入稿データ作りの指南書

Webページ・デジタルサイネージに適したデータ|オンデマンド印刷への入稿

良い機材で全力のライティングをして、最高の写真が撮れた。それで良かったとはならないのがプロの仕事。最後まで気は抜けない。データを納品する前の最後のひと仕事、それが入稿データの作成だ。せっかくの写真を殺すも生かすもデータの作り方次第と言っても過言ではない。ポスターやプリントはもちろん、Webやデジタルサイネージといった媒体が普及してきた今、出力媒体に適したテクニックが求められる。本稿ではそんな入稿データの作成をテーマにプロの技を紹介しよう。

Webページに適したデータ

Webページを閲覧するデバイスはもちろんPCやタブレットである。最新PCではAdobe RGBやHDRなど高色域モニター搭載機種も増えているが、デファクトスタンダードは少し古いs-RGBと考えるべきだろう。モニター調整は白色点を6500Kとするのみで特段の注意はない。

一方で、多くのデジタルカメラで得られる画像サイズよりも圧倒的に小さな画像サイズが基本となるので、シャープの設定に関しては注意が必要だ。シャープは、画像上にある距離の明度変化の強調として行なわれるので、画像サイズが変わると、強調すべき距離の取り方が変わってくる。リサイズしたのちにシャープ設定をしないと意図したとおりに反映されないのだ。


リサイズ後のシャープネス

Webで使われる画像は長辺800pixel以下がほとんどであり、ほとんどのカメラの画素数と大きく乖離する。多画素で細やかに記録されていたディテールも小さくリサイズするとまとめられてシャープ感を失ってしまう。

ここでの手順は、「Camera RAW→ワークフローオプションからリサイズ→エッジを付けないシャープ設定→Photoshopで開く→Camera RAWフィルター→シャープ設定エッジを付ける」となる。Camera RAWフィルターを使うのはRGB画像であるためだ。CMYKでは選択できない。

繰り返しだが煩雑な手順となるのは、Camera RAWのバージョンがワークフローオプションの画像サイズを反映しないからだ。2020年6月以前のバージョンであればCamera RAWのみで完結できる。

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Camera RAWワークフローオプションで長辺を800pixelとした。画像解像度は諸説あるが概ね100ppiで充分だ。

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リサイズの設定後、シャープを設定するが他も変更箇所が出た場合、スナップショットで記録しておくと良い。

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Photoshopで開く。スマートオブジェクトに変換し、メニューからCamera RAWフィルターを使う。エッジが出る量を設定。

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設定終了後は必ず100%表示で確認する。輪郭にチラつきを感じるようであれば、シャープのかけすぎだ。


デジタルサイネージに適したデータ

デジタルサイネージでは、モニターやプロジェクターなどRGBデバイスでの表示となるが、一般的なRGBプロファイルではカバーできないことも多い。使用されるディスプレイが放送規格であったり、TVであったり多岐に渡ること、デバイス固有の調整機構を用いて、環境要因も加味して複数のデバイスの色合わせを行なっていることがほとんどだからだ。

よってディスプレイが設置された現場で画像の作り込みを行なうことがある。これもフォトグラファーが立ち入ることの少ない作業だが、画像データは同時にWebや紙媒体でも利用されるため、RAWデータからデジタルサイネージ向けに個別に作ることが望ましい。


デバイス依存→現場合わせ

現場合わせとなると通常業務の環境を持ち込むことはまず不可能で、恐らくノートPC1台での作業となるだろう。その際に便利なちょっとしたテクニックを紹介する。ご存知の読者も多いことだろう。Camera RAWは二重に起動できるので、同じデータを参照しながら補正を行なえるのだ。これはバグなどではなく仕様である。Camera RAW Pluginという正式名称が示すように、PhotoshopとBridge、それぞれのPlug inソフトウェアなのである。

このようなシチュエーションでなくとも、別RAW画像との比較などCamera RAWでのプレビュー画面を並べたいと思うことは多いはずだ。使い方のコツはたったひとつだけ。Photoshopから先に開くことだけだ。

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BridgeでRAW画像を表示し、先にPhotoshopで開く。初期設定に割り当ててあれば、「開く」でも構わない。

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同じRAWデータもしくは複製したデータを「Camera RAWで開く」。

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Camera RAWが二つ起動できた。同一データの場合、後に「完了」した方の設定が記録される。

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カラースペースは、指示のあったものを使うか機種から判断する。不明の場合は、Adobe RGBもしくはRec.2020から試すといい。


オンデマンド印刷への入稿

オンデマンド印刷は、印刷用の版を作らず直接紙に網点を持った印刷をすることが特徴である。製本までひとつの機械で行なえるものも多く、小部数の印刷物を短時間で制作できる。インクジェットやレーザーなどの形式もあるが、近年は粉体もしくは液体トナーを用いた機種の品質向上が目覚しい。フルデジタルかつ設置条件や気候などの影響も受けにくく、カラーマネージメントの結果も安定する。即ち、モニターのカラーと成果物のカラーが一致しやすく、コントロール性が良いのだ。

反面、印刷物としての風合いや色むらなど品質にかける点も否定できないが、出力センターなどで気軽に利用できる点もメリットである。


モニターと良好なマッチング

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s-RGB、Adobe RGBをそれぞれJapan Color 2001 Coatedに変換し出力した。双方とも良い結果であるが、モニターによりマッチしたのは、s-RGBから変換した方である。

ナカ工業設置事例

本稿におけるオンデマンド印刷での事例検証に協力いただいたのは、バリアフリー手すりや避難器具などの軽金属製品を製造するナカ工業である。同業の企業の中では唯一広告制作部門をもち、カタログや製品紹介動画などを一貫して制作している。

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ナカ工業のオフィスフロアに設置されたRICOH ProC 7200。コピーからカタログ制作まで一日中稼働している。

オンデマンド印刷の可能性

前述のようにオンデマンド印刷では、カラーの一致に関して非常に満足できるものの、印刷物としての品質、例えば美術印刷のような、豊かなトーンや黒の深みといった点では、不満な点も多い。

そんな中、折しも凸版印刷から「TOPPAN FINE DIGITAL PRINT(TFDP)」という名称でこれまでにない印刷品質を実現した小ロットオンデマンド印刷のサービスが始まった。高級ファンシーペーパーの代名詞的存在の「ヴァンヌーボ」を用い、専任のプリンティング・ディレクター が関与する。手に持つ物体として感性に訴えかける品質を持った印刷物を安定的に制作できるのが特長だ。オンデマンド印刷の新時代と言えるだろう。

「TOPPAN FINE DIGITAL PRINT」に関しては、下記のページで詳しく解説している。
高品質の作品集を作成できるデジタルプリントサービス「TOPPAN FINE DIGITAL PRINT」とは?

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「TOPPAN FINE DIGITAL PRINT(TFDP)」のローンチ用サンプル。写真家山岸伸氏、佐藤倫子氏、両氏の世界が美しく、かつ重厚に表現されている。




解説・撮影:茂手木秀行

1962年東京生まれ。1990年頃よ りデジタル作品制作と商用利用を始め、デジタルフォトの黎明期を過ごす。最近はドローン空撮に取り組んでいる。



※この記事はコマーシャル・フォト2020年11月号から転載しています。

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