2017年02月27日
1500人のプロフォトグラファーと契約し、一般の人にまるでスポーツ雑誌のようなクオリティの高い写真を提供するフォトクリエイト。代表取締役を務めるのが大澤朋陸氏だ。フォトグラファーと共に写真の新たな可能性を見出した秘訣を聞いた。
アマチュアスポーツ写真で『Number』のレベルを目指したい
───東京マラソンの参加者全員を撮影するインターネット写真サービスで一躍その名を知らしめたフォトクリエイト。ユーザーは、マラソンや音楽会など、自分が参加したイベントでかつてない活き活きとした写真をプロフォトグラファーに撮影してもらい、それを自由にチョイスすることができる。
フォトグラファーは、紙媒体の減少により持て余す機材と能力をフルに活かし、アマチュアスポーツやイベントの現場でクリエイティブな写真を撮れる。
この両者のマッチングは、インターネット技術とデジタルカメラの普及が生んだ賜物だった。
モータースポーツなど専門の知識と経験が必要な競技でも対応できるフォトグラファーを確保している。
大澤 創業は2002年です。「IT×○○」というビジネスモデルが流行っている頃、もともとインターネット関連の仕事をしていた創業メンバーが、アメリカでインターネットを通じて写真を売るビジネスがあることを知ったことがきっかけです。それまで日本のネット業界に写真というジャンルはなく、可能性を感じました。
最初はプロフォトグラファーにネット上で写真をアップしてもらい、それをユーザーが買う、というプラットフォームを作りました。しかし当時日本人はまだネットを自主的な売買の場とすることに慣れていなくて、定着しませんでした。そこで、フォトグラファーに「我々がギャランティをお支払いし、写真を販売するので、撮影してください」という方法に変えたんです。
───同社は順風満帆に新ビジネスを展開していった革命児のような印象があるが、創業時は似たようなビジネスがなかった分、手探りで地道な努力を積み重ねた。
大澤 まずスポーツの大きな大会など、日本中のイベントを探しました。ネットはもちろん、種目ごとに雑誌や、スタジアムに貼ってある予定表、また全国の役所の市報や区報を、社員が全国を回って集めました。
次にフォトグラファーのスカウトです。イベント会場でフォトグラファーが通るのを待ち、機材を見て声を掛けて、交渉する。たとえばJリーグを撮っているフォトグラファーは、毎日試合があるわけではないので、「空いている時間に子供たちを撮っていただけないでしょうか。Jリーグ選手のような写真を子供たちにも届けたいんです」と話します。カメラマンにとっても、子供の大会だからといって、集合写真ではなく、プレー中の写真が撮れるというのはやりがいのある仕事だと思ったのです。お声掛けして、いちばん最初に集まっていただいたのは、報道系のフリーフォトグラファーでした。スポーツは望遠レンズなど機材が重要になってくるので、機材も技術も揃っているその道のプロの方々にお願いできたのは良かったです。また、報道系の方々は横の繋がりがあって、知り合いから知り合いへとネットワークを広げていただいたのも有難かった。
きっかけは社交ダンスの撮影
───会社が軌道に乗ったきっかけは社交ダンスだった。JDSFという日本でいちばん大きな社交ダンス連盟に提案したのだ。
大澤 社交ダンスは勝ち進むと人数が減りますが、最初は全員が一気に踊るので会場中に人が溢れ、しかも動きが早い。きれいなドレスを着てメイクをして挑むせっかくの晴れ舞台にもかかわらず、素人の人にはなかなかダンス中のベストショットは撮りづらかった。我々はそれを「全員押さえます」とご提案しました。
社交ダンスの撮影は2003年から行なっている。
───そしてスポーツ全般に向けた「オールスポーツ」サービスを開始。
大澤 全国大会なら話は別ですが、たとえば小中学生のサッカーや野球、バスケの試合でのフォトサービスといえば、集合写真を撮ってパネルを回覧したり、学校の壁に貼って欲しい人が買うという集合写真屋さんのシステムが主流でした。しかも開会式のひな壇写真か、ゴールを決めた人の写真くらいしかない。でも我々のサービスは、どんなに小さな大会でも全員、プレー中のかっこいい写真を撮る。
たとえば小学生のサッカーの試合などの場合、みんなが一斉にボールに向かって走ってしまっても、プロは一人を切り取って一枚の写真に収められる。また、ゴールに絡んでいなくても、たとえベンチにいる選手でも輝いている瞬間はあるので、そこを逃さずに撮る。サポートでも、そこに居るだけで記念になるんです。そういった写真が、スポーツ雑誌の表紙を飾るようなクオリティで残る。参加者全員の写真を大量に撮影し、そのデータをネットにアップし、参加者が気に入った写真を購入します。従来の写真サービスに集合写真が主流だった理由として、フィルム撮影の物理的な問題も多かったと思います。デジタルになれば、写真データをウェブ上にアップして見てもらうので、見本を回さなくて良いという利点も生まれました。
レギュラー選手だけでなく、参加選手をすべて撮影するのが同社のモットー。
───ノウハウを蓄積しながら活動を続けていた2007年、一気にその名が知られるきかっけとなったビッグイベントに出会う。東京マラソンだ。
大澤 マラソン自体は2003年から撮り始めていたんですが、マラソンは大抵、役所が主催していることもあり、インターネットのサービスには、個人情報に厳しくて壁が高かったんです。ところが、2007年の東京マラソン第1回大会でオフィシャルサービスになったことをきっかけに、それまでまったく興味を示していただけなかったところも「東京都がやるのなら」と信用度がグンと上がりました。
システムとしては、参加者がサイトにアクセスし、自分のビブナンバーとパスワードを入力するとそのナンバーの写真が見られる。我々は、必ず大会のオフィシャルで入って、参加者募集の時点で「この大会にこんなサービスがあります。また、大会中の写真が撮影され、ネットに掲載されます」と告知していただいています。これは信用度を上げるだけでなく、参加ランナーへのサービス自体の認知にも繋がりました。さらに、東京マラソンで我々のサービスを知ったランナーが別の大会でも利用してくれるなど、主催者にも、参加者にも一気に周知できました。
2015年2月22日に行なわれた東京マラソンの様子。©東京マラソン財団
写真はホノルルマラソンの撮影風景。ランナーに撮影ポイントがわかる様に合図している
───「オールスポーツ」はマラソンやサッカーからなぎなたまで70〜80種類。社交ダンスを撮る「ダンスライフ」、モータースポーツを撮る「サーキットフォト」、よさこいなどのお祭りを撮る「ヨイショッ!ト」、吹奏楽など音楽イベントを撮る「ステージライフ」、また学校や幼稚園を撮る「スナップスナップ」などあらゆる場、ジャンルを網羅する。ペットのイベントに簡易スタジオを組んで撮影する「フォトチョイス」、七五三や成人式、卒業式を、神社や学校、区役所やホールと提携して、来場者にライトな感覚で撮影を楽しんでもらう「フリースタジオ」も始まった。
大澤 卒業式や成人式で写真館で撮る文化はこの先もあるものですが、そこまでするほどではない、という層は増えています。一方で卒業式の場にあって気軽に撮れるならいいかなという中間層もいる。「フリースタジオ」はこの層の方に訴えようと思いました。また、「スナップスナップ」は幼稚園ではイベント時の撮影が主でしたが、「普通の日のスナップを撮りましょう」と提案したり。フォトグラファーやお客さんの反応を見ながら新しい展開を常に探っています。
───登録フォトグラファーは1500人弱。管理サイトには、住所、得意分野、持っている機材や、スキーが滑れるかどうかまで、非常に細かいスキルレベルが点数とともに入力されている。点数は種目ごと。このデータをもとに、フォトグラファーは適材適所に現場を振り分けられる。
大澤 コミュニケーションが得意な方、スポーツの瞬間を切りとるのが得意な方、やはりフォトグラファーの適材適所は重要で、それによって売上げが全然変わります。インターネットで写真を販売しているので、お客さんがどの写真を何枚買ったのか、どのフォトグラファーが何枚売れたのかがはっきりわかります。自分の写真の反応がダイレクトに返ってくるのでやりがいになる。個人の写真なので、ご本人や、撮られたお子さんの親御さんが欲しいと思うか思わないかが売上げに繋がり、そしてフォトグラファーの評価に繋がる。売上と経験、社員の声、あとは幼稚園撮影だとコミュニケーションが必要になってくるので、幼稚園の先生の声なども加味し、数値化していきます。
フォトグラファーのギャラは毎年1度更新されます。収入は人によって全く違います。とにかくお客さんが何を欲しがっているかを重視します。非常に公平なシステムだと言えます。写真のクオリティについての管理は、プロフォトグラファーにアドバイザーとして見てもらっていますが、それぞれの管理画面で自分のどの写真が売れたのかがわかります。お客さまの反応を見ながら試行錯誤して、どんどん写真が良くなっていくフォトグラファーも多いです。また、ユーザーの声を反映して、機材を増やす人もいる。ストロボなのか、レンズなのか、どこに投資すればいいのかを考えるようです。
フォトグラファーに年齢齢制限はありません。大切なのは動けるかどうかです。社員フォトグラファーを定年後にうちにいらしていただいたという方もいます。ベテランと新米を意識的に組ませたり、機材を貸し出したりしながら育成していこうと考えています。まだまだフォトグラファーの方に我々の存在が知られていないのですが、アマチュアスポーツ写真で『Number』のレベルを目指したいと考えています。非常にやりがいのある仕事がここにあることを知ってもらいたいですね。
───フォトクリエイトでは、創業からこれまで撮影された写真はすべて保管している。時間が経ってから価値が生まれることもあるからだ。
大澤 今まで撮った写真に価値があるんだということは、我々もやりながら気付いたことです。震災の津波で写真が流されてしまったお客さまに、「元データあります」とプリントして差し上げることができました。販売方法が壁貼りからネットに変わったというだけではなく、写真の中身自体が大きく変わるんじゃないかと思います。今後は「フォトライフ構想」といって、誕生から学校入学、結婚出産など、いろんなライフイベントで、瞬間瞬間をプロのフォトグラファーに撮ってもらって、それを全部ストックして欲しい時に買えるプラットフォームを作っていきたいんです。自分の写真が人生を通して集まっているアルバムのようなインフラになっていくのが理想ですね。