写真で食べていく方法

写真を手軽に売買できる場を作るという選択肢

文:清田麻衣子

写真で食べていく方法は人それぞれ。この連載では「写真が好きで仕事にしている」という人に、これまでの経緯やこだわり、仕事の内容を聞いていく。今回はピクスタ(PIXTA)。プロアマ問わず登録できて、撮影した写真の投稿や購入も手軽にできるストックフォトサイトだ。撮った写真をどうビジネスにつなげていけばいいのか。そしてどう広めていくのか。社長の古俣大介氏に話を聞いた。

受注仕事とストックフォトとを兼業するプロフォトグラファーも多い

───2015年8月で創業10周年を迎えたピクスタ(PIXTA)は、撮影した写真を投稿し、それをユーザーが購入する、いわゆる「ストックフォト」のサイトなのだが、特筆すべき点は、クリエイターはプロアマ問わず登録できるということ。登録者はプロやセミプロも一定数いるが、割合的にはアマチュアが多い。だがアマチュアでもここでビジネスとして成功し、自信をつけてプロになった人もいるという。現在、登録クリエイター数は約24万7000人(2018年2月現在)。急成長を遂げる理由を、社長の古俣大介氏に伺った。

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古俣大介社長。

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古俣 創業当初からこの形態でやることは考えていました。そのずっと前、僕は大学4年生のときに学生起業家としてeコマースサイトでコーヒー豆を扱ったビジネスからスタートしたんです。1999年で、サイバーエージェントや楽天、オンザエッジ(ライブドアの前身)が出始めた頃でした。僕の父親はアイディアグッズとか健康グッズなどの雑貨を大手スーパーの催事場で売っていて、母親はリサイクルショップを営んでいまして、モノを売るということが身近な環境で育ちました。その下地に、インターネットをミックスして仕事にしようと思ったんです。

───大学を出たあとはガイアックスで1年間修行を積み、その後自分の会社を立ち上げる。改めて何をやろうか考えたときに、自分はモノよりはクリエイティブなコンテンツが好きだということに気づいた古俣氏。その当時、オンデマンド印刷や大判印刷が始まった頃で、一枚でも綺麗に印刷できる機械のイノベーションが起きていた。古俣氏は、それを活用し、主に飲食店向けのメニューやポスターをインターネット上で受発注できる仕組みを作ろうと考えた。

古俣 でもお店のニーズを組み込むのはネットで完結するのが難しくて、1年で断念してしまったんです。その後2003〜2004年くらいにかけて、父にルートを紹介してもらって、健康グッズをネット上で売るeコマース事業を始めたら結構すぐにうまくいって、月商1000万円くらいになりました。その間、人生を賭けられるような次の事業はないかを模索していたんです。

───2003年にキヤノンのEOS Kissデジタルが大ヒットし、デジタル一眼レフのブームが起きる。また、ネット回線がISDNからADSLになり、写真がどんどんインターネットに投稿され始めた。

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PIXTAサイト。https://pixta.co.jp

古俣 投稿者はアマチュアが主流でしたが、デジタル一眼のクオリティの高さに驚きました。この機材を使えば、商業レベルの写真が少しの工夫でアマチュアでも撮れるんじゃないかと思ったんです。

当時、そういった方々はデジタル一眼レフでいい写真を撮って投稿することへの情熱はすごく高いんですが、その情熱の持って行き場が、ネット上で写真の掲示板のようなサイトに投稿するか、リアルの世界で雑誌のコンテストに応募するぐらいしかなかった。そのくらいしか撮った写真を発表する場としての選択肢がありませんでした。

たとえば富士山とか、自分の好きな被写体や、毎週撮りにいっている場所があって自信のある写真が撮れているにもかかわらず、何に活かされるわけでもなく、人の眼にも触れないという状況があるんだなと思ったんです。でも物理的な障害や状況を乗り越えて、そういった写真が人に必要とされる「場」を作れるんじゃないか、インターネットを使えば、誰でもどんな立場の人でもフラットに自分の作品を世の中に発信する機会があるんじゃないかと思ったんです。

世の中に商品が溢れかえっている中で、写真やイラスト、小説や映画やゲームといったコンテンツが僕は好きなんです。自分が見るのも好きで、10代の頃は小説やイラストを描いたりもしていました。残念ながら自分にはそういう才能はありませんでしたが、知識はあるのでクリエイターを支援することはできる。それこそが僕のやりたいことだと思いました。「才能をつなぎ、世界をポジティブにする」という経営理念はそこからスタートしました。

創業当初、苦しい時代もありましたが、投稿してくれている方の熱量は衰えず、どんどんいい作品が集まってきていたので、いけると確信していました。

───登録者にとってはリスクもなく、ありがたいシステムと言えるだろう。しかし顧客は増えているのだろうか。そんな懸念に、古俣氏は実に明快な回答をくれた。

古俣 10年くらい前からデジタル媒体やネット上にもいろんな広告やメディアが増えてきていて、そこには少なからずいろんなデジタル画像が付随します。そういった状況から、写真の利用シーンや点数も何十倍も広がってきているんです。

何か告知する場合でも、たとえばチラシがHPに変わったことで、頻繁に更新されたり新しいキャンペーンページができたり。ここ数年はその動きが加速していて、企業が無料でブログにいろんな記事を作って、それをソーシャルメディアで共有してファンを集めるというようなこともどんどん増えてきました。1日に何回も記事を投稿し、そこにアイキャッチで画像をつける。またスマホの普及によってスマホへの接触頻度も変わってきています。サイトの更新サイクルも早まることで、サイトに使用する画像の数もおのずと増え、この状況の広がりとスピードは、僕の予想を超えたものでした。

また2014年より定額制をスタートさせました。このニーズがどんどん増えています。Facebookに画像付きの記事を投稿するとか、営業資料に画像をたくさん使う流れが増えてきているんです。会社単位で営業担当者が使っていただく。またウェブサイトの画像はその後複製したり印刷したりメディアミックスになっているので、何度も同じ画像を使うケースも多い。使う側からすると、そのたびにお金を払うのは使いづらい。紙とウェブで媒体が違うからと追加料金を払うのはすごく不便だと思います。だから定額制のようにグロスでいくらのほうが使いやすいんだと思います。

今は、グーグル画像検索で誰でも画像を探せるようになり、便利になった一方で、会社の資料で使う画像もネット上の画像検索でみつけたものを無断で使ってしまうような権利意識とモラルの低下、あるいは無知によるトラブルも起きやすくなりました。オリンピックのエンブレム問題がまさにその例でした。しかし、それが大々的に報じられたことをきっかけに、多くの人びとの権利意識が高まったころもあり、ストックフォトの需要は一層増えてきています。

───もっとも稼いだ登録クリエイターで、年間2000万円(支払いベース)。1点540円だから、大量に撮っているわけで、登録点数も約6万点という驚異的な数だ。

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リスト:自然の写真素材のページ。

古俣 売れるというのは、その方の作品がニーズにマッチしていたり、クオリティが高かったりするわけです。ニーズはうちからも情報を提供していますが、独自にニーズを分析されて本気で稼ぐ方もいる。そういった方の多くは、アマチュアでも機材や撮影に先行投資して、複数人のモデルを依頼して撮影するといった撮影コストがかかる写真も果敢に撮っています。ピクスタの収入でいいレンズを買ったり、それがモチベーションになっている方も多いです。

元金融マンの方で、このピクスタで写真を本格的に撮り始めた方なんですが、この方はすごいです。あらゆる分析をしておられるし、機材も本格的です。ご自身をアマチュアとおっしゃいますが、収入はすごいですし、腕も機材もプロとなんら変わりがありません。この仕事の面白さを伺ったとき、「大きな企業にいると自分の企画が100%通るわけじゃない。でも、ピクスタだと自分の考えが100%試せて、結果を出せるのが面白い」とおっしゃっていました。マーケティングと商品開発でどうヒットするか、結果が自分にダイレクトに跳ね返ってくる面白さがあるのかもしれません。

プロの方の場合は、実際、プロで受注する仕事とストックフォトとを兼業している方も多く、ストックフォトが伸びて安定収入になり、スタジオを作ったという方もいらっしゃいました。ただプロといってもバラバラで、受注仕事とダブルワークでやっている方もいますし、受注仕事ではできない好きな撮り方を試すためにストックフォトを利用しているという方もいます。

一方で、たとえば富士山が好きで富士山ばかり撮っているという方もいる。そのなかに、ものすごい1枚があったりするので、それを是非出していただきたい。また、人物も風景も得意ではないけれども、自分で作った料理やお菓子、食材を撮る方もいます。自宅の日当たりのいいところで、自然光でいい光がくるように考えて撮るのがメインの主婦の方もいます。目標金額もモチベーションもさまざまです。単に楽しいからという方もいて、「趣味以上仕事未満」とおっしゃっていた方の言葉は印象に残りましたし、そういうスタンスのアマチュアの方も非常に多く、たまに売れて喜びを感じるのがいいという方もいるわけです。それぞれに合った取り組みをしてもらえればと思っています。

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PIXTAには様々なシチュエーションの写真が集まってくる。左上:©PIXTA/gori910、右上:©PIXTA/totoro、左下:©PIXTA/xiangtao、右下:©PIXTA/Fast&Slow

───登録者が増え、写真が増えてくると素材のバリエーションも尽きてくることはないのだろうか。

古俣 購入者様には「こういうのないんですか?」と言われることが未だに多くて、自分たちはまだまだだと思うことばかりです。そういったニーズをくみ取り、クリエイターの方向けにセミナーを定期的に開催して、サイトのタグのつけ方とか写真の売れる傾向とかをレクチャーしたり、求められている素材のテーマやバリエーションの情報をブログやメールマガジンで発信しています。

img_special_earning11_10.jpg写真の学校セミナー。
img_special_earning11_11.jpgライティングセミナー。

売れる写真は常に時代の変化とともに移り変わっています。たとえばビジネスシーンのイメージ写真は、昔は日本人だけだったのが、いまはグローバル化が進み日本人と外国人が一緒に会議をしているような写真が売れるようになってきた。

またクリエイター同士もFacebook上にもいくつかのコミュニティがあって、近場に住む人同士が一緒に撮影会をやろうと話し合ったりしています。どこのスタジオでモデルを呼んで撮影会をするから折半してやりませんか、とか。その中にはプロの人も初心者も混ざっているんです。アマチュアの方はアイデアは豊富だけど、プロは技術を持っている。お互い情報を交換しあって成長していける場も作っています。こうやってフラットに交流を持っていただけるととても嬉しいですね。

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売れ筋のビジネス写真。©PIXTA/Ushico



ピクスタ(PIXTA)

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