光の魔術師ジョー・マクナリーの極意

光をどう当てるか

解説:ジョー・マクナリー

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タイム、ライフ、ナショナル・ジオグラフィック等の雑誌で活躍する写真家ジョー・マクナリーは、光の魔術師とも呼ばれ、彼の撮影技法書は海外で人気が高いという。その日本語版「ホットシューダイアリー」「スケッチングライト」(発行:ピアソン桐原)の一部を、Shuffle読者のために特別公開する。

光をどう当てるか

小型のフラッシュを使うときは、光の制御に役立つものを意識して探すようにしています。フラッシュの光は無限に広がります。光を天井や壁でバウンスさせても、発光した光は拡散してあらゆるものが明るくなります。

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フラッシュに何も付けずにカメラマンがあちこち動きながら撮影していると、光が毎回全体に当たってしまいます。ある結婚式の日のこと。新婦が控え室で準備をしながら2歳の双子の相手をしています。現場では騒々しく人々が行き来していますが、写真撮影をするあなたは、その中から美しさやシンプルさ、さらにその相乗効果を自分で見つけ出し、フレームに捉えなければなりません。

カメラの左側には、天井までの大きな化粧ダンスがそびえています。中ほどには胸の高さの棚と大きな鏡があり、その上段は戸棚になっています。つまり、壁一面の棚の真ん中に2x4フィート(約60×120cm)くらいの鏡があるのです。息を飲むほど美しい新婦のデビーは、そこを化粧とヘアメーク用のカウンターと鏡として使っていました。これは即席のソフトボックスとして使えそうです。

SB-800やSB-900には、プラスチックの小さなスタンドが付属しています。これが便利なのです。SB-800をそのスタンドに固定してカウンターに置き、鏡に向けて置きました。もう1台のSB-800はカメラのホットシューに取り付けて、コマンダーにしました。絞り優先モードで絞り値をF2.8、カメラのダイヤルで+1補正露出すると、シャッター速度は1/15秒になりました。カメラは明るい窓を測光して、前景を露出アンダーにしてしまったため、露出オーバーになるように設定しなければなりませんでした。当然、窓は白飛びしましたが、逆光はすべてハイキーに収まり、臨場感が出ました。リモートフラッシュの出力は、その場の光を補い、影の部分が暗くなりすぎないように設定しましたが、出力を上げすぎないように注意しました。デビーはベールと戯れる子どもたちと遊んでいます。

この子どもたちがいたのは思わぬ幸運でした。小さいので、ベールを見上げると、ライトも見上げる格好になります。そのままベールと光で自由に遊ばせ、撮影しました。

ワニに襲われても撮影は忘れるな

ワニに襲われても撮影は忘れるな。これぞまさにロケ写真を表す表現です。ロケとは、暗い水の中にどう猛なワニが身を潜め、カメラマンに襲いかかろうと待ちかまえているような場所に行って撮影すること。

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これは、世界中に撮影に行く危険をユーモラスに表した定番のたとえです。冗談抜きで実際、私はワニに接近したことがあります。かつて、ナショナルジオグラフィック誌の光感知に関する特集の仕事で、私は夜に獲物を狙う動物を撮影するという名案を思いつきました。

そこで、セント・オーガスティンのアリゲーターファームに行き、夕暮れの湿地で腹ばいになって400mmレンズをアイレベルに構え、ニューヨーク港の悪臭よりはるかにひどい匂いの水にあごを浸けました。ワニの目は、猫のように網膜の奥に特殊な反射層があり、瞳孔を完全に広げて、真っ暗闇の中でもわずかな光を集める鏡のような構造になっています。シャッター時の一瞬の光、つまりストレートフラッシュだけで、ワニの目が湿地の暗闇の中で石炭のように光ります。

この雰囲気を出すために、露出をアンダーにし、ホワイトバランスを電球(タングステン)に設定しました。この設定にすると、晴天下で青が強くなりますが、ほぼ光のない暗がりでは深みのある青になります。露出をアンダーにして湿地の暗がりを強調することで、不気味な雰囲気と危険の予感をにじませす。フラッシュは最大の105mmまでズームし、暖かい色調を保つために 2枚のCTOジェルを入れて、出力を下げました。フラッシュは短く光るだけなので露出には影響しません。急速に暗くなる環境光によってのみ露出が決まります。恐ろしい被写体の目にキャッチライトを入れたようなものだと考えてください。目がキラッとして可愛くなったでしょう。

ストレートフラッシュ。湿地では、シンプルに撮影することが肝心です。

戸口からの光

ところで、光はどこから来るのでしょうか。通常、光の多くは天井や部屋のどこかに取り付けられた照明から発生します。しかし、電気のない場所では、窓やドアを通して光が入ってきます。

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このタンザニア人の女性は、私が会った最も勇敢な人物の1人です。トラコーマで失明した彼女は、自分の足で畑に行って野菜を収穫します。野菜を収穫したら、かごに入れて小屋に戻ります。通いなれた道を健常者と同じような速度で危なげなく歩くことができます。小屋に戻ると、収穫した野菜を手先の感覚で正確に仕分けていきます。実に驚くべき、慎ましい生活です。

私は彼女の家までついていき、一部始終を観察しました。小屋の中は暗く、煙が充満しており、床は地面のままです。彼女はその日の収穫物を仕分け始めました。どうやって撮影すればいいのでしょう。照明はなく、バウンスさせるものもありません。ストレートフラッシュでは、この見事なシーンの雰囲気と美しさが損なわれてしまいます。

そこで私は流れに任せることにしました。光は2か所から差し込んでいます。かまどの近くにある遠い窓は使えません。でも、彼女が仕分けしている場所の左には扉があります。現場に長期滞在するときにいつも着ているカメラマンベストには、背中に大きなポケットがあります。LumiquestのBig Bounceを入れておくのにぴったりのポケットです。

そこで、Big BounceをSB-24にマジックテープで固定し、SC-17調光コード(現行のSC-28/SC-29コードの旧モデル)でSB-24をカメラの左側に離して、通訳に持ってもらいました。準備はすばやく行ないました。この瞬間は長続きしないからです。戸口から差し込み、土埃に反射する柔らかく煙ったような光を捉えなければなりません。Big Bounceの正面にある大きなディフューザーは、フラッシュの光を和らげつつ、けだるい日光にメリハリとコントラストを与えてくれます。

戸口は影になっていますが、小屋の反対側の唯一の窓から日光が差し込み、火から立ち上る煙に劇的な効果を与えています。この光に合わせて露出を決め、室内のディテールをある程度拾えるように、絞りを一定にして(たしかF5.6程度)フラッシュを前景に当て、シャッター速度を変えながら撮影しました。これはシャッター速度を遅くして環境光レベルを取り入れる方法です。シャッター速度が遅くなるほど、環境光に合わせた露出となるため、フラッシュ発光の影響が和らげられます。

私は、ナショナルジオグラフィック誌の仕事のためにタンザニア中部の部族集落でこのシーンを撮影しました。多くの集落ではトラコーマが蔓延していました。この眼病はひどい痛みを伴い、やがて失明に至ります。私の撮影する被写体はいつも並はずれた人たちでした。この女性は、手先の感覚がとても鋭敏で、指で触っただけで野菜と雑草をすばやく区別できます。やがて、より分けた雑草をかごに入れて私の方に突き出し、通訳を介してこう言いました。「ちょっと!これは食べちゃだめだよ!」 


※この記事は「ホットシューダイアリー」から抜粋しています。

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写真:ホットシューダイアリー

ホットシューダイアリー

世界的フォトジャーナリストにして「光の魔術師」のジョー・マクナリーがつづった「光」にまつわる撮影日記。本書の1/3は、1つのスピードライトだけで美しい写真を撮る方法について割かれており、そのほか複数のライトを組み合わせた方法についても詳しい解説がある。

発行:ピアソン桐原 3,465円・税込

写真:スケッチングライト

スケッチングライト

「今までもそうであったように、ライトはいつでも、どこでも、あらゆる写真家の言語であり続けます」と前書きにあるように、光で写真を自在に描くためのテクニックが詰まった1冊。1つか2つのスピードライトという最小限の機材で、最大限の効果を生み出す秘訣を披露する。

発行:ピアソン桐原 3,990円・税込

ジョー・マクナリー Joe Mcnally

タイム、スポーツ・イラストレイテッド、ナショナル・ジオグラフィック、ライフなど世界的に著名な雑誌で活躍するフォトグラファー。ナショナル・ジオグラフィック誌では、同誌史上初めて、全ての写真をデジタルカメラで撮影した特集「The Future of Flying」を発表。32ページにわたる同特集はその価値が認められ、米国議会図書館に収蔵されている。
・インタビュー ニコンイメージングジャパン 世界の写真家たち Vol.08
・公式サイト JOE MCNALLY PHOTOGRAPHY

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