フォトグラファーのためのタブレットPC活用術

Windows 8 タブレット VAIO Tap 11をテストする

解説:御園生大地

フォトグラファー/レタッチャーの御園生大地氏が、最新のWindows 8 タブレットをテストするシリーズの第2回。今回は、VAIOシリーズ初のタブレット「VAIO Tap 11」について検証する。

進歩し続けるタブレット環境の現状

iOS(iPadやiPhone)系の注目アプリのリリースが続いている。

ひとつは「X-Rite Color TRUE」。そしてもうひとつは「Adobe Lightroom mobile」だ。当記事の主題はWindows 8タブレットであるので詳しくは触れないが、これらのアプリのリリースはWindowsタブレットの未来に無関係ではないので、筆者の印象のみを簡単に述べたい。

検証の結果、どちらも「今までのiOS機器の利便性を一段アップする実力がある」反面、現時点では「PC環境での利便性をタブレット上で再現する力まではない」というのが率直な感想であった。

アップルは今年の「WWDC 2014」で、OS XとiOSの統合の動きを再び加速させるという噂(あくまで噂の段階)もある。しかし、完全に統合するところまで思い切る可能性には、筆者個人は懐疑的な立場だ。iOSでMacとほぼ同じ操作ができるようになる日が来るとしたら、何年も先の事になるのではないかと感じている(そもそもアップルは、本気でそこを目指しているのだろうか…? 今年のWWDCに注目したい)。

これらの状況から、「現場への荷物はなるべく減らして機動力を確保するため、タブレットを選びたい」「そのうえでプロの現場で、なるべくPCと遜色ない利便性を享受したい」と考えた場合、変わらず「Windows 8タブレット」が、2014年現在の最有力な選択肢なのだと思う。

ただし「Windows 8タブレット」は、「PC」と「タブレット」を少々強引に統合したゆえのやむを得ない短所も各機種存在しているので、現場での使い勝手における長所短所をできる限り検証し、お伝えするのがこの連載の使命であると感じている。

前置きが少々長くなったが、今回はVAIOシリーズ初のタブレットである「VAIO Tap 11」について、検証していきたい。

高性能タブレットの一角 VAIO Tap 11

11とある通り、モニターサイズは約11インチ(11.6型ワイド。型とインチはイコールと考えて問題ない)。

iPad(9.7インチ)より大きく、重さも重いということになる(iPad Air 478g、iPad[第4世代] 652g、VAIO Tap 11 約780g[キーボード抜き])。

img_special_tablet06_01.jpg 左がVAIO Tap 11。iPadより横幅がかなり広い。

「撮影現場で長時間持ち続けるには600g台が限度」というのが筆者の個人的感触なので、VAIO Tap 11は片手で持ち続けるようなシーンより「機動力を生かしつつ、撮影ポイントではどこかに置いて設置する」ような使用方法を想定するのが合っていると思う。

VAIO Tap 11には、筆者がこれまで体験した中では間違いなく最高品質のキックスタンドが内蔵されている。このキックスタンドは可動部分が絶妙な硬さになっていて、「無理なく動くのだが、無段階に好きな角度でガッチリ止まる」。これにより、あちこち持ち歩いた先で様々な高さに設置しても、ストレスなく閲覧することが可能だ。

img_special_tablet06_02.jpg 無断階で好みの角度をキープすることが可能
img_special_tablet06_03.jpg 一番広げた状態。これ以上倒すことはできないが、十分な印象。

次に性能面を見ていこう。

VAIO Tap 11のCPUは通常の店頭モデルでは「Core i5」であり、タブレットとしては性能は高めだ(タブレットPCのCPUは大きく分けて「Atom系」と「Core i系」があり、後者のほうが性能が高いが、重量が重くなる傾向がある)。そして、64bit Windows OSであるので、Capture One Pro 7も動作する。

img_special_tablet06_04.jpg フルサイズのUSB3.0端子がついているメリットは大きい。テザー撮影のほか、データの出し入れも容易だ(画面はCapture One Pro 7)。

タブレットとしては性能が高めの機種なので、実際に現場で、少々意地悪な(?)テストをいくつか行なった。

まずはCapture Oneのテザー撮影で、5mのUSB3.0ケーブルを使ってD800のRAWファイルを連写してみた。15連写した時点でD800のバッファーが一杯になり、連写が不可能になるのだが、その後2~3秒の間隔でシャッターを切り続けることができた。VAIO Tap 11の電源コードを抜いて、バッテリー駆動でも同様に動作した。

次に、ファイル容量2.3GBのpsb(ビックドキュメント形式)画像をPhotoshop CCで開いてみたところ、開くのにかかったのは47秒だった(筆者のMacBook Pro Retina 15inchでは35秒)。これはSSDのお陰でもあるが、タブレットとしては「速い」と感じた。さらにこのpsbファイルに調整レイヤーでトーンカーブをかけてもストレスなく動作した。さすがにヒストリーが溜まってきたりすると厳しいと思うが、多少重いファイルでもタブレットで扱えるのは驚きだ。

そして最後に、3600万画素のtifファイルに、調整レイヤーで画面の周囲を焼き込んでみた。レイヤーマスクを5000pxの最大ブラシでなぞったら、表示にはかなりの遅れが見られた。

img_special_tablet06_05.jpg 付属のペンでブラシ作業。5000pxのブラシの描画はさすがに遅れがでる。

そしてデフォルト設定のままでは、コンテンツに応じた塗りつぶしはRAMが足りないとして実行できなかった。グラフィックプロセッサに負担がかかる処理では、少々無理がかかる印象だが、これらはまあ、短所とまでは呼べないであろう(VAIO Tap 11が約780gのタブレットマシンだという前提を忘れてはいけない)。

むしろタブレット端末でここまでの事ができるのは、驚きであると言ってよいと思う(ちなみに、Eye-Fiでの無線転送撮影、iPhoneでのUSBテザリング、Lightroomの動作などは、問題なく行なうことができた)。

モニターキャリブレーションがとれるタブレット

そして最後に、この機種のモニターについて述べたいと思う。

VAIO Tap 11を「i1 Display Pro」でキャリブレーションしたところ、「D55」の目標設定で、ほぼ「ColorEdge」の「D50」の表示に近い結果を得ることができた。現状ではiPadも、前回取り上げたThinkpad Tablet 2も「キャリブレーションがとれる端末」とはちょっと言いづらい状態である中、比較的ColorEdgeに近い出力が得られるのはVAIO Tap 11の長所であると言える。ただし、万能ではない面もある。

img_special_tablet06_06.jpg i1 Display Proでキャリブレーションを実行しているところ。モニターキャリブレーションがとれるメリットは非常に大きい。

それはどういうことかと言うと、タブレットの記事で筆者が繰り返し述べておりしつこくて恐縮なのだが、ここでも言わせていただきたい。グラフィックのプロの現場での使用を想定した場合、発展途上のタブレットPCにはiPadも含めて「完璧」と呼べる機種はほぼ存在しない。この機種にも、2つほど「惜しい」としか言いようがない短所が存在するのだ。

まず1つ目は、筆者が今まで体験したIPSパネル搭載液晶モニターの中では最も視野角が狭いということだ。VAIO Tap 11の表示は、真正面から見た場合は良好な表示なのだが、ちょっと角度をずらすと、かなり表示が暗くなってしまう。極端に暗くなる分「不正確な表示で見ているのに気がつかないままで放置してしまう」というリスクは逆に小さいと思うので、これによる失敗が起こりづらいのが救いではあるかもしれない。

そして2つ目は、モニターの明るさが安定しない場合があることだ。特に電源コードを抜いてバッテリー駆動に切り替えた直後に、よろよろと明るさとコントラストが下がっていってしまうのが気になる(OS、VAIOの設定を深く潜って電源設定を見なおしたが、テスト期間中にこの現象を解消することはできなかった)。

そして電源を挿し直すと、一気にコントラストだけ回復。明るさは2~3秒かけて徐々に戻ってくる。電源を挿したままであれば、ほぼ問題なさそうだったが、念のためキャリブレーション結果が外れていないか「Display profile」などのフリーウェアを活用するなど、慎重な運用をする必要があると思う。

Display profile
http://www.xritephoto.com/ph_product_overview.aspx?ID=757&Action=Support&SoftwareID=539

(あとは、短所と呼べるほどではないが、バッテリー駆動時間が最大8時間というのは、使い方にもよるので何とも言えないものの、電源なしでWi-Fiで転送撮影し続けた場合、現場では6~7時間程度の撮影が限度であると予想される。人によっては注意が必要だろう。)

とはいえ、VAIO Tap 11が、iPadシリーズやThinkpad Tablet 2より正確な色再現ができることは間違いない。最後のちょっと惜しい部分だけ除けば、VAIO Tap 11は、タブレットPCにして「非常にノートPCと近いパフォーマンスを発揮できる機種」であると言えると思う。地方ロケで、ホテルで画像を仕上げてしまうことくらいは、このタブレットなら何とかできそうだ。

img_special_tablet06_07.jpg 付属のカバー兼キーボードは、分離使用が前提。よくできていて、不満点はトラックパッドがMacより使いづらいくらいか。

img_special_tablet06_08.jpg キーボードをカバーとして装着。この状態でACコードをつなぐことで、キーボードも充電される仕組み。

よって最終的には、タブレット端末を撮影現場で持ち続けるのが必須でなければ、プロのフォトグラファーにとって有力な選択肢となり得る機種であると思う。

ちなみにSONYからVAIOブランドを引き継ぐ「VAIO株式会社」は、販売済みのVAIO製品のサポートも継続することを表明しているようなので、その点も安心だと感じた。

御園生大地 Taichi Misonoo

フォトグラファー、レタッチャー、ビデオグラファー。東京生まれ。東京ビジュアルアーツ卒業後、撮影会社に12年勤務。2013年よりフリーランス。建築竣工写真撮影、大手家電メーカーの製品写真レタッチをベースに幅広く撮影・レタッチ業務をこなす一方、近年は動画撮影業務へ進出。Photoshopやレタッチのセミナー登壇、執筆実績多数。
TAICHI MISONOO website

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