TALK SESSION

時代の空気。副田高行がつくった新聞広告100選。

今も広告の第一線で活躍するアートディレクター・副田高行が手掛けて来た新聞広告から100点を厳選し、1冊にまとめた『時代の空気。副田高行がつくった新聞広告100選。』が弊社から発売。この本の中から数点セレクトして紹介。40年以上にわたり、広告制作を通して時代を見て、そして感じてきた副田さんに新聞広告の魅力と可能性を語ってもらった。

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1982
サントリービール ナマ樽
C=仲畑貴志 P=幅野昌興


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1983
サントリー 樹氷
C=仲畑貴志 P=高崎勝二


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1992
JR九州
C=仲畑貴志 P=藤井 保


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1996
トヨタ エコプロジェクト
C=神谷幸之助・東秀紀


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1998
サントリー ウイスキーキャンペーン
C=児島令子 P=坂田栄一郎


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2002
ナイキ ゴルフドライバー C=紫垣樹郎 P=青木健二・上山敬太・甲斐祐司


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2005
高橋酒造 しろ
C=松木圭三 P=泊 昭雄


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2014
ストライプインターナショナル earth music & ecology
C=児島令子 P=藤井 保


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2019
サイバーエージェント
C=大塚麻里江 P=藤井 保


INTERVIEW TAKAYUKI SOEDA

『時代の空気。副田高行がつくった新聞広告100選。』(以下、『100選』)は2018年に横浜のニュースパーク(日本新聞博物館)で行なわれた展覧会とその図録をベースに新作を加えたもの。40年以上にわたって広告を制作している副田高行さんに新聞広告の魅力を語ってもらった。

広告でコミュニケーションを取るには新聞広告が最も適していると考えています。

新聞広告が広告の基本

――様々なグラフィックの仕事をされている中、新聞広告だけでまとめようと考えたのはなぜですか。

副田 きっかけは新聞協会のクリエーティブ・コンテストの審査員をやっていたことでした。新聞協会は日本中の全ての新聞社が集まる組織なのですが、僕はもう20年も審査員として参加していて、審査だけでなく会議の場で発言したり、新聞社の方たちに向けてレクチャーをしたりしていたんです。

そんな中で感じたのは、新聞が存続できるのは、新聞広告があるからなんだと。そのためにはクリエイターに力を発揮してもらい、素晴らしい広告や話題になる広告が新聞に載ることで、新聞媒体の価値が上がる。商品が認知されたり、企業のブランドイメージを高めたりと、媒体と広告主とのいい関係を作ることが大切だなと。

新聞広告は1枚の紙に言葉とビジュアルだけで全てを伝える表現。僕自身は新聞広告が広告の基本であり、原点だと思っています。もしかすると40年間新聞広告を中心に作ってきたアートディレクター(以下AD)は僕だけかもしれない。そこで、これまで作ってきた仕事を見てもらうことで、現役の広告クリエイターはもちろん、クライアントや新聞関係者にも、何かしら刺激を与えられるのではないかと考えました。新聞広告は時代の歴史でもありますし。

――新聞広告のどういうところに魅力を感じていますか。

副田 新聞は毎日それぞれの家に宅配されます。新聞はもちろん記事がメイン、でもそんな当たり前の生活、インフラとして存在しているものに広告が忍び込んでいる。まずそこに魅力を感じます。

新聞という情報満載な20何ページかの中で、どれだけコミュニケーションができるかどうか。ある種ポスターよりももっとシビアな媒体です。何千万円かけようが、ダメなら飛ばされる。そこはクリエイターの力次第だし、面白さでもある。必ずそのページで目を止めてやるぞと。その気持ちは新聞広告を作り始めた頃から変わりません。

しかも圧倒的な数。全国版なら何百万人もの人が見る可能性がある。ポスターの前に立ち止まって見てくれる人は少ないけれど、新聞は気に入ればボディコピーまで読んでもらえる。広告でコミュニケーションを取るには新聞広告が最も適しているし、企業広告に向いている媒体だと思います。

定型サイズへのこだわり

――新聞はポスターのように紙や印刷にこだわることはできません。最終的なクオリティの場にかかわれない怖さを感じませんでしたか。

副田 名刺やハガキなど、定型サイズがあるものがあります。真四角の名刺を作ったり、やたら分厚かったりと、形を変えるデザイナーがいます。僕はそういうの、嫌いなんです。新聞は紙や形や色で目立たせられない媒体です。僕は定型というしばりに面白さを感じるんですよ。

『100選』はA4ですけど、少し細長いなど凝った本もありますね。僕はそういう凝ったもの、だめなんです。オーソドックスな定型が好きなんです。そんな人間にとって新聞は素晴らしい媒体です。自由が効かない、しかも昔はモノクロしかなかった。その中でいかに色を感じさせるのか、豊かな表現に見せるかなど、それがデザイナーの技術であり、腕の見せどころ。新聞はみんなが同じ制約の中で競い合うというところに、醍醐味や面白さを感じていました。

――『100選』の中にコピーだけの広告が多いのも印象的でした。

副田 コピーだけでビジュアルがない広告は、ただ文字を並べているだけじゃないかと言われかねないですけど、僕は最初に仲畑貴志さんという天才コピーライターとの出会いの影響もあり、コピーが素晴らしければ下手にビジュアルをつけなくてもいいと思っています。

広告はコミュニケーションだから、見ている人に思いが伝わればいい。そこには必ずビジュアルとコピーと両方必要だという決まりはないわけです。僕は仲畑さんと仕事をすることでそう掴んだし、仕事の中で実行していきました。

もしかするとそういうADはなかなかいないのかもしれない。そういう意味では僕はデザイナーではなくて、広告マンだと思っています。そのデザイン担当であるだけで、コピーライターと話して、全体を考えたうえで「これは絵がない方が伝わる」と思えば文字だけで作ります。

仲畑さんとの打ち合わせは立ち話程度で、後日書いたコピーをポンと渡してくれます。それを僕がどう料理するのか。ビジュアルのイメージがあれば伝えてくれるし、なければ「何か考えろ、面白くしろ」というやり方です。僕が出会った頃、仲畑さんは既にスター街道を登っていました。コピーライターがいくら良いコピー書いてもAD次第で見え方が変わってしまうので、責任は重かった。そういう緊張感の中で仕事をしていました。

ただのタレント広告にはしない

――タレント広告を作りたがらないクリエイターもいる中、副田さんはタレントを起用した名作も多いです。タレントの魅力をどのように考えているのでしょうか。

副田 タレント広告は、その人の話題性を利用できるから到達スピードが速い分、安易に感じるし、ADの作家性とは逆行しているので、嫌がる人の気持ちもわかります。でも僕はタレント広告も厭わない、オールマイティなADだと自負しています。

もちろん、ただのタレント広告にはしないぜ、という思いは常にあります。タレントを使えばクライアントは安心するし、タレントのファンがいれば広告を見てもらえるだろう。でもタレントに依存しただけの広告は作りたくない。そこはADの意地ですね。僕自身もタレントの力を信じてもいるから、そのタレントが一番よく見えて、タレント自身にも喜んでもらえるものを作りたい。そして広告として機能するものを。それはどんな広告を作る時も変わらないことですけど。

宮﨑あおいさんのearth music & ecologyの時は、コピーライターの児島令子さんから「副田さん、当然ファッションはやっていませんよね?」みたいな失礼な(笑)依頼電話があって。確かにファッション広告はあまりやったことがなかった。宮﨑あおいさんの事務所でプレゼンした際に、マネージャーから「藤井保さんに撮ってもらいたかったんです」と言われて。「では藤井さんに頼みましょう!」と。そこから長いお付き合いが始まりました。

藤井さんは“ニコパチ写真”もいわゆるファッションフォトも撮らない。そこで写真集を作るように彼女のポートレイトを撮ってもらいました。その時着ているのが、earth~の服であると。児島さんも最初は「ファッション広告にコピーなんていらないのよね」と言っていましたが、いざ決まると張り切って、彼女の代表作になりました。コピーも含めて、いかにもファッション広告というものにはしなかったし、ありきたりのタレント広告とは違うものが作れたと思っています。宮﨑あおいという、ひとりの人間を表現しました。

吉永小百合さんのAQUOSも10年以上続きました。AQUOSはシャープの社運をかけた事業でした。吉永さんは日本を代表する女優。女神のようにいつも着物を着て、商品のセールストークも語らず、常にAQUOSのそばにいる。舞台はモダンなインテリアや建築や、世界の名画などを探して撮っていきました。出稿量も多く、どんな仕事をしているのかと聞かれて「吉永さんのAQUOS」と答えれば誰もが知っている。タレントにはそういう力がありますよね。吉永さんとはこれ以降もソフトバンクや五島の椿などでもお世話になっています。

デザインに体温がある

――『100選』では、帯の言葉をコピーライター秋山晶さんにいただきました。

副田 2018年の展示を秋山さんが観に来てくれて、ラジオ番組で感想を話してくれたことがありました。その中の一言が「デザインに体温がある、ということを意識したのははじめてだった。」でした。体温と言っても平熱、人間の36度とか36度5分の温度だとも。仕事上で接点のない方で、しかも尊敬する方からの言葉なので、とても嬉しかったですね。それにしても、秋山さんの喋る言葉って、もう全部、すごいコピーなんですね。

実は最初に選んだのは「副田さんの作品は全部新作だった。」でした。僕の仕事はデザインのパターンがないので、全てが新鮮で全部が新作という言い方をしてくれていたんです。ただよく考えてみると、いろんなデザインができるというところはデザインの表層的な部分というか、テクニカルな印象がありました。

僕自身、新聞広告はいつもゼロから始めようと思っています。それはクライアントだけでなく、商品も企画も違う中で、一番直球で届くアイデアは何かを考えているんです。 秋山さんは僕がいろんなアプローチで作った新聞の仕事を見て驚いたんだと思います。こんなにいろいろな表現がある。同じデザインがなく、見ていて気持ちが良かったって、言ってくれたんです。

一方で「体温がある。」というのは僕の本質をくみ取った誉め言葉だと思いました。 広告はアート作品ではなく、普通の人に伝える表現だから、普通の人の体温の方がいいと思う。「デザインに体温」という言葉は思いもつかなかったですけど、僕自身は見る人に伝わるようにということをいつも考えている。そういう意味で、僕のデザインや広告を「体温」と表現してくれたんだと思います。帯をデザインした画像にメッセージを添えて、「帯として使わせていただきたいです」とお願いしたら、快諾いただきました。

――『100選』には2018年の展示から新たに加えた広告もあります。その中でも宝島社の新聞広告は、これまでの副田さんの仕事とは異なるアプローチだなと感じました。

副田 宝島社は蓮見清一社長と直接話をして進めていく企画です。社長の価値観、想いはひとつで、「世の中に何を言うのか」。広い意味では企業広告だとは思いますけど、まず人々の代わりに何を訴えればいいのかを考える。社会的メッセージ広告。そこが普通の広告とは違います。

メッセージが主になるから、タレントの力を借りることはない。むしろ表現が全て。いつもコピーライターの三井明子さんとCDの能丸裕幸さんと3人でゼロから考えています。テーマを与えられる場合もあるけど、何もないこともある。そういう時は今世の中に何を訴えれば共感してもらえるのかを考える。今の社会はとにかく問題だらけなので、たくさんの企画を提案しています。僕らはどうしてもクリエイティブ的に面白い広告を考えるのですが、それだけではOKをもらえない。キャリアを重ねてくると、ダメ出しされることもなくなって来るので、こういう経験もまた面白いですね。

タイムリーにメッセージを届けられればテレビのニュースでも取り上げられるなど、ものすごく反響があります。新聞の発行部数も下がってきて、読者は少なくなっているけれど、今は面白いや共感してもらえるものが作れれば、メディアやSNSで拡散して多くの人の目に触れることもできる。宝島社は新聞広告の新たな可能性を感じられる仕事でもあります。

――今年また、新聞広告の展覧会を準備中だと聞きました。

副田 8月末にコビーライターに焦点をあてた新聞広告展を開催したいと思っています。グラフィックデザイナーの展覧会はありますが、コピーライターの広告を集めた展覧会はほぼないからです。そこで今回、6名のコピーライターの新聞広告展を実現させたいと思っています。 それぞれ20本ずつ、私がADとして関わっていないものが多く、いろんなバリエーションの広告がたくさん候補にあがっています。 広告の名作のほとんどは、心に響く言葉によって成立しています。その時代の言葉の紡ぎ手に、スポットライトを当てたいのです。

メディアが多様化する中でも、新聞広告はなんといっても広告の中心だと思っています。1枚に凝縮されたコピーとデザイン。それはメディアが変化しても、クリエイティブの本質です。すぐれた広告クリエイティブの力を実感してもらいたい。それはやや低迷する新聞界、広告界にとっても有意義なカンフル剤になるのではないかと考えています。


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BOOK
『時代の空気。副田高行がつくった新聞広告100選。』
A4判/160P/本体3,000円+税/玄光社刊
100点の広告それぞれに企画の経緯や制作時のエピソードが添えられている。「タイトルは秀英明朝という大正時代の活字を使っています。活字の味わいのある、かすれた文字で新聞らしさを出そうと考えました」(副田)。


EXHIBITION
「時代の言葉。コピーライターがつくった新聞広告名作展。(仮)」
2023年8月末~12月末に横浜のニュースパーク(日本新聞博物館)展示ギャラリーで開催予定。 6名のコピーライター(安藤 隆、一倉 宏、岩崎俊一、児島令子、前田知巳、眞木 準)の新聞広告をそれぞれ20点ずつ前期・後期に分けて展示予定。


そえだ・たかゆき
1950年福岡県生まれ、東京育ち。アートディレクター。スタンダード通信社、サン・アド、仲畑広告制作所を経て、副田デザイン制作所設立。earth music&ecology、朝日新聞社、岩田屋、NHK、サントリー、JRA、シャープ、新潮社、ソフトバンク、全日空、富士フイルム、タカキベーカリー、高橋酒造、宝島社、TOTO、東京ガス、トンボ鉛筆、トヨタ自動車、ナイキ、野村ホールディングス、ライオンなど、40年以上にわたって、様々な企業のグラフィック広告、ロゴデザインに携わり、現在も作り続けている。

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