2014年02月07日
2013年に発売されたタブレットPCの中から、フォトグラファーの仕事に活用できそうな3モデルをピックアップして、御園生大地氏にそれぞれの使用感をレポートしてもらった。
より薄く、より軽く生まれ変わったiPadの最新モデル
アップル iPad Air
液晶 | 重量 | バッテリー駆動 | OS |
---|---|---|---|
9.7inch IPS (2048×1536px) |
約0.47㎏ | 最大10時間 | iOS 7 |
iPadは「タブレットコンピュータ」というジャンルを切り開いたパイオニアだ。そして2013年の現在でも、「使いやすさ」において一日の長を感じさせるトップランナーである。その5世代目として登場した「iPad Air」は、さらなるスペックアップと軽量化を達成し、使いやすさに一層の磨きがかかっている。
「フォトグラファーが活用する」という視点で考えると、iPad Airは「バランスの良さ」に優れたスマートな機種であると言えると思う。スタイリッシュな外見に、直感的でわかりやすい操作性。
ソフト面において、作品持参用途にも転送撮影用途にも、それぞれ必要十分なアプリが存在するのも利点だ(Androidタブレットは、筆者の個人的感覚では、残念ながらかゆいところに手が届かないアプリがまだ多いように感じる)。
ハード面から見ても、iPad Airは旧iPadに比べて実際の重さの差以上に軽く感じ、持ち運びにも非常に優れるなど利点がある。筆者の環境では、実際の撮影現場で8時間程度のWi-Fi転送撮影が連続して行なえるという点は合格点だろう(このあたりは撮影スタイルによっても変わってくると思う)。
短所があるとすれば、キャリブレーションがとれない(注1)ことと、iOSなのでPhotoshopが使えず、その場でのレタッチには不向きであるということだ。よって、「機動力は必要だが、厳密なライティングの加減はiPadで見ない」といった撮影に適したタブレットと言えるだろう。
クライアントに作品を見せるという観点から言えば、264ppiのRetinaディスプレイ(IPSパネル)は、非常に「高精細」に写真が見えるという利点がある。しかし反面、色温度についても、暗部の再現性についても、少々個体によるバラつきがある(フォトグラファーなら、きっと気になると思う、というレベル)。
それでも、世の中全体のスピードが上がっている中で、「気合いを入れたブックを見せるチャンスはなくても、今iPadを出したら作品を見てくれそうだ」という機会は多いのではないだろうか。筆者個人としては、近年iPadで作品を見せる機会は非常に多く、チャンスが増えたと感じる。動画やCubic VRなどのマルチメディア作品を持参できることも、これからのフォトグラファーにとっては大きな武器となりえるだろう。
iPadシリーズの中には、この製品より小さくて軽いiPad miniもある。撮影現場においても、作品を見せる場面においても、よりフットワーク重視の方にはこちらも有力な選択肢となるだろう。
注1:正確にはSpyderでキャリブレーションできるが、結果は専用アプリで見た場合のみに適用される。撮影直後の画像を逐一チェックするのにベストとは言いにくい部分がある。
液晶ペンタブレットCintiqを外に持ち出せる
プロフェッショナルユースのタブレット
ワコム Cintiq Companion
液晶ペンタブレットCintiq 13HDをベースに、モバイルタブレットとして必要な機能を搭載したモデル。OSにWindows 8を採用し、液晶はフルHD対応の13.3型IPSパネル。付属のプロペンで画面に直接描き込むことが可能で、2048レベル筆圧機能と±60レベル傾き検出機能を備える。198,000円〜(ワコムストア価格)。OSにAndroid 4.2を採用したCintiq Companion Hybridもある。
液晶 | 重量 | バッテリー駆動 | OS | USB |
---|---|---|---|---|
13inch IPS (1920×1080px) |
約1.8㎏ | 最大5時間 | Windows 8 | USB3.0×2 |
Cintiq Companionは、プロ用ペンタブレット市場で圧倒的シェアを誇るワコムからリリースされた、Windows 8搭載ペンタブレットだ。「ワコムのペンタブレットによる作業環境をどこへでも持ち出す」ために開発された本製品は、従来の同社製品とは大きく異なる、新ジャンルの「タブレット」である。
本物のペン“タブレット”であるのはもちろん、同時に“タブレット”PCでもある所が、非常に可能性を感じさせる。OSがWindows 8なので、PhotoshopもLightroomもCapture Oneも動作する。IPSパネルの液晶はキャリブレーションもできるし、Wi-Fi転送撮影もUSBテザー撮影(注2)もできる。そして筆圧検知に優れたペンタブレットでレタッチができる。これらの機能が全部持ち運べる。
スマートフォンとタブレットPCが普及し、世の中の多くの仕事が場所の制約を受けなくなる流れの中、「PCのOSで動くタブレット」の利点は沢山ある。
例えば広めのハウススタジオでの撮影で、「近距離移動が頻繁にあるが、机などの設置場所もある。簡単なレタッチができるとベター」といったような現場ではかなり強さを発揮すると思われる。
他にも、打ち合わせの際に素材写真を簡単に合成して見せたり、地方や海外にいても何時でもレタッチ案件に緊急対応できるなど、様々なシーンでの利用価値が考えられる。作品を見せる際にもキャリブレーションのとれたモニターで見せられる安心感があるだろう。
短所があるとすれば、サイズ的に機動力がノートPC以上iPad以下であること。サイズの大きなブラシを使った際などにややスペック不足を感じる場合があることだろうか。他のPCにつなぐことはできないが、他のモニターをつないでマルチモニター環境にすることで、Cintiq 13HD(注3)のような作業環境を構築できる。
Windows 8はスタートボタンが廃止されるなど、多少の慣れを要求するOSである。キャリブレーション結果を安定させるために電源設定を調整したり、キーボード無しでレタッチを快適に行なうためにスペースキーをファンクションキーに割り当てたり、フルスクリーンからソフトを終わらせる方法を覚えたりと、ある程度リテラシーが求められる部分はあると思う。
しかし「PCのOSで動き、高性能のペン入力もできるタブレット」のメリットは大いにあり、使いこなすだけの価値がある。工夫次第で今までにないワークフローを開拓できる可能性を持った「未来のタブレットマシン」であると思う。
注2:筆者の環境では5mのUSB3.0ケーブルでも問題なく動作した。 注3:Cintiq 13HDはワコム製の液晶付きペンタブレットの最小モデル。PCにつないでモニターをミラーリングし、直接画像にペンで描くような使い方ができる製品で、イラストレーターには非常に普及している製品。
世界初の20インチ4Kパネルを搭載したWindows 8タブレット
パナソニック TOUGHPAD 4K
20型大画面・4K高精細の液晶を搭載し、OSはWindows 8.1 Proを採用。A3用紙をほぼリアルサイズで表示でき、アスペクト比は15:10(通常の4Kテレビの場合は16:9)。これは、建築図面やカタログなど紙で実現していた機能をタブレットに置き換えるためである。電子タッチペンも付属する。法人向けモデルだが、個人でもSOHOプラザ www.sohoplaza.jp/ で購入できる。想定価格450,000円〜。2月中旬発売予定。
液晶 | 重量 | バッテリー駆動 | OS | USB |
---|---|---|---|---|
20inch IPS (3840×2560px) |
約2.4㎏ | 約2時間 | Windows 8.1 Pro | USB3.0×1 |
TOUGHPAD 4Kは、従来のタブレットPCのイメージとは一線を画す、約20インチの巨大タブレットである。にもかかわらず軽量かつ頑丈で、持ち運びにも適しているという、相反するような長所を同時に備えた驚きのタブレットだ。
非常に骨太な印象のする、ある意味メーターの振り切れた製品であり、このような製品が日本のメーカーから出てきたことを嬉しく感じてしまう。フォトグラファーがA3サイズの作品ブックを持ってきたと思いきや、カバンからこのタブレットを取り出したら、クライアントはどんな顔をするだろうか と考えると、楽しくなってくる。
約20インチで230ppiのIPS液晶は、非常に高精細(4K)で、キャリブレーションも可能。2.4kgという重さは、実際に手にしてみると、驚くべきことにむしろ「軽い」とすら感じる。万一落としたらという想定のもと、高さ76cmからの落下テストもクリアしているというからさらに驚きだ。
Windows 8.1 Pro専用タブレットなので、PhotoshopやLightroomももちろん動く。バッテリー駆動時間がカタログスペックで2時間なので、撮影での使用シーンはある程度限られるであろうが、Lightroomのサムネイル表示のままでも、大量の撮影カットのセレクトができてしまうというメリットもある。これも大画面、高精細だからこその特徴である。
短所があるとすると、Windows版のPhotoshopは現時点ではppiの高いモニターに非対応なので、ツールやコマンドの表示が小さくなってしまうこと、そして少々高価であることだろうか。
バッテリー駆動時間があまり長くないというのも気になるが、ここは重さとトレードオフであるので、この軽さで長時間駆動を求めるのは酷かもしれない。
作品を見せたり、プレゼン用途で使用する場合は、持ち運びが全く苦にならない上に、表示が高精細であるので、効果は絶大であると思う。反面、撮影での使用は可能だが、シーンを慎重に選ぶ必要がある。例えば、車に積んで、撮影してきた画像を有線で取り込んで大画面でセレクト。画像をUSBテザリングで送信、といった用途なら大画面タッチパネルの恩恵を得ることができそうだ。
ちなみに筆者が短期間使用した中では、TOUGHPAD 4KのLightroomで写真をセレクトし、カタログフォルダとRAWファイルを共にUSBメモリ経由でMacBook Proにコピーしたところ、レーティングをしっかり保った状態でMacのLightroomで開き、問題なく現像まで行なうことができた。
3モデルのインプレッション・まとめ
現時点ではiPadがもっとも短所が少ないが、
Windows 8 タブレットの可能性は非常に大きい
今回、3種のタブレットをテストしてみて感じたのは、フォトグラファーにとってのタブレットの選択肢がiPadしかなかった時代は終わった、ということだ。
当然ながらiPadを含めた全てのタブレットには長所も短所もある。タブレットPCというジャンルそのものが発展途上なので、成熟したジャンルの製品のように「これさえ買っておけば万能」という製品はまだ存在しないと思う。長所も短所も色濃く出ている製品が多いという状況は、悩みどころでもあり、また面白くもある。導入の際には精査した上で、自分のワークフローに合った製品を見極めることが大切だ。
筆者個人としては、現状では最も短所の少ないiOSタブレットも、撮影用途としての進化のスピードは鈍化していると感じている。理由は主に2つある。1つ目は、キャリブレーションソフトのような、OSのシステム部分に変更を与えるようなアプリには、Appleが当面認可を出さないだろうということ。2つ目は、PhotoshopなどのPC用アプリがiPadで動くようになる日が当分来そうにないことだ。ひと頃活発に思えたMac OSとiOSの統合に向けた動きも、以前ほど盛んでないように見える。
そういった意味では、少々強引に(?)タブレットPCと従来のPCを統合してしまったWindows 8タブレットの、今後の伸びしろに大いに期待しているのだが、現状ではまだ、操作に一定の慣れが必要なOSであると感じる。
初めて触ると「コントロールパネル」「コンピュータ」「全てのプログラム」などを探すのに戸惑うだろうし、キャリブレーションしてもACを外すと画面の明るさが変わったりするので電源設定を見直す必要があったり、フルスクリーンのスライドショーから復帰するのに戸惑ったり よく言えば飼いならしがいがあるOSだ。
しかし、操作性もマシンパワーも駆動時間の問題も、時間が経てば良くなっていくと思える。Windows 8タブレットには注目し続けたいと思っている。
いずれのマシンを選択するにせよ、フォトグラファーやレタッチャーが上手にタブレットPCを使いこなすことで、今までのワークフローが大きく進化することは間違いなく、筆者もその恩恵に日々感謝している。自分と合ったタブレットと上手に出会うために、今回の記事が少しでも参考になれば幸いである。
※この記事はコマーシャル・フォト2014年1月号 特集「フォトグラファーのためのタブレットPC活用術」を転載しています。
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