写真で食べていく方法

伝統的な写真技法を広めて行こうという選択肢

文:清田麻衣子

写真で食べていく方法は人それぞれ。この連載では「写真が好きで仕事にしている」という人に、これまでの経緯やこだわり、仕事の内容を聞いていく。今回は田村写真の代表・田村政実氏。今話題の湿板写真のほか、プラチナプリント、オイルプリントなど、伝統的な写真の技法を徹底的に研究し、技術を学びたいという人には門戸を開き、写真表現の普及に尽力している。最新技術も取り入れながら写真の可能性を追求する田村氏に話を聞いた。

「ほかの人が撮れない写真を撮りたい」という欲求に応えたい

───嵐出演のバラエティ番組『嵐にしやがれ』の中で、4月18日発明の日にちなんで大昔の写真撮影は大変だったという企画があった。

今のように、デジタルでフラッシュを浴びまくり撮られる事とはまるで違う写真撮影。当時のように長い時間(20秒)じっとして撮影される事を体験するというもの。番組のラストに仕上がったガラスの写真を見て「おーっ」と歓声が上がる。 

こんなにも撮影に集中し、かつ絵が出ることに感激をもたらすような写真はいまどきないだろう。

これはかの有名な、懐に腕を入れた坂本龍馬の写真と同じ技法で撮影された「湿板写真」というもの。日本に入ってきのは1850年頃のことだ。しかしその後、板よりも便利な撮影方法が次々と生まれ、湿板写真は廃れていった。

ところが100年以上の時を経て、湿板写真やその他の古典技法に注目が集まっているという。

img_special_earning04_02.jpgimg_special_earning04_01.jpg湿板写真を水洗いしている段階。

←左が田村社長、右がスタッフ。

田村 当初は広告やファッションフォトグラファーのネガからプリントにする仕事をしていました。でも2005年くらいからデジタルに移行する人が増えて仕事が減って来た。僕自身ずっと興味があったプラチナプリントを自分で始めたら、面白かったんです。

それで「自分のやりたいことに反応してくれる人を集めて何かしたい」と、ワーショップを始めました。

ワークショップとは言っても、来る方が「何をしたいか」ということから始まり、大体4人くらいで開催します。僕はそれぞれの参加者がやりたいことをサポートする役目です。

プラチナプリントから始まった

田村 海外では1990年くらいからプラチナプリントや湿板写真をやる人は増えてきていました。インターネットの普及に伴って、海外と日本のアマチュア同士で情報を交換できるようになってきたんです。

うちでは湿板写真、プラチナプリント、サイアノタイププリント、オイルプリントなど、いろんなことをやっています。

プラチナプリントは、鉄塩の感光性を利用して、金属のプラチナやパラジウムで画像を作り出します。

感光特性が紫外線側に偏っていますので、太陽光や紫外線を出す露光装置が必要となります。感光液を紙に塗布し、密着焼きする手法です。材料代はすごくかかり、うちは私設なので材料費込みで一日2万円程かかります。でもその値段を払ってでもやりたいという人が増えています。

こういった技法は、主に戦前、流行していたもので、カメラなどの機材が高価だったこともあって、富裕層が嗜むものでした。

それで商売をするとかプロの写真家を目指すというわけではなく、技術や表現を求める「純粋芸術」を志向している人が主でした。

現在、うちのワークショップにたびたび来られる方は仕事をリタイアしたアマチュアの方が断然多いですが、これは戦前の写真愛好家の広まり方に近いと思う。みなさん「こんなことできるかな」と日々研究して新しい事に挑戦しています。

img_special_earning04_03.jpgプラチナプリントとネガ。デジタルデータから味のあるモノクロ写真が生まれた。

───現代にプラチナプリントを広めたのは、デジタル技術に負うところが大きい。密着焼きを必要とする手法ではプリントと同じサイズのネガ、同じサイズのカメラが必要だった。またはアナログで大きなフィルムネガを作らなければならなかった。

ところが、現在は撮った写真のデータをインクジェットプリンターでネガをプリントする。だから、デジタルで手軽にプラチナプリントができるようになったのだ。サイアノタイププリントの場合も同じ理屈だ。

田村 プラチナプリントの特徴として、ゼラチンシルバープリントと圧倒的に違うのは繊維そのものに色がつくこと。点ではないんです。通常の銀塩プリントは、ゼラチンの層の中にある銀が黒くなって黒の濃淡で絵を見せる。

ところがプラチナプリントは紙のそのものに液を染み込ませてそこに感光させて絵を出すので、使用する紙によって全然違う質感になる。だからプラチナもサイアノも、いろいろな紙にもプリントすることができる、

たとえば和紙にプリントすることもできる。和紙は、繊維が細くて透明感がある。だから同じ絵柄でも紙が変わると雰囲気がすごく変わります。日本では、風合いも含めて和紙に惹かれる人が増えています。

とにかくみなさん、他の人が撮れないようなものを撮りたい。たとえばサイアノは、時間や薬品で色がすごく変わるので、「これがきれいだ」というの自分だけの色を探せる。だから自分でやることが楽しいんです。

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プラチナプリントの準備作業。左:インクの塗布。右:処理中。

オイルプリントを現代に蘇らせる

───そして田村さんが今気になっている古典技法は、1904年頃に登場したオイルプリントだ。

あらかじめゼラチンを塗布した紙を使い、重クロム酸溶液で感光性を持たせ、プリントサイズの密着ネガ(プラチナプリント同様)を太陽光や紫外線露光機を使い焼き付ける。それを水洗していくとしだいにゼラチンのレリーフ像が出来上がる。そのレリーフに、リトグラフ用のインクを使い、ブラシでインクを叩きつけていくことで、ゼラチンが油性のインクをはじき、絵として浮かび上がってくるのだ。インクの種類や硬さを変えることで雰囲気も変えられる。

田村 愉しみ方としては、絵画教室に通う感覚と少し似ているかもしれません。オイルプリントは、昭和初期くらいで完全にすたれ、誰もやらない時代が長くありました。だから当時の技術書を読んでそのとおりやってもうまくいかない。うちで「石塚式オイルプリント」と呼んでいるのは、人形作家で写真家の石塚公昭さんが、古書を探して現代にも再現できるよう生み出した方法だからです。

当時と今との一番の違いは、水。ここで水とは井戸水をさすのですが水温が一年中ほぼ一定の温度なんです。でも水道水は夏や冬ですごく変わってしまう。そこで一定の水温を保つ(フィルム現像等でも同じ事ですが)事が必要になってきます。昔は冷やす為に井戸水に浸けたように、冷蔵庫を使ったりします。

プロも注目する湿板写真の魅力

───プラチナやサイアノ、オイルは、デジタルを間に挟むことで手軽にできるようになった技術だ。一方湿板写真は、まったく違う角度から人気に火がついた。

田村 湿板写真は綺麗に磨いたガラスにヨウ素などの入ったコロジオンを塗り、硝酸銀の溶液の中に漬け込むことで感光性を持ちます。

それを暗室の中でフォルダーにセット、撮影したら、すぐに現像します。これらが全て乾く前に行なわれなければなりません。そのことから「湿板写真」また「Wet Plate Collodion」と呼ばれています。

撮影したプレートに現像液を掛けると、わずか20~30秒程でネガ像が表れます。水によって現像を停止させ、定着液に浸けると、白かったハロゲン化銀が定着により溶け出し、背景を黒くすると鮮やかなポジ像が浮かび上がるのです。この瞬間に歓びがある。

すごく昔の技術なのに、すぐに見られるのが面白いんですね。いまこれが急激に人気が出てきていて僕自身も面白いと感じています。

img_special_earning04_06.jpg湿板写真の現像作業。

───プラチナと湿板はファン層がかぶらない。プラチナのファンは、プラチナだけでは飽き足らず、サイアノやオイルなど、主にデジタルネガを使う方が多いので、いろんな手法に広がっていくが、湿板写真は別な面白さがある。レンズを見て、撮って、すぐに絵がでてくる。この面白さは写真の原点とも言えるものだと田村氏はいう。またこれこそが、冒頭の嵐の番組で、歓声が上がった理由だ。

レンズは、坂本龍馬の写真を撮った時代のレンズで撮ると、その時代の面白さが出る。昔のレンズを使うと、昔の写り方をするのだそうだ。

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左:湿板ガラスの準備、右:湿板ガラスを磨く。

100年前のカメラやレンズも活用

田村 田村写真には1860年くらいのレンズもあります。機材も旧いものがいろいろあります。写真の機材はもともと高価なもので、ちゃんと保存されているものであれば、100年以上経った現在でも充分使えます。

今使っているカメラは大正時代によく使われていたカメラで、それがピカピカのまま残っている。ほとんどネットオークションで買いました。デジカメよりずっと安いです。いまは大判カメラは日本はいちばん安く手に入ると思う。たとえばこのワークショップでもよく使っているカメラはネットオークションで8500円。道具屋さんが売りに出していたものでかなり安かったです。高くてもだいたい数万円で買えます。しかし、レンズは数が少ないのでどんどん高くなっています。旧いレンズだと10万円以上。でもデジカメの最新レンズはもっと高い。

昔のレンズは、手作りなのでピントそのものが不安定なんですが、それが味になっている。そういうのは再現できないですから。むしろ湿板をやる人は、そういう味のある旧いものを探します。たとえば、ワークショップに、自分のレンズを持ってきて、「1840年以前、ダゲレオタイプ時代の面白いレンズを買ったから、今日はこれで撮りましょう」とか、そういうことがあったりするんです。

img_special_earning04_09.jpg 湿板写真の撮影。

───また、湿板を仕事として始めるプロのフォトグラファーも増えてきているという。

田村 この1〜2年で湿板を始めるプロの方がどんどん増えてきています。うちのワークショップに来た方も多く、各地をイベントで回って湿板写真を撮っているペータくん。また谷中で湿板写真館「Light & Place 湿板写真館」というのをやっているのがフォトグラファーの和田高広さん。2人とも2014年から湿板写真を撮っています。フォトグラファーの本間寛さんや宮原夢画さんも2013年くらいから湿板を始められていますね。

情報を共有できる場所にしたい

───とはいえ湿板を気軽に始めるにはまだハードルは高い。薬品は手に入りづらく、薬品の処理は廃液業者に頼まなくてはならない。とはいえ、湿板写真は情報交換が盛んで、機材も含め、相談事や探し物があるとき、Facebookを利用して解決できることも多い。田村さんももっぱらFacebookを活用しており、Facebookのメンバーもどんどん増えてきているという。

田村 みんなデジカメで撮った写真の写りに飽きているところはあると思う。いまワークショップをコンスタントに行なっているのはうちだけですが、関西からのお客さんも多いです。もっと需要が広がって、東北、関西、九州など、各地でこういうことをやる発信地が増えて、点が線になったらいいなと思っています。

また今後は、コミューンみたいになって、長年やっている人が他の人に教えるようになったらいいですね。田村写真は場所として、情報を共有するというようなスタイルになればいいなと思っています。

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