TALK SESSION

市橋織江「サマー アフター サマー」 SPECIAL MOVIE

市橋織江さんの写真集『サマー アフター サマー』をきっかけに作られたSPECIAL MOVIE。一度完成したものに新たな息吹を与えるという難しいミッションに映像作家・林響太朗はどう挑んだのか。

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写真:市橋織江 挿絵:外山夏緒 撮影助手・録音:岡村隆広・甲谷彰基 映像:林 響太朗 音楽:清水貴栄 編集:柏原柚葉


INTERVIEW

手探りのままスタートした

――写真集から映像を作るという依頼を受けて、どう感じましたか。

 学生時代から市橋さんの写真のファンなので、関われることが嬉しかったですね。ただ、写真集の映像と聞いて不思議な仕事になるなと思いました。過去、絵本を映像化した時は、物語に沿って全体の流れを作ったんですよ。でも今回、写真集を映像にするにはどうすればいいのか。手探りのままスタートしました。

――市橋さんの写真をどのように考えていましたか。

 難しい質問ですね。美しくてきれいだし、透き通っているところが魅力です。しかも心地よい余白が常にあります。そういうバランス感覚が絶妙だなと思っていました。

この写真集では、写真だけではなく、その上にイラストレーション(以下イラスト)が施されています。市橋さんが自分の写真の上にイラストを載せてもかまわないと考えていることに驚きました。ストイックに写真だけを見せるのではなく、もっと柔軟なスタンスの写真家なのだというのも発見でした。

紙では表現できないことを探す

――映像にする際に写真をどう見せようと考えたのですか。

 写真集のテイストをなぞりつつ、紙媒体で表現できないことを見つけることから始めました。映像ならではといえば、1枚1枚の写真に物語やアクションを付けることかなと。そこで、イラストを動かしてアニメーションと写真に添えられた文章を活かすという考えが生まれたんです。写真の枚数は映像の尺にも関わるので、セレクトはかなり悩みましたね。

――事前に市橋さんからの要望はありましたか。

 写真を単純にスライドのように見せるのではなく、写真集のページをめくるようなアクションを入れたいということだけですね。そこは、かなり議論しました。当初僕は、ページめくりは不要だと考えていましたが、完成後改めて写真展会場で映像を観たら、前後の切り替えとして効果的だったし、写真集のテイストに寄り添えるものになっていたと思います。

――実際どのように作ろうと考えたのでしょうか。

 実験的な要素が強い写真集なので、実験的な作り方がふさわしいのではないかと直感的に思ったんです。そこで、これまでアニメーション制作を手掛けた経験のないアシスタントの柏原柚葉さんに担当してもらいました。それによって味のあるテイストのアニメーションに仕上がったので、そのイメージを壊さないように、ページめくりの動きを加えました。

――映像中の言葉は、写真集から抜粋したのですね。

 文章自体は抽象的な内容だったので、写真に文字をあてはめる際に、意味を持たせ過ぎないよう意識しました。文字はADの外山夏緒さんに改めて手書きしてもらいました。
イラストの動かし方や文字の配置など、構成はいくらでも考えられましたが、今回はディレクターとして、客観視できる立場にいたかったので、写真と言葉の組み合わせもアシスタントの柏原さんがセレクトしています。それによって、写真と写真の間やイラストの動きなど、様々なものをフラットに検証できたと思っています。

――写真集完成後から、関わるのは難しいと感じませんでしたか。

 撮影に同行できていたら、もっといろんなアイデアを出せていたかもしれませんね(笑)。でも、今回はある意味レールが決まっている中で、市橋さんや外山さんの考えを解釈するという1点集中の企画だったと思います。そういう意味では、お2人の解釈に寄り添ったものに仕上げられたと思っています。

写真の放つ気配を映像に残す

――音の演出が加わったことで、より夏の松本の世界に引き込まれました。

 道路の写真にモーター音を重ねると、車が走っているように感じたり、写真に音がつくとイメージが膨らみますよね。 音は大きく2種類あって、写真にあたるものが水の音やシャッター音などの環境音、言葉やイラストにあたるものには音楽をあてています。

環境音は、撮影場所とリンクした音が欲しかったので、この映像のために市橋さんのチームに改めて録ってきていただいたんです。プロの録音部が録る音とはひと味違う良い音ばかりでした。写真に「松本の音」が加わることで、土地の気配みたいなものも表現できました。

音楽は元同僚の清水貴栄さんに依頼しました。音のイメージとして、「その時、偶然生まれた音が作れたら面白いよね」とだけ伝えたら、こちらも良い音楽が仕上がりました。普段はアニメーターとして関わっていただくことが多いですが、いつか彼の音楽を使ってみたいと思っていたんです。清水さんが松本出身だということもあり、お声がけしました。

――写真家の写真で映像を作ってみて、どう感じましたか。

 ビジュアルが先にある映像は作ったことがなかったので、純粋に面白かったです。最初の打ち合わせで市橋さんと話した時に「誰かに見られている気配を感じながら撮っていた」と仰っていましたが、1枚1枚をじっくり見せたことで、写真が放っている「何かがいるかのような感覚」も表現できたかなと思っています。 憧れの写真家が何を考えているのかを直接感じる機会はめったにないことです。同じ題材でものをつくることで、今まで以上に市橋さんの写真に触れられた気がします。



20230119_ichi10.jpg市橋織江 「サマー アフター サマー」
本体価格2,000円+税/B5判/128P/玄光社
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今回紹介している林響太朗ディレクションの映像はスペシャルサイトで公開中。
https://spsum.matsu-toco.com/

はやし・きょうたろう
1989年東京生まれ。多摩美術大学 情報デザイン学科 情報デザインコース卒業後、DRAWING AND MANUALに参加。多摩美術大学 情報デザイン学科 デザインコース 非常勤講師。

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