光の魔術師ジョー・マクナリーの極意

カメラの構え方

解説:ジョー・マクナリー

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タイム、ライフ、ナショナル・ジオグラフィック等の雑誌で活躍する写真家ジョー・マクナリーは、光の魔術師とも呼ばれ、彼の撮影技法書は海外で人気が高いという。その日本語版「ホットシューダイアリー」「スケッチングライト」(発行:ピアソン桐原)の一部を、Shuffle読者のために特別公開する。

光の魔術師ジョー・マクナリー

フォトグラファーのジョー・マクナリーはこれまで、タイム、スポーツ・イラストレイテッド、ナショナル・ジオグラフィック、ライフなど著名な雑誌で写真を発表してきた。また2002年に発表した写真集「Faces of Ground Zero」は、9.11の現場=グランドゼロに居合わせた消防士や警察官、オフィスで働いていた人たちのポートレートを集めた作品であり、世界的に高い評価を受けている。

本来のフォトグラファーとしての活動の他に、後進育成活動も熱心に取り組んでおり、世界各国でワークショップを開催したり、自らの撮影の舞台裏について解説した本を出版している(The Moment It Clicks:2008年、The Hot Shoe Diaries:2009年、Sketching Light:2011年)。このうちの2冊が、昨年末に相次いで日本語に翻訳され、「ホットシューダイアリー」「スケッチングライト」としてピアソン桐原から刊行された。

ジョー・マクナリーはドラマチックな光と影による描写を得意としており、別名「光の魔術師」とも呼ばれているが、実際には大型ストロボをたくさん使うようなスタイルではなく、1つか2つのスピードライトだけで撮影することに長けているという。そのことを証明するかのように、彼の著書「ホットシューダイアリー」「スケッチングライト」には、最小限の照明機材で美しい写真を撮るための様々な方法が書かれている。

今回から新たに始まる連載「光の魔術師ジョー・マクナリーの極意」では、この2冊の内容を特別に公開し、これまで日本では知られることのなかったジョー・マクナリーの撮影テクニックをくわしく紹介していく。連載1回目となる今回は、2冊目の著書「ホットシューダイアリー」から「カメラの構え方」を抜粋してお送りする。 【編集部】

カメラの構え方

私のことを知っている人なら、私が安定したカメラの構え方に相当なこだわりを持っていることも知っているでしょう。確かに私のカメラの構え方には決まった方法があります。これは、私が昔New York Daily Newsで働いていたときに、キース・トーリーという非常に優れた新聞カメラマンに教えてもらった方法なので、自分の手柄にすることはできません。

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この方法は、私の利き目が左だからこそ有効だとも言えます。利き手は右なのに、不思議なことに利き目は左なのです。なぜかは自分でも分かりません。カメラを初めて持ったときから、自然と左目に構えていたのです。プロ仕様の、昔で言う「モータードライブカメラ」を使い始めたころは、これが長所になるとは思いもよりませんでした。モータードライブカメラの底部を、肩と鎖骨の間のくぼみにぴったりと収めることができます。脈拍や心臓の鼓動や肺の上下動の影響を受けることがありません。肩を少し入れるだけで、カメラを支えるための理想的な姿勢になります。文字どおり、「カメラを体の一部にする」のです。体でカメラを固定しながら、頭と手でカメラを操れます。

下の写真はカメラを構える私です。お見苦しい点はご容赦ください。下の左の写真は、カメラを構える際の典型的な悪い見本です。完全に前かがみの姿勢になっています。重心はどこにあるでしょうか?鼻の前辺りの中空を漂っています。この姿勢と構え方では、カメラが揺れたり動いたりするので、シャープな写真を撮ることができません。カメラ、特にバッテリーパックを付けたカメラは、それなりの重量があります。試しに、この写真と同じ姿勢でカメラを1分間ほど構えてみてください。だんだんカメラが重たくなり、腕が疲れてくるはずです。

このような構え方では長時間の撮影はできません。満足のいく写真が撮れないだけでなく、疲れ果ててしまいます。

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ピンぼけした写真を見て、カメラのオートフォーカス機能のせいにする人が多いですが、大抵の場合、原因はカメラではありません。撮影する人の安定性の問題なのです。旧式のカメラはゆらゆらと揺れるものです。不安定な姿勢で撮られた写真はすべて失敗となります。

したがって、上の右の写真のように構えてみてください。

「カメラと一体になるのです! 文字どおり!」

重心の位置は?両足の上です。足には体の中で最も強くて長い筋肉があります。カメラの位置は?顔のすぐ近くです。顔に押し付けていると言った方が正確かもしれません。カメラを支える手の位置は?重心の上です。可能な限り垂直にまっすぐにします。カメラを支える腕(左腕)の肘の位置は?脇を閉めてお腹にぴったりとくっつけています。これが、安定してカメラを構える方法です。カメラと一体になるのです!文字どおり!この、ガラスと金属とプラスチックでできた機械をあなたの身体の一部とすることではじめて、頭と心と創造力の産物となる写真が撮れるのです。

あなたの想いや創造力の姿をピクセルへと変えるには、さまざまなテクノロジーが活用されます。最近のカメラは何から何までやってくれます。やってくれないことと言えば、あなたの代わりに朝食を作ることくらいです。かつては、ありとあらゆる操作を自分で行なう必要がありました。手動でフォーカスを合わせて、手動でF値を変更する必要がありました。カメラ内蔵のメーターがあまりにもお粗末だったため、外部露出計を使って露出を決定する必要がありました。シャッター速度も手動で変更していました。 img_tech_mcnally01_03.jpg 今ではこれらがすべて自動でできるため、忙しく手を動かす必要がなくなりました。片手でカメラを操作することも場合によっては可能です。それなら、こうしてみてはいかがでしょうか(下の右の写真)。

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この状態でシャッターボタンを押し込みます。シャッターボタンを叩くのではありません。狙撃手が標的を狙うように、息を吐き出して、押し込むのです。多くの場合、1枚目が最も不鮮明な写真となります。興奮のあまりシャッターボタンを叩きつけるように押してしまうからです。シャッターボタンを適度な力で冷静に押すようになる3枚目か4枚目辺りが最もシャープな写真となります。

また、遅いシャッター速度に対して不安を感じる人のために、カメラには高速連写というものが用意されています。この機能を活用しましょう。連写のどこかで、惑星直列のようにすべてがぴたっとはまり、非常にシャープな写真が撮れるでしょう。

img_tech_mcnally01_06.jpg 上の写真のように左手で右手の甲を握る構え方をしない場合、左手は決してこのようにしないでください(右の写真)。

img_tech_mcnally01_07.jpg レンズを支える際には、手を上から当てるような持ち方はしないようにしてください。ピントやズーム操作をする手は、レンズ鏡胴の上に乗せるのではなく、下から支えるようにします。レンズ鏡胴の上に手を乗せても、支えることにはなりません。重みを加えているだけで、手ブレが発生しやすくなるだけです。左手は、レンズの下にしっかりと固定し、レンズの重みを支えます(右の写真)。

「カメラをしっかりとつかんで構えてください」

これを読んだあなたはきっと、「確かにあんたの言うとおりに、カメラとレンズの周りにプレッツェル(お菓子の一種)のように手を絡ませて、心と体の平静を得るためにお経を唱えていれば、1/15秒以下のシャッター速度でシャープな写真が撮れるようになるかもしれない。だけど、フラッシュも持たなきゃいけない場合は一体どうすればいいんだ?」と思うでしょう。

アシスタントがいれば便利ですが、いつもいるとは限りません。「より軽く、より速く」、「シンプル・イズ・ベスト」、「安ければ安いほど良い」といった価値観が重視されるこの時代、カメラマンはますます自分一人で現場を取り仕切る必要があります。そのため、すべてが整ったスタジオでポートレート写真を撮るのではなく、日常を切り取るようなドキュメンタリー写真を動き回りながら撮るような場合は特に、機材を自分自身で持つ必要があります。

img_tech_mcnally01_08.jpg フラッシュがホットシューに取り付けてある場合は、カメラとフラッシュが一体になっているため問題ありません。しかし、フラッシュをカメラから取りはずして、横や上や下(要するに、レンズの真上以外のどこか)に配置して、別の方向から照明を当てたい場合はどうするのか?そのような場合にはフラッシュを手で持ちます。カメラは右手で握るようにできているので、フラッシュは左手で持ちます。これでは、左手にはフラッシュ、右手には重たいデジタルカメラがあって、支えになるものがありません。片腕だけで壁紙を貼るようなものです。両腕をできるだけ器用に動かして、さまざまなことをやる必要があります。

img_tech_mcnally01_09.jpg それではフラッシュを手に持ちます。ただし、フラッシュをカメラから離して撮影する、従来の撮り方はしません。先生に当ててもらいたくて必死に挙手をする子どものように左腕を目一杯伸ばすような撮り方ではなく、左腕を反対側に回し、カメラを左肩の上に乗せます。体の反対側に回した状態でも左腕でフラッシュを上下左右に自由に動かせます。カメラを左肩の上に乗せているため、右手の握りはかなり楽になります。カメラは目線にあり、フラッシュをカメラから離しても、支えの効いた無理のない姿勢で撮ることができます。

利き目が右の人には謝らなければなりません。なぜなら、ここで紹介した方法はまったく役に立たないからです。

・・・というのは冗談です。ここで紹介した方法は、利き目が右だろうと、左だろうと、一つ目小僧だろうと、さまざまな形で応用できます。重要なのは無理のない安定した姿勢でカメラを構えることです。貴重な美術品のようにやさしくそっと握るのではなく、必ずしっかりと握ってください。カメラは頑丈な機械なのですから。

写真撮影はタフな仕事です。カメラをしっかりとつかんで構えてください。


※この記事は「ホットシューダイアリー」から抜粋しています。

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写真:ホットシューダイアリー

ホットシューダイアリー

世界的フォトジャーナリストにして「光の魔術師」のジョー・マクナリーがつづった「光」にまつわる撮影日記。本書の1/3は、1つのスピードライトだけで美しい写真を撮る方法について割かれており、そのほか複数のライトを組み合わせた方法についても詳しい解説がある。

発行:ピアソン桐原 3,465円・税込

写真:スケッチングライト

スケッチングライト

「今までもそうであったように、ライトはいつでも、どこでも、あらゆる写真家の言語であり続けます」と前書きにあるように、光で写真を自在に描くためのテクニックが詰まった1冊。1つか2つのスピードライトという最小限の機材で、最大限の効果を生み出す秘訣を披露する。

発行:ピアソン桐原 3,990円・税込

ジョー・マクナリー Joe Mcnally

タイム、スポーツ・イラストレイテッド、ナショナル・ジオグラフィック、ライフなど世界的に著名な雑誌で活躍するフォトグラファー。ナショナル・ジオグラフィック誌では、同誌史上初めて、全ての写真をデジタルカメラで撮影した特集「The Future of Flying」を発表。32ページにわたる同特集はその価値が認められ、米国議会図書館に収蔵されている。
・インタビュー ニコンイメージングジャパン 世界の写真家たち Vol.08
・公式サイト JOE MCNALLY PHOTOGRAPHY

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