2021年04月13日
良い機材で全力のライティングをして、最高の写真が撮れた。それで良かったとはならないのがプロの仕事。最後まで気は抜けない。データを納品する前の最後のひと仕事、それが入稿データの作成だ。せっかくの写真を殺すも生かすもデータの作り方次第と言っても過言ではない。ポスターやプリントはもちろん、Webやデジタルサイネージといった媒体が普及してきた今、出力媒体に適したテクニックが求められる。本稿ではそんな入稿データの作成をテーマにプロの技を紹介しよう。
商用印刷への出力〈RGB〉
商用印刷と一括りにしているが、この中には、カタログなどの広告物や雑誌の一般記事、後述する雑誌広告基準カラーなどを含み、デザイナーや編集部と印刷会社との取り決めがあり、様々なパターンがある。一般的にはRGBで入稿されたデータは印刷会社でプロファイル変換・リサイズとシャープの設定を行なう。
プロファイルに関して、画像に含まれるカラーによって、s-RGBが良い場合とAdobe RGBが良い場合がある。深い青空や全般に彩度の高い写真では、Adobe RGBの方がカラーの変化が少ない。
また広告物である場合は、クライアントの要望に合わせることなどから、印刷現場でハンドリングしやすいAdobe RGBが望まれる。
RAW現像で校正も行なう
商用印刷にRGBデータで入稿する場合、基本的に光沢紙にプリントする場合と同じで良い。画像サイズが足りていれば、リサイズ、画像解像度合わせも必要ない。ただし、シャープはかけないことが基本だ。これは、プロファイル変換と共に、画像サイズの調整、シャープの設定を印刷会社で行なうからだ。
解像感を重視したい写真の場合は、ディテールを中心にシャープを弱目に設定しても良いが、輪郭にエッジを出さないことが条件だ。カラーについては校正設定を活用する。設定するプロファイルはJapan Color 2001 Coatedで良い。最新は2011であるがデファクトが2001であること、RGBからの校正では両者にほぼ違いがないからだ。
校正の方法はRAW現像したRGBデータをPhotoshopで開いて校正するのが標準だが、Camera RAWのワークフローオプションにCMYKプロファイルを割り当て、校正しながら、画像を補正してしまう方が手間がない。ただし、書き出し時にRGBプロファイルを指定することを忘れないようにする。色見本が必要ならここで書き出したRGBデ ータを光沢紙にプリントすれば良い。
ワークフローオプションから、カラースペースをJapan Color 2001 Coatedとする。マッチング方法は相対的。
プレビューはプロファイルの色域となるので、このまま色調整を行なう。ヒストグラム右肩に色域外警告があるので活用する。
ワークフローオプションからカラースペースをRGBに戻す。カラー変化の少ないRGBプロファイル。
Photoshopでは先に「カラー設定」を行なっておくと良い。メニュー→編集→カラー設定である。
Photoshopで開いたら「色の校正」「色域外警告」をチェックし、必要なら補正後、8bit、RGBデータとして保存する。
商用印刷への出力〈CMYK〉
前項で述べた、RGB入稿と違い、CMYK入稿とされる場合は、印刷会社で変換や画像の調整を行なわないという取り決めがなされていることが通常である。これはCMYK変換を行なった者がカラーについて責任を持つということでもある。
現実的に印刷会社に入稿するのはデザイン会社・デザイナーの作業であるため、該当する作業者の指示に従う。プロファイルやデータ形式については指示通りで構わないが、経験則となってしまうのがシャープの設定だ。インクジェット向けよりは強め、掲載サイズが小さければ強く、大きくなれば弱くが基本である。色校正をもらえる場合は、カラーだけではなく、シャープにも留意する。
シャープ設定の目安
CMYKでの入稿が望まれることはあまり多くはないが、プロファイル変換自体は簡単なことだ。前項のようにRAW現像の段階で行なってしまえば良い。ワークフローオプションに設定したプロファイルと同一の設定で書き出しを行なえば良い。しかし、問題点はシャープの設定である。まず画像サイズを確定した上で、画像サイズによってシャープをかける。目安は誌面上のサイズがA4縦裁ち落とし以上では、輪郭のエッジが出る直前。1/2程度ではエッジが出たところ、それ以下ではエッジがはっきりしたところである。
作業上の問題点として、現在Camera RAWで画像サイズのプレビューができないので、ある程度のシャープを決めた時点で、一度Photoshopで画像を開き、100%以上に表示してからシャープを決め直す必要がある。いずれにせよ、体験する機会の少ない作業であるため、後述のオンデマンド印刷など網点で画像を印刷するデバイスを用いて、テストをしておくことをおすすめする。
Camera RAWワークフローオプション入稿データは必ず8bitだが、現像後に作業がある場合16bitにしておくとよい。
Camera RAWでは、エッジを生まないようにシャープをかける。ここではディテールとマスクを調整したのみで他はデフォルト。
Camera RAWからPhotoshopで開き、シャープをかける。アンシャープマスクを選択したが、スマートシャープでも良い。
Photoshopで画像を300%に拡大している。輪郭にエッジがつくところまで、量と半径で調整する。必ず100%でも確認する。
雑誌広告基準カラーへの出力〈CMYK〉
一般雑誌では、印刷会社ごと、そこで用いられる印刷機ごとの色域やカラーマネージメントポリシーに左右されず、同じ色再現を行なうための取り組みとして雑誌広告基準カラーがある。
In Designから出力するPDFデータが入稿データとなるため、フォトグラファーとして立ち入ることはほぼなく、s-RGBもしくはAdobe RGBを入稿すれば良いのだが、稀に仕様に合わないデータとして戻ってきてしまうことがある。この際の問題点はTAC値の不正である。一般的なCMYKプロファイルでは350%であるが、雑誌広告基準カラーで用いられるTAC値は320%である。それゆえ、単純にCMYK変換したのみではTAC値が不正となってしまうのだ。
カスタムCMYKに変換
TAC値は、最大濃度における網点もしくはインキの総量である。明るめの画像で問題になることはないが、シャドウがちな画像では問題となることがある。ここではカスタムCMYKを用いた変換を解説する。Camera RAWのワークフローオプションにJapan Color 2001 Coatedを割り当て校正しながら補正完了後、Adobe RGBに変更してPhotoshopで開く。カスタムCMYKで、CMYKモードに変換、カラーマネージメントの指定を行ない、プロファイルを埋め込まずに保存するという流れである。
画像に含まれるカラーによっては変換後にカラーが変化するので、調整レイヤーを使って補正する。よって、16bitでの作業が望ましい。推奨されるデータ形式はPSDであるが、EPS形式での入稿が望まれる場合もある。その際は、保存オプションの全てのチェックを外す。特に「ポストスクリプトカラーマネージメント」が要注意だ。これは雑誌広告基準カラーがデバイス依存型のカラーマネージメントであるためで、その他のカラーマネージメント設定が混在してはならないからだ。またいずれの場合も、必ずレイヤーを統合し8bitで保存する。
全てPhotoshopでの作業。RGB画像をCMYKに変換する。メニュー→編集→プロファイル変換。「カスタムCMYK」を選択。
ポップアップから、「インキの総使用量」を320%に設定する。下色追加も20%程度にしておくとスミっぽさが軽減される。
変換が終了したら、メニュー→編集→プロファイルの指定を行なう。「カラーマネージメントを行わない」をチェック。
情報ウインドウのオプションを設定すれば「インキの総使用量」をチェックできる。第2色情報に割り当てると良い。
カラーが変わる事があるが、色相・彩度で補正できる。画像を統合、8bitにしプロファイルを埋め込まないでCMYK保存。
プリントと背景の関係
どの出力デバイスにおいても、画像の背景色によって、画像そのものの見え方が変化する。人間の目もカメラの自動露出と同じで、背景の明度に左右され、全体が明るく、あるいは暗く見えるからだ。
黒い背景ではシャドウ部のトーンが見やすくなり、白い背景ではハイライトのトーンを感じやすくなるので、背景色を考慮したトーン作りをすると良い。ことに個展など写真を展示する際には大きな効果を持つ。
余白としての背景のみではなく、裁ち落としの作品などでは、壁の明度が背景としての作用をする。つまり、会場の照明や壁、オーバーマットや額の色までもが、表現を構成する手段となる。
背景を白にした場合
白、黒とも額とオーバーマットは現実のものを撮影しているが、写真部分は同一データを合成したものだ。よって、誌面での再現も画像部分に関して全く同一のものであることを前提に見て欲しい。
上部の明るいディテールは天の川である。白と黒を比較すると若干、白背景の方が天の川の白さが抑えられて、コントラスト感が向上し、階調の変化が豊かに見えるはずだ。白黒ともにオーバーマットの窓に対して画像を小さくしているが、現実では窓枠効果による立体感を得ている。
背景を黒にした場合
黒では逆に天の川は明るく見えるが、階調性を若干失い、下部の暗い部分や森の木のシャドウ部のディテールが見えてくる。これらの効果は面積効果も関わってくるので、サイズの大きいプリントほど差が大きくなる。
壁の色や照明にも大きく左右される効果であるが、写真を展示する際には必ず考慮すべき事象である。よって、展示場所・方法・大きさなどが決まってから、データ作りの中で反映させてゆく効果なのである。
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解説・撮影:茂手木秀行
1962年東京生まれ。1990年頃よ りデジタル作品制作と商用利用を始め、デジタルフォトの黎明期を過ごす。最近はドローン空撮に取り組んでいる。
※この記事はコマーシャル・フォト2020年11月号から転載しています。