2013年03月15日
大きな照明と小さなフラッシュ
今の時代、小さく持ち運び可能なフラッシュを使った写真撮影が人気です。その多用途性、使いやすさ、そしてそのスピードから名づけられたスピードライトが人気を集めています。小さい、軽い、速い! 持ち運び自由! ワンマンバンド。
とてもいいことなのではないでしょうか。大きい照明は今も、スタジオでの撮影、高予算の仕事、アシスタントたち、重いスタンド、いくつもの機材ケースといった言葉と結びつけられて考えられます。確かにそうでしょう。
大きい照明は、バカでかいOctaのような、巨大なソフトボックスも通過できるので、上記のような感覚を持ちやすいことは十分理解できます。小さいスピードライトは、折りたんで詰め込める、安価で、持ち運びしやすく簡単に組み立てられるといった、あまり大きくないリフレクターと相性がいいのです。良質な光を作り出すのに十分な大きさであるのは確かですが、大きさや機能が足りないため、2400Wsの大型ユニットがふさわしいのかもしれません。
しかし技術は少しずつ進歩しています。小さいフラッシュを使う写真家が、スピードライトから大きい良質の光を得られるようになる可能性はあります。(スピードライトは複数必要ですが。)それに、この小さいフラッシュは、状況によっては大きいフラッシュを技術的な意味で上回ることがあります。たとえばこんな場合です。
上の写真は、84インチの反射アンブレラを使って撮影したものです。最新式でも、高機能でもありません。値段は100ドルです。アンブレラ照明は照明の基本です。風の強い田舎道でフラッシュを使って撮影する場合、まずこれを使います。当然ながら、このタイプの光源は、広範囲をカバーするためにスタジオ用のフラッシュヘッドを必要とするだろうと思うかもしれません。大きいフラッシュ +1灯の大きいアンブレラ1本 = 大きい良質の光。すばらしい。
確かに私も、この大きなリフレクターに小さいフラッシュを1つだけつけるのは気が進みません。光が簡単にかき消されてしまいます。では、3つではどうでしょう。ふーむ。TriFlashブラケットを使えば、3つの小さいフラッシュを個別のコールドシューに装着してアンブレラに向けて照射できます。このシューは少しずつ動かすことができるので、センサーを同一方向に調整できます。以前のタイプのトライフラッシュはコールドシューを動かすことができなかったので、センサーはそれぞれ直角に固定されていました。
それでは、なぜこの大きいアンブレラなのでしょうか?Ezybox Hotshoeのソフトボックスを1つとか、もっと小さい「普通サイズ」のアンブレラではダメなのでしょうか?
この被写体の女性はクローデットという名前のカリブ人で、ミュージシャンです。エキセントリックな部分と神秘性を持ち合わせています。私はセントルシア島のジャングルの濃い緑に囲まれた彼女を撮影しようと思いました。ということは、彼女から離れて広角レンズを使う必要があります。ということは、照明も彼女から離す必要があります。ということは、もしそれが小さいソフトボックスのような照明だったら、光はあっという間に硬く薄暗くなってしまいます。それでは困ります。
光源のサイズと、光源と被写体の距離は、光の質に大きく影響します。小さい光源を離して使ったら? 硬い光になります。大きい光源を近づけて使ったら? 柔らかい光になります。(このことは、本書で何度か繰り返していますから、おわかりですよね。)周りの景色を多くフレームに入れるために広角レンズを使うと被写体から離さざるを得ないので、光が十分に届かず、硬い光になってしまいます。これに抵抗する方法として、小さいリフレクターをやめて、大きいものを使うことがあります。(現場から役立つヒントを1つ。たとえあなた自身が被写体の代役にならなくてはならないとしてもそうすべきです。)
そして小さいフラッシュを使います。最近のフォトグラファーはあらゆるライティングに対して強い関心を持っているので、キットの中に2個や3個やそれ以上のスピードライトが入っていることは珍しくありません。それらを大型のリフレクターに取り付けてください。カメラ側でTTLコントロールを使い、今までの常識に反して、森の中で大きい照明と同じクオリティを作り出すのです。
それだけではありません 何と ドラムロール 高速シンクロも利用できるのです。被写界深度を制限して、この写真のように背景の緑へのフォーカスをコントロールしたい場合は、高速シンクロのメカニズムを使うことで、小さいフラッシュでも十分な光源になります。2、3個のスピードライトのパワーを集結させて十分な光を放つことができれば、シャッタースピードには事実上何の制限もありません。この撮影のときも、私がFストップをF1.4にすると、シャッタースピードは最大1/500秒にまでなりました。
大きいフラッシュでF1.4まで下げてみてください。電源パックのBかCポート(最小電力規格のもの)を使い切って、絶対最小値にプログラムすることになるでしょう。また、おそらくフラッシュに減光フィルターを何層も重ねることにもなります。(減光フィルターは光の色を変えないジェルですが、そのパワーを抑えます。色はくすんだグレーで、通常、1絞り単位です。)
もし、F1.4に下げるために大きい電源パックを使うとしたら、最大のFストップで適切な露出を与えるための十分なシャッタースピードを得るのはかなり難しいでしょう。大型電源パックの高速シンクロ(ハイパーシンクロとも言います)を使った多くの実験が行われていますが、スタジオユニットで、通常のシンクロの場合の制限値は普通は1/250秒で、場合によっては1/200秒ということもあるでしょう。このケースでは、1/200秒で絞り値F1.4が限界だったでしょう。定常光レベルと強制的な「通常シンクロ」シャッタースピードの組み合わせになると、私はもっとFストップを閉じることになります。Fストップが小さいほど、被写界深度は深くなり、ジャングルがよりくっきり写ります。それでもいいかもしれませんが、私はそれを望んでいませんでした。私は被写界深度を最小にしようとしていたのです。
(私は美しくゴージャスなボケ味が欲しいんだと言いたかったのですが、心の中に留めておきました。)
このセットアップはとてもシンプルです。カメラの右に大きいアンブレラが1つ。構成は、スタンド、トライフラッシュ、反射タイプのアンブレラです。3個のスピードライト。高速プライムレンズを装着したカメラ。ホットシューに取りつけたコマンダーモードのフラッシュ。すべての照明が1つのグループ(A)に入ります。併せて1つの光源になるからです。被写体が、永遠の吟遊詩人クローデットから清純な花嫁アラナに交代した後の変更点は1つだけです。私はアラナのために、ビューティーディッシュの代用を果たすシルバーのトライグリップを追加しました。それだけです。アンブレラの真下に配置したそのトライグリップは、テーブルの表面ように平らで、メインライトからこぼれ落ちた光を拾って彼女の顔に反射しました。たった1つの変更で、他に照明を足すことなく、フラッシュはソフトで指向性のある光から、大きな美しい光に変えることができるのです。
ときどき、大きい照明を1つ使うだけでできるのに、どうして複数のスピードライトを使うのかと難癖をつける人がいます。それは正しい指摘です。レンジャーのユニットかプロフォト7Bを使えば、単三電池や、有効範囲が不確かなリモコンや、もっと不確かなTTLに頭を悩ますことなく、ポータブルの大量のライトパワーを簡単に供給できるのですから。でも私は大きい照明の代わりに複数の小さい照明を使うことは技術的に理にかなっていると思ったし、ただスピードライトを使いたいがために使っているわけではなかったのです。同じようにしている人が他にもいるかはわかりません。これについては、本当に知らないのです。
それでは、やはり大きいフラッシュですか? いやいや、小さいフラッシュにします。いや、それでは駄目です。じゃあどうするんですか? 大きくて小さいフラッシュは? 小さいフラッシュが大きい仕事をする? さあ、どうでしょうね。しかし、コントロールの面では良いのではないでしょうか。大きく広範囲の光源の美しさと、小さい専用のスピードライトのプッシュ式コントロールを手に入れるのです。
どちらにするにせよ、タダではありません。何度も言いましたが、小さい照明か大きい照明かを決めるのは、あなた自身の撮影のワークフローとスタイルです。どれを選ぶかはあなた次第です。ただ、何にせよ、お金がかかるのは事実です。
それでも、ジャングルの中で良質の照明を得られるとしたら? それはお金には替えられません。
※この記事は「スケッチングライト」から抜粋しています。
ホットシューダイアリー
世界的フォトジャーナリストにして「光の魔術師」のジョー・マクナリーがつづった「光」にまつわる撮影日記。本書の1/3は、1つのスピードライトだけで美しい写真を撮る方法について割かれており、そのほか複数のライトを組み合わせた方法についても詳しい解説がある。
発行:ピアソン桐原 3,465円・税込
スケッチングライト
「今までもそうであったように、ライトはいつでも、どこでも、あらゆる写真家の言語であり続けます」と前書きにあるように、光で写真を自在に描くためのテクニックが詰まった1冊。1つか2つのスピードライトという最小限の機材で、最大限の効果を生み出す秘訣を披露する。
発行:ピアソン桐原 3,990円・税込
ジョー・マクナリー Joe Mcnally
タイム、スポーツ・イラストレイテッド、ナショナル・ジオグラフィック、ライフなど世界的に著名な雑誌で活躍するフォトグラファー。ナショナル・ジオグラフィック誌では、同誌史上初めて、全ての写真をデジタルカメラで撮影した特集「The Future of Flying」を発表。32ページにわたる同特集はその価値が認められ、米国議会図書館に収蔵されている。
・インタビュー ニコンイメージングジャパン 世界の写真家たち Vol.08
・公式サイト JOE MCNALLY PHOTOGRAPHY