があり、そういった写真はレタッチャーの後加工に表面的には変化しても本質はびくともしない。データが粘るとでもいうような感覚であり、仕事を通じてそういった宝石のような写真に触れることができるのがレタッチャーとしての最高の快楽ですね」(工藤美樹)。※この記事はコマーシャル・フォト2014年9月号から転載しています。