2014年03月18日
本特集「フォトグラファーのためのタブレットPC活用術」では、タブレットPCの可能性について様々な角度から述べてきたが、今回から何回かに分けて、フォトグラファーでありレタッチャーでもある御園生大地氏が、今、注目すべき最新のWindows 8 タブレットをテストしていく。今回は、Lenovoの10型タブレットThinkPad Tablet 2を取り上げる。
液晶 | 重量 | バッテリー駆動 | OS | USB |
---|---|---|---|---|
10.1inch IPS (1366×768px) |
570g | 最大10時間 | Windows 8 (32bit) |
USB 2.0 × 1 |
タブレットPCはプロのワークフローに組み込めるか
近年、世界的にタブレットPCの年間出荷台数が伸びるとともに、パソコンの出荷台数が減少し続けている。2015年には通年でもタブレットPCの出荷台数がパソコンの出荷台数を追い抜くという予測も出ており、いよいよタブレットPCは本格的な普及期に入っていくと思われる(既に四半期ベースでは逆転している)。
(ハード・ソフトを含めた)デジタル製品の進化が、IT業界の枠を超えた影響力を発揮することが、ここのところ頻発している。そしてそのパワーが、時に1つの業種のあり方を根底から変えてしまう程の変革をもたらす場合があることを、iPhoneなどの例から感じてらっしゃる方も多いのではないかと思う(広義においては「デジタルカメラ」や「Photoshop」の登場とその後の変化もこの範疇に入るだろう)。
自分より実績のあるライバルとの競争において、若手・中堅クリエイターがこういった変化を上手く利用するというサバイバル戦略はあり得ると思うし、ベテランクリエイターも、自分のキャリアの終盤にやって来るかもしれない変革に備えておくことは決して無駄にはならないと、筆者個人は考えている(これらは「自分の作品をより良くしていく継続的取り組み」がベースにあっての上での話であると、私も常々自分に言い聞かせているが)。タブレットPCをうまく自分のワークフローに組み入れることができれば、メリットは確かに存在すると思う。
しかし普及率から見て徐々に「最先端機器」ではなくなりつつあるタブレットPCも、一方でビジネス用途としてはまだ未成熟・発展途上という部分もあると思う。本特集の4回目「注目のタブレット3モデルを検証する」でもお話させて頂いたとおり「誰にとっても、これさえ持っておけば完璧」と言えるタブレットPCは未だ存在せず、どの機器にも長所と短所が混在しているのが現状だ。だからこそ、「このタイミングで導入することで差別化が図れる余地がある」とも言えるし、「慎重に機器を選定する必要がある」とも言える。
そういった状況の中「Windows 8 タブレット」が、これから面白い存在になるかもしれないと筆者は考えている。理由はおいおい述べたいと思うが、一言で言えば「タブレット端末でありながらパソコン用のソフトウェアが動くから」だ。これに尽きる。それゆえ「Windows 8 タブレット」は、iPad以上に効率的なワークフローを構築できる可能性を秘めている。
そこで当連載では、複数回にわたって「Windows 8 タブレット」の注目機種のレビューをお届けする。特に、発展途上のタブレットPCの「長所と短所」を「フォトグラファー・レタッチャーである筆者が実機テストして」お届けできたらと考えている。タブレットPCの導入を考えている人はもちろんだし、今はまだそうでない人も、フォトグラファーのワークフローが時代の流れでどう変わっていきそうか、予測し対応する一助となれば幸いである。
PC用ソフトが気軽に使用できるLenovo ThinkPad Tablet 2
連載再開の第1回は、「ThinkPad Tablet 2」のレビューをお届けしたいと思う。ThinkPad Tablet 2は、IBMからThinkPadブランドを引き継いだLenovoによるWindows 8 タブレットだ。
iPad Air(478g)よりは重いものの、iPad(第4世代)(652g)より軽い「570g」(最小構成時)のタブレットで、PCのソフトが使えるというのが最大の魅力だ(筆者個人的には、撮影現場において"約600g"というのが長時間持ち続けるのに負担を感じるか否かの境目という感じがする)。
iPad2、iPhone5とのサイズ比較。写真中央のThinkPad Tablet 2は、iPadより横が長く、縦は短い。
「簡単で良いから現場でPhotoshopを使いたい」「iPhoneやiPadの操作に抵抗感を感じる」といった方が、それでも撮影現場でタブレットPCを活用してみたい、といった場合に選択肢になり得るマシンだろう。フォトグラファーとしてこのタブレットを撮影現場で使用することを考えた場合、10.1インチというモニターは最もオーソドックスなサイズであると思う。
Eye-FiカードによるWi-Fi転送で実戦テストをしたところ、現場の状況次第の部分はあるが、筆者のテストでは8時間程度の撮影ならばこなせたのでこちらも合格レベルだ。
iPadとさほど変わらない大きさ・重さながら、使い慣れたLightroomでWi-Fi転送撮影が行なえるメリットがある。
軽量タイプのタブレットなので、使用されているプロセッサはAtom Z2760。あまりハードな演算能力が必要な作業は厳しいが、通常にLightroomを使ったり、Photoshop CCでニコンD800のTiffにCamera Rawフィルターでパース修正をする程度ならばストレスなく動作した。
重い作業をしなければ、Photoshopでの処理も十分こなすことが可能。
現場にて10.1型のモニターで、パソコン用Lightroomの小さなボタンを指でタップするのは、なかなか上手くいかない場合がある。その際は付属のペンを使用することでスムーズな操作をすることが可能となる。ただしこのペンでワコムのペンタブレットで行なうような繊細な作業を行なうことは難しいかな、とも感じた(ThinkPad Tablet 2にはペンが付属するモデルと付属しないモデルがある。後者のディスプレイではペンは使えない)。
今回テストしたマシンは対応していなかったのだが、docomoのLTEを内蔵したタイプもあるようなので、現場から頻繁に画像確認をする必要のある方には、パソコン用のソフトが使えてその場でメールが送れる、というのもメリットになると思う。
しかし、冒頭でも述べたとおり、発展途上のタブレットPCには「全てが完璧」と呼べる機種はほぼ存在しない。この機種にも短所があるとすれば、どこになるかを挙げていく。
まずは32bit Windows OSなので、Capture Oneの最新版が動かないこと。そしてビデオカードのドライバーがLUT(プロファイルの上書き機能)非対応であるためモニターキャリブレーションが取れないことだろう。キャリブレーションがとれないのは、iPadも同じである。しかし筆者の個人的感覚としては、キャリブレーションのとれたモニターと見比べた場合、iPadの方がまだ色や階調の見た目が近いのではないかと感じた。ThinkPad Tablet 2は、暗部がつぶれ気味なので、現場での確認用と割り切って運用するのがいいだろう。
とはいえ、やはりパソコンのソフトウェアが動くタブレットPCがiPad(第4世代)より軽いというのは大きな魅力がある。iOSに比べたらデータを非常に自由に扱えるし、テザー撮影もやろうと思えばできる(容量などの面で制約もあるが)。設計段階から「液晶面鉄球落下試験」「角落下試験」などのテストが実施され、堅牢性に長けていることもこのタブレットの長所だろうと思う。
御園生大地 Taichi Misonoo
フォトグラファー、レタッチャー、ビデオグラファー。東京生まれ。東京ビジュアルアーツ卒業後、撮影会社に12年勤務。2013年よりフリーランス。建築竣工写真撮影、大手家電メーカーの製品写真レタッチをベースに幅広く撮影・レタッチ業務をこなす一方、近年は動画撮影業務へ進出。Photoshopやレタッチのセミナー登壇、執筆実績多数。
TAICHI MISONOO website
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