2013年03月22日
1つの光、1つの影
自然界には光は1つしかありません。硬い光、やわらかな光、暖色、寒色などその姿はさまざまです。ものにぶつかると、あちこち思い思いの方向に散乱し、ちらばり、反射し、分散することで、1つではなくたくさんの光のように見えてきます。ところが、1日の終わりには、太陽という1つの巨大な自然光に照らされていた我々の世界は、黒一色の世界に変わっていきます。
さまざまな面を持つ金属質な建物など、不規則に反射する形状にぶつかる場合を除いて、光は一様で固有の影を作り出します。陽の光が強くまっすぐに照りつける場合、それが作る影もそれに応じたものになります。影は1つの方向に向かい、くっきりとした形でエッジが立っています。
もしこれを真似て、鮮明でクリーンな影を作るのであれば、簡単です。太陽を真似ればいいのです。この場合、使う光は1つになります。
それはとてもシンプルではありますが、写真のあれこれを考える場合、気をつけなければならない点がいくつかあります。
ライトが被写体から離れれば離れるほど、影のパターンはすっきりと引き締まったものになります。言い換えれば、フラッシュの動きを太陽のようにするのであれば、被写体からの距離もそれなりに離す必要があります。もちろんそれには限度があり、使う光源の出力に左右されますが、露出の点で可能な限りフラッシュ(大型でも小型でも)を離すというのは影を作るうえでの基本となります。
グリッドスポットは散らばりを引き締めると共に光の経路を作り、光の指向性を高め、フロアにダンサーの姿が映りやすくします。
光の流出と方向をコントロールします。フラッシュは飛び散るとお考えでしょう。スタンドにつけた制限のない強い光源は、被写体に向けて強い指向性の光を作ります。当然のことです。しかし、それは手榴弾のように飛び散り、光の破片を文字どおりあちこちに、起点からほとんど180度の範囲に飛ばします。
たとえば、もしそのライトがカメラ位置の背後にあったとすると、その不規則な、爆発的な光があちこちに飛び、ものを熱することについて、写真の露出としては心配することはありません。おそらく、そのような光を拡散は背後で起きるので、フレームの中で見えるものにはどれにも強い均一の光が照らされるでしょう。
しかし、このブレークダンサーのような対象を撮る場合、しかもこの私のようにシーンを見下ろしている場合、フロアの上にまき散らされる光に注意を払う必要があります。グリッドスポットの出番です。
このケースでは、照明の光源として使っていたQuadraヘッドの上にグリッドスポットを起きました。フラッシュのエンジン上にハニカム形状のこの調整装置がなければ、前述のように、光はあちこちに飛び、ものを、ここではフロアを熱することになるでしょう。露出の観点でフロアが過剰にホットになることは避けたいと考えていました。この種の何でも照らしてしまう拡散には2つの問題があります。明るい光のラインが生じ、見る人にフラッシュの位置をさとられてしまうという点と、フロアが光ってしまい、見る人の目を写真の主体、アクロバティックな動きをするダンサーの動きからそらしてしまうという点です。
グリッドスポットは散らばりを引き締めると共に光の経路を作り、光の指向性を高め、フロアにダンサーの姿が映りやすくします。重要なことは、それによってライトの中心がダンサーの動きの中央に集まり、彼に目がいくようになり、光源近くにビネットのような効果が自然と生まれることです。グリッドを用いないと、光はフロアに広がり、ハイライトが生じてそちらに目がいってしまうようになります。後でコーナーを暗くして動きの効果を出すのは容易ですが、カメラを持ったそのときに調整するべきでしょう。
ライティングについて、さらに調整、制御、チェックすべき点が2つあります。1つは、影の長さを制御するのがライトの高さです。被写体との関連においてそれが低すぎると、影が延び、ヒューマノイドのようになってフレームをはみ出てしまいかねません。2つ目は、使用するフラッシュが周囲を上回るパワーを発揮しなければならないということです。このシーンにありったけのライトを投入したとすると、影を作るという点ではそれがソフトになってしまいます。
既存のライトよりも強い光が必要だという問題は、小型フラッシュでそれが可能かどうかを決める決定的要因となります。控えめな光の状況下であれば、小型フラッシュがよい選択になります。もっと他の光源に取り組まなければならないとしたら、より大型のパワーパックを使うタイプのライトの出番でしょう。大型のライトであれば、影はしっかりと作れるはずです。
最後に、最も重要な要素として、明瞭さがあります。これは今回のポーズにとっての決定的特性です。ダンサーは皆、それぞれのレパートリーの中で一様な動きをし、それが人の体型を使った美しい身体表現となります。その中には、私の意見では、写真を撮るために彼ら自身を提供してくれる人がいる一方で、他の人々は目で楽しませてもらうのが最良です。写真家として必要なことは、ダンサーと共に何が可能かを探っていく振付師的な役目も追わなければならないということです。
私は最初に、ダンサーに何ができるかについてたずねます。彼らができることというのは、ただ歩いている一般の人にはないやり方によって彼らが評価されている本質にリンクしています。フロア、ステージ、その表面、すべてが彼らにとって欠かせないものです。彼らが自信を持って跳躍し、動くことができるかどうかはそれらによって決められます。ここでは、驚異的な身体能力を持つ優れた演技者であるダニエルと共に、動きについて協議し、練習することが特に重要でした。というのも、彼は基本的に、実際のフォームとそれが作る影のための二度演技したからです。影がメインであり、この写真の鍵となります。
ありがたいことに、彼のダンスの芸術形式は非常にアーバンスタイルだったため、彼はコンクリートの表面もまったく気にしませんでした。私たちは、運動競技的な動きだけでなく、陽気でいたずらっぽい影も作りました。動きを連続的に見るために、写真のグリッドを見てみましょう(私のミスもバレます)。私がライトの位置、色(暖色系のゲルは付けないことにしました)や影の位置を調整している間、彼は毎回同じところに着地していました。さらに私は、彼が腕や足さらには指さえも彼の胴体から離すことを確認し、それぞれが作る形についても相談しました。カメラは彼のすべて、そして彼の影のすべてを捕らえる必要がありました。我々は、共に選び出したものを最後のフレームに収めました。
※この記事は「スケッチングライト」から抜粋しています。
ホットシューダイアリー
世界的フォトジャーナリストにして「光の魔術師」のジョー・マクナリーがつづった「光」にまつわる撮影日記。本書の1/3は、1つのスピードライトだけで美しい写真を撮る方法について割かれており、そのほか複数のライトを組み合わせた方法についても詳しい解説がある。
発行:ピアソン桐原 3,465円・税込
スケッチングライト
「今までもそうであったように、ライトはいつでも、どこでも、あらゆる写真家の言語であり続けます」と前書きにあるように、光で写真を自在に描くためのテクニックが詰まった1冊。1つか2つのスピードライトという最小限の機材で、最大限の効果を生み出す秘訣を披露する。
発行:ピアソン桐原 3,990円・税込
ジョー・マクナリー Joe Mcnally
タイム、スポーツ・イラストレイテッド、ナショナル・ジオグラフィック、ライフなど世界的に著名な雑誌で活躍するフォトグラファー。ナショナル・ジオグラフィック誌では、同誌史上初めて、全ての写真をデジタルカメラで撮影した特集「The Future of Flying」を発表。32ページにわたる同特集はその価値が認められ、米国議会図書館に収蔵されている。
・インタビュー ニコンイメージングジャパン 世界の写真家たち Vol.08
・公式サイト JOE MCNALLY PHOTOGRAPHY