Photoshop ユーザーに聞く

「神は細部に宿る――Photoshopの作り出す高精細画像は文化的にも重要な役割を果たす」 早川廣行

2010年のAdobe Photoshopリリース20周年を機に行なった、クリエイターへのインタビュー。3人目は、書籍執筆、講演、教育、研究などデジタルフォト関連の活動を続ける早川廣行氏。

img_soft_ps20th_03_01.jpg東京藝大美術館所蔵、歴代卒業生の自画像研究プロジェクトで、7年前から、1億5千万画素以上(最近では2億6千万画素)の高精細画像記録を続けてきた。経験を積み重ねるうちに、「神は細部に宿る」ことの意味を、写真記録の中で再認識、失われ行く文化財の高精細記録に傾注している。

Photoshop 1.0登場時から、その先進性はずば抜けていた

私がPhotoshop 1.0に初めて触れたのは90年6月のこと。Macでのデモを見て、それまで使っていた画像処理ソフトとの志の違いに愕然としました。なにしろPhotoshopは当初から印刷・製版用のCMYKモードを持っていたんですから、その先進性はずば抜けていました。当時のOSはSystem 6だったと思いますが、それからクラシック環境が残っていたOS X TigerまでPhotoshop 1.0は動きました。

当時は夢物語だった500MBのデータが、今でも1.0で開くことができる。開発者のトーマス・ノルの思想性が生きているんでしょうね。普通のソフト開発であれば、コストによるプログラム上の制限がありますが、彼のいわば趣味から始まったPhotoshopには限界がなかったんです。

今回のCS5では、Mac版で初めて64-bitで動くということに期待しています。新機能においても、「コンテンツに応じた修復」「パペットワープ」などは斬新で、かつ効率も高い。加えて完全64-bit対応ということを考えれば、CS4にバージョンアップしなかった人も、今回のCS5は導入したほうがいいと思います。

単に写真の分野だけにとどまらない画像処理能力の高さ

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東京文化財研究所のミッションで世界遺産アジャンター石窟寺院遺跡撮影中のスナップ。5×7ビューカメラに3,900万画素マルチショットデジタルバック8面付高精細撮影を実行。

現在、私は絵画や壁画など文化財の保存研究のための記録をしていますが、その画像処理にPhotoshopが果たす役割はとても大きいものがあります。昨秋撮影を行なったインドの世界遺産アジャンター石窟寺院遺跡の壁画は、1壁面が高さ3.4m・幅14.5mの連続した壁画です。5×7ビューカメラの後ろに3,900万画素のマルチショットタイプデジタルバックをつけ上下左右に8面、アオリ機能を使ってスライドさせ2億6000万画素の4×5サイズの画像データを撮影しました(最終的にはカメラを平行移動して撮影した10カットを合成)。

この大変な作業が、CS4のWindows 64-bit版のおかげで自動処理の効率の高さを最大限に活かしながら、とても素早く行なえました。G5のMacで数時間かかっていた処理時間が、64-bit対応・メモリ24GB搭載の高速Windows機では数分でつなげられる。Mac版のCS5ではさらに速くなるだろうと予測しています。

これからは広告だけでなく、学術や産業などあらゆる分野において、高精細画像の重要性が増していくと思います。壁画などの文化財も、高精細で記録することで、使用されている顔料の粒子までとらえる。「神は細部に宿る」という言葉があるように、細かい情報を持っていることで物質感、存在感が増し、画像にリアリティを持たせることが可能になりました。そういう意味でPhotoshopは、単に写真の分野にとどまらず、これからますます重要な役割を果たすと思います。

Profile:

早川廣行 Hiroyuki Hayakawa

株式会社電画代表取締役/電塾塾長/東京藝術大学美術学部非常勤講師。1990年のPhotoshop1.0誕生当初から使い続けて、デジタルフォト関連雑誌への寄稿、書籍執筆、講演、教育、研究など幅広く活動。関連著作物は28点以上。

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