光の魔術師ジョー・マクナリーの極意

2つのスピードライトによる人物ポートレート

解説:ジョー・マクナリー

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タイム、ライフ、ナショナル・ジオグラフィック等の雑誌で活躍する写真家ジョー・マクナリーは、光の魔術師とも呼ばれ、彼の撮影技法書は海外で人気が高いという。その日本語版「ホットシューダイアリー」「スケッチングライト」(発行:ピアソン桐原)の一部を、Shuffle読者のために特別公開する。

2つのスピードライトによる人物ポートレート

今回は、この撮影で要した時間と同じくらい手早く説明しようと思います。ではどうぞ。

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1. 被写体を椅子に座らせて、カメラに戻ります。ここであなたの気が進まなければ、椅子に座らせなくてもかまいません。ただ、私はフレームを決めるのに、その方が便利なのでそうするのです。椅子に座ったモデルは動き回ったりしないので、基準点が変わりません。また、私がなんだかんだと調整している間、少なくとも被写体にはくつろいでいてもらえます。設定が決まったら、椅子はいつでも片付けられますしね。

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img_tech_mcnally09_03.jpg 2. 1つは被写体の顔を照らすためにカメラから見て左側に、もう1つはカメラから見て右側に、リムライトになるように、被写体の少し後ろに置きます。ドームディフューザーを外して、ズームを200mmに設定します。レンズにフレアが入らないように、リムライトにHonlのSpeed Goboをストラップで固定してください。ここでテスト発光します。バックライトが問題になることはほとんどないでしょう。ここではリムライトを高めに始めて、撮影が進むに連れてパワーを落とすことになるからです。ただ、メインライトは強くなりすぎます。TTL調光では、サイドライトしかない最初のフレームはまず間違いなく絞りが強くなりすぎます。レンズへの反射があまりないので、カメラを覗いても暗闇ばかりです。その小さな頭脳に十分な情報が与えられないため、暗いから明るくしてくれとカメラがライトにパワーアップを要求します。ほとんどの場合、このライトをダイヤルを使って下げる必要があります。上のフレームはF5.6の絞りで1/250秒で撮影されたもので、メインライトはグループAの-1.3(言ったとおりでしょう!)リムライトは0.0です。

img_tech_mcnally09_04.jpg 3. リムライトに青いゲルを付けます。青でなくてはいけません。絶対に青です。(というのは冗談です。本当はどんな色でもいいですよ。)そして再度テストします。リードアウトは上と同じですが、バックライトの明度がほんの少し落ちたようです。たぶん青のゲルを付けたからでしょう。なぜだか正確にはわかりませんが。まあ、どうでもいいことですね。今のところ、大丈夫なようです(右の写真)。先へ進みましょう。

4. 70-200mmレンズを92mmから140mmにズームして、硬いポートレートの雰囲気を確認します。このズーム値は唯一うまく行った値です。驚いたことに、TTLパワーレベルは-1.3と0.0で安定しています。誰かつねってください。夢を見ているのかも。

5. メインライトは良い雰囲気ですが、サイドが少し外れています。被写体にカメラの方を見てもらいます。感傷的に、物思いにふけるように。次に、誰かに大きいTriGrip ディフューザー1シボを持ってもらいライトと被写体の間に挿入して、硬い光の流れを遮断します。このとき、パネルはできるだけ被写体の顔に近づけてください。同じ値でまたテストします(下の写真)。あらら。

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6. ディフューザーが追加されたので、メインライトにはもっとパワーが必要です。パワーを1.3上げて0.0に戻します。バックライトは0.0のままにします。被写体にタバコをふかしてもらいます。カメラ目線で。良い感じになってきました(下の写真)。

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img_tech_mcnally09_07.jpg 7. アシスタントの注意が逸れてディフューザーが被写体の顔から外れると、結果は右の写真のようになります。顔の一部に柔らかいライトが当たり、残りに硬いライトが当たっています。これはいけません。でも怒ったりしないで。思うにあなたは写真家として予算ぎりぎりでこの仕事をしているのではないですか? それにアシスタントには別の用事があったはずです。あなたが頼むから聞いてくれているだけなのです。だから、パネルを少し直してくれるように静かに頼みましょう。怒鳴りつけようものなら、逃げられてしまいますよ。

8. 被写体にはタバコを大きく吸いこんでもらって、世を儚むような面持ちで吐き出してもらいます。煙が青いハイライトの中を漂います。彼の顔に適切に当たった光が、個性と奥行きを与えます。最終的な1枚は(一番上の写真)、F5.6で1/250秒のままで、自動ホワイトバランス、ISO 400でした。どちらのライトも0.0補正(つまり補正なし)です。フォーカスポイントは、眼の近くでした。椅子に座った最初のテストフレーム:5:27:26.最後のフレーム—この章の最初の1枚:5:36:49.初めから終わりまで、10分もかかりませんでした。

9. 被写体には、キース・リチャーズみたいなシルクハットを必ず被ってもらいましょう。煙突みたいに盛大に煙を吐き出してもらうのもお忘れなく。


※この記事は「スケッチングライト」から抜粋しています。

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写真:ホットシューダイアリー

ホットシューダイアリー

世界的フォトジャーナリストにして「光の魔術師」のジョー・マクナリーがつづった「光」にまつわる撮影日記。本書の1/3は、1つのスピードライトだけで美しい写真を撮る方法について割かれており、そのほか複数のライトを組み合わせた方法についても詳しい解説がある。

発行:ピアソン桐原 3,465円・税込

写真:スケッチングライト

スケッチングライト

「今までもそうであったように、ライトはいつでも、どこでも、あらゆる写真家の言語であり続けます」と前書きにあるように、光で写真を自在に描くためのテクニックが詰まった1冊。1つか2つのスピードライトという最小限の機材で、最大限の効果を生み出す秘訣を披露する。

発行:ピアソン桐原 3,990円・税込

ジョー・マクナリー Joe Mcnally

タイム、スポーツ・イラストレイテッド、ナショナル・ジオグラフィック、ライフなど世界的に著名な雑誌で活躍するフォトグラファー。ナショナル・ジオグラフィック誌では、同誌史上初めて、全ての写真をデジタルカメラで撮影した特集「The Future of Flying」を発表。32ページにわたる同特集はその価値が認められ、米国議会図書館に収蔵されている。
・インタビュー ニコンイメージングジャパン 世界の写真家たち Vol.08
・公式サイト JOE MCNALLY PHOTOGRAPHY

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